「・・・−−−好きです。
         オレも、10代目のことが・・好きです」





秋風が、通り抜けて 彼の零した言葉と一緒に
彼の大人びた匂いまで おれの近くに連れてきてくれて

その瞬間、とてもドキドキしていたことをよく覚えている。


そして、空に舞い上がりそうになる ふわふわした温かいキモチを
胸の中に仕舞いこんでは 何度も噛み締めて 現在という時間が現実かどうか
密かに確かめている自分がいた。



「ほ、・・・・んとうに・・・?」




「ーーー・・・はい」





低めの擦れた声が、耳の奥に響く。
柔らかく、しなやかな銀色の髪が風に揺られて
空へと舞い上がる。瞳の先でキラキラと光る、銀色が眩しい。

碧の瞳がおれを見つめ、静かな情熱を湛えていた。
おれは動けず、金縛りに合ったみたいに ただその場に
立ち尽くすだけでやっとだった。深く、刻まれる鼓動。愛しさに支配されて
その音は激しくおれを奮わせた。

きっと、これって奇蹟みたいにすごい事なんだ。


おれは感動している自分に気がついて
何だか言い表せない心の動きに 少しだけ戸惑っていた。




けれど、次に零した彼の言葉に、おれは
今感じていた全ての気持ちを奪われる形となってしまったのだった。





「でも、付き合えません」




「・・・・・え?」




淡白に放たれた言葉。
もう一度、思わず聞き返してしまう。

・・あまりにも 冷淡な響きが その言葉に交ざっていたからだ。




「恋人になりたくないんです・・」





「ご、くでらく・・・・・」







「すいません10代目」







屋上が、オレンジ色に染まる。
フェンス下を見渡せば、紅葉がもう 始まっている。

部活動に励む生徒達の声。
下校時の会話を楽しむカップルの姿。

秋風がおれの頭上を気持ちよく通り抜けていく。


いわし雲が空には浮かんでいて、風に徐々に流されては
その場に留まって、を繰り返していた。






季節は、秋。
少し感傷的になる季節。
もうすぐ冬が来るから 人肌が恋しくなってくる前触れの季節。


そうだよ。



だからおれもちょっと
 そんな季節に浸ってみたかっただけなんだ。






別に君の事、そんなに好きだった訳じゃないし。







ただ、人恋しい季節を一緒に越せる
パートナーが欲しかっただけで、


他の人だって別によかったんだ。




君じゃなくても全然・・・・







全然大丈夫。






大丈夫だからーーーーーーねぇ、獄寺くん・・・・










「・・・・・すいません・・・・・・・」




























そんな顔、・・・・・しないでよ



































君恋し、秋の空。


























獄寺くん。
知らなかったよ、おれ。











言葉に出来ない、恋もあるんだね。























「ツナ・・・・いつまで泣いてやがる」



ベッドの中に潜り込んで、姿をみせない生徒がひとり、
小刻みに声を震わせ、嗚咽を漏らしながら 何かに全身全霊で立ち向かっていた。

俺は容赦のない家庭教師だ。生徒を甘やかせる気もねぇし、
甘やかしてやる必要もねぇと思っている。
だから思い切り 丸く蹲った背中を蹴り上げて、包まっていた布団を剥いでやろうと
体勢を整えた。ベッドサイドに飛び移り、気合を込めてやろうと足を構える。
そんなとき。不意に布団の中からくぐもった泣き声が聴こえてくる。





「っ、く・・・ひ、っ・・く・・・・ごめ、ん・・・リボーン・・・
明日にはーー・・明日にはちゃんといつもどおりのおれに戻るから・・っ、だか、ら・・・
今日だけは・・・・泣か、せて、・・・っ」



「・・・・・・・・・・・・・・・・・」





いつにも増して情けねー声。
でも、何かと必死に戦ってるような、我慢強い響きに
俺は無言でその願いを了承するしかなかった。


一体、学校で何があったってんだ・・・・。


そう思いながらも 俺は なんとなくではあるが
不思議と思い当たる節があった。





いつもなら、玄関先まで 送って来るであろう
人物の姿が、今日は見えなかった。

おそらく・・・







「ーーーーツナ、・・・・獄寺と何があった・・?」







奴が原因だ。







「ーーーーーーーーー、・・!!」




俺の言葉に 体をビクリ、と震わせた 目の前の生徒の反応に
俺は大げさなため息をひとつ、虚空に漏らした。




「はぁぁぁぁ〜〜〜っ、・・・。何なんだオメーは。
ボスのくせに、部下に泣かされて帰ってきたのか・・・情けねェ・・」



色々な修行に耐えてきたツナ。でも最後まで諦めずに全てやり遂げてきた。
それなりの強さや勇気は身に付けられたはずだった。
駄目ツナだった頃より少しは、成長しているはずだったのに。


