何度も忘れようとしたのに















途方もなく、愛に傷つく











昔、大切にしていたモノがあった。
大事にするあまり、過剰なほど敏感になっていた。
壊したくない。汚したくない。誰にも渡したくない。
そう思うあまり、あるとき俺は それを秘密の場所へと閉じ込めた。

俺しか知らない、秘密の場所。
扉の鍵は俺が持っていた。

そして、厳重な鍵をかけて その存在を封印したのだ。


あるとき俺は 無性にそれが見たくなり 久しぶりに
秘密の場所へと赴いた。
厳重な鍵をあけて、重々しい扉をゆっくりと開き、中を静かに見てみる。




さて・・・・閉じ込めた その中身は・・・・
















どうなっていたと、







ーーーーーーーーーーーー君たちは思う?




































「さぁ・・?腐ってたんじゃないか??」


場所は生徒会室。
昼休みの喧騒の中で、一際声を高々と挙げて
気の抜けた調子で話す、 こいつは クラスメートのリヴァル。


「どうかしら?そのある”モノ”が食料の場合、腐敗と答えるのは最善だとは
思うけど、今の話では 中身が抽象的過ぎて、明確な答えを予測するのは不可能だわ」


この与えられた情報をもとに、想像性のみで答えを導き出すことを躊躇う
知性の持ち主は アッシュフォード学園の生徒会長 ミレイ・アッシュフォード。


「う〜ん、そうだなぁ。どういうモノか具体的に解からないし、もしかしたら 
死んじゃってるとか!!?あ、輝いてるとか!!???」


明るくそう口を挟んできた 活発な存在である彼女は 同じくクラスメートのシャーリー。


「会長のいうように、モノを分析または測定しなければ 正確な回答は得られない
・・のではないでしょうか・・・?」


控えめに探究心を深層で燃やす彼女は 生徒会のメンバーである、ニーナ。


「・・・・私も皆さんの意見と同じです」


あくまで仮面を被りつづけている、テロリストの女、カレン・シュタットフェルト。


平穏ともいえる時の流れが この生徒会室には 現在、流れていた。
外部の闘争など微塵も感じさせない 日々の営みは まるであらかじめ用意されている
桃源郷のようで 違和感すら覚えさせないほど 巧妙に出来ていた。

どれだけ沢山の命が奪われたとしても、どれだけ過酷な状況に追いやられたとしても
こいつ等には届かない。テレビの報道で その惨事は流れることはなく、以前の新宿区のように
証拠隠滅・事実抹消を政府内部は企てることだろう。

くだらない欺瞞と偽証が飛び交い、多くの犠牲は無に帰す。
それが奴らのやり口であり、手段の一環だ。
結果的には 破壊と殺戮しか 残らない。

皇室の奴らがどんな大義名分をちらつかせて その場を治めるかなど
俺には手に取るようにわかる。


質問を提示しながらも 深層では 穏やかな時間に不満と怠惰を感じている俺を
誰も知らないように、 皆目の前の問題で頭がいっぱいであった。
それほど この世の中は腐敗し、大切な何かを既に失っていた。

欠落した世界に思うがまま身を委ねるほど、俺はバカではない。
いつか・誰かが行動を起こさない限り、この世界は堕ちる所まで堕ちるだろう。

それが解かる奴ら・・つまり今現在それを感じられるのは 日本人だけかもしれない。



「中身を明らかにしないと 確かに、この質問には正確に答えられないかもな・・」


大概一般の人間の脳内では ”モノ”という言語から 物質を連想し、
更に鍵をかけて しまえる程度という情報から ある程度の大きさを推測する。

IQが高い者や慎重な性格をしている者、頭がきれる者の場合、確証または裏づけがとれなければ
軽率な言動を口にしないものが多く、大抵は質問に答えることを控える。
こんな些細な質問から こうも解かりやすく個性が滲み出るのだ。
実に面白い。・・・・今後の付き合いの参考にでもするべきだろう。


