御菓子より、甘いあなたへ。








「がはははっ〜、お菓子よこせだもんね〜〜〜っ!!」

いつもどおり、オレの敬愛するあのお方は、この上なくウゼェアホ牛すら
その寛大なお心で包み込んでしまわれるほどの優しさをこんな日にも
オレの目の前で見せて下さったのだった。

「ほら、ランボ!ーーー飴玉。今日はハロウィーンだから特別
いつもより多くあげるよ。けどいっぺんに食べるなよ?お腹壊すから」

苦笑いで10代目はアホ牛の手のひらに まん丸い宝石みたいに
光り輝いた飴玉を溢れんばかりに乗せては、薄っすらと微笑まれた。
ーーー渋いっス、10代目!貴方のその笑顔は、飴玉よりも甘く、
宝石よりも綺麗で眩い。一筋の光のようで、たまにその眩しさに目が眩んで
しまう自分がいます。それほど貴方は素敵で華麗だ・・!

オレは形容しがたい 10代目の素晴らしさをヒシヒシと胸に感じつつも
10代目の眼差しから 視線を外す事が出来ずにいた。

「がははは!!ランボさん、そんなことしないもんね〜っ」

アホ牛はギャーギャーうるせぇ声をわめきたてながら、10代目のお部屋で
一通り暴れまわると 10代目からもらった飴玉たちをボロボロと手から
零して、全て足で踏んづけて割ってしまったのだった。
アホ牛もここまでアホだと、表現しがたい何かに変わっちまうのは
言うまでもねぇ。・・・一言でいえば、関わりたくネェ愚かさだぜ。

オレはアホ牛に、”てめぇ、10代目がせっかくくれた飴玉を全部割りやがって”
と無言のプレッシャーを眼光にこめて、念のように送り、威嚇した。
が、アホ牛は所詮アホだ。じっ、とにらみを利かせるオレに向かって
”たこ頭うまそう”とあきれたコメントを一言返して、大きな声で部屋を
後にした。階段を下りるとき、その声がダイレクトにドア越しに聴こえる。

「ママ〜ン!!ランボさん たこ焼き食べたい〜」

抜けた声が反響して部屋に篭る。あきれるほどマイペースなアホ牛に
オレは盛大なため息をひとつ零した。ったく、現金な野郎だぜ。
さっきまでは飴玉でギャーギャーわめいていたくせに。
オレは騒音が無事去ったのを確認すると 横目で10代目をそっと盗み見た。
やっと二人きりで宿題が出来る。せっかくあの野球バカが部活の遠征で
いない穏やかな午後。出来るだけ、10代目との絆を深めたいし、満喫したい。

ひっそりと視線を10代目にあわせてみる。すると、10代目は何だか
そわそわ、と恥ずかしそうに こちらをチラチラ窺っているようだった。
何スか、10代目?オレ、どっかオカシイっすかね・・?

オレは自分が無意識に失態を犯したのではと 不安になり、挙動不審な
10代目に向かって口を開いたのだった。せっかく二人きりでいるのだ。
出来れば平穏且つ甘い雰囲気を味わいたい。

「どうなさったんですか、・・10代目?」

疑問符を背中に背負い、オレは決死の想いで10代目へと投げ掛けた。
すると10代目は、やっぱり相変わらず そわそわしながら、上目遣いに
こちらへと視線を向けて オレの事を正面から覗き見てきた。

うっ・・・・!!
10代目、可愛いっス・・・・!!!
そんな表情で、あんまオレのこと、見ないで下さい・・。
オレ・・・正直理性が持つかどうか心配です。
貴方を傷つけたくはないのにーーーーーー・・。

心の中で暫く格闘していたオレへと 10代目は形の良い唇で
オレに言の葉を落として下さったのだった。

「ご、獄寺くんっ・・!」

「は、ハイッ・・!」

「・・と、とりっくおあ・・とりーと・・・」

「ーーーーー・・・・・・へっ?」

10代目の唇から 普段聞きなれない言葉が落ちてきた。
それはつまりのところ、今日沢山のガキが言うであろう 魔法の呪文。
最初は何を言われたか わからなかったオレだけど、少し間をおいて、
その言葉の意味を理解したオレは ストレートに答えた。

