踏み出せない一歩がまだ、お互いにあるんだと思った。


















僕らの一歩・前編















「獄寺くん、そのアクセサリーカッコいいね!!似合ってるよ!」





夏休み明けの登校途中、何気なく口にした一言に、
彼は目を丸くしながら こちらを不思議そうに窺った。




「へ・・・・?これ、っ・・スか?」




朝の光を一心に浴びて、一際色彩を放つ銀色のペンダント。
彼の胸元を明るく照らし、小さなアクセントとなって存在する、それ。

とてもシンプルだけど、彼の雰囲気にピッタリのアクセサリーだと思った。
獄寺くんは軽くそのアクセサリーを摘むと、こちらに向けて言った。



「ただのアルミで出来てるだけっスよ?
作ろうと思えば簡単に出来るっす」


照れ隠しなのか、遠慮深いのか。
おれの言葉に恐縮するように薄く、困ったように微笑んだ獄寺くんは 
柔らかな口調で言葉を零した。



”へぇ〜、そうなんだ?”
適当な相槌を打って、おれは彼が摘んだアクセサリーを
近くでマジマジと見つめてみる。

獄寺くんは少し身体を引いて、近づいてきたおれに
見えやすいように体勢を変えてくれた。
あれ?なんかちょっとだけ頬が赤く見えるのは気のせいだろうか?



「あ!何か書いてある・・!!」



近くで見るとわかる。ローマ字表記で刻んである小さな文字たち。
銀色のアルミ板の上で字たちはひしめき合いながら 自分たちを
主張するように真っ直ぐと並んでいた。中には数字もある、みたいだ。



「ここには自分の名前と性別、生年月日、血液型、
どこのファミリーに所属してるか、あとは・・階級や地位、なんかも刻んであるっス!」


得意げに紡ぎながら、獄寺くんはニカッ、といつものように笑っていた。
おれは小さな板の中に そんな事が綴られているなんてと
軽い衝撃を覚えて、羨ましくなってくる。
カッコいい版のネームプレートってところかな?
いいなぁ〜、ちょっとおれも欲しいかも。



「あれ?これ同じの二枚ついてるんだ?」



獄寺くんが摘んでいるプレートの後ろに、もう一枚同じアルミ板が
隠れて見えた。同じ内容がどうやら刻まれているっぽい・・。




「あぁ、・・・このアクセは一枚式と二枚式があるんスよ」



そういいながら獄寺くんは摘むのをやめて、シルバーアクセサリーを放した。
二枚のアルミ板が軽快に擦れたが 目立った音はしなかった。
どうやらアルミの外周に透明なゴムがはめ込まれているようだ。



「一枚式と二枚式・・・?」




興味津々にそう訊けば、獄寺くんは丁寧に説明してくれた。



「一枚式は一枚のアルミ板に同じことを上下に書くんです。
二枚式はオレが持ってるような、二枚のアルミ板に同じことを書くやつです」



「へ〜〜〜?!・・ねぇ、なんで二枚ぶつかったのに 音が立たなかったの?」



「え?−−あぁ、それはサイレンサーがはまってるからですよ」



「サイレンサー?」



「ゴム製の外周カバーっス!これをはめると音が立たないんスよ?」



獄寺くんはゆっくりと風を切りながら、おれの歩調に合わせて
歩みを続け、こちらを覗いてきた。

おれは彼の視線を感じつつ、穏やかなときの流れを肌で感じて
学校までの道のりを 静かに楽しんでいた。




「けどなんで同じこと刻むの?せっかくだから
もっと違うこと書けばいいのに・・」



一枚式は上下に同じこと刻むし、二枚式は
二枚とも同じこと刻むし。

それなら上と下、違うこと刻んだ方がカッコいい。
二枚とも同じ内容刻むなんて、ちょっと変だ。


ふと疑問に思ったことを口にした。
すると獄寺くんは、少しだけ困ったように零した。



「10代目、これ・・ドッグ・タグって云って・・・・
個人認識票なんスよ・・・・。だからーー・・もしものときに、
同じ内容が必要になるんス・・・」




朝の光にぼやけて、獄寺くんのはっきりした表情までは
読み取れなかったけれど、彼の殊勝な声が耳の奥で響いた。
ほんのちょっとだけ、暗闇が重たく彼の肩に降りた気がして、
急に怖くなった。



