その瞳が、泣いているようで










僕の正面はいつも君だから











「キラ、・・・おはよう。」


「う、ん・・。おはよ・・アスラン。」



すっきり晴れた青空の中、俺たちは並んで歩きながら
学校へと登校する。
キラは寝坊する癖があるから、いつもこうして俺が
早朝から迎えに行くのが俺の日課になっていた。
いつもと変わらない日常。いつもと変わらない会話。
俺は歩調をキラに合わせて、他愛のない話題を持ち出して
何とかキラを元気付けようと必至だった。

そう、キラは元気がなかった。
原因は俺にある。



もうすぐ・・・俺がプラントに引っ越すからだ。



「キラ、マイクロユニット制作は進んでるのか?」


「―うん・・・やってるよ、ちゃんと。」


「本当か?キラはすぐ難しい所は後回しにするからなぁ・・。
手順はちゃんと踏みながらやれよ?」


「わ・・わかってるよっ・・」


いつもと変わらない口調で、いつもと変わらない表情。
口ごもりながら困ったように拗ねるキラの顔。
少し強気にいいながらも、顔は微笑んでいる俺。
何ら変わらない俺たち。なのにやっぱりどこか違う。
それはきっと心の中がいつもと違う。
俺もキラも、どこか ぎこちない心持で・・。
心の奥で、残り時間を気にしている。

俺も、キラも。


この間、キラの部屋に遊びに行ったとき 偶然見てしまったんだ。
カレンダーに記された、二重に赤で記された日を。
その日は印だけで、何も書かれていなかったけれど。
知ってるよ、その日が何の日か。

だって




俺がこの場所を離れる日なのだから------。



+++







「アスラン・ザラくん・・。ずっと好きでした。」



放課後の誰もいない教室。
辺りは赤く校舎を染め上げ、幻想的な雰囲気を作り出していた。
俺の目の前で顔を真っ赤に染めながら、俯く女の子。
最近やたらと告白される。
・・多分皆も俺が引っ越す事を知ったようだ。
だからだろうか?この機会しかないというように、女の子から
よく呼び出される。俺が居なくなる前に、きっと自分の心の整理を
付けたいのだろう。


「ごめん。・・君の気持ちは嬉しいけど、応えることは出来ない。」


何度この台詞をいっただろう。
その度に胸は、決まって痛む。
好きな人に好きだと伝えることの難しさを、俺は知っているから。
そして俺は、まだ その好きな相手に
想いを伝えられずにいる臆病者だから。
・・だからこの、目の前に居る女の子を心から俺は尊敬する。


「・・そうだよね。アスランくん引っ越すものね。仕方ないよね・・。」


彼女は肩を落としてうな垂れながら、悲しそうに微笑んだ。


「・・・ごめん。」


引っ越す事を断る理由にするのは 本当は間違いだ。
だって俺は引っ越さなくたって彼女の気持ちを受け入れられない。
俺の瞳には最初からたった一人しか映っていない。昔も、今も。
俺はキラが好きなんだ。本当は、断る理由なんてそれだけで充分で。
なのに言えなかった。
今更にキラが好きだと伝えても、結果は何も変わらない。
それに今の状態の彼女に言うのは残酷すぎて、言うのが躊躇われた。


キラが好き。キラだけしか見えない。
俺の中には昔も今もキラだけが鮮明だ。
彼女のように、俺もキラに想いを告げられればいいのに。
もうすぐ離れてしまうのだから。
でも。

