最近、おれには悩みがある。






















恋を知らない少年




















天気がいい日は大概 屋上でお昼ごはんを食べるのが
おれ達の暗黙のルールだった。
それは誰かが言い出したわけでも、誰かの真似をしているわけでもなく、
自然な流れでそうなっていた。

大空の下、夏の風に当たりながら食べるお弁当は 
教室の喧騒の中で食べるそれと明らかに違って、とても美味しく感じるのは
いうまでもなかった。ここに京子ちゃんがいれば、もっと美味しいんだけど、
京子ちゃんにもお気に入りの場所があるだろうし、無理強いはよくない。

だからおれはお昼ご飯を一緒に食べようと誘ったりはしなかった。
でも友達は違う。友達はお昼に誘って食べるのが普通だと思う。
別に変な事じゃない。友達と楽しい雑談なんかしながら食べるお弁当もまた
それはそれで格別で、美味しく頂けてしまうのだ。


だけど。





最近、お弁当がちょっと美味しくない。
母さんの腕が落ちたとかそんな原因じゃなく。
原因は、おれの”友達”にあるわけでーーーーー・・・。







おれはそのことで結構真面目に 悩んでいたりするんだ。












+++

















屋上の階段を忙しなくあがるおれは 息を切らせながら
大空の下を目指して全力で昇りきっている最中だ。

やっと見えてきたてっぺんに心の中で安堵しながら、
ゆっくりと呼吸を整えてから 屋上のドアの前に立ったのだった。
重々しい音と共に頑丈な扉がのそりと動き出す。
懸命に扉を押す腕が微かに震える。自分の力のなさに少し落胆しつつも、
”まぁ、おれは所詮駄目ツナだしな”と半分諦めたため息を零して 外を目指した。


ギギギッ・・・・


開ききった向こう側には気持ちいい風と青空が爽快に広がりをみせて
おれを見下ろしているようで なんだかちょっとだけ気分が弾む気がした。



ーーーーーガタン。



扉が閉まる音が空気に伝わり、微かな震動をおれに伝えてくると
再び扉は外と内に大きな隔たりを作って、もとの位置に戻っていくのだった。
おれはそれを確認したあと、きょろきょろと周囲を見回して
友達である二人を探してみた。が、ざっと見た限りでは 二人の姿がない。
まだ来ていないのだろうか・・・?


いや、そんなはずはない。
だって二人が屋上に向かう階段を上っているところ、ちゃんとおれ見たんだ!
ノートを職員室に届ける前に、確かに見かけた。そのあと おれは職員室に向かったんだから。


おれはお昼ご飯であるお弁当を手からぶら下げて 辺りを歩き回ってみた。
おれ達の暗黙のルールである、”晴れた日は屋上でお昼ごはん”。
今も変わってないはずだーーー絶対に。だって変わる理由なんてないんだから。




おれは少し不安になりながら、周囲を動き回っていると どこからともなく
風にのって話し声が聴こえてくる気がした。
不意に、上を見上げる。



すると。






二つの影が貯水タンクの方でゆらり、と揺れたのが見えたのだった。




あ!もしかして・・・?




