いつかの帰り道。
玄関先で、オレは貴方に いつもどおり挨拶をした。

深々と頭を下げて、明るい声で はっきりと。



「それでは失礼します!サヨナラ10代目!」


そう言葉を紡いだんだ。



踵を返して、帰ろうとした刹那。
オレの腕を引っ張って、貴方はとても真剣なお顔をされて、おっしゃった。







「違うだろ?」




少し不機嫌な瞳をして、玄関先で佇んでおられる10代目。
その声は、いつもより何処かトゲのある調子だった。
唐突に10代目の纏っている雰囲気が変わり、オレは訳がわからず
呆然としてしまった。どうしていきなり10代目がお怒りになったのかが
わからなかったのだ。予測外の出来事にオレは、情けない声で応えてしまった。



「あ、・・・の・・・10代目・・・?オレ、なんか10代目に不手際でも・・・?」



しちまったんだろうなぁ、と思った。
10代目はむやみに怒るお方ではない。
オレが100パー・・・、いや、1000%悪いに決まっているんだとわかっていた。
だから謝る用意も決心も、既に決めていたんだ。10代目の次のお言葉を聴いたら、
土下座しようと体勢を整えて 10代目と向かい合う形で玄関先にオレは居座った。
10代目が触れた、右腕が熱い。・・いつの間にか解かれた手を淋しいと思ってしまう
自分の傲慢さにも、呆れつつ 謝罪したいと心から思っていた。




「・・・・・・・・・・・うんうん、違うんだ。−−君は悪くないよ・・・ごめん。
これはおれの我が儘だから」



先ほどとは打って変わって 表情も態度もころっと変わってしまった10代目に
オレはどうしたらいいかわからなくなってしまった。
先ほどまでは不機嫌さを漂わせていたのに、今は突然殊勝な声と顔を
覗かせている10代目。一体・・どうしたんだろうか・・・?
目の前のお方のお心が読めないオレは 自分の不甲斐無さに胸をやきもきさせつつも
10代目が抱えている気持ちを少しでも理解しようと必死で語りかけたのだった。



「じゅ、・・10代目が謝ることなんてないっスよ!!−−オレがきっと
10代目に何かしちまったんスよね?!・・どうかオレなんかに謝らないで下さい!
もったいないっスーーーー!!!」


あたふたと落ち着きのない動作で自分なりに10代目の言葉を下げようとしていた。
10代目が悪いことなんて一つもない。ましてや、我が儘なんて聞いた事がない。
オレは目の前の琥珀色の瞳を曇らせないように 出来るだけ語尾を強調して
真実味に拍車をかけたのだった。

すると10代目は、少し困った顔をしながら、オレに綺麗な瞳を向けて、柔らかく微笑んでくれた。





「・・・・君に、”サヨナラ”って言われて 
なんか、もう会えないみたいに思えちゃってーー急に寂しくなっちゃったんだ」





”ごめんね”


10代目は そういって、少しだけ小首を傾げて恥らった。





オレは、言葉がでない。







胸の中に、嵐が起こる。
心が荒れている。−−−動揺、じゃない・・・なにか。
芽吹いた気持ちに名前がない。ただ、言葉にならないほど
胸が痛んだ。・・・・・違う。




これは切なさ、だ。






「ねぇ、獄寺くん。・・・・おれのお願い、聴いてくれる?」






静かで、でも何処か温かい声が微かに耳の奥に残って
オレの意識を覚醒させる。オレははっとして 10代目の声に気持ちを集中させた。





「は、・・・・・はいっ!!!なんスかっ・・?!」




10代目からのお願い。とても嬉しかった。
10代目は、滅多にお願いを口にされない方だから・・。


明瞭な声でそう応えれば、10代目はまたふわり、と優しく微笑んで
オレに言の葉をおとして下さったのだった。








「今度から・・サヨナラじゃなくて、”また明日”って言ってくれる・・・?」











心の中で荒れ狂っていた嵐が、大空に変わる。












思えば、オレはもうあの時から
10代目のことが好きだったのかもしれない。
特別な貴方として、みていたのかもしれない。







10代目。オレ・・・・・・・・・・


あのときから ずっと貴方に触れたかった。















こんな風に、触れたかったんですーーーーーーーーーーーーーー・・































crescendo〜4〜
















好きです、貴方が・・・誰よりも。












「っ、ふぅ、ぁ・・・・ッ・・・・ん」





何度も唇を押し付けた。角度を変えて、深く貴方を味わう。
熱く柔らかい貴方の舌は、最高に気持ちいい欲望の糧となり、
オレの中の闇を暴き、増幅させていくだけだった。



「あっ、・・・・ンっ・・、ーーー!」




絡み合う二人の唾液。卑猥にくねる貴方の体躯。
上気する林檎色の頬。息が苦しくなったのか、必死に肩を上下に揺らす10代目。
とろん、とまどろむみたいに甘く光る琥珀の熱っぽい瞳。生理的に流れ落ちる貴方の涙は
世界中のどんな宝石よりも美しいと想った。