俺は一人で含み笑いを漏らしながら、俯き加減に
物思いに深けていた。
するとシャーリーがその話の先を催促してきたのだった。



「ねぇ、ルルーシュ!!それで?その中身はどうなってたの?
ルルーシュが大切にしていたものって・・?!」


興味津々とでもいうかのように、シャーリーは目を輝かせて
俺を見つめてきた。人の話にこうも興味を示せる彼女を・・少しだけ羨ましいと思う。





「さぁ、・・・どうなっていたかな・・・昔のことだ、もう忘れたよ」



とぼけた様に 気の抜けた声で空中を仰げば、横から
シャーリーとリヴァルの非難めいた声が途端にあがった。


「え〜〜〜!何それ!!自分で話し始めたんだから、最後まで責任持ってよね!!」


「そうだぞルルーシュ!!気になって眠れないよ〜〜」


「ははッ、ごめん。・・でもホント、記憶が曖昧で答えられないんだ。昔のことだし、・・そんなに
興味を持ってもらえるとは思わなかったものだからーー」


乾いた笑いが室内に響き渡り、行き場の失った不明確な言葉と回答は 
周囲の人間の後味を少しだけ濁すものへと変化した。

ミレイ先輩が俺の方へと視線を向けると、不満そうな瞳で
言葉を宙へと紡ぎ出した。





「・・・・本当に覚えてないのかしら?」




明らかに俺を見透かそうとする 挑戦的な瞳がそこには在った。
俺は その瞳に応えるかのように ニヤリとほくそ笑んで言った。





「ご想像にお任せしますよ」







+++






























「スザク」







放課後の教室は、昼とは大分違う色をしていた。
夕焼けの赤が辺りを染めて 移ろう季節のように輝き始める。

シン、と静まり返った静寂の中 一番後ろの席で 窓の外を眺めていた
翡翠の双眸が 俺の声に気づくと、こちらに視線を向けて 姿勢を整えながら 
ゆっくりと立ち上がった。



「ルルーシュ?・・・どうしたんだ」




つい最近転校してきたばかりの彼、枢木スザクは 俺にとって旧友であり、
現在はクラスメートという存在であった。


「−−これから俺が学園内を案内するよ。・・まだ知らない場所が多いだろうからな」


「あぁ・・そうか。それで先生、ここで待ってろって・・」


思い出したように スザクはそう言って 自分のカバンを手に持ちながら
俺に向かって 駆け寄ってきた。
・・まるで忠犬のようだな。

すると差し詰め俺は猫、とでも言えるだろうか。
誰かに縛られるのは御免だ。常に自由奔放でいたい。

そう考えると、スザクと俺は正反対だな。
何故友人になれたのか今更ながら 疑問だ。

近寄るスザクを見つめながら 心の底では
そんなことを考えている自分の 冷静さには 人ならぬ謎めいた
感情の欠落が見え隠れしていた。

自身を傍観できる自分が特別な存在であるのか
それとも異端な存在であるのか。
それは自分の置かれている状況下によって・・つまり地位やポジションによって
変化するだろう。 人によっては凶器でも人によっては盾になる。

何事も時と場合によるのだ。



「でも、どうしてルルーシュが・・?」


澄んだ翡翠が夕焼けの朱色と交じり合って
幻想的な色に煌いた。

俺はその瞳の眩しさが、煩わしいような、懐かしいような・・不思議な気持ちに
襲われて、思わず視線を足元へと落とすのだった。


「あぁ・・俺が生徒会に入っているからだろう。
それにお前とは知り合いだしな・・・、先生も頼み易かったんだと思う」


そう口にする俺の言葉に スザクは”そうか・・”と
ただ一言呟いて 静かに教室を出た。

俺はスザクの広い背中を見つめながら、本当にこいつがここに
存在するという事実に 暫し、気を取られていた。

するとスザクが急にこちらへ振り返って 明るい調子で言った。




「それで?・・まず何処へ案内してくれるんだ?」 


変わらない、柔らかな笑顔。
ふわっとした亜麻色の髪。どこまでも聡明な翡翠の双眸。
シャンとした姿勢で着こなされている漆黒の制服は 彼の真面目さを
表すようだった。


俺は何一つ変わらないスザクの仕草、瞳の透明感に
驚きつつも どこかで安心していた。

その意志の強さで やがて軍の上層部へと進出していくであろうスザクの
温かな眼差しと 純粋な心が濁る日がいつか必ず来るはずだ。
人は脆く、弱い生き物だから きっとスザクもそうなるはずだ。