おれは咄嗟に大声で彼らがいるのを確認してみた。
気のせいじゃないことを信じたくて。





「二人とも、いるのーーーーーーー?!」




おれが声をあげると、弾かれたように二つの顔が、下にいるおれを
覗き見て 視線を合わせてきたんだ。




「おう!ツナ!来たのか」



「10代目、お疲れ様っス」




一方は暢気な笑顔。
一方は苦笑気味な笑顔。


対比したような二人の表情に おれは訝しげな顔を見せながら
二人に軽い非難の声を漏らした。




「なんで貯水タンクになんて登ってんの?おれ、探しちゃったよ」



少しむくれた顔を見せれば、慌てて獄寺くんがおれのいる下まで
降りてきてくれた。そうしておれの非難にごもっともです、といわんばかりの謝罪を
示してきたのだった。





「すみません、10代目!!10代目のお手を煩わせるなんて
オレとした事が・・・・右腕失格ですっっ!!!」



いつもの目一杯の土下座が始まりそうになっていたので
おれはそれが始まる前に彼を許すことにした。
だってめんどくさいんだもん・・・こうなったときの獄寺くんってさ。




「い、いいっていいって・・!!別に謝られるほど煩わされてないし・・」


おれがしどろもどろになっていると、山本が貯水タンクから飛び降りて
突然おれ達の目の前に現れた。




「よっ、と!」



「うわっ!?」


「ばっ・・・!てめッ・・・!10代目を驚かせんじゃねーよっ」





獄寺くんは唐突に現れた山本を叱咤するとおれの方へと
再び視線を向けて、にかっ、といつもの調子で爽やかに笑顔を浮かべた。


なんなんだろ、その褒めてください10代目!的笑顔は。
獄寺くんて、頭いいんだけどつくづく変わってるよなぁ・・と時々思う。



「わりーな、ツナ。風にあたりたくてさ!獄寺誘って貯水タンクの上で涼んでたんだ」


”っつっても日はガンガンにあたってるけどな!”
そうあとに付け足しながら山本は乾いた笑いを虚空に振りまいて、気持ち良さそうに
目を細めたのだった。獄寺くんは、というと ”・・・・・ほんと、迷惑な奴っスよね”といいながら
瞳が優しく揺れていた。



・・・・・・・。
なんなんだろう、・・・・この疎外感。



最近頻繁に感じることがある。



獄寺くんと山本。何か二人でこそこそと話してる。
今みたいに おれが気づかないような場所で、何か話してる。
おれが来ると途端に話すのやめたり、話題が切り替わったり、
ごまかされたりする。今は多分、ごまかされたーー部類だ。

いくらおれが駄目ツナだって、ちょっとはわかるようになってきてる。
それだけ二人がそういう言動をしているというのも事実だし、
何より二人がなんだかよそよそしい態度をおれに見せる瞬間がある。
それは決まって おれが”なに話してたの?”って訊いた時なんだ。



きっとなにか、あるはず。





わかってるんだけど、・・踏み込んで訊けない。というか、訊きづらい。
だって友達なのに、何も喋ってくれないってことは
おれに話したくないこと、訊かれたくないことってことだろ?
そういうの無理して聞き出すのって、ちょっとオカシイと思うし・・・・それに。






なんか、訊くのが怖い・・気もする。
とんでもない問題かもしれないし、凹むようなことかもしれない。
おれ、小心者だから  ・・・ちゃんと聞いてあげられるか自信ない、かも。




ーーーーーーでも、このまま悩み続けるのも嫌だし。
おれだけ仲間はずれってのも、なんだか・・なぁ。




そんなわけでおれは今日も悶々と考えながら
お昼ごはんにありつくのだった。






+++


















かりかりかり・・・・。


シャーペンの音が今日は妙に大きく聞こえて、とても耳につく。
なんでだろう・・・変に緊張しているせいかもしれない。

おれ達のほかに誰もいない教室は、静寂と共に細い糸で繋がった
緊張感と空虚感を同居させて、そこに存在しているようだった。

おれは不意に、自分の前に座って 教室の外をぼんやりと眺めている
銀髪の少年をゆっくりと覗き見ながら、課題で出されたプリントを
無い知識を絞り上げつつ、解いていた。



開いた窓から ふっ、と風が入ってくる。
夏の匂いを連れてきた風は、新鮮で青くさくて、肌に心地よいものだった。
おれはそっと目を閉じ、通り過ぎていく風の息吹を身体中で感じていた。
同時に、目の前で外を眺める彼の考えていることも感じようとしていた。
不思議だ。前はそんなこと考えたこともないのに。
今は何故だろう・・、仲間はずれにされているせいか
友達である獄寺くんがとても遠い人のように思えてならない。
だからこそ、懸命に何かを汲み取ろう、感じ取ろうと身体が必死になっている。
そんな感じがした。



未だ遠くをぼんやりと見つめる獄寺くんは、どこか儚くて、淋しげに
おれの瞳へと映っていたせいだろう。
おれは今にも消えそうな彼に、声をかけずにはいられなかった。



「ご、ごめんね・・・!課題みてもらって・・・」


ちょっと上擦った声がかっこ悪い。
明らかに動揺している感じがして嫌だ。
情けない醜態を知られたくなくて、おれはごまかし笑いを浮かべて
彼への言葉を一生懸命に選ぶ。

