君は云った。






「おはようございます、10代目!!
今日もいい天気っスね!」



そう、玄関先で。見慣れた風景に馴染んで。
いつも見せる元気一杯の笑顔で。








「おはよ、獄寺くん」





この頃。
おれはこんな日々がずっと続くと思っていた。






彼がおれの傍に居ることが
まるで、当たり前みたいに 思い始めた、あの頃ーーーーー。
















crescendo〜1〜

















昔の自分は一人だった。
友達なんて必要ないし、いなくたって生きていけるって思ってた。
それは多分、負け惜しみ・・いや、無い物ねだりする自分に
気付きたくなくて思っていた、なけなしのプライドが
発想転換してそうなったんだと今は思う。

だって本当は欲しかった。
傍にいてくれる、人。
笑い合える友達。自分を理解してくれる仲間。
憧れてたんだ、どこかで。口にするのは躊躇われるけど。
どう形にしていいか、わからないけど。

今は・・・はっきりとわかる。
だって、手に入れたから。


そういう人。そんな友達。仲間。


まさか、こんな自分が輪の中心になれるとは
思ってなくて。時々、本当に信じられなくなる。
でも、嘘じゃない。夢じゃないんだ、これは。



だってーーーーーーー。






「どうしました、10代目?具合でも・・悪いんスか?」





不意に、おれの右側を歩く熱が おれの顔を覗きこんで
心配そうに訪ねてくる声が聴こえた。



「あ・・・・うんうん!!平気平気!!なんでもないっ」



乾いた笑いを浮かべながら、意識をそちらに向ければ、
彼は”そうっすか・・”と口篭って訝しげな顔をしていた。


昔の自分を思い出してた、なんていえない。
だって云ったら、獄寺くんのことだ。色々訊きたがるだろう。
そんで”昔も今も、10代目は渋いっス!”なんて決まり文句ひとつ、吐きそうな気がする。


おれは軽くため息を零し、深呼吸をして
話題変換を試みた。



「今日、音楽のテストだねぇ〜。ヤダなぁ・・、おれ苦手なんだよね。
音痴っていうかさ・・・音感ないし。」



憂鬱そうな物言いでそういえば、隣の彼はというと
きょとん、と丸く目をしばたかせ、あぁ・・そういうことか、と
云わんばかりの表情で 次の瞬間にはニカッ、といつものように笑っていた。

どうやらおれの考え事を音楽のテストについて、と結論づけたようだ。
単純な獄寺くん。本当に純粋というか・・変に真面目というか・・不思議なひとだ。



「大丈夫っスよ、10代目!!!10代目の奏でる音楽は
他の奴より洗練されてる独創的な音ッス!!問題ないですよ!!!」





「あ・・・そ、う」



どこからそんな考え出てくるんだ。
思わず ちょっと顔が強張る。

高音を出すとき、音が擦れて上擦るし、低音を出そうとすると
吹く息が強すぎて雑音が入るし・・まったくもって 洗練されてるなんて表現し難い
実に下手くそなリコーダーなのに。彼にしたら、それがいいのだ。
ほんと・・・意味わかんないや。



今日は音楽のテストがある。
テストは二つ。リコーダーの課題曲を弾くテストと、歌うテスト。
今日の音楽の授業はそれだけだ。
先生とマンツーマンでする試験だから、下手な演奏や歌声をクラスメイト
に聴かれなくてすむのは嬉しいけれど、やっぱり恥ずかしさはある。

だってどっちにしろ先生に聴かれるわけだし、自分の演奏や歌声が
数字になって返ってくるんだから 不安極まりない。

まぁ、どうせいい点とったことない自分なのだ。
気にするだけ無駄だ。そんな事を思って 学校へ続く道のりを
横にいる友達と一緒に歩いていた。




すると、丁度ガードレールが途切れた道に差し掛かった。
車が際どい幅で走っている場所に辿り着いた。
横を掠める車の熱気が伝わってくるはず、なのに・・来なかった。
なんで?気を向けると 知らぬ間に獄寺くんと自分が歩いていた位置が
入れ替わっていたことに気がついた。−−−−いつのまに?