なんだこの様は。
見てて、呆れる。



俺は獄寺が何をしたかは解からないが、目の前の軟弱な生徒の肝を
どうにか元通りにしてやりたくて、幾つかけしかけてはみたものの
こういうときに限って頑固なツナは決して口を割らずに さめざめと
一晩中泣きはらしていた。



ったくめんどくせーな。
こういうことは俺が突っ込むべきことじゃねーが、ボスを
悲しませる部下ってのもイケスカネーし、ツナがこんなじゃ まともな会話は望めねぇ。
だからここは獄寺の方に話の経緯でもきいて、説教でもたれてやるかと
俺はベッドサイドから飛び降りて 扉の方へと向かった。


が、そんな俺のスーツの端を握り締める 弱弱しい手が伸びてきて
一瞬身体が怯んで その場に留まったのだった。


・・振り返ると、布団から顔を出して 目を真っ赤にしながら
これでもかと 涙を瞳に溜めて 見つめてくるツナの姿が
俺の黒い瞳に映し出された。



「・・・・・なんだ?言う気になったのか・・・?」



普段とは様子の違うツナに、そっと投げかけてみる。
だが ツナは首を左右に振って その言葉を否定して見せた。
重い、沈黙が俺とツナの間に流れ、妙な湿気が室内に漂っていた。


ツナは、ゆっくりと息を吐いて 口を開いた。





「違うんだよ、リボーン・・・獄寺くんは、何も悪い事してない、っ・・」



先ほどよりも幾分かまともに話せる状態になっていた。
語尾は少し震えるが 断然聞き取りやすい声色に変わっていたのだ。



「・・・じゃあなんでテメーは泣いてんだ、ツナ?
確かに、お前を敬愛する獄寺がお前にヒデーことするとは思えねぇ。
だがな、お前が泣く原因みてーなのを作ったのはアイツだろ?」


淡々と話す俺の言葉に 歯を食い縛りながら聞き入るツナの姿が
いつもよりも弱弱しくみえる。・・・せっかく鍛えた心根が、枯れていくみたいに、
萎んでいくみたいに・・息をしなくなっていくようで 見てられねーぜ、まったく。




「そ、れは・・・」




濁った言葉に 確信が混ざる。
なんとなくだが、微かに感じる。
温かさ、優しさ・・・・、こいつの甘さ。




「・・・・ひでぇことすんのと、残酷なのは、違うよな」





「・・・!!!」




ツナ、お前・・・・









「り、リボーン・・・・」














獄寺に惚れちまったんだな。



















+++



















10代目。
知っちまったんです、オレ。













言葉にしなくていい、恋もあるって。





























「隼人、あなたツナに何を言ったの・・?」



リビングのソファーに腰をかけて いつまでも俯いている弟の姿を
見ていると 何故か息が詰まった。

サッパリとした小奇麗なこの部屋は、私の弟が生活しているマンションの一室だった。
沢山の本棚とダイナマイトの手入れ道具、テーブル、ソファー、テレビ。

クローゼットには弟のセンスに見合ったアクセサリーや洋服、武器であるダイナマイトが整ってしまわれている。
寝室近くには 弟が昔から趣味にしていたグランドピアノまで置いてある。

特に色の無い無機質な部屋だが 弟に必要なものは きちんと最低限度おかれている。
・・けどそうはいっても生活感があまり漂ってこない。 きっと弟がずっと独りで放浪していたせいもあるだろうけれど、
一番の原因としては”温かな場所”というものを味わって生活したことがない弟にとって、それを
独りで表現するには あまりにも酷で、あまりにも非日常的なものに思えたからかもしれない。
だから弟は しょっちゅう引越したり、家をあけたり 生活感が染み付くまで
一定の場所にいないのかもしれない。”温かな場所”を自分には作ることができないから。
そんな自分を・・知ってしまうのが・・怖いから。





「・・・・隼人!」




少し声を荒げて その名を呼べば、
次の瞬間には消え入りそうな声色で 弟が”っせーな・・”と小さく呟くのがわかった。
身体が緊張で強張ったように 一瞬だけ揺れた後、弟はゆっくりと
その俯いていた顔をあげる。