獄寺くんは ふわ、っと薄く微笑むと 困ったように笑顔を作った。




「いえ・・・・、10代目のお役に立てて、嬉しいっス」




いつものように笑っているつもりなのかもしれない。
でも、解かりやすいくらい 彼は元気が無くて、雰囲気が違った。
どこか大人びた・・でも小さな子供みたいに頼りない表情を一瞬みせて。

こんな獄寺くんは初めてで、友達として
どうすべきなのか、よくはわからないけれど・・・でもやっぱり
このままじゃいけない気がしてーーーーおれはなけなしの勇気を振り絞ることにした。


だって・・・だってさ、元気がない獄寺くん見るの・・
なんだか悲しいし、−−−なんか心ここにあらず、ってかんじで
一緒にいても寂しいんだ。重い悩みを抱えてるって、わかるんだ。
山本はいつもと変わらずで、何も変じゃないけど、明らかに獄寺くんは最近オカシイ気がするんだ。


おれと距離、みたいなのとるし・・・山本とよくしゃべってるし。
オカシイんだ こんなの。・・いつもの逆だって、思う。
獄寺くんが獄寺くんじゃないみたいで、ちょっと不安なんだ。




きっと。・・・きっと山本に相談してるのかもしれない。
おれに聞かれたくないこと。おれじゃ・・力になれないこと。
だけど。だけどさ・・・、おれだってなんかしたいって思う。
友達なんだ!・・・少しでも、力になりたいって思うよ。

そりゃぁ・・おれは駄目ツナで、何にも出来ない。
山本よりも圧倒的に頼りにならない奴だって自覚してる。
けど、一緒に悩むことは出来るし、おれに話すことで少しでも
獄寺くんの心が軽くなればいいなって思う。おれがたとえ受け止め切れなかったとしてもさ、
受け止められるように努力すればいい。一緒にちょっとずつ 乗り越えればいいって、
思えるようになったんだ。・・・今みたいに 一人だけ仲間はずれ、見たいな方が
受け止めきれない悩みの重さを不安がるより、とんでもないことを聞かされるかもしれないっていう
恐怖より・・・ずっと怖いって、気づいちゃったから。だから、おれーーーーー。




おれは シャーペンを走らせる指を止めて、ぎゅっ、と唇を噛んだ。
気の小さいおれでも、友達のために何かしたいと思うのは 当然だし、
そうあるべきだって思うから・・おれは、意を決して 目の前の碧色の双眸に視線を委ねた。



「ご、・・獄寺くんっ・・!」


思い切って呼んだ彼の名が、妙に耳へとじん、と伝わっていく。
名を呼ばれた彼は おれの声に従って 視線や顔をこちらに向けて
おれを見つめてきた。




「・・・はい?どうしましたか10代目・・・?」


目を丸くして 軽い驚愕を浮かべながら彼は
おれを静かに見つめてきた。
おれは穏やかに おれを見て来る彼の瞳が
微かに揺れているのを見逃さなかった。




「・・・・最近、山本とよくしゃべってるよね・・。
ーー二人で何をしゃべってるの・・・?悩み事・・・?」



遠まわしに上手く聞けたらいいけれど、おれはそんな
器用な人間じゃないから。だから ストレートに聞いたほうが
相手のためにもなるって、おれなりに考えたんだ。その方がしゃべりやすいって。


おれは真摯に彼を見つめた。
獄寺くんはというと 瞳を瞠って おれの視線をその碧色の双眸で
一心に受けていたのだった。

瞬間、瞳が大きく揺れ 先ほどみせた困ったような微笑を
顔に再び貼り付けて おれの問いに答えた。




「・・・・・聞いたら、10代目の負担になりますから」




獄寺くんは、正直なひとだ、と思った。
嘘を吐かず、答えてくれた・・ちゃんと。
”悩み事かどうか”の問いを否定しないでいてくれた。

微かな嬉しさと同時に 彼の思いやりを感じた。
聞かないほうがおれのためだ、とストレートにおれへ伝えてくれているからだ。 
だけど友達として、それは喜んではいけないんだ、きっと。

