君は嘘が下手だね
僕のモノでいてよ。
〜Act4、君と僕は悲しき玩具〜
まだ、一騎に傷を貰う前。
僕はあの頃、一体何を大切にしてきただろう?
何を求めていただろう?
想い出せない。
君に出会う前の僕は、どんなだった?
何に心を奪われていた?
・・・想い出せない。
僕はどんな人間で、いつもどう在ろうとしたんだ?
どんな毎日を過ごしていたっけ?
古ぼけた思い出。色褪せた記憶の中で、今にも切れそうな
昔の自分の姿を見つけ出す糸を手繰り寄せて、思い切り引っ張ってみる。
だけど、手繰り寄せた先には 何も無かった。
空っぽだったんだ。
その事実を知って僕は 初めて、真実を知る。
僕の命が、存在が、魂が、全てがーーーー君に向かっていたんだ、と。
ちっぽけな僕を作り上げてくれたのは君だった。
こんな世界から見つけてくれたのは君だった。
君は僕のモノではないけれど、
僕は確かに 君のモノだった。
君の・・・モノだった。
+++
「・・・・一騎」
総士?
総士なのーーー・・・?
「大丈夫だよ一騎・・・・可愛いね」
総士、どうして学校に来ないの?
今・・・なにしてるの?
「もう、僕の傍を離れるな。−−−ずっと僕の傍に居ろ」
居たいよ。ホントは総士の傍に居たい。
でも、怖いんだ。
自分が・・・怖いんだ。
「一騎ーーーお前は僕のだ!!・・・僕のなんだっっ・・」
俺だってなりたい。
総士のモノになりたいよ。
「お前なんて要らない・・・」
総士 ねぇ、総士・・
お願いーーー嫌わないで。
俺のこと、
嫌いにならないで・・・
ーーーーーーーガバッ・・・!!
しん、と辺りが静まり返った真夜中。
一騎は勢いよく、布団から飛び起きた。額には汗が滲み、背中には悪寒が走った。
今夜で一体何度目だろうか。此処最近夢見がとても悪いのだ。
そのせいで、一騎は夜中、こんな風によく飛び起きることが度々続いたのだった。
原因は・・わかっていた。
皆城総士。
一騎の夢見を悪くした、張本人。
一騎にとって、一番大切で、一番仲の良かった無二の親友。
誰よりも一騎の事を知っている幼馴染で、−−−特別な人。
「・・・そ、し・・・」
真っ暗な部屋。
その大きな瞳には何も映らなかった。ただ、ひとり。
記憶の人物だけしかーーー。
か細い声が、宙に舞う。
時計の鳴る音が階下から聴こえてきた。
ボーン・・・
一回。現在の時刻、夜中の1時。
とても眠れそうになかった。
一騎は、水を飲んでこようかと布団から完全に起き上がる。
そして 部屋を出てすぐにある階段をタンタン、と小気味良い音を立てながら下りていく。
本来ならばこの時間まで、父親の史彦はいつもの定位置でロクロを回しているのだが
今日は違った。史彦自体、家に居ないのだ。
昨日の夜、史彦は階段を踏み外して床に転落し、全治一週間の打撲を身体に負った。
転落した際 史彦は、足を変に捻ってしまったらしく、二〜三日入院する羽目になってしまったのだ。
そして今日は入院二日目の夜だった。
史彦は、まだ幼い一騎を夜一人にさせまいと、入院を頑なに拒んだが、遠見千鶴がそれを許さなかった。
おとなしく入院さえすれば、二〜三日で足は完治するが、もししなければ完治するのに三週間は
かかると言われ、史彦は 苦い顔をしながら、入院を承諾するのだった。
三週間も完治するのに必要となると、さすがに日常に負担がかかる。
日常に負担がかかるということは、一騎の負担も必然的に増えることになる。
史彦は どちらに転んでも一騎に迷惑をかけてしまうのなら、二〜三日で完治させて 少しでも
一騎の負担を減らそうと考えたのだった。
そうして史彦は、今、渋々病院のベッドに横たわっているのだった。
一騎は”戸締りはしっかりしろ”という史彦の注意を思い出すと、
水を飲みに行く前に玄関の戸を確認した。
すると、不意に 電話へと視線が映った。
「・・・・・・」
声が聴きたい。
そう、一騎は思う。
史彦の声ではなく、今しがた夢に出てきた人物の、である。
暫く総士とは会っていない。あの、社会科資料室の事件以来、
総士は学校に来ないのだ。ずっと一騎は、ーーー待っているのに。
何かあったのだろうか?一騎の胸に不安が過ぎる。
電話をしてみようか?かける勇気が・・・ない。
一騎は電話に釘付けになっている自分の視線を
無理やり台所へと向けると 近くにあった明かりを灯して
蛇口をひねり、そそくさとコップに水を注ぎいれた。
なにをしていても総士を思い出してしまう自分を
戒めるように頭を左右に振ると、コップに入った水を一気に飲み干そうとした。
が、水が奥の変な気管支に入り込み、一騎は途端に咽るのだった。
「こほっ・・こほっ・・・−−!!」
咽た拍子に、まだコップに残っていた水が
着ていた服へと勢いよくかかってしまった。
「あっ・・・!」
気づいたときには、下半身部がびしょびしょに濡れていた。
一騎は、布を通して感じる水の冷たさに身震いをすると、着替えるために
コップを置いて 服を脱いだ。
すると、露になる自分の下半身を目にして、ついこの間合ったことが
一騎の頭を駆け抜けた。
あれから一週間。
まだ、鮮明に覚えている、その記憶。
知らぬ間に思い出す、その声。
”なにが嫌なの・・・?こんなに可愛らしいのにーー・・・”
忘れられない、その銀色の眼差し。
”淫乱だね一騎・・・・これだけで、こんなに感じてるの?”
