「あの月に帰りたい・・」








月を眺めながら 哀しそうに呟いた君の言葉を


オレは一生忘れないだろう










これはサヨナラじゃなくて

〜暁月夜〜












「いいのか・・・?」



高台から見えるその景色は、いつもオレの心を穏やかにしてくれた。
どんなに苦しい事があっても、嫌なことがあっても
目の前に広がる景色の美しさが、いつだってオレを勇気付けてくれていたからだ。

深い蒼が光の反射に合わせて、淡く瞬いている午後の昼下がり。
平和そうに見えるこの国の未来を救うため、オレと彼は 今まさに離れようとしていた。



「あぁ・・・・、いいんだ」



黄金の少し長い髪に、くっきりとした顔立ちを持つ彼の双子の姉は
オレに悲痛な顔を向けながら、納得いかないとでも言うように
金の瞳で訴えかけてきた。


「でも・・・!」


歯切れが悪いように言葉を切った彼女の顔が瞬時に大きく歪む。
オレは彼女の言葉を遮るように青空を見上げ、空を仰いだ。
彼女は、そんなオレに途端に言葉を呑み込んでオレを心配そうに 見つめている。
静けさが、辺りを包み、波音が微かに遠くから聴こえてくる。


「いいんだカガリ。俺たちは・・・大丈夫だから・・・」


口から零れた大丈夫という言葉。
どんなにか頼りな気に彼女に響いたのだろうか。
カガリは空を仰ぐ俺の正面に立って、言った。


「どう大丈夫なんだ?・・そんなに、哀しそうな顔してるくせに」


「・・・・・」


正面に立つ彼女の金はどこまでも澄んでいて、嘘偽りがない。
オレは空を見つめる事をやめて、今度は彼女の瞳を見つめた。
そして、澄んだ瞳をしたカガリの質問に、素直に答えたのだった。





「−−・・選んだ道は互いに違うが、離れていても一緒だと
      知る事ができたから・・・・もう、いいんだ」








「・・・・・・アス、ラン」








「いいんだよ・・・・・・・これで」






カガリは、オレの言った言葉に絶句して
それ以上、何も言わなかった。


いや、言えなかったのかもしれない。










キラ






お前の胸の中に、
あの頃の俺たちが今も輝き続けているとわかったから


もうオレは それ以上何も望まないよ。




それ以上を望むには、あまりにも俺たち
罪を犯しすぎてしまったから。



だから、これ以上は ・・無理だ。






背負った罪で潰れる前に、俺たち離れよう。
それが一番いい。




幸せになるためには 
それ相応の代償が必要となる。

俺たちはきっと、








一生かけても拭いきれない罪を背負って
生きていく事しかできないーーーーーーーーーー。










+++














玲瓏な青白い月を二人、ベランダで寄り添い合いながら
いつまでも眺めていた。



明け方。
けれどまだ、薄っすらと辺りは暗いままだった。



俺の肩に触れる亜麻色の少し長い髪は
ほんのりと漂う月明かりに照らされて、囁くように輝いた。
その美しさに、瞳を細めながら俺は、一心に君の横顔を盗み見た。

俺の痛いほどの視線におそらく気付いたのだろう。

君は月に向けていた視線を俺へと移すと、瞬間、ふわっと柔らかく微笑んだ。
君の紫玉の瞳が俺に、呟きかけているかのようだ。
俺は、君の笑顔をいつまでも見て居たかった。