隼人の傍に佇んでいたゴーグルをしている私の方へと弟は 珍しく視線を素直に向けたと思いきや、
・・その瞳は哀しく。あまりにも儚くゆらゆらと 開いていた窓から入ってきた
風に揺らされて 柔らかく輝いては消えていた。


一瞬、息を呑む。
こんな双眸をした弟を見るのは 私自身初めてだった。
こんな・・・・・ーー耐え難い、とでも訴えかけるような瞳は・・。






「好きだけど・・・・・・・、−−−・・・付き合えない・・・そう、言っただけだ」




「・・・・・え?」






隼人は、私にそういうと 再び床に視線を落として
うな垂れるように 俯いてしまった。
身体に力が入らない、とでもいうように・・・ただ脱力して。
誰もその瞳に映そうとは しなかったのだ。





私はというと あまりにも意外な弟の言葉に、少しだけ目の前が真っ白になった。
そうして その言葉を理解するのに 少しだけ時間がかかってしまった。
だって、・・・そうでしょう?


自分の好きな人が自分を好きでいてくれる事実。
それがどんなに幸せなことか。

・・そして、その好きな人と特別な関係になれるという意味。
それがどんなに弟自身待ち望んでいたことか。


私には痛いほど わかるからーーーーーー。




だからこそ、 今弟が口にした言葉が余計に信じられなかったのだ。








「・・・・今の文脈から察するに隼人、・・・あなたツナに告白されたのね・・?」







”好きだけど 付き合えない”




普通自分から告白した場合、この言葉は出てこない。
いや、元々付き合う気がないのに 告白するなんて不毛だ。
それにこの言葉は 完全に自分が主導権を握っており、相手が受動的な場合にのみ使える言葉で・・。 
容易にツナが隼人へと告白した事実が浮かんでくる。







「・・・あなた自身は ツナのこと好きだったけれど 告白する気はなかった」




”そうなのね・・?”



私はうな垂れる隼人の前まで近づくと、弟と同じ目線に立てる様に
ゆっくりとしゃがみこんで その悲愴な表情を瞳に映した。


・・-----隼人は、微かに震えていた。




「・・・・隼人」




微かに震える弟の体を、私は包み込むように抱きしめると
何かに怯えている弟の耳元で 子守唄を聞かせるように そっと
囁いて見せたのだった。少しでも、弟が抱えている想いを 軽くしてあげたくて・・。


「あなたには幸せになって欲しい・・。ずっと独りで生きてきた貴方が
初めて心を開いた相手と、両想いになれた。・・・こんな素敵なことはないわ」



きゅっ、と抱きしめる腕に力をこめる。
私の大切な弟に、前へ進む力を与えてあげたい。
私には それくらいしか出来ないから。




「何に怯えているのかは わからないけれど・・・自分から幸せを放してしまっては駄目よ。
・・愛は奪い合うもの。そして、愛は愛(いつく)しむものよ」



そう呟くと、私は弟から離れた。
弟は、私の方に視線を合わせて、驚いた表情を浮かべたあと
ふっ、と自嘲気味に笑顔を浮かべていった。





「・・・・・おせっかいだな・・・姉貴は」









『ありがとう』







そう云われているようで、







私の胸は詰まった。














+++



























本物の恋だから きっと




言わずには、・・・いられないんだと想った。



































「ごめんなさいね〜・・つっくん・・なんだか具合が悪くて
今日は学校行けないみたいなの・・」



困ったわ、という顔で玄関先に立つ 10代目のお母様は
わが子を心底心配している 立派なお母様だ。
こんな風に 仮にオレが具合が悪いとき、誰が心配してくれるだろう?
・・そもそも心配してくれる人はいるのだろうか・・・?
なんて、不意に自分を辱しめるような考えに至る瞬間がある。

そんな自分が虚しいと想いながらも 振り払えない自分の弱さが恨めしかった。
・・・オレはやっぱり まだガキで、うんざりするほど甘い考えの持ち主だってことが
今更ながらよくわかる。



「・・・・そうですか。・・・では、オレがセンコーに伝えときます。
・・・・あ、の・・・10代目にご挨拶・・・少しだけいいっスか・・?」




緊張と遠慮が交錯して胸の中で渦を巻く。
玄関先でお母様と二人 話している姿は 多分10代目の部屋の窓から
見えると思う。・・10代目は 今この瞬間を目にして下さっているだろうか?
・・それとも布団にもぐって 苦しまれているのだろうか?
10代目の具合がどれほど悪いのかは わからない。
ただ、・・昨日のオレの言葉が、少なからず10代目に影響を及ぼしているのではないか。
自惚れなんかじゃなくて・・・・今は  本当に心からそう思うから・・・
だから 少しでも 役に立ちたくて、−−−図々しいとは思うけど、何か一言でもいいから
声をかけて行きたかった。オレのせいかもしれないけど、・・何にもしないよりかはいい。