だから俺は・・あのときスザクに仲間になるよう 催促したというのに。
汚れていく こいつなんてーーー見るに堪えない。


昔からバカな奴だと思っていたが、あの時ほどバカだと思ったことはない。


俺は脳内で あの夜を鮮明に思い出しながら
表面では 平静を装った。
スザクに勘づかれるのは 正直御免だ。
作戦に支障をきたしかねないからだ。


「・・−−−歩きながら説明する。ついて来い」


思考を一端留めた俺は、スザクを先導するべく、
歩を進めた。あちらこちら見回しながら 指を指して
職員室・理科室・社会科資料室・家庭科室と無駄な時間を
作らぬように、効率よく案内したのだった。

時には教室内に入り、室内の雰囲気と置いてある物の
説明を一通り説明してやることもあった。
スザクは素直に頷きながら、俺へと相槌を打って
神妙に周囲を見回していた。


「校舎内はこんなところだ。・・次は外へ出るぞ。
体育館やプールなどの施設を案内する」


「ん?−−あぁ、わかったよ」



大体校舎内は大まかに説明し終え、俺たちは外へ
出ることにした。外に建つ必要最低限の使用施設を案内すれば 
学園案内は終了となり 俺たちは心速やかに下校できるだろう。
夕日が地平線にまだ顔を出しているうちに案内を終えなければ、
家で夕食を待ってくれているナナリーに申し訳が立たない。

俺は少し悠長に時間を取っていた自分を反省すると
先ほどよりも迅速な態度で歩を進めるのだった。


昇降口にスザクと向かい、靴を履き替えようとしたそのとき、
急にスザクの身体が急停止した。

俺は何事かと思い、目の端でスザクの姿を捉えた。
スザクの視線の矛先をーーー同時に視線で追った。



そこには。





「ッ・・・・!!!!−−−−なんだ、これはっ?!」









思わず声をあげてしまった。




スザクの靴箱の正面には、『裏切り者は出て行け』と赤いペンキで
乱雑な罵倒が書かれていたのだった。


スザクは ただ黙ってその字を正面から見つめていた。
一転も曇りのない瞳で・・。

そしてスザクは おもむろに靴を履き替えていた。
するとそのとき。
靴の下に白い封筒が置いてあるのを見つけたのだ。

スザクは 少しだけ驚いた表情を見せながら、
その白い封筒を手に取り、差出人を確認した。

が、差出人はなく、無記名であった。



「・・開けるのはよせ。どうせ知能指数が低い下衆どもの
戯言だ。お前がわざわざ読んでやることはない」


こんな稚拙な嫌がらせをスザクにすることで
自分たちの地位と名誉を確立しようなどと ふざけた解釈をする
愚民どもがこの学園にはびこっている事実は 俺を何処までも不愉快にさせた。
と同時に同じ世界で生きているという真実を見過ごすことなど出来なかった。

この世はどこまでも腐っている。
早急にこの世界を破壊し、新たな国家を築かねばならない。

心の中で 再び自分自身に誓いをたて、
俺はこれから滅んでいくこの世界の未来を見据えた。



「ーー・・いや。彼らの声を聴く義務があると僕は思う。
逃げちゃダメなんだ。どんな声もちゃんと受け止めていかないと、
理想の国家には近づけないと思うから」


真摯な翡翠の瞳は 俺の心を大きく揺さぶった。


バカだ、スザクは。
そんな奴らの罵倒を正面から受けようなんて。
普通なら考えられない。

傷つくことがわかっているのに、怖くはないのか?
中傷や非難を恐れずに立ち向かっていける その強さは
一体どこから生まれるというんだ。

人間なんて、所詮貪欲な生き物だ。
自分の都合の良いように 皆生きている。


人を救うだの、弱き者を助けるだの、・・そんなものを提唱している奴らなど
どうせ自己満足に過ぎない。結局は自分のためじゃないか。
救った奴らをーー助けた奴らを見て、自分という存在の偉大さ、存在理由の誇示を
他者に示したいだけなんだ。それだけのことだ。


くだらない。
なんて醜く汚れた存在なんだ、人間とは。
だが、汚れることを嫌がっていては 欲しいものなど掴めやしない。
この世界とは、人間とは、そういうものだ。



「スザク・・・お前が思い描く理想国家を疎ましいと思う者は
お前が何をしても必ず出てくる。人が人である以上、それは絶対だ。
・・そしてーー理想とは個人のものであり、他者にとっては
”誰かのもの”でしかない。手段や志が似ていたとしても、全てが同じ
なわけではないんだ」