キスだけじゃ足りなくて、オレは貴方の甘美な声に誘われて 首筋に噛み付く。
甘噛みした貴方の首筋には オレのつけた赤い花が幾つも広がり始めたのだった。




「やっ、・・・・!ごくでらく・・・・・」



泡立つ身体。身震いをした貴方は 柔らかく否定の言葉と
オレの行動を制する抵抗を微かにみせたのだった。



「10代目・・・・っ!」




けれど既に理性を半分欲望に呑まれてしまっているオレからすれば
その抵抗は 煽る要因でしかなく、可愛いとさえ思えてしまう都合のいい仕草だった。



いつのまにか声が低く、息が荒くなっていくのがわかった。
10代目を壁際に追い詰めて、両の手を自分の両手に絡ませて握る。
ズルズルと壁伝いに身体の力を失っていく10代目をいいことに、オレは彼の身体に
愛撫を送り始めていた。首筋、うなじ、唇、頬、額。

色々なところに自分の唇を寄せた。軽く音がする。乾いたキス。
10代目は 顔を真っ赤に染め上げて、そんなオレの行為に 敏感な
反応をみせていた。・・・・可愛らしくて、愛しくて・・・たまらなかった。




「ど、・・・しちゃったの・・・・?獄寺く、・・・−−ン、ッ・・・」




身動ぎしながら 10代目は オレの手に絡めている自分の指先に力を込めて
言い放っていた。10代目の吐く吐息が オレの耳にかかり、いちいちオレの鼓動を
騒ぎ立てさせるから困った。胸は既に爆発寸前だ。
・・離れればいいのに、体が不思議と言う事を利かないから、更に困る。


貴方のいいかけた言葉を遮るように 再びキスを強請るオレ。
いや、キスを掠め取るオレは・・・一体貴方に何を求めているんだ・・・?



わかりきっているってのに、・・・・今更こんなことまでして。
貴方を、裏切るようなことをしてーーーーー。




貴方を失うかもしれない。嫌われるかもしれない。
あんなに誓ったはずなのに・・・・・・・・・貴方を守ろうと、
それだけだったのに・・・・・・・・・・・・・どうしてなんだ。





どうして、やめられないーーーーーーーーーー?
















「じゅうだいめ・・・・・・、っ・・・・・じゅ・・・だいめッ・・・・!!」








まるで熱にうなされるみたいに、何度も貴方のことを呼んだ。
絡めていた指を解き、壁に体を寄りかからせる貴方の身体を包み込んで
両手で強く引き寄せた。





今、自分は この華奢で小さな愛しい人を 力いっぱい抱きしめている。
そう自覚するのに時間はかからなかった。
自分より高い体温のこの人を感じとるには、あまりに想いが膨らみ過ぎたのだ。







「オレは・・・・・・、っーーーーどうして・・・・・、
・・・・・・・・・・どうして・・・・・・・・・・・・ッ・・・!」






こんなことを。







わかってる。貴方のことが好きだって、わかってるのに。
こんなこと、いけないってことも・・・・知ってたはずだ。








「獄寺く・・・・」





貴方はボンゴレ10代目のボスで
オレは、ただの部下にすぎない。







偉大なお方。決して穢してはならないお方。





皆に愛される・・・・お方。







オレが傍にいられるのは、右腕としてお仕えするため。
それ以上でも、それ以下でも・・・あってはならない。






なのに。








どうしてだ?







どうしてオレは、10代目にキスをする?
どうしてオレは 10代目を今、−−−抱きしめているんだ・・・?





好きだからって・・・許されることじゃねーはずだ・・・。
ましてや、一方的なオレの想いを、押し付けてるだけじゃねーかっ・・・!




10代目には・・・心に決めたお方がいるってのに・・・・・・





許可なく、こんな・・・自分の欲望だけで・・・こんなこと・・・
最低だーーーーオレ。







わかってんのに。全部、わかってんのに・・・・・・・・・・
このひとを離したくないって、今でも思ってる 自分が









なんて、−−−−−−−−−−浅ましい・・・。


















「獄寺く、・・・・・・・・・ん」








きつく抱きしめて、暫く動かない獄寺に 綱吉は動揺するも
彼の持つ温もりに 体が絆されていくのがわかった。

煙草と薄いコロンの匂い。微かに火薬が交じっている。
自分とは違う、しっかりした身体つき。ごつごつとした、大きな手。
男らしい鎖骨がシャツの下から覗いている。指には幾つかの指輪。
中には嵐の守護者の証であるリングが交じっている。
首につけているアクセサリーが夕焼けの光に反射して 綺麗な光沢を魅せる。
綱吉の瞳に映る彼の 欠片は どれも魅力的で、大人な雰囲気を感じさせるものばかりであった。

布越しに伝わる彼の速い鼓動が、心地よい。
銀色の髪が自分の肌に触れる。肌理細やかな毛たちは女性の髪よりも繊細に思えた。
力強く抱きしめられた 彼の腕にすっぽりと収まる自分。彼以上にどきどきしているのがわかった。
男らしい声が頭上から降ってくる。彼の胸に埋まる自分が思いのほか 幸せな表情をみせている
ことに、彼は気づいているのだろうか・・?何度も彼に呼びかける。