その笑顔を消したくなくて、不意に自分も微笑んでみる。


すると君は、俺が無理に笑顔を作ったと思ったのか、
少し困ったように今度は微笑んだ。

俺は自分の不器用さと固さに、このとき 嫌気がさすほど後悔する。
キラに上手く微笑みかけられない自分が、とてつもなく今、憎い。




「キラ・・・・・」



俺はどうしても先程見せてくれたキラの笑顔を取り戻したくて
もう一度、自然に微笑みかけるように笑顔を作り直して、彼へと向けてみた。
俺の落とした声と共にーー。


そうすると、キラは俺の気持ちを察してくれたのだろう。
先程の笑顔に次の瞬間戻っていった。


何もかも、すべてを分かったように。
君は・・・・


俺の瞳に応えてくれた。





まるで心が通じ合ってるかのような、気さえする。









「ねぇ、アスラン・・・・」



朝風に交ざって、君の弱々しくも淡い声が周囲に響いた。
俺は君の声にひっそりと耳を澄まして、意識をそちらに傾けてみる。




「・・どうした?」




「僕・・・・・・」





君はそこまで言うと、一呼吸置いてから
青白い月に視線を送って、俺に囁くように言葉を放った。
































「あの月に帰りたい・・」





























その、言葉が














虚空に消え去る前に






















君を抱きしめられれば良かったのに。




















あまりにも哀しげに落とされた
その声色に 俺は・・・




















胸が、苦しくなって・・・・











自分が壊れてしまいそうだった。











「・・・・・・・キラ」










君は俺が何も言わなくても
わかっている。









明日、俺がここを離れるということを。










「・・・・・・・・あの頃は、月に居た頃は・・・よかったね」





どこか儚い声が、光と闇に溶ける。





「あぁ、そうだな。・・・俺たち、いつも一緒だった・・・・・」




「−−・・うん、君はいつも・・僕の事怒ってばっかりでーーー」




紫玉の瞳が、微かに哀しみを宿す。





「−−お前には、さんざん手を焼かされたよ」




「・・そうだね。アスランにはいつも迷惑ばっかりかけちゃって・・・」




亜麻色の髪が、何処からか吹いた風に靡く。







「僕・・・・・・ずっと君に甘えてた」







少し高い落ち着いた声音が











「君に・・・・・・・・守られてたんだね」












旅立つ俺を、惑わす。








「キラ・・・・・・」










本当は、離れたくない。












「アスラン・・・・君に自由を返してあげる」











いつまでも








「君はもうこれ以上、僕に縛られてちゃ駄目だよ。
・・・今度こそ君は自由だ。自由を手に入れたんだよ、アスラン」









君と一緒に居たいのに。










「だから・・・・・君はもう・・・・・・・」














”僕の傍に居たら駄目だ”

















別れの言葉を、俺は最後まで




君に言わせてしまった。

















本当に甘えていたのは・・



俺のほうかもしれない。










「キラ」









なぁ、キラ。


これはサヨナラじゃない。











きっといつかまた、俺たち・・






あの戦火の中で出逢ったように
また








「よく・・・・・顔を見せてくれーーー」












めぐり逢えると、信じている。



















だからそれまで、俺は覚えていよう。





君と過ごしたあの青白い月での日々を。
君が月で過ごした俺との日々を大切に想ってくれているという真実を。





そして・・・・・








「アスラン・・」












君が今、頬に伝わせている



温かい一滴の・・・涙を。
























俺たち、背負った罪で上手く笑えなくなっても






たくさんの命を引き換えに、平和を勝ち取っても









・・・・・なにも、残らなかった。











心休まる、あの月での幸せな瞬間を

取り戻す事は出来なかったんだ。










だから、せめて








人間らしく














・・泣き場所くらいはあってもいいだろう?
















血に染まった両手から・・目を背けない、代わりに。

















+++











「じゃあ、カガリ。元気で・・。」






「アス、ラン・・・・・」





「キラやラクスのこと、宜しく頼む」






「・・・・・・あぁ」









思い出と想いを胸にしまいながら、俺はこの
景色のいい高台から、今ーー旅立つ。




今度会うときは、どんな俺たちに変わっているだろう。
キラはきっと、・・・・・そのままの彼で居続けてくれるのだろう。




俺の知っているキラ、のままで居て欲しいと思いながら、
反面、−−−−−−君こそ俺に縛られずに自由であって欲しいと願う。




昨日の朝方、












『あの月に帰りたい・・』









月を眺めながら 哀しそうに呟いた君の言葉を









オレは一生忘れないだろう



















君の想いの全てが詰まったその言葉を胸に、











俺は静かな高台を下って行った。














瞬間、不意に。
昨日一緒に青白い月を眺めたベランダから、
君の視線を背後に感じ取った。







だけど、俺は振り返らなかった。











紫玉の瞳も



ほんのりと漂っていた月明かりに輝く君の笑顔も










あのとき瞳に焼き付けたのだからーーーー。




















キラ、これは俺たちにとって

・・サヨナラじゃなくて。




















始まりなんだ、きっと。
















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●暁月夜(あかつきづくよ/あかときづくよ)○

夜明け方に出ている月。有明の月。

三省堂提供「大辞林 第二版」より



こんにちは、青井聖梨です。
イメージとしては戦いの終わったあと。(シンたちと墓参り後しばらくして・・くらいかな)
オリジナル路線真っ只中という感じです。

別れじゃなくて、もう一度出逢うための始まりであって欲しい。
そんな二人の微妙な関係と複雑な心境を書いてみたかったのです。
ではでは失礼しました〜!!

青井聖梨 2006.3.30.