「大丈夫、僕はまだ頑張れる。」


それが僕の無敵の呪文だった。














僕はまだ、大丈夫だよ。













アスラン、いつだって君が居るから
僕は頑張れるんだよ。


この世界には、君が居るから。



だから、命を懸けてもいいと思えるんだ。




たとえ君と離れ離れになっても、
その想いだけは 変わらないから。


ね、アスラン・・?
それだけは、憶えていてね。







君に届かない声を、今夜もひとり
月を眺めながら 心の中で呟いた。






淋しい・・・淋しい・・・





本当はたった、それだけなのに。



「アスラン・・・」



僕は君の名を呟く事で、・・その姿を思い出す事で
頑張れる理由を探していた。



また、明日からは戦場を駆け抜ける。
自分の正義を貫くために、沢山の悲しみを
この瞳に映しながら、僕は空を紅く染める。




壊れそうな自分を、必至に奮い立たせる何かが
今の僕には必要だった。


それが無ければ、きっと耐え切れない。
これ以上頑張れないから。



ーー美しく、空に浮かぶあの月を見上げる。
月を見るたび、思い出すんだ。



君と過ごした、あの幸せだった日々を。




「・・・大丈夫、僕はまだ 頑張れる。」







君との思い出が消えない限り、

僕はあの戦慄の中を、生き抜いてみせるよ。









きっと君が、何処かで僕を


待っていてくれると信じて・・・





+++






心地のいい夜風が、肌に触れて
一瞬瞳を閉じる。


近づいてくる足音に、耳を澄ませて
僕は静かに振り返った。




「キラ・・・」




「−−−−アスラン」




柔らかな翡翠の双眸。
紺色の少し長い艶やかな髪。
僕よりやや高い身長にバランスのいい身体つき。

しばらくの間離れていた、僕の大切な幼馴染。


その深い声色が宙に広がって、
僕の心を優しく撫でた。



「どうしたんだ、こんな所で。・・風邪ひくぞ?」


昔と変わらずに、御世話焼きなアスラン。
いつも僕を心配してくれていた。
そんなところは、ちっとも変わらないんだね。

・・御互い、この手を血に染めたとしても。



「ちょっと、・・・月が見たくなって・・」


僕はそういうと、アスランに向けていた視線を
空へと戻し、再び月を眺めた。

すると、不意に僕の隣へと君の気配が移る。
君は僕の隣で、僕と同じく月を眺め始めた。


ーー胸が、高鳴る。



離れ離れになっていた僕ら。
先程まで、独りきりで淋しいと 嘆いていた自分を
思い出していた。

思い切り背伸びをして、もう疲れて立ち上がれないのに
頑張る理由を探しながら、君を静かに守っていた。


そうしなければ、頑張れなかった。
生き残れなかった。


「綺麗だね・・・」



でも、本当に命を懸けて守っていたのは 君の方だった。



「あぁ、−−−綺麗だな」



君は僕を守りたいと言ってくれた。
あんな、血にまみれた姿になりながらーー。




重症を負いながら、もう乗れないはずの
MSに乗って 君は僕を助けてくれた。


そう、・・僕の為に君はまた、戦う事を 選んでくれたんだ。






「ありがとう、アスラン・・」



君に聞こえるか、聞こえないか位の声音で
僕は静寂の中、ポツリと呟いた。


アスランは、瞬間、 視線を僕に向けると
薄っすらと優しく微笑んでくれた。

僕の声が、聴こえた様だった。


僕は少し恥ずかしくなると、思わず下に俯いてしまった。
照れているのが、君にばれてしまう。だけど、自然とそうしてしまったんだ。


アスランは俯いた僕を見て、クスッと柔らかに笑うと
僕の髪にそっと触れてきた。

急に感じた、アスランの指先に 僕はドキッ、と反応して
俯いた顔を上げてしまう。
頬が、熱い。今、僕の頬は林檎のように赤いだろう。


アスランはそんな僕を見て、愛しそうに瞳を細めると
指先に僕の髪を絡めて、そのまま自分の唇に押し当てた。


僕は息が、止まりそうだった。



「キラ・・・・・淋しかった?」



その甘く響く声の調子。
微かに儚く揺れる、翡翠の双眸。


「俺がいなくて・・・・・淋しかった?」


髪に触れた、アスランの唇の感触。
長く綺麗な指先。


全てが懐かしくて、優しくて
その言葉に 泣きそうになる。



「−−−−・・・・うん。淋しかった・・。」



口に出してしまえば、あの時の淋しさも、切なさも
少しは消化できると思っていた。


なのに、余計、苦しくなって・・
涙を堪えるのに必至だった。



「キラ・・・・」