キラに、好きだと口にしてしまえば 言葉にしてしまえば
何だかそれが愛の言葉に聞こえないような気がして




”さよならだよ”と言っているような気がして





・・・言えないんだ。






+++





「アスラン、今日おばさん何時に帰ってくるの?」


「今日はいつもより遅いって言ってたな・・。十二時過ぎると思うよ。」


「じゃ、じゃあ泊まってきなよ!いいでしょ?ね、アスラン!」


「え・・・あぁ、キラさえ良いなら・・。」


「やったーー!!」


不安そうな面持ちで聞いてきたキラに、俺は思わずそう答える。
するとキラは満面の笑みで喜び、はしゃぎだした。
最近のキラは、いつもより俺に甘えてくる。
そして、俺と離れることを極度に嫌う。俺が先生に呼ばれて教室を出ると
後をついて来るし、帰りが遅くなるから先に帰れと言っても いつまでも
校門で待っている。また、、学校から帰ってきて一緒に遊ぶときは、
俺にしがみ付いて離れようとしないことが最近多い。
俺は嬉しい反面、なんだかそんなキラを見ていて切なかった。
キラは不安がっている。淋しいと俺に訴えている。
俺の思いあがりなんかじゃない。キラの瞳が何よりもその証拠で・・。
その瞳が、いつも俺に訴えかけている。離れないでと。


その瞳が、泣いているようで――――



胸が いつでも張り裂けそうだった。






「ね、アスラン。見てよコレ!昨日机のなか整理してたら
古いアルバム見つけたんだ。」


「キラ・・お前課題の提出まで時間がないことわかってる?
机の中 整理してる場合じゃないだろ?」


呆れたように俺はため息をひとつ吐いて、肩を落とした。
でも、こんな風にいつものキラらしい相変わらずの行動に
少し安心したりしている俺も心のどこかに居たりして、少し複雑だった。


「いいから、いいから!見てよコレ!自然実習のときのだよ?」


「ん・・?あぁ、懐かしいな この写真。」


「ほら!こっちはアスランと海に行ったときの・・」


「あ、覚えてる。確かキラ、波にさらわれて溺れかけてたよな?」


「な、なんだよぉ〜っ・・」


「ははっーーあのときのキラ、必至にもがいてたよなっ・・」


「あ、アスラン!人ごとだと思って〜〜!!」


「ごめん、ごめん!」


俺の頭を軽く両手で叩きながら、キラは頬を赤く染めて
俺を非難して来た。俺は笑いを堪えながら、必至に謝罪してみせる。

不意に、キラの俺を叩く手が止まる。


俺は急に動かなくなって、何も言ってこないキラに驚き、
キラを覗き込んでみる。


「・・・キラ?――どうし・・」


「―-――・・」



その瞬間。俺は言葉を失った。
凍りついたように動かなくなったキラ。
静かに、肩を震えさせている事に今更ながら気づく。


キラは、泣いていた。



溢れる涙を必至に拭おうと、腕でこすり上げて
唇をきつく噛み締めて 頬を薄っすら赤く染め上げて
声も出さずに 泣いていた。


その姿は健気で、儚くて、今にも壊れそうだった。
抱きしめたい。そう、思った。



「・・・キラ、――どうして泣いてるの?」



俺はそっと滑らかなキラの右頬に、左手を添えた。
キラはきつく噛み締めていた唇をほどいて、
ゆっくりと嗚咽混じりに答える。



「っ・・・・わかんないよ、そん、なのっ・・・」



本当はわかっていた。
俺も、キラも。言わなくたって、わかっていた。

でも、口に出してはいけなかった。
口に出せなかった。


終わってしまうから、 俺たち そこで。
二人のときが 止まってしまうから きっと。
二度と動き出せなくなるから たぶん。

だからキラは言わない。・・・言えない。
きっと、俺も 同じ。


なのに何故俺は、キラにそんな残酷な事を聞くのだろう。
自分で自分がわからない。矛盾している。 この胸に渦巻く感情は、
確かに曖昧で 不確かなものだ。



「キラ・・もう泣くな・・。泣く理由なんて 何もないだろう・・?」


優しい声色で薄っすらと微笑んで見せた。
溢れる涙をそっと拭ってやる。
キラはされるがままに、おとなしくしていた。
その大きな瞳は 微かに揺れながら俺を真正面に映している。