「もしものとき・・・?それってどういうこと・・・?
ごめん、おれ駄目ツナだから・・君の言ってる意味がよくーー・・」



そこまで言いかけて、唐突に背後から重たい衝撃が
おれ達の間を緩和するように 圧し掛かって来た。





「よぉっ!!!はよっ!!!ツナ、獄寺!!」





後ろを軽く振り返ると、いつもの笑顔がそこにあった。
元気でムードメーカー的なもう一人のおれの友達。
野球が凄く上手で皆にいつでも頼られてる、心強い味方。


「山本!!!おはよーーっ」






山本武。おれと獄寺くんと同じクラスの
心優しいお兄さん的存在。






「てめーっ、軽々しく10代目に触ってんじゃねぇよッ!!」



トゲトゲしく声を荒げて、獄寺くんは肘で山本の腕を払いのけた。
そしておれの肩に圧し掛かった山本の腕を乱雑に押遣る。


いつもの何気ない風景。



だけど何処か違和感を覚えた。
不意に獄寺くんの顔を上目遣いに覗いてみる。
すると彼らしくない、ほっ、とした表情が瞬間ーー顔に滲んでいた。


いつもならおれとの間に入ってくる山本を一瞥するのに
今日は何だか快く受け入れているように見える。


些細な違和感がおれの不安を煽り始めた。





釈然としない想いを胸に、おれは
些細なトゲをそっと抜くように 獄寺くんへ言葉を紡いだ。






「でもいいな、それ。なんかカッコいいアクセサリーだね!
ーー・・ね、獄寺くん!その二枚あるプレートの内の一枚、おれにくれない?
見本にしたいんだ!おれも自分の欲しい!!作ってみたい!」




努めて明るく話題を振ったつもりだった。
何気ない日常会話のつもりだった。


なのに。




なのに獄寺くんは、




ごくでら、くんは・・・・・・










「10代目・・・・」





綺麗な、その銀色を悲哀でいっぱいに滲ませて



寂しそうに、苦しそうに、・・・笑った。









「いつかーーそう、遠くない未来に・・・・
この一枚が貴方の手に渡る日が来るかもしれませんね」






彼の擦れた声が空気に散漫して、淡く消えた。





耳の奥がジンとなるほど、熱く、燃えるような響きが
おれの中に波紋を描く。





「ごくでら、・・・くん?」




どうしたの?



どうして君、そんな苦しそうに笑ってるの?




彼の深まる銀色を食入るように見つめて、
おれは身体を氷みたいに固まらせてしまう。
まるで見えない何かに体を縛り付けられてしまったかのように。





「なんだ?何の話?」







突然背後から顔を覗かせて、山本が話の中に入ってきた。
おれはぎょっとして、身体を反射的に山本へと反応させる。
硬直していた身体が、温まるように息を吹き返した。
よかった、今は正常に動く・・。


はっ、として逸らしていた意識をまた
隣の彼へと向ければ、もう彼に 先ほどの悲哀は見えなかった。




「なんでもねぇーよ!テメェにゃ、カンケーねぇ!!」


ふて腐れた顔をして、獄寺くんは声を乱暴に吐き出した。
そうして次の瞬間には、いつものニカッ、とした笑顔に戻っていた。




「10代目!!10代目にはもっと、渋くてカッコいいヤツが似合うっす!!
今度一緒にアクセ選びにいきましょーっ!!」



ワントーン高い彼の声が周囲に木霊して、
熱い眼差しが降り注いできた。


おれは それ以上何も言えなくて、話しを流した彼の意図を
理解しきれないまま 曖昧に”そうだね”と笑って答えた。



山本は、”皆で行こうぜ!”と軽快に言葉を発して、
再びおれと獄寺くんの肩に腕を回して ズンズンと前に押してきて、
獄寺くんは不満そうに また腕を振り払っていた。




なんだろう・・・。
なんで、こんな気持ちになるんだろう?


なんてことない日常のはず、なのに。



獄寺くんの、あの哀しそうな・・切なそうな、
寂しい笑顔が忘れられない。






苦しく息が詰まるような擦れた声が、耳から離れない。







獄寺くん、どうしたの?
君は何に苦しんでいるの?











おれじゃあ、君の力になれない?











出口を見失った言葉たちは
おれの気持ちに溶け込むように





静かに響いて、静かに沈んでいった。


















獄寺くん。









おれは君の事、もっと知りたいと思ってる。
































君の中に、おれ・・・・








もう一歩










踏み込んでもいいかな?




















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青井聖梨です、こんにちは!!
いかがだったでしょうか?初めて書きました。獄ツナ小説。
新ジャンルにドキドキしながら 幸せいっぱいの想いで書いてました。

獄ツナはけっこう穏やかな気持ちでかけて、嬉しいですvv
どうぞ後編にもお付き合い頂けると更に嬉しいです〜!!

それではこの辺で!失礼しました!!



青井聖梨 2007・9・9・



参照:フリー百科事典 ウィキペディア(Wikipedia)より
リンク先 http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%89%E3%83%83%E3%82%B0%E3%82%BF%E3%82%B0