そう。彼は知らない間に 危険な位置を察知して おれが歩く場所と自分の場所を
さり気無く変えて歩いていたんだ。おれは思わず、礼を言おうと口を開いた。



「あのっ・・・・獄寺くん・・」



ちょっとだけ上擦った声が辺りに響く。

獄寺くんは おれの声に反応して、顔をこちらに向けて
視線を落として答えた。


「はい?・・・なんですか10代目?」



どこか柔らかい面差し。朝の光に映えて、一際美しく見えた。
銀色の髪が木漏れ日によってキラキラしてる。
深碧の双眸がおれの瞳を食入るように見つめて、不思議と胸は高鳴った。
凛とした顔立ち。近づけば微かに香水と煙草、そして火薬の匂いが交じってる。

自分より背の高い獄寺くん。
首につけてる装飾品たちが彼の姿を更に美しく強調している。
やっぱりカッコいいなぁ・・獄寺くんは。


少しだけ見とれていた。
女子が騒ぐのは無理のないことで、ほんの少し妬ける。
同じ人間なのに、どうして神様はこんな風に差をつけちゃったんだろう?

おれも彼みたくカッコ良ければ、人生観変わってるんだろうなぁ。
なんてことを不意に思った。



「10代目?」



首をかしげて瞬間、獄寺くんに呼ばれた。
いけない、いけない。そんなこと考えてるときじゃなかった。

おれは本来の目的を思い出して、明るい声で彼に言った。



「ありがとね!・・歩道側・・おれに譲ってくれたんでしょ?」



そういって、彼の真似のようにニカッ、て笑ってみた。
そう、自分ではそういうイメージで笑ってみたんだけど。

あれ、・・・なんかちょっと違う、かな?




おれが向けた笑顔に、獄寺くんは 瞬時にしどろもどろ・・
というか視線を彷徨わせて ぱっと俯いてしまった。
・・・・なんか、顔、赤かったような・・・?





「じゅ、・・っ、10代目をお守りすることは、右腕として当然のことっスから!!!
どうぞ お気になさらずにーーーー・・」



俯き加減に言葉を紡ぐ獄寺くんの肩が竦んだ。
なんだか緊張してるみたいだ。
突然の彼の動揺の意味がよくはわからないけれど、おれは素直にもう一度言った。





「ありがと・・・」




でも。なんか違う、気がする。こういうの。



確かに嬉しい。気遣ってくれることは嬉しいんだ。
でも、−−−・・守るっていうのは、なんか可笑しい気がする。



だっておれたち、友達同士だろ?
守る、とかそういうの・・・必要なのかな。


友達って、対等な関係のはずなのに。
気兼ねなく付き合える関係のはずなのに・・・なんか獄寺くんと一緒にいると
それとは違う意味の関係になっているように思える。




言い換えれば、上司と部下。



獄寺くんは多分、そういう意味でおれと付き合っているつもりなんだろう。
今の彼の言動や思考を読み取ると 関係性としてはそれが一番
しっくりくるはず。−−−−・・おれはそう思いたくないけど。・・・けど。


どうすればいいのか、正直なところ・・解からないんだ。


別に今の関係でも問題ないし、おれが彼を友達だと思ってれば
何も変わらないだろうし。だからそんな深刻に考える必要ないんだ。



おれはうやむや・・・いや、曖昧な言葉で自分を納得させて
その場を凌ごうとしていた。






それはきっと、そのときが 一番穏やかで 安定した日々だったからだ。

多分。





+++











「お疲れ様です、10代目!!!」




元気良く響く声。音楽室に反響した。




「あ、・・・獄寺くん!おれが終わるの・・待ってたの?」




時刻はもう放課後。誰も居ない音楽室に迎えに来たであろう、いつもの人影。
音楽室には今、自分と獄寺くんとの二人だけになっていた。


今日の一限目。それはそれは素晴らしい演奏を先生の前で
おれは披露して見せた。先生は大きな感嘆と共に
放課後、『居残り練習決定ね』とそれはそれは恐ろしい笑顔で
おれに居残り練習、という課題を課して テストを終わらせた。


なんだよ、なんでおれだけ居残り練習なんだよ!
そりゃあおれは下手だよ!!でも一生懸命やってるんだ・・これでも。
と、最初のうちは文句を心の中で繰り返し唱えていたけれど
あとになっておれは重要なことに気付いたんだ。
”居残り”に関しては 大抵一緒になるであろう もう一人の大切な友達によって。




「なぁ、ツナ。・・・・・その曲、ちがくね?」



云われて、最初、何がどう違うのか解からなかった。




「へ・・・?何が??」




野球ばかりしている彼だけど、さすがにそこまでは
間違えない、とでも言いたげな顔。





「−−−−−課題曲だよ!お前が弾いたの、それ前回の課題曲じゃん」





「・・・・・・・・・・・。えーーーーーーーーーーーーーっ!!!!?」




云われて初めて知った事実。



どこをどうやったら、間違えるんだ自分。
っつーか、おかしいと思ったんだ。
弾き始めから先生が額に手をついて ため息ついてたことに。


そうか!!!そういうことか!!!