「アス・・ラ・・っ」


なだめる筈が、余計に煽ってしまったのだろうか?
キラは目を少し細めて声をあげて泣き出した。


「うっ・・うぅっ・・!!」


「キラ・・」


泣かれるのが辛くて、俺は静かに自分の方へとキラを引き寄せて
その華奢な身体を俺の胸へと包み込んだ。
俺は壊れるほど強く、キラを抱きしめる。

まるでその温度を、匂いを、感触を、確かめるように。
・・・忘れないように。



「アス、っ・・ラン・・・」


俺の背にキラの両手が回される。
微かに震えるキラの指先の感触が俺の身体に残る。
その感覚が、身体全体に伝わってくる。


思えば、キラはいつも泣く事を我慢していた気がする。
いつもキラは俺と目が合えば 無理にでも笑って見せていた。
俺はそんなキラの心をわかっていたから 何も言わずに、ただ微笑み返した。
俺にはどうすることもできないから。現実は、いつも残酷だから。
事体が戦争へと向かっているように――現実は、
いつも俺たちを打ちのめすから。・・傷つけるから。だから・・。



キラはいつも泣きそうだった。
あのときも、あのときも・・思い出すときりがない。
瞳はずっと泣いていたのかもしれない。
きっと、ずっと。


「泣かないでキラ・・・」



泣かないで。



今の俺にはそれしか言えないけれど。


抱きしめる腕に力をこめる。想いが届くように。
君の涙が、止まるように。



「アス、ランっ・・・ど、して・・?」



「えっ・・・?」


キラが唐突に聞いてくる。
俺はキラを胸から離すと、肩に手を置いて覗き込んだ。
キラは大きな瞳に涙を浮かべながら、呟くように言葉を紡いだ。


「どうして・・・アスラン、・・泣きそうな顔してるのっ・・?」


そう言われて俺は初めて、自分も
今にも泣きそうだということに気づく。

俺は困ったように小さく笑いながら、
キラの額と自分の額をコツリ、と合わせて答えた。



「泣きたいくらい、キラが好きだからだよ。」









戦争が始まって、この平和が無くなるというのなら
今この瞬間に 世界が滅びてしまえばいい



君と一緒なら 何も恐れる事なんて、ないのだから


君を失う事より残酷な事など、この世にありはしないのだから



離れたくない

傍にいたい


この愛の言葉は”さよなら”という意味で言ったわけじゃない。



だけど現実が俺たちを引き離す・・
同じ未来を選べないのだと思い知らしてくる。





ならば・・。

―これ以上、どうにもならないと言うのならば。
俺は忘れないでいよう。


この想いも  


この瞬間も すべて。


忘れないでいよう。


そしていつか、笑ってこのときを思い返せるように
乗り越えて見せよう 今を。

いつまでも覚えていて、君を想う瞬間に 何度も思い出そう。


どうか、君にも今を乗り越えて欲しい。
いつか二人で笑い合える日がくる、そのときまで。


言葉に想いを乗せて、君に届けよう。
俺の全てを。


「キラ、好きだよ。・・・忘れないで――」




泣きたいくらい、君が好きだから。



「アスランっ・・」





どうか忘れないで。

覚えていて・・












「俺はいつでもキラを想ってるから・・。」







額をあわせた瞬間も


君が俺の正面にいる この時も















僕の正面はいつも君だから。












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こんにちは!青井です。ここまで読んでくださってありがとうございます!
アスキラ小説第二弾、いかがでしたか?割合この話はすらっと書けたほうです。
少し自分でもビックリですが・・。この話はアスキラ幼年期というか少年期というか。
アスランがプラントに引っ越す手前あたりを目安に書きました。
色々矛盾してますが大目に見ていただければ幸いです。オリジナル設定なので、はは・・。
キラは泣いたような気がします。アスランの引越しが決まって。というか、私が単に
泣かせたかっただけ・・かな?(笑)
それではこの辺で失礼します〜。
2005.6.4.青井聖梨