気がつけば、自分でソコを触っていた。
「っ・・・・・あ、っーーン」
ぎこちない手で、総士にされた事を 思い出しながら。
「っはぁ、・・・っぁーーーッ!」
滑るように、優しく。
慣れない感覚に、酔いしれて。
「ア、ッ・・・あぁっーーー・・」
総士が目の前に居る事を、想い描いて。
「そ、ぅっ・・・しぃ・・・ッ・・・」
瞳に涙を滲ませながら、甘い吐息を荒く吐き出した。
「ん、うッ・・・・・」
でも押し寄せる快感は 身体には物足りなくて。
「あ、ァっ・・・は、ぁーーー・・」
総士に焦がれた。
触ってほしいと、想った。
くちゅくちゅ、と水音が段々耳に届いてくる。
一騎の先端から愛液が零れ始めていた。
けれど一騎には、もうどうすればいいのかわからなくなっていた。
この間は全て総士に任せてしまっていた。
だから、よくこの先を覚えていないのだ。
ただ自分は 快感に身を委ねていただけだった。
一騎には、それしか自覚がなかったのだ。
自慰行為をしたせいで膨張したソコを
自分で恥ずかしく覗き見る。
先端からは愛液が止め処なく流れ、ソコを触っている自分の手も
段々と激しいものへと変っていく。
まるで、自分ではなくなるようだ。
一騎は揺れる意識の中でそんな事を思った。
一人で射精するには まだ、幼すぎる知識。
持て余した身体のはけ口を、虚ろな意識の中、一騎は必死に探し続けた。
そして・・・
その栗色の大きな瞳が捉えた先にはーーーー
闇の中、静かに佇む黒い電話が
”ここにいるよ”と呟いていた。
一騎は無意識に、手を伸ばして
ダイヤルを回すのだった。
一番 いま、
会いたい人のもとへと。
+++
プルルルルルッ・・・・
時刻はただいま1時35分。
静寂の部屋にけたたましく鳴る、その機械音。
煩わしいと思わずには居られない。
琥珀色の少し長い髪がベッドから顔を出した。
銀色の瞳が重そうな目蓋を押しのける。
自己主張の激しい機械音が意識を呼び戻し、身体を徐々に起こす。
「・・・なんだ?−−−こんな夜中に・・」
父親が出張だから良かったものの、こんな夜遅くに家へと
電話をかけてくるなんて、怖いもの知らずだな・・。
そんなことを呑気に思いながら、受話器を総士は手に取った。
そう。一騎の家と同じく、総士の家もまた、父親が今不在だった。
島の外へと出張に出ているのだ。公蔵の話だと一週間は帰れないらしい。
島の代表である総士の父、公蔵は度々島の外へと出張に赴いていた。
総士自身、そのことについて あまり気には留めなかった。
父親の仕事に口を挟むほど、生意気でも、愚かでもなかったからである。
聞き分けのいい総士。だが、父親が居ない目を盗んでは
自分なりのメリットも見出していた。そこら辺は恐ろしく抜け目が無い。
メリットというのは、今の総士でいうと”学校を休む”という行為だった。
あの事件以来、一週間も学校を休んでいた。
もう少し、総士は総士なりに心を整理する時間が欲しかったのだ。
そして少しずつではあるが、傷が癒えていくようだった。
学校に行けるようになる日は近い。自分なりにそう思った。
「・・・・はい、皆城ですが?」
少し素っ気無く答えてみる。
こんな夜分にかけてくる訳だから、このくらいは許されると
総士は思った。
『っ・・・は、ぁ・・・・総、士っーー・・・』
熱っぽく甘い声が耳に響いてくる。
聴きなれた声色。
独特の少し甲高い声。
まだ、少し幼い、そのひと。
「か、・・・・・・ずき・・・・・・か?」
驚愕のあまり、言葉が出ない。
まさか、一騎から電話が来るとは思わなかったのだ。