そうだ。・・・・何にもしないまま、なんてーーー嫌なんだ。





オレは意を決したように お母様をまっすぐと見つめる。
するとお母様は 少しだけ目を丸くした。
そうして、次の瞬間には 優しい微笑を浮かべて
オレを家の中へ 迎え入れてくれたのだった。



「ーーーつっくん、きっと・・・喜ぶわ。どうぞ中に入ってちょうだい?」



温かなその声色に、”頑張って”と小さな応援が隠れている気がして
なんだか くすぐったいような 甘やかされているような感じがした。



「・・・・ありがとうございます」




オレは玄関先で靴を脱ぐと、キシッ、と微かに軋む音をさせて
慎重に二階へつづく階段を上がっていった。




10代目の部屋の前で、ぴたり、と足を止める。




そしてーーーーーーーー。








コンコンッ・・・・









強すぎず、弱すぎず・・適度な力加減で
10代目に続く その扉の向こうに合図を送った。
開かないであろう、その扉を。




瞬間。








キィッーーーーーーーーーーーー・・。











開くはずのない扉が ゆっくりと開く。





オレは思いもよらない出来事が 起きたせいで
身体が少し強張るのがわかった。




「じゅうだい・・・」




その人の名を、口にしようとした刹那、









グンッーーーー、ーーーーーーーー。







身体が思い切りひっぱられるのが わかった気がした。







「っーーーー、え・・・?!」






オレが軽い奇声をあげたと同時に 開いた扉が自分の背後で閉められて
自分の身体が 目の前のその人に抱き寄せられるのが、はっきりとわかった。









ギュッ、・・・・。








細い腕がオレの首に巻きつく。
体勢を崩して床にしゃがみこんだオレに 合わせるみたいに自分もしゃがみ、
その人は 自分の顔をオレの胸へと寄せて、 小刻みに震えていた。


ふわっ、と亜麻色の髪がオレの鼻を掠めては揺れる。
微かに開いていた 窓から 秋を感じさせる匂いが、すっと吹き抜けた。

”ちりん ちりん・・”


しまい忘れていた 夏の名残が 音を立てて風に揺れる。
優しい 透き通った音が ちっぽけなオレを 応援するみたいに
心の中で鳴り響いていた。








「・・・・・・・じゅうだいめ・・」





そっと声をかければ、小さな その人は 肩を竦めて
さらに小さくなっていった。

そんな彼を 胸に感じながら オレは
浅はかだった自分の言動が、途端に憎らしくなった。



この愛しい人を、こんなにも傷つけて
守ろうとしたものはなんだ・・・?