スザクの理想はスザクだけのものだ。
それは俺の理想は俺の理想だけでしかないのと、同じように。
他者の全てを受け入れることなど、不可能なのだ。



「−−いや、そんなことはないと思う。・・確かに反発勢力が生じるのは否めない。
けれど、全く同じ理想を抱く人だって中にはいるはずだ。でなければ、国家機関が民衆の心を
掴むことは難しいし、実際 行動と実行にまで繋がっていかないだろう。同じ理想だからこそ、人は動くんだ」



不可能なのに・・お前は、何故ーーー・・・



「それに、反発勢力が生まれたとしても 共に切磋琢磨して歩み寄ることは出来る。
”同じ理想”ではなくても、過程の段階で 何らかの共通点を見つけることが出来るかもしれない。
・・・・少なくとも僕はそう信じている」





どこまで綺麗事を並べる気なんだ?





スザクはそう言いながら、俺に微笑みかけた。
嘘偽りのない瞳をして、躊躇など見せることもなく、白い封筒に手をかけた。


その瞬間ーーーーーーーキラッ、と刹那銀色の刃が光った。






「ーーーーーばっ・・・、よせッッ!!」




俺の叫びとは裏腹に、封筒の封を切ったスザクの手に飛び込んできたものは
中傷や非難の声なんかじゃない。

そんな甘いモノなどではなかった、実際。




ポタッ・・・・



鮮血に染まる白い封筒。スザクの赤が、
地面に次々と滴り落ちて 小さなシミを作る。



「ッ・・・・・・っ」



言語を超えた、人間の刃は スザクの手のひらを切り裂き、
綺麗な心までも傷つけたに違いない。

手紙の中身は、開けたら出てくるように仕向けられたカッターの刃と
”人誅”と汚い字で書かれたメモ書きのみだった。  



「バカ!!だから言っただろう!!!
こいつら自分たちが神にでもなったつもりで居やがる」


罠だとわかっていて開いたスザクもスザクだが、
こんな悪質極まりない手段を選んだ愚民どもの気が知れない。
スザクのような人間に こんな手段を用いたところで 大した成果は見込めない。
そんなことも 見抜けない奴らに スザクの手のひらが傷つけられたかと思うと、
更なる怒りが沸々とわいてくるのだった。



「何で複数だと思うんだ・・?」




「人の出入りが激しい昇降口でこんな手の込んだことを行うには、
隠す者と実行する者、最低二人は必要だ。・・今朝何事もなかったのなら
実行時間は自ずと昼休み、放課後のどちらかになる。だが、昼休みや放課後は
人通りが激しい。誰にも気付かれずに行うのだとしたら複数でなければ 不可能だ」




「そうか・・・・・そうだな」



しゅん、と切ない顔を見せるスザクを見て、何故か胸が痛んだ。
・・・なんなんだ、この感情は・・?


原因不明の感情に 密かに動揺しつつも、
俺は即座に 持っていたハンカチで スザクの手のひらから
流れる血を止血した。白いそのハンカチは スザクから流れる血の色へと
見る見るうちに変色していったのだった。



「す、すまない・・・」


スザクは 自分の手のひらの傷よりも 
俺のハンカチが汚れるのを心配して 慌てていた。




「・・バカ。だから言っただろう?まさかお前
信じる者は救われるとでも思っているんじゃないだろうな?」


皮肉めいた言葉でスザクを叱咤しながら 俺は
自分の顔が自然と強張っていることに気付いた。


・・・何故だ?血を見て、動揺でもしているというのか?
馬鹿な。血など何度も見ているじゃないか。




「・・・・ルルーシュ。これからは あまり僕に近づかないで欲しい」



突然。

スザクが低い声でそう呟いた。
俺は一瞬何を言われているのか 解からないでいた。
だが言語理解を終えて、ハッとしてスザクの顔を見つめると
そこには 深刻な面持ちで 俺を見つめるスザクの眼差しがあった。