アスランが、切ない声で僕の名を呼ぶ。
今度は頬に、アスランの手が触れてくる。


その温かな掌のぬくもりに、全身が
震えてしまいそうだった。


僕は瞳をきつく閉じると、
無敵の呪文を口にした。




「大丈夫っ・・」



「えーーー?」



アスランが、呟くように言葉を零した。



「僕はまだ ・・・頑張れる」





「・・・・・・・・・キラ」




今度はアスランの沈むような声が、耳を掠めた。



僕は瞳を開けると、困ったように微笑んだ。



「僕は大丈夫・・・まだ、頑張れるよ、アスランーー」



君に今の僕が、どう映ったのかは わからない。
だけど君に、そんな顔をさせてしまったのは、きっと僕だ。


アスランは、表情を歪めて 翡翠の双眸をきつく細めた。
途端に、僕の唇へと、優しいぬくもりが 降って来る。



「っ、ん・・・・」



気が付けば、アスランに口付けられていた。



僕は思わず瞳を閉じて、目の前の幼馴染に
されるがまま、身を委ねた。


アスランに、僕は・・痛々しく映ったのだろうか?
僕は君を悲しませてしまったの?


だったら僕は、
大概 罪深い人間だねーーー。




そんなことを考えながら、くっきり浮かぶ月の下、
僕は夢中でキスをした。




暫くして、そっと君の唇が僕から離れる。



僕は”はぁ・・っ、・・”と甘い声を漏らしながら
呼吸を整えながら、君の言葉を待った。


するとアスランは、僕の前髪を、そっとかき上げて
僕に言葉を零した。


「キラ・・・もう、独りで頑張らなくていいんだ」



アスランが言った、その言葉に
瞬間、心の奥で深い衝撃を受けた。


僕は瞳を大きく見開いて、食い入るように
翡翠の瞳を覗きこむ。


「そんなに独りで背負い込むな。・・身動きできなくなる」


君の正義の中に、優しさが見え隠れしている。
温かな眼差しが、僕を見透かして、一人の弱い人間へと変えてしまう。



「お前には・・・・俺がいるだろう?」



壊れそうな心が、今にも狂いそうだった。
君に、溺れてしまいそうになるーーー。



「キラ」



名を再び呼ばれて、急に瞳が熱くなった。





大丈夫、僕はまだ 頑張れる。
それが無敵の呪文だった。



・・はずなのに、君はあまりにも容易く

僕の心をかき乱して、無敵の呪文を解いてしまった。


きっと、君の言葉にはーーいつだって、敵わないね。





「アスラン・・・・」




今度は君の名前を僕が呼んだ。
君は月明かりに照らされながら、小さく微笑んで



「・・・なんだ?」



と短く答えた。



ずっと無理してきた僕だけど。
今は素直に そう云える。


僕はアスランの腕に、きゅっ、としがみ付きながら
夜風の優しさに紛れて、呟いた。







「僕はまだ、大丈夫だよ。」












君が傍にいる限り










きっと僕は、壊れない。










あの美しい月に住んだ頃の
君との優しい思い出と




このぬくもりさえあれば、









僕の世界は終わらない。












心から、そう思えるんだ。


















優しい月明かりの中、
二人静かに抱きあった。













淋しいと、心を痛めた あの時の僕は
もういない。







今は










君といる、未来を信じて













大丈夫だと、呟く事が















今僕に出来る、ただ一つのこと。









君に優しく届くといい。
僕の新しい、無敵の呪文。
















”僕はまだ、 大丈夫だよ”






















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こんにちは〜、青井聖梨です!!
アスラン誕生日記念に書きました・・・・が!!!

全然アスラン出てない・・(汗)
いやいや、なんといいますか。あえて弁解させてください。
私としては、どれだけキラに愛されているかというのをアスランに教えてあげたいというか
キラの想いを書くことで、アスランへのバースデープレゼント、というカタチを取らせて頂いたわけで・・(爆)
なんていうか、−−そういうことです(←?!)それにいつもより、アスラン控えめのカッコイイ人に
書いてみたんですがね・・ダメですか??(笑)

とにかく、アスラン誕生日おめでとう!!記念小説でしたvv
ではこの辺で〜。
青井聖梨 2005.10.29.