自分のした事を思うと、こんな事実はありえなかった。
『そう、し・・・・・・っ!!』
受話器の向こうは 途端に涙声になっていた。
「一騎・・?どうしたんだーーーーー?!」
様子が少しおかしい。
雰囲気で、察した。
『総士ぃっ・・・・・お、れ・・・』
何かを必死に伝えようとしている。
そんな気がした。
「一騎・・・泣いているのか?」
何があったのだろう。
心配になる。
『お、れ・・・傍に居たい。』
「・・・・・・・・・えっ?」
『総士の・・傍に居たいよっ・・・』
「かず・・・・き・・・・」
一週間前、一緒に居たいと願った自分。
けれど一騎は”できない”とそれを否定した。
だから今現在の受話器越しに伝わってくる一騎の言葉が
総士にはとても信じ難いものだった。
「だが・・・・お前・・・・」
そこまで言いかけて、途端に相手の言葉で遮られる。
『ホントはおれ・・・ずっと一緒に居たかったんだ・・・』
一騎がゆっくりと、大切に言葉を噛み締めながら
総士へとその胸に秘めた想いを届けてくる。
『でも・・・一緒に居る事なんて、できないと思った・・・』
一騎の震える声が、・・痛い。
まるで何かに怯えているようだ。
「・・・どうしてそう思う?」
『−−−−−−−−だって、・・・・・おれは』
何かに、縛られているようだ。
『総士のこと・・・・・・好きなんだ』
一騎
『総士を傷つけた自分が怖い・・。
いつまた、自分が何をするかも分からないのに・・・・』
一騎・・・
『総士の傍には、いられないよ・・・・・・』
それだけでいいんだ。
『大好きな総士を・・・・・傷つけたくないよ・・・』
その気持ちだけでいいんだよ。
『だから総士、お願いーーー嫌いにならないでっ・・・・・』
「・・・・・一騎」
『要らないなんて・・・・言わないでーーー』
充分だ。
『っ・・・、怖いよ総士・・・・怖い』
「一騎・・・・・・」
『・・・・会いたいよ総士・・・・・・』
擦れた幼い声色は、
悲哀に満ちた音をしていた。
僕を求める色を、確かに宿していたんだ。
『淋しいよぉっ・・・・・・』
すすり泣く、僕の幼い想い人。
今僕に、躊躇うことなど何も無い。
君をこの手で抱きしめて
その悲しみを溶かしてあげたい。
「・・・・・・いま、行くから 待ってろ」
今此処に、足りないモノなど何も無いーーーーーーー。
『そう、し、っ・・・・?』
「・・・・・・会いに行くよ、一騎に」
『ホン、ト・・・?』
「あぁ。−−−−だから少しの間、・・そこで待てる?」
『・・・・・・・・・・・・・う、ん』
君は嘘が下手だね
今すぐ僕に、会いたいって・・・
聴こえるよ?
ねぇ神様、知らなかったよ僕
この世界には 嬉しい嘘も、あるんだね。
僕という存在は今、君の嘘で満たされた。
一騎・・
もう一度だけ、勘違いしてもいいだろうか?
君に必要とされている、・・・・僕を。
裏NOVELに戻る 〜5〜
こんにちは、青井聖梨です!!
ここまで読んで下さって、どうもありがとうございます!!
やっと少し甘い雰囲気になってきた感じですよね(汗)
多分次で最終回だと思います。どうなることやら。
ーーと、いってもラストの一部は日記に書いてしまいましたから
ネタバレはしているのですが、ね・・?(笑)
思えば、これ程までに鮮明に覚えている夢というのは、この夢だけです。
皆様には 管理人の夢にここまでお付き合い下さいました事、心より御礼申し上げます。
どうもありがとうございました!ではでは、ラストでお会い致しましょうvv
青井聖梨 2005.11.27.