おれ・・・・・課題曲じゃない曲、練習して弾いてたんだ。





事実に驚愕しているおれに、ポリポリと頬をかいて、
困ったように微笑んでる山本が言った。




「まぁ、気にすんなって!!勘違いくらい誰でもあんだろ?
しっかしツナって、ほんと面白ぇのな!!」


明るく、気さくに肩をポンと叩きながら笑う、友達。
彼のその和やかな雰囲気には いつも助けられている。


頑張ろうかなって思える。
どこかほっとする感情を与えてくれる山本には いつも感謝だ。



と、思って二人で笑い合っていたところに、いつもの友達が
台風のように現れて 和やかな空気を一掃してくれたわけだ。





「テメェ!!野球バカ!!なに10代目に軽々しく触ってんだ?!!
離れろっっーーーー!!!!」



捲くし立てる口調で 指の間には危ない彼の十八番、ダイナマイトを挟んで
ズカズカとこちらに近寄ってくる いつもの場面。


ある意味、こういうやり取りも おれにとっては日常で
安心できる一つの要因だと思う。



「ご、獄寺くん・・」


まぁまぁ、と彼を宥める口調で 着火しそうなダイナマイトを
静かに懐へ収めるように促した。



「ははっ!!相変わらずおもしれー奴だな、獄寺も」



気負いせず、サラッと流す山本。
さすがだ。その能天気さ、半分分けて欲しいよ。
いや、悪い意味でいってるんじゃないよ。いい意味でさ。

強靭な精神さえあれば、大抵のことは流せるもんね。
おれもそうなりたいなぁ・・。





で、そんなこんなで三人でわいわい騒いだあと、
再び授業に戻って お昼食べて、また授業。そんで放課後。
放課後は山本 部活だから一緒に帰れないけど、
獄寺くんは待っていてくれた。彼はおれと一緒、帰宅部だからね。



居残り練習を無事に終えて、先生が音楽室から出て行った頃を
見計らって、獄寺くんが教室に入ってきた。

待っていてくれるだろうなぁ、とは思ったけど 
本当に待っているあたり、獄寺くんらしい。


でも・・・考えれば不思議。
自分を待ってくれるひとが出来たことに。
未だに信じられない感動を少しだけ覚える。






「ごめんね!つき合わせちゃって・・。
直ぐに片付けるからーーー」




あたふた、と忙しなく動くおれに、
お構いなく、と彼は一言零して 音楽室を見回していた。


そうして自然に獄寺くんはピアノの前に座ると、
立てかけられていた楽譜に 目を通し始めた。




そんな彼を目の端に捉えながら、オレはリコーダーや譜面、椅子を
元に戻して 自分のカバンに教科書をしまった。


獄寺くんは いつになく真剣な面持ちで それをじっと見つめている。
眉を吊り上げて しげしげと見る、その先には おれには読解不能な暗号たちが
所狭しと納まっている。音符なんてろくに読めないおれには なんだか彼との
距離を感じて、やっぱり差があるんだなぁと改めて思う。

育った環境、場所、国、すべてのことが違う彼。
そんな彼と出逢えたことは 大きな一つの転機なのかもしれない。


そうこうしているうちに、獄寺くんは楽譜をめくって、色々な曲に目を通していた。
おれは帰宅準備が整うと、獄寺くんのいるグランドピアノの傍に近寄って
視線を楽譜に篭めている彼へと声をかけた。




