バカな奴














合図










俺の嫌いなもの。
理不尽な言動、闘争、差別、偏見。
普遍、怠惰、虚偽、犠牲、そして・・・・・




偽善者。






すなわち、









「ルルーシュ!」











・・・・アイツだ。























「・・・・なに?」


本当に一体、神はどんな理由でコイツと俺を
出逢わせたのだろう?


どんなに巧妙で正当性の高い理由があろうと、
俺はそんな運命を変えていけると思っていた。
いや、正確には思いたかった。

が、世の中の摂理とは曖昧で実に不確かだ。

螺旋のように繋がる、人を育む運命。
逃げ場所さえも用意されていないかのようで 俺にはとても不愉快極まりない。



「今度の日曜、うちに遊びに来ないか?
妹さんも一緒に!美味しい紅茶が手に入ったんだ。
紅茶を飲みながら、チェスでもしないか?」




明るく元気で活発で 人当たりが人一倍よくて。
優しく・・包容力があると言われている 俺の目の前にいるコイツ・枢木スザクは、
ーー他人を寄せ付ける雰囲気を作るのが得意だった。
そのせいだろうか。
友人が多く、いつも皆の中心に立つ男だった。
自然と暖かな空気を作り出す天才でもあり、いつしか周囲は彼を”太陽”と呼んだ。

実直で真面目、純粋に純真。
勇敢で正義を背負うに相応しいその人柄。

俺には全てが偽善にみえた。
彼の紡ぐ言葉の九割は詭弁だと思っていた。
彼の存在自体が有害だった。

・・少なくとも、俺には。



「−−−・・・スザク、お前チェス弱いだろ。
 お前には身体を動かすスポーツが合っているよ。
他の奴とスポーツでもして過ごしたらどうだ?」



「ーー確かに。・・スポーツの方が得意だけど、いいんだ」



「・・・・何故?紅茶なら今度学校に持ってきてくれれば、それでーー」




「そうじゃなくてさ」




「・・・?」



「チェスも紅茶も・・僕にとっては”きっかけ”でしかないんだ」



「え・・?」









「君と一緒に居たいんだ、ルルーシュ」









「ーーーーっ!!!!」








突然のコイツの言葉に、心臓が大きく脈を打った。



何言ってるんだ・・コイツ?