オレはどこまで弱くて、情けない人間なんだ。







『何に怯えているのかは わからないけれど・・・自分から幸せを放してしまっては駄目よ。
・・愛は奪い合うもの。そして、愛は愛(いつく)しむものよ』





不意に。



昨日の姉貴の言葉が 頭をよぎった。









オレは 目の前にある幸せから逃げてる。









こうして、・・オレを求めてくれている人がいるのに。
その人を こうして悲しませている。









静かに、オレは 瞳をとじて 胸に感じる熱を想った。






すると 自然に 強張っていた身体は動いて
その人へと腕が勝手に動くのがわかった。







「・・・・・10代目」








グッーーーーーーー・・・・・。










さらに引き寄せるように その人を 力強く抱きしめる。




「っ、−−−−・・!」




オレに強く抱きしめられたことに 驚いたのか
10代目は 息を呑むみたいに 小さな声を虚空に漏らした。


オレより高い 体温を 肌で如実に感じる。




柔らかい髪。
上気した肌の色。首筋に唇を寄せれば




「っ、・・ぁ・・」





甘い奇声が耳を掠める。





扉に寄りかかる形でしゃがみこんだオレの胸に
愛しいその人を抱きしめる。抱きすくめた その体躯が
身動ぎして、居心地のいい場所を探しているのがわかった。



オレは10代目の そんな仕草がたまらなく 愛しくて
ずっと言えずにいた本心を、今なら曝け出せると思い立った。



「・・・・10代目・・・・、聞いてくれますか・・・?オレの・・・気持ちを」






本当は言わないでおこうと思った。




かっこ悪いし、みっともないし、・・・何より狂おしい。
だけど言葉にするしかないと思った。






だって・・・・わかるんだ。



















この恋が どれだけオレにとって大切で 放したくないものなのか。


どれだけ・・・この小さな貴方を 愛しているのか。


















言わずにいられるわけがない。















本物の恋なら、−−−−−−尚更。












+++



















恋をしている。
どうしようもなく、君に。













恋をしている。
どうしようもない・・・・自分が。





















ほんと・・・どうしてだろうね。

































「オレ・・・怖いんです」







ひっそりとした室内に響いた彼の声音は おれが思った以上に
何かに怯えているみたいに聞こえてきた。

おれを抱きしめる獄寺くんの腕に、力が篭る。




「恋人になったら・・・別れるのが怖い。・・・失うのが怖い、んです・・」




「ーーーーえ、・・?」




あまりに唐突な獄寺くんの言葉。
最初は理解できなかった。

けど、頭の中で何度も何度も繰り返してみると
徐々に、その言葉が指し示す意味が 浮かび上がってくるようだった。



一呼吸おいて、獄寺くんは尚もつづける。





「・・部下なら、・・・大勢の中の一人として見て貰える。
・・でも恋人なら たった一人の特別な人として見られる。
・・・その感覚を体感して、・・失ったときがーーー怖い・・・」





バッ、−−−−−と突然身体を離される。
おれの両肩に 獄寺くんは自分の両手をおいて、軽く掴んで言った。
切迫した表情を浮かべて。−−−まるで世界が終わるみたいな瞳の色を 光の奥に宿して。




「どうすればいいのか わかんねー・・・っ・・。
発狂するかもしれねーし・・・とてもじゃないが・・・
耐えられない・・・、生きて・・・いけないんですっ・・!!」




悲壮な表情で叫んだ獄寺くんを目の前に、おれは
自然と自分の手が 彼の両頬を勢いよく叩くのが わかった。




パンッーーーーーー!!



「へぶっ・・・?!!!」






両頬をおれの手で挟まれるように叩かれて
痛みと 突飛なおれの行動に 獄寺くんは ぽかん、と口をあけて
瞳を大きく見開いていた。−−動揺、しているようだった。



「じゅ・・・・、じゅうだいめ・・・?」



おれの両手を即座に頬から外して握り締めた獄寺くんは
恐る恐るといった感じでおれのことを静かに呼んでいた。

おれは、キッ、と軽く彼を睨むと 吐き出すみたいに大声で怒鳴ったのだった。





「獄寺くんのばかっっっ!!!!」




半ば開き直ったように おれは 獄寺くんに勢いよく しがみついた。
唐突なおれの行動に 更に獄寺くんは驚いて 肩を竦める。



「へっ?!・・じゅ、10代目・・・??」




訳がわからない、という表情の獄寺くん。
憎らしい。・・・けどそんな天然な彼も やっぱり愛しくて。
おれは訳がわからない感情を抑えるのに必至だった。
これ以上、獄寺くんを困らせるのも 駄目だって、思ったから。






「なんで一人で抱え込むんだよ!!!どうして勝手に決め付けて、
一人で終わらせちゃうんだよ!!!まだ何も始まってないじゃんか!!
・・おれと向き合ってくれてないじゃんかっっ!!!」



しがみついた身体が少しだけ強張ったのがわかった。
上目遣いに見上げれば 心底困ったような彼の顔がそこにはあって。
おれは少し悔しくて、もどかしくて、獄寺くんの頬にそっと唇を寄せた。




「ーーーーっ?!!」




軽く触れた 彼の頬はとても滑らかで気持ちよくて、
また触れたいなんて 心の奥で思ってしまった。

そんなおれとは裏腹に 獄寺くんはというと、



「じゅ・・じゅうだいめ・・・??!」



触れられた頬を手で軽くおさえて 真っ赤に上気しながら
ぐるぐると目を回していたのだった。

自分はさっき おれの首筋にしたくせに、変なところで純粋なのがおかしい。
不意に、獄寺くんに寄りかかるみたいに 胸の中へとすっぽりと収まる。





「ーーーーおれだって怖いよ・・・。・・いつか君に呆れられちゃうんじゃないかって・・。
いつも不安で、・・怖くて・・・君の事、まともにみれないときだってあるよ・・。
ーーーーでも!!っ、・・・・だからって そんなことで君の事 嫌いになれないっっ、・・!!」