「・・・・・・何故?」


端的に訊いてみる。



「おそらく僕がここにいる限り、こういうことが日常的に起こるだろう。
僕の近くにいたら 君が危険だ」


他者を第一に優先するスザク。
本当に・・どこまでお人好しなんだ、こいつは。



「・・俺は生徒会の一員として、こういった悪質な行為を見過ごすわけにはいかない。
早急に原因追求と犯人確保に尽力する考えだ」


大義名分とはこのことかもしれない。
ただ単に俺自身 気に食わないと思ったからだ、とは口が裂けても
スザクには言えなかった。・・・言いたくはなかった。



「−−ありがとう。気持ちは嬉しいけど、僕はこのままでいいよ」


 

「なっーーー・・!!!?」




まただ。
スザクの脳内は一体どんな伝達を受けているんだ。
俺には理解できない。



「生徒会が動いたとしても 多分 こういう事は収まらないだろうし、
僕を助けたことで君たち生徒会役員にまで被害が及ぶ可能性が高い」



こういうときのスザクの状況判断と先を見通す力は
ずば抜けているとでもいうべきだろうか。
余計なところでいつも頭がきれる 
目の前の友人が少しだけ恨めしい気持ちでいっぱいだ。


「・・生徒会の存在意義は 生徒一人一人の治安を守ることでもある」


「僕は軍人だ。それなりの訓錬も受けている。自分の身は自分で守れるさ」


「だが、生徒会が今回の嫌がらせを黙認してしまえば、次々に模倣する者が現れる」


「・・生徒会役員といっても一生徒だ。こういう場合、個人の安全を優先すべきだ」


「個人の安全を優先すべきなら スザク、お前だって同じはずだぞ」


「ルルーシュ・・!!」


「・・・・・・・・」



堪りかねた、というべきか。
いつになく苛立った声色でスザクが俺に呼びかけてくる。

俺も引くつもりはなかった。
生徒会に所属している以上、やはり俺は 犯人を一掃すべきだと考える。
・・・いつから自分がこんな使命感に燃える人間になったのかは
気になるところだが 今は考えないでおこう。



「友人を危険に曝したくはないんだ。・・わかってほしい」


「俺もだスザク。友人が危険に曝されたままなんて 俺も堪えられない」


「ルルーシュ・・・」






なんだ・・・・・?
今、俺は何ていった?

気付けばそう言っていた。
こんな恥ずかしい台詞、自分は一生言わないと思っていたのに。
自然と口から出てしまっていた。


今頃になって羞恥心が胸の奥で騒ぎ出している。
さっきから・・・・スザクの熱い視線が俺に向けられている。


堪らない。


・・・・・恥ずかしい、なんて・・・・。



カァッ、と赤く染まる自分の頬を上手く隠せないでいた。
俯くことしか出来ない俺は、自分の発言を今頃になって悔いた。

俺らしくもない。
一体どうしたんだ・・・スザクのことになると、何故か胸が熱くなる。
思っていることとは正反対な態度がたまに出てしまう。

自分が自分でわからなくなる。


スザクの翡翠の双眸がゆらりと一瞬揺れて、
淡い色で輝きだした。


胸が・・・・・・熱い。




その瞬間。



不意に、スザクの腕が伸びてきて、
俺の肩を優しく掴んだ。
怪我している右手だった。


ビクッ、と身体が一瞬反応して、
硬直するような感覚に陥った。
鼓動が・・・早鐘のようだ。



「ありがとうルルーシュ。・・でも僕には近づかないで欲しい。
僕は、彼らの声を一人で受け止めなくちゃいけないんだ。
・・・名誉ブリタニア人になったときから、覚悟していたことなんだ」


「まだそんなことを言ってるのか!!?・・奴らの声なんてたかが知れてるだろう!!
聴いてやる必要などないはずだ!!!そんな怪我まで負ってまだわからないのか!?」


いい加減 真っ直ぐすぎるお人好しにもほとほと厭きれた。
そこまでして何になるというんだ。
はっきりいえば、今のスザクには 味方がいない。

ブリタニア人の純血派には、名誉ブリタニア人は奴隷のようなものであり、
決して仲間だと考えることはない。奴隷ーーすなわち、人間以下の扱いを受けるということだ。

そして日本人からみれば、スザクはブリタニアの犬に成り下がった裏切り者として捉えられているはずだ。
味方になってくれるはずもない。いうなれば、スザクは今、たった一人の力で
戦い、解決しなければならない。