「も、・・申し訳ありません!!!ハロウィーンだっつーのに
10代目へ献上するお菓子ひとつ、オレは持ってきていません・・!!
情けねェ・・っ!!右腕失格ですっっ」

すっかり10代目に差し上げるお菓子を持ってくるのを忘れたオレは
ただ頭を床にこすり付けて 土下座する他に 許していただける方法が
思いつかなかった。・・っつーか許してもらおうなんておこがましい気がする。
ガンガン頭をこすりつけて謝るオレに、10代目は慌てて制し、
オレに頭を上げるよう催促してきた。オレは御言葉に甘えて、そうする
事にした。 オレに近寄ってきた10代目の顔が オレのすぐ間近、目と目が
交差するくらいの距離で 急に沈黙したみたいに 揺らぐ。
そして、頬が赤くなっていくのがわかった。

「謝らなくていいんだ・・。これからおれ、君にお菓子より甘いもの
ーーー・・もらうつもりだから・・・・」

大きな琥珀が緩やかに深みを増し、瞬きする音が聴こえる。
朱色に染まった艶やかな頬、少し固い、緊張した面持ち。

「え・・っ」


殊勝な声が空気に溶けたと思った瞬間、ふわり、と柔らかな髪が
鼻先を掠めて 甘いとろけるようなシャンプーの香りと
唇に柔らかくも生温かい感触が オレの全てを拘束していった。


「っーーー、・・・!」

二三秒触れた、と思えば 熱源はすぐに離れ 当の本人は
満足そうに えへへ、と恥じらいを見せて こちらに微笑を贈って来たのだった。


「やっぱり甘かった・・、お菓子よりも、こっちの方が」

”確かめたかったんだ。”
10代目はそう付け足して オレに柔らかな眼差しと込上げる愛しさを
変わりに携えて下さったのだった。


「じゅう・・・・・だい、め・・・・」


オレは嬉しさと切なさと愛しさで、自分がどうにかなっちまう
気がして 触れられた唇の感触を確かめるように指先で
敬愛する あのお方の唇にそっと、指先を彷徨わせた。

「・・・ん、っ・・」

甘く疼く声がそっ、と10代目から漏れる。
オレの指先の感触に、身震いを起こした10代目は 目に焼きつくほど
艶っぽく、扇情的だ。・・・・たまんねぇ・・・・。

部下でありながら、浅ましい熱が体の中心に篭るのが感覚でわかった。
オレは高揚する気持ちに歯止めが利かなくなるのが少し怖かった。
この人が好きで、好きで・・・どうしようもないのが、今は少しだけ
・・・辛い。

「10代目・・・トリックオア・・トリート・・・」

”お菓子をくれないと、いたずらしちゃうぞ”
要約すれば そうなる言葉。なのにオレは こんな瞬間に、こんなやり方で
この言葉を使う。本来の意味と大分かけ離れている使い方。

イヤラシイ自分の気持ちをセーブして欲しくて呟いた言葉だった。
なのに10代目は 大きく瞳を瞠ったあと、更に頬を赤く染め上げ
眩しそうに瞳を細めて オレの指先をキュッ、と白い手で掴んだ。

「・・いいよ。おれも・・・・御菓子、もってない、から・・」


嘘だ。
貴方はさっき アホ牛に飴玉をあげていた。
沢山零れるくらい、あげていた。 まだ、少しだけ袋に残っている。
オレは知ってる。だって袋の底が まだ膨らんでいる。
なのに貴方は『もってない』と答えた。こんな状況で、そんな言葉を
口にするなんて・・・あなたは。−−−あなたは、なんて・・・

オレは華奢な身体を強引に引き寄せると、ふわふわの薄亜麻色に
顔を埋めて 低く優しい声で、ふと囁いた。


「好きです、・・・10代目」



耳元をくすぐる風は、オレの吐息。


「・・・・・う、ん・・・・おれも」


オレの心をくすぐるのは、貴方の一言。


10代目の返事を聞いたのと同時に オレは愛しいその人を
床に ゆっくりと沈ませていったのだった。




10代目、ハッピーハロウィーン。
あなたはなんて 眩しいお方なんでしょう。


オレはそんな貴方の全てを奪い尽くす狼に
今日一日姿を変えてしまったんですね。

せめてどうか貴方は、魔法使いにでも変身して 
オレを都合よく誘導してください。
ときどき魔法の言葉を使って、オレをそっと戒めてください。
そうすればオレは 貴方を傷つけないで済む。そして何より、

あなたの緩やかな拘束に
歓喜を奮わせる心が 幸福を連れて来てくれるのです。



10代目、あなたは御菓子よりも甘い、
オレの唯一の存在。



幸せです、10代目ーーーーーーーーー・・。








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日記にあげようと思ったのに、容量オーバーになってしまいました(笑)
少しでも楽しんでいただければ、幸いですvvv

青井聖梨 2007・10・31・