言葉にすると哀しくて、どうしようもなく不安で、苦しいけど。
でも今言わないと 一生君は手に入らないって思うから。
だから ありったけの勇気を振り絞って、まっすぐ君に届くように・・伝える。
おれの全てで。




「そんなことで君の事 諦められない・・・!−−好きなんだ・・・
こんなおれでも胸張れちゃうくらい・・言葉にしてしまえるくらい・・・君の事 好きなんだっ・・・」




ぎゅっ、と彼の服を握り締める。この想いが少しでも伝わるようにと。



「すごい事だよ・・・きっとこれって・・奇跡みたいに すごい事なんだ・・!
感動したんだ・・こんなに人を好きになれたことに・・・感動したんだよ・・おれっ」



君という奇跡に巡り合えたことに。



だから。





「だから・・ホントのこと言ってよ。・・・聞きたいよ・・獄寺くんのホントの気持ち・・・
聞かせてよ、おれに・・。・・・この奇跡をおれ、・・・・終わらせたくないんだ・・っ!」





知らない間に、涙が零れ落ちていた。

いくつも、いくつも・・・大きなシミを作って 自分の心の渇きと、真実を
思い返していた。涙で前がぼやける。今は、この目に何も映せない気がした。
ただ、自分の想いが 溢れ出て 止めることができなくて、
必至で止める方法を 考えることしかできなくなっていた。



ふと、次の瞬間。




おれの頭上から大きな影が降りてきて・・
再び 強い力で 目の前のその人に抱きしめられるのがわかった。





「・・・・・・・・・・・きです、・・・」





「・・・・え?」






か細い声が 虚空に舞った。
聞き取れず、もう一度聞き返してみる。




すると・・。






「・・・・・・好きです・・・・、大好きです・・・10代目・・・っ」






涙声で零れ落ちた 彼の想いの欠片が
おれの耳に届いた。
温かな温もりと、心地よい 腕の力も一緒にーーー・・。





「・・・オレと・・・・付き合ってください・・・っ。
ーーー・・オレをあなたの恋人にして下さい・・・・!」




身体を小刻みに震えさせながら、おれに伝えてくれた
彼の本当は おれの中で波紋を作るように広がって、
胸を大きく締め付けた。







「獄寺くんっ・・・・・!」





くしゃっ、と顔がゆがむ。
ずっと欲しかった言葉・・。待っていた言葉が 今、おれの耳に届く。
夢のような瞬間。






「・・・嬉しいよ・・・・!・・・喜んで・・っ、・・!!」






ぎゅっ、と二人 ドアにもたれ掛かりながら 抱き合う。
こんな瞬間がくるなんて 昨日までは思わなかった。



ただ、嬉しくて、幸せで、人恋しい この季節を越すには
十分すぎる温もりだと おれは思った。






+++













「------10代目っ・・・・」








抱きしめた、10代目の温もり・・重み・・・言葉に触れて、オレは想う。














・・・わかったんだ。





きっと二人が同じ気持ちを抱えている限り、
オレたちは大丈夫なんだって。





心が通い合っているのなら、何も恐れることなんてないじゃないか。




寄り添う心を引き離す理由なんて 在りはしないんだ。






「オレ・・・もう逃げません・・。
貴方を大切にします・・・・幸せに・・しますから・・・」






やがて訪れる未来に 怯えるのは やめよう。
オレたちは 過去を育み、未来を慈しむ心を持ってる。









「・・・・獄寺くん・・・・。
−−−・・うん、信じてる」











君を愛せる幸せに、こんなにも奮える心を
信じているのだからーーーーーーーー。














「・・・・・信じてるよ」





























大好きです 10代目。







これからも、永遠に。















オレを あなたの












特別な一人にして下さい。













今度は、逃げない・・・・迷わないから。
























今度こそ オレ、この想いごと 守ってみせる。


































あなたが オレを信じてくれる限り。




ずっと。




















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どうもこんにちは!青井聖梨と申します。
久しぶりに獄ツナ書き終わりました。てか季節がめちゃくちゃだ!!まだ夏来てないのに!!(汗)
私が一番好きな季節が秋なせいか、こんなことに・・・!!
とりあえず、何とか書き終わってほっとしてます。
しかし私の書く獄寺くん・・弱いなぁ〜。もっと攻め攻めでもいいのにな(笑)
次回は 攻め攻めな獄寺くんとか書いてみたいです(無理)


それでは失礼しました〜!!

青井聖梨 2010・6・26・