「な、・・・・んで・・・」





そんなこと・・・・







「?−−どうした・・?顔が赤いぞ、ルルーシュ」





無自覚か?!コイツ・・・冗談じゃないぞ。





「なんでもない!」




そういうのが精一杯だった。
何を動揺しているんだ、俺は。



大声を上げて、顔を逸らした俺に スザクはズイズイと
近づいてくると 途端に柔らかな声で俺に呼びかけてきた。


「何か気に障ることでも言ったか?ごめん、無神経だった・・」


その自然な優しさが偽善だと指摘してやろうかと思っていた。
なのにーー声が出ない。


先ほどから、胸の鼓動が早鐘を打っていて 言葉が浮かばない。
口が回らないのだ。・・一体俺の中で何が起こっているっていうんだ。

ただ黙って俯く俺を スザクは困ったように覗き見て、不意にふわっと柔らかく笑った。


俺は何が可笑しいのかと、その瞬間急に腹が立った。
ので、なにか言ってやろうと スザクを正面から睨むために態勢を変えた。


ーーーその刹那のことだった。




自然と身体が何かに奪われるような、包み込まれるような感覚に陥って・・




気づけばスザクの胸に顔を埋めている自分がいることに気づいた。




「っ・・・なっ・・・!!?」



言葉にならなかった。


足が竦んだ。頬が上気した。全身があわ立つように熱かった。
何が起きた?どうしてこうなった?頭の中がフリーズしそうだった。

訳が分からないまま、俺はスザクに抱きすくめられる。


どうして今、こんな状況下に自分が置かれているのか、甚だ疑問だ。




「怒ってる奴を鎮めるのって、どうしたらいいか解からないから・・
スキンシップが一番手っ取り早いと思ってーーー」



常に感覚でモノを捉え、思考を活性化させるスザク。
彼ならではのアイデアだと思った。

しかし、今はそんな悠長な話をしている場合ではない。
・・心臓が、壊れそうだ。



「な、ッ・・やめろ、放せーースザク!!」


俺は出来るだけ大げさに振舞った。
そっちの方が拒否の度合いを増幅させるからだ。
よく言えば策士、悪く言えば可愛げのない人間・・ともいうべきか。
まぁ、男に可愛げなどあっても それはそれなりに問題だと俺は思うが。

じたばたと抵抗する俺に対して、
スザクは乾いた笑いを浮かべながら いつまでたっても放そうとしない。
どうやら俺もスキンシップに加わっているのだと捉えたようだ。

・・一体何処までが本当で嘘なんだ?この男は。
それとも天然なのだろうか・・・?


そんな人間、この世にいるのか?


いくつもの疑問が頭をよぎった そのときだ。




フッ、と鼻を掠めた 懐かしい匂い。



俺はその匂いに気をとられ、ついつい抵抗するのをやめてしまった。
いきなり無抵抗になった俺を 不思議に思って スザクは思わず俺を抱きしめる力を弱めた。
抜け出すなら今だーーー。

そう自分でもわかっているのに。


何故かその腕から 俺は逃げようとしなかった。



彼からは・・眩しいくらいに熱い、太陽の匂いがしたのだ。











”偽善者、なんだコイツは・・・”








そう思おうとしていた。








いや、違う。






・・そうであって欲しかった。










”ーーーー何故?”











何故なら・・・








「ルルーシュ?」






皆と同じように



































・・・・・惹かれていたからだ、彼に。







俺自身も。










「どうしたんだ?」








翡翠に似た、その瞳が・・、
彼の全てが欲しくなってしまいそうだったから


そんな自分が怖くて、距離を置こうとしていた。
無意識に。


俺を真っ直ぐと見据える、その姿が



あまりにも ひたむきで・・・眩しかった。
太陽のように。







「・・・・スザク」





想いに気づいた すぐ後に、その名前を呼んでみる。






「・・・ん?なにーーー、ルルーシュ?」





愛しさが広がった。
呼ばれて胸が、高鳴った。




「・・・・行っていい・・・日曜」





「本当か?」




「あぁ、・・・・だからこの腕 いい加減解いてくれ・・」




「-----あ、ごめん!」




ぬくもりが離れていくのが解かった。
途端に淋しくなる。
自分でそう言ったくせに、ほとほと呆れる。この性格には。






「約束だぞ、ルルーシュ!絶対な?」


嬉しそうに笑うスザク。
・・何がそんなに嬉しいのだろうか。


そんな彼の言動が可笑しくて、意地らしくて
少し笑った。



「そんなに嬉しいのか・・?」




「あぁ!もちろん!!!」







些細なことで、喜んで
まだ幼いスザク。








「・・・バカな奴」









「え?−−−なにか言ったか・・?」







「・・・・・・・・・・い、や。−−なんでもない」














”バカな奴”








































・・・・・・・・どっちが?
































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青井聖梨です、お初の方もこんにちは〜vv

初のスザルル小説です。短いですけど(笑)
なんていうか、ルルーシュがツンツンしてます。スザクは天然っぽくなってます。
まだキャラの深層心理に近づいてないので把握し切れてないというのが現状ですね。
もう少し話数がいったら、深い話を書いていきたいです。

実はスザクの一人称”僕”だったのが驚きでした。紳士的な性格から来ているんでしょうね〜。
ルルが”俺”を使うのは、やはり破壊者というか革命者の強みや荒々しさから来てるのでしょうか・・?

それでは今日はこの辺で!!

青井聖梨 2006・10・22