理不尽ではあるが、それが現世なのだ。


何度言っても聴く耳をもたないスザクの頑固さに
俺もいつのまにか 怒りを覚えるようになっていた。
だが、スザクは。




「ルルーシュ・・・僕は諦めたくないんだ」




まだ







「諦めたら、きっとそこで・・・終わってしまうから」






そんなことを言う。








「これは、僕自身が選んだ道なんだ」









苦しい。

胸が・・・・痛い。





「ルルーシュが大切だ。だから、君に近づくためにも 今は・・・・離れる」





触れられた熱さが

優しい。














「僕に君を守らせてくれ、ルルーシュ・・」





















・・・・・哀しい。


守られるからじゃない。


守れないからだ。















「・・ルルーシュ、外の施設は自分で見ることにするよ。
案内してくれてありがとう。それから、ハンカチも・・・ありがとう」




そう言ってスザクは カバンを片手に昇降口を
出ようとしていた。

俺は スザクの消えそうな背中に
呟くような声音で 声をかけた。










「・・・昔、大切にしていたモノが俺にはあった」





俺の声に、スザクは振り向く。






「 大事にするあまり、過剰なほど敏感になっていた。
壊したくない。汚したくない。・・・・誰にも渡したくない。
そう思うあまり、あるとき俺は それを秘密の場所へと閉じ込めた」




ただ、黙って・・・耳を澄ませている。






「俺しか知らない、秘密の場所に。
・・扉の鍵は俺が持っていた。
そして、厳重な鍵をかけて その存在を封印した」



俺の小さな、その声にーーー。






「あるとき俺は 無性にそれが見たくなって 久しぶりに
秘密の場所へと赴いた。
・・厳重な鍵をあけて、重々しい扉をゆっくりと開き、中を静かに見てみた。
閉じ込めた その中身は・・・・どうなっていたと・・・お前は思う?」




どこまでも、直向なその瞳で。









あのとき生徒会メンバーに質問したとき、
色々な答えが返ってきた。

その答えで その人物の性格がわかる。

俺はスザクを このとき、試していたのかもしれない。
いや、枢木スザクという人間を・・・理解しようとしていたのかもしれない。
スザクはいつも俺の予想範疇を越える考えを俺に示す。
だが、この質問なら いくつかの回答に絞り込める。
予想範囲内だ。




俺はスザクの言葉を待った。
こんなことを訊いたのは もっと枢木スザクという人間を知りたい、
と思ったからなのかもしれない。




スザクは問われた質問に 目を一瞬丸くしていたが
次の瞬間にはもう 小さく微笑んで 答えを導き出していた。





「僕は・・・あまり気にならないなーー中身がどうなってたかなんて」











「・・・・・え?」




予想外の応えに、瞬間、自然と動揺してしまった。
























「それよりも、・・大切にしていたモノを閉じ込めた
ルルーシュの気持ちを想うよ」


























「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・バカ」















俺の言葉に困ったように笑いながら

そう一言、優しさを俺に零して
スザクは昇降口を出て行った。
























『・・・・本当に覚えてないのかしら?』






ミレイ先輩の言葉がふと頭をよぎった。










・・・忘れようと思った。




































『ルルーシュ!!?』



























何度も忘れようとしたのに





































『僕だよ、スザクだ』





































忘れられない。・・・忘れられるわけが、ない。




































あの頃、混沌とした絶望の世界の果てで







哀しいくらい眩しく輝いていた その存在。









それが俺の大切にしていた”モノ”。


























扉の向こうを開けて、久しぶりに見た その”モノ”は












あの頃と、変わらないまま




































































「・・・・・・・・・お前のことだよ、スザク」

































































哀しくなるほど、綺麗なままだった。
































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こんにちは!!青井聖梨ですvv
今回は学園スザルルを書いてみました。前回書いた「合図」という小説で”バカな奴だ”と
ルルがスザクのことを思っている設定にしていたのですが、まさかその後の放送で本当に
口癖として”バカ”が出てくるとは思いませんでした(爆)自分でも吃驚するほどです。
ルルならスザクのことをこんな風に言うだろうなぁと想像して書いた言葉だったので、ある意味
製作者側とキャライメージがかぶっているということですよね?嬉しいですvv
今回も二人ならこんなこと言うかな〜という想像(妄想)で書きました。原作に近いイメージで
捉えて頂けたら幸いですvv
それでは!!!

青井聖梨 2006・11・9