獄寺くんは悩んでいる。何か・・思いつめたみたいに。
それを”負担になるから聞かない”なんて、友達じゃない。
むしろ、”友達だから聞いてあげなきゃいけない”んじゃないだろうかとおれは感じた。




「負担になるかどうかなんて、君が気にすることじゃないよ。
おれが聞きたいだけなんだ・・・だからさ」


出来るだけ柔らかい言葉で 彼を追い詰めないように・・
悩みごとをはなしてもらえるように。
おれは獄寺くんの心情を大切にしながら 彼を想った。
が、獄寺くんは 表情を険しくするだけで 一向にそれ以上口を開こうとしない。




「ーーーーおれには、言えないこと・・なの?」



寂しく、本当に寂しく虚空を彷徨った言の葉が
地面に、堕ちた。


彼の耳に、心に その言葉が届く。



途端。不意に、視線がおれから外れる。
俯き加減に何かに耐えるみたいな仕草をとっていた。
彼の右手に力が入っているようで、プルプルと小さく震えているのがわかった。

・・・・・・。
おれは言葉を失くす。
そんなに頼りないだろうか・・おれ。
山本には話すのに・・おれじゃ、話せないんだ。



そっか。・・・・・そう、だよな。
莫迦だな、おれ。
友達面なんかしてさ。−−結局のところ、相手は
そう想ってなかった・・なんて・・・かっこ悪いことこの上ない。






「ーーーーーーーーーもう、・・・いいよ」




力なく、そんな言葉が零れ落ちた。
悔しくて、情けなくて 目頭が熱くなってくる。
じわっ、と湧き上がる感情の波を止めることに必至で
涙腺を保つのが難しくなった。


気を抜けば、泣いてしまいそうで
こんな小さなことで男が泣くなんて 終わってる、と
心の中で毒づいていた。


刹那。


目の前の人の、雰囲気が変わる。




おれは恐る恐る視線をその人へと上目遣いに合わせてみると
酷くうろたえた獄寺くんと遭遇した。
動揺が表情にわかりやすく滲んでいる。




「じゅ、じゅうだいめ・・・・!?」



おれの瞳が滲んでいるせいで、目の前のひとが動揺している。
その事実が なんだか少しだけ笑えた。
どっちも、かっこ悪いや・・・。



「すみません・・・・!オレ、あのっ・・・・・」



言葉を濁し、おろおろしている獄寺くんの手が
するり、とおれの頬に触れそうな距離まで縮まる。
おれは顔を目一杯あげると 胸にたまったモヤモヤを吐き出すみたいに
言い放った。このまま、うやむやにしてしまうなんて、・・どうしてもできなかったんだ。
だって、おれは君の友達だから。・・・友達に、なりたいから。







「っ、・・・やっぱりよくない・・!!聞きたいよおれ、君の悩み!!
そりゃあ・・山本に比べれば不甲斐無いけど・・・でもさっ・・・」


勢いよく立ち上がり触れそうになる君の手を取って
力を込めて握ってみた。おれの真剣さが伝わるようにと。

けれど獄寺くんは 更に表情を歪めた後
握ったおれの手をやんわりと解いた。


拒否。・・彼が今とった行動は、拒否、だ。




「・・・・聞くと、・・・・・・・・・・・後悔します」




夕日に照らされて伸びた影が二つ。
教室の角に寄り添うように映る。
心まで寄り添えられればいいのに。ぼんやりと、そう想う。

ガタッ、と立った獄寺くんは真っ直ぐにおれを見つめて
やっぱりどこか困った微笑みを浮かべて云った。



「すみません・・・・・10代目」





グッ、と今度は両手に力を入れて
彼は自分の拳を握り締めていた。
見えない何かの圧力に追い詰められるかのように。


おれはもう、そんなこと 構わなかった。
獄寺くんに拒否、されたことがショックで
訳のわからない感情に ・・身を任せてしまった。



「ーーーなんでだよっっ?!なんでそんな・・・頑ななんだよっ!!!
おれたち、友達じゃないかっっ!!!どうして言えないんだよ?!
いつも、おれを慕ってくれてた君は・・・全部嘘だったのかよ?!!!」



全部、演技だったの?おれが10代目だから?
そんなの酷いよ・・・!