「・・・ピアノ、・・たしか弾けるんだよね?」



そういうと、眼差しがこちらに刹那、向いた。
少しだけ、胸が高鳴る。



「はい!・・・っつっても、昔の話っスけど・・」



「今はもう、弾けないの・・・・?」



「あ、−−−・・・いえ、そういうわけでは・・・。
ただ、練習やめちまってたんで・・・・どうだか」




苦い顔を作りながらも、結構ピアノに関心を向けている辺り、
好きだったのかもなぁ、と思わせる仕草が見て取れた。





「なんでもいいから・・・・・一曲だけ、弾いてもらっていい?」



窺うように聴いてみた。
君の得意な曲でいいんだ。一曲だけ。




そう聴くと、獄寺くんは 渋るような顔をして



「でも・・・10代目にお聞かせ出来るほど、上手くないっスよ・・・?」



と控えめに聴いてきた。

おれはぶんぶん、と横に振って そんなことないよ、と
意思表示をした。




「上手いとか そういうのは別にしてさ、・・おれはただ、君が弾く曲が
聴きたいだけなんだ。どんな音で響くんだろうって」


慈しみの想いを言葉にのせて、君に響けばいいな。
優しく君に、届けばいいな。そんなことを考える。




「獄寺くんの音が聴きたいんだ」



微笑んでみる、出来るだけ彼を安心させられるように。




すると瞳を瞠って、獄寺くんは 驚いていた。
ふっ、と零すように彼は微笑む。
緊張が途切れたような、どこか幸せそうな笑顔で
おれを見つめてきた。




「10代目のお望みとあらば!!
−−・・獄寺隼人、あなたのために弾かせて頂きます!!!」



いつもとは違う笑顔がそこには在った。
まるで愛しむように 咲き誇る、甘美な花の匂い。
部屋中を満たす感覚。



どきん・・・・どきん・・・・




あ、れっ?





なんだろ、これ。

変にドキドキするぞ。





へんなの・・・・・。







自分の中に生まれた鼓動に耳を傾けて、
おれはちょっと戸惑った。

どうしてこんな、高鳴りが生まれたのか解からないからだ。




おれは逸る鼓動を胸に留め、鍵盤に手を置いて
真摯に向き合う獄寺くんの姿を見つめた。



あ、・・・・・・やばい。




鼓動がまた、早まった。







急激な変化に、順応できない身体は熱くなるばかり。
持て余す熱が向かう矛先は 深碧の深い双眸を持つ少年の姿。


止まらない感情が 何かを紡ぎ出す前に動き出した感じだ。







スッ、と瞳を細める彼の切れ長なつり目が
今はなんだか男らしく見える。
いつもは柔らかな表情を自分に向けてくれるから。










タン、ッと指が弾けて 次の瞬間にはなぞる様に
鍵盤の上を長くて白い指が音楽を奏でた。





はぁっ、とため息が出るほど鮮やかな音色。





穏やかな中に、彼らしい荒々しさが見え隠れしている。
嵐のような感情が 押寄せるみたいに 急激に音が移り変わり
ピアノ本来の響きと強さが盤上から浮かび上がってくる。



静かな曲だと油断していたら、急に激しいメロディーへと変化し、
中盤は荒々しさが何かに出逢ったことで削られていく感じを思わせた。
後半はテンポが緩やかになって 優しい響きへと音が広がりをみせ、
ふわり、と空を描くように 雄大な音たちへと浸蝕していった。





いつの間にか、時が経つのを忘れて
おれはその音たちに聴き入っていた。



最後は静かに 獄寺くんが盤上から指を離し、
こちらへと振り返る。








「あのっ、・・・・・・・・・いかがでした、か・・?」






心配そうに 躊躇いながら 獄寺くんは こちらに視線を向けてきた。





おれは大きく息をひとつ、吐く。





なんだか胸がいっぱいだ。
こういうのって、初めてかも。







「すごいよ・・・っ、ーーー凄いよ獄寺くんッ!!!!
すげー良かった!!!音楽のこと、おれ、よく解かんないけど、感動しちゃった・・・・・」




胸に手を当てて、おれは素直な自分の気持ちを彼へと伝えた。
ちょっと、興奮気味だ。



すると彼は 顔を夕焼け色にして、深々とうな垂れるような格好でお辞儀した。
恥ずかしさからなのか、嬉しさからなのか、よくは読み取れなかったけど、
彼の表情は 明るかった。確かにーーーーー。






「・・・・・10代目に喜んでもらえて、オレ、すんげー嬉いっス!!!」




顔をやっとあげて、はにかみながら笑う獄寺くんが
急に 母親に褒められた幼い子供のように見えて、なんだか可愛らしかった。
照れた様子が 彼の本当の人柄を映しているようだ。

普段はツンツンしていても、ホントはこういう顔をする人なんだな。
改めて彼の一面を垣間見ることが出来て、少しだけおれは
得した気分になっていたのだった。





「ね?今の、なんて曲名ーーー??誰が作ったの??」




おれが身を乗り出して そう聞くと、獄寺くんは
ちょっぴり また頬を上気させて、困った顔で呟いた。





「お・・・・・・・オレ、が作った曲です・・・・」





「−−−−−−−−−−−−へっ?!!」





「つい最近、・・・出来たんス。−−−・・時間に余裕あったんで、
前からチョコチョコ作ってはいたんですけど・・・・」






獄寺くんは 頭の後ろに手を当てて、強張った表情で
一人、恥ずかしそうに焦っていた。







「あれ・・・?でも、練習やめてたって、さっき・・・・」






「あーーー!・・ピアノに触ったのは久しぶりなんス。
曲は五線譜に書き留めてたんで、その・・・・っ」





”初めて完成した自分の曲を今、弾きました”