溢れ出した感情が堰を切って流れ出す。
言葉に乗って、届いたおれの感情を目の前の彼は
どういう風に受け止めたのだろう?


彼に視線を彷徨わせれば、獄寺くんも
”堪えられない”といった様子で おれに勢いよく手を伸ばしてきた。
それは怒涛の嵐のように 激しく、 時の流れよりも速く 生み出されたものだった。



ガタガタッーーーー!!



机が、椅子が何個かその場に倒れ、知らぬ間に
彼とあった距離が埋められていた。
気づけばおれは、教室の隅の壁に身体を押し付けられていた。
背中に痛みは無いが どうみても おれは追い詰められた状態に、いた。


獄寺くんの顔が夕日で半分赤く染まる。
貫くみたいな際どい視線がおれだけをその瞳に映して
おれを逃がさないとでも言いたげな腕で囲って、壁に閉じ込めた。




「ごく・・・・・っ」



そこまで言いかけて、次の瞬間には激しい声で遮られた。




「いいんスか・・・・!?本当に言って、いいんスかっ・・・!!?」


切羽詰った表情の中に 小さな悲愴が揺れる。
さっきおれが口にした言葉が 彼の想いの枷を多分、打ち破ってしまったんだ。
きっと・・獄寺くんがおれを慕ってくれたのは、 本当なんだ。
だから・・こうして今 獄寺くんはーーーーー怒ってるんだね。




おれは、彼の真実を否定してしまった自分を恥ずかしく想った。
どうしてそんなことを言ってしまったのだろう、と深く反省もしていた。
けれど今しなければいけないことは他にある。
おれは獄寺くんの言葉に、頷いたのだった。謝罪はあとでする。だから・・・。




「いいよ・・!いいって云ってるじゃないか・・・?!」




「ーーー言いますよ!・・・・本当にいいんですね?!
・・・・・聞いたら後悔しますよ」





「いいってば!後悔しないからーーー・・!!」





凄んだ声の向こう側に、彼の不安が見え隠れした。
それでも前に進みたかったおれは 傷ついてもいいからと
大きく見えない一歩を前へと進める。

それをおれが望んだんだ。結果なんて考えないーーー。
獄寺くんの抱えている思いだとか、心配している気持ちだとか
わかるけど、・・・わかるけどもっと 大切なことがある気がしたから
おれはーーーーーー・・。




「言ってよ、獄寺くん・・!」




おれは そうはっきりと叫んでいた。
教室中におれの声が木霊する。
きっと目の前の悲痛な表情を浮かべている彼の中でも
おれの声が 響いているんだろうと想う。

















































「好きです」
















































「ーーーーー、
・・・・・・え?」
























「・・・・貴方が好きなんです」























「ーーーーーーーーーー・・・」
















な、・・・・











にを・・・・






いってーーーーーーー・・・・


























「ーーーーーーーーー・・・
ほら、・・・・・後悔した」





































そのあとの事は、
あまり覚えていない。


ただ、ふっ、と目の前から誰かがいなくなる感覚と







どこまでも透明な瞳が、声が、ぬくもりが
静かに傷ついていたことだけは わかった。















「おれの・・・バカ」










ずるずると身体中の力が抜け、
教室の壁に寄りかかるようにして その場に蹲る。






先ほど寄り添っていた長い影は、今は一つとなっていた。




夏の心地よかった風が 嵐の前の静けさみたいに
ぴたり、といつの間にか止んでいた。









あの瞬間。

顔が、凍りついた。










言葉が、出てこなかった。

おれはきっと、獄寺くんの前で ・・強張った表情しか出来ていなかった。




何かを・・・・誰かを懼れるみたいに。


それは、”嫌悪”と同様な破壊力を持って
彼の心に突き刺さっただろう。













傷ついた顔・・・・してた。




















『ーーーーーーーーー・・・
ほら、・・・・・後悔した』






































・・・・させてしまった。




































おれは獄寺くんを傷つけたんだ。































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こんにちは、青井聖梨です。
ここまで読んで下さってありがとうございました!!
後編をどうかお楽しみに〜vvv

青井聖梨 2008・8・1・