と獄寺くんは言った。





知らなかった。獄寺くん、曲とか作れるんだ!
本当に凄いや。
どんどん差がついて行っちゃうなぁ。




おれは彼の偉大さに気づくと、自分の不甲斐無さを悔やんだ。
同じ人間なのに、やっぱり作りが違うのだろうか。
いや、そもそも同じ、じゃないのかもしれないな、うん。












「かっこ良かったよ、獄寺くん!!」





何気なくサラリ、と口から出た言葉に
君は瞳を大きく見開いて 酷く嬉しそうな顔を見せた。



おれはその瞬間、ドキン、とまた胸が跳ね上がるのを感じたんだ。
なんだろう・・・さっきから・・・・、おれ、ホント変だ・・・・。



自分でも訳のわからない反応に、少なからず疑問をもったおれは
とりあえず落ち着こうと、話題を切り替えた。




「曲名、なんていうの・・?」





窺うように訊いてみる。
獄寺くんは、目を丸くして こちらをただ、見つめていた。
そうして、暫くの沈黙が二人の間に流れた。



あれ・・?どうしたんだろ?






「・・・・・・・・・・・・・まだ、そういや曲名付けてないです」





考え込むように、彼は言った。
そして瞬間ーーーー目と目が合った。




獄寺くんは ニカッ、といつもの微笑でこちらに近づいてくる。
え?え?何、どうしたの・・・?
おれはちょっとだけ動揺していた。近づいてくる熱の、あつさに。









「10代目がつけてください!!」






「え・・?」








「10代目が、オレの初めての曲の命名者になって下さい」








音楽室の窓から気持ちいい、そよ風が肌を掠めて
カーテンを躍らせていた。


彼の肩越しに透けて光る、紅色の夕焼けが 反射して
獄寺くんの顔半分を 紅く染め上げた。




眩しく微笑む、穏やかな表情の少年に
おれは一瞬 呼吸を忘れて魅入ってしまった。





とくん・・・・・とくん・・・・・・




鼓動がまた急激に加速していく。




上限が見えない、この音に終わりはないのだろうか?







おれは何か言おうとしたけれど、言葉につまってしまった。
胸の動悸が激しくて 息が詰まるのだ。





「10代目・・・?」




何も答えないおれに、獄寺くんはそっと、手を伸ばす。






「どうか、しましたかーーーー・・・?」








静かに響いた彼の声が、思った以上に優しく響いて
驚きと なんだか泣きそうな気持ちとが、混ぜこぜになる。






「ごめ・・・・・、なんでもない・・・・・」




やっと紡いだ言の葉は、触れようとしていた彼の手を
空中で受け止め、また元の位置に戻してしまう結果となった。




残念なような、寂しいような、不思議な感覚に襲われる。
・・・っていうか、残念てなんだよ、自分。



まるで彼に触られることを 期待、していた、みたいな・・・。
おかしいだろ、それ。




おれは考えが纏まらない自分を抑え付けて、
獄寺くんに 普段どおり答えた。





「か、っ・・・・・考えておくよ!!!」




明るく振りまいた笑顔。
彼は一瞬 驚いて、ふわっ、と柔らかく また笑っていった。







「ハイ!!名前、決まったら・・・一番に教えてくださいね?」










小さな、小さな二人だけの約束。



些細な日常、優しい時間。
くすぐったくなるような、出来事。





そんな日々の中、おれは毎日を駆け抜けていた。







隣に誰がいつもいるとか、どんな気持ちで過ごしてたとか。
忘れちゃうくらい、自然で いつもの風景に馴染んでいた、その人が









どんなことを考えながら、おれの傍に寄り添ってくれていたのか




そのときのおれは、






まだ










考えてさえ いなかったんだ。























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   青井聖梨です!!ここまでお付き合い頂き、恐縮です。
いかがだったでしょうか?ツナ視点の話でした。連載モノに
いきなりなってしまって、大変申し訳ないのですが、少しずつ幸せになっていく
二人が書ければいいな〜と思ってます。どうぞ、宜しくお願いします。


それではこの辺で!!乱筆失礼致しました。


青井聖梨 2007・9・9・