「じゅうだい、め・・・・・」









「・・・・・・・・・獄寺く、ん・・・・」







一体なんの確認なのか。互いに呼び合う声は甘く、
どこか切ない響きをしていた。








キス・・・・しちゃったんだ、おれ。
獄寺くんとキス・・・・しちゃった。


未だ彼の中に収まる自分の真意を確かめたくて
自分がどういった行動をしたか思い返してみた。


けれどそれは決して羞恥心を誤魔化してはくれなかった。
思い出せば思い出すほど、恥ずかしくて、どうにかなりそうだったのだ。




うわ〜・・・・どうしよう・・・・顔、あげらんないよっ・・・・!





こんな綺麗な顔の人と。こんなカッコいい男の人と
自分はキスをしてしまった。




そう思ったら、どうにも体が硬直して、
綱吉は動けなくなってしまったのだった。







「あ、・・・・・のっ・・・・」




意を決して 声をかけてみる。




どうしてこうなったか、よく覚えていないが、
とにかくこの状況をどうにかしなければと思い留まった綱吉は
なけなしの勇気を拾い集めるのであった。






「あのね・・・・っ、獄寺くーーーー」




「ーーーー・・・・10代目」





いいかけて、今度は酷く冷静な声色の彼の言葉が
先を制して割り込んできた。



綱吉は驚きながらも、やっとの思いで獄寺から少し距離をとって
身を任せていた体を起こし、彼を見上げたのだった。

獄寺の方も、自然と腕の力を緩めると 綱吉と距離をとりながら
彼の方へと視線を落とすのであった。




互いの視線が絡み合い、瞬間、流れる時を止めた。




碧色の双眸が すぅっと細まると どこまでも澄んだ色に
変化していく。


その様を間近でみた綱吉は どきん、と再び鼓動を速め、
大きく自分の瞳が揺れ動くのを感じた。




「・・・・・・・10代目」




今度はしっとりとした低い声が室内に響く。
彼の真摯な視線が 綱吉を掴んで離さない。




「は、・・・・はいっ・・・・」



思わず敬語口調で 背筋を伸ばし、紡がれた言葉に反応をみせた。
緊張した空気が、辺りに流れる。
獄寺の言葉を ちゃんと聴こうと、綱吉はそれ以上返事を返すことはなかった。







「オレは・・・・・・・・・貴方にとって・・・・
どんな存在ですか・・・・・?」






「ーーーーーーーーえ・・・?」





唐突に落とされた言葉に、どう返していいか わからなかった。
どこまでも深く光る碧色が いつの間にか苦しそうに怯えた
色へと変わっていたからである。






「10代目にとって・・・・・オレは、良き部下として
映っているでしょうか・・・・?」




静寂に佇む微かな彼の言の葉は 普段とは違って
実に落ち着いた控えめな声音だった。



綱吉は彼らしくない彼を目にし、驚愕と共に 不安に駆られた。
どうして、そんなことを今更になって聴くのだろうと。



「・・・・おれ、獄寺くんのこと・・・部下だなんて思ったことない」




悲痛な表情で そう返せば、獄寺の顔がくしゃっ、と微かに歪んで見えた。





「前々から思ってたんだ・・・・。君はおれを”守るのが当然”みたいに思ってるけど・・・
それっておかしいんじゃないかな?」



そう。今まで感じていた違和感。それがここにきて、形となって表れ始めていた。
今なら言葉にできそうだ。綱吉はそう思った。




「だって、おれたちは対等な位置にいるはずだよ?おれたちは友達なんだ。
助け合う、ならわかるけど・・・守るのが当然、なんてそんなの・・・」



そこまで云って、言葉に詰まってしまった。
目の前にいる銀髪の少年が 痛切な表情を浮かべていたから、だ。





「−−−10代目、オレと貴方は同じ位置じゃないです。・・貴方はボンゴレ10代目。
皆に必要とされ、愛される存在・・・。唯一無二のひとなんです。
いつでも代わりがきくオレとは違う」




「なっ・・・・!!−−−なんだよ、それっーーーー・・」




獄寺の言葉に一瞬血が昇った。綱吉は、自分は代わりがきく存在だと認識している
獄寺の言葉に不信感を覚えたのだった。


どうして・・・そんな風に自分のことーーーー!!


声を荒げるのは得意じゃない。けれど間違っていることを
そのままに出来ないという想いから、自然と必要以上に声を大きく張り上げてしまった。




「ボンゴレとかそんなの関係ないよっ!!君は君だろ?!この世界中に、
君だってたった一人しかいない唯一無二の存在じゃないかっ!自分のこと、
使い捨てみたいにいうなよーーー!!!」



ボンゴレ10代目、沢田綱吉。結局のところ、獄寺は自分を
それだけの存在としてしかみていなかったのだ。
自分をいつも駄目ツナじゃないと励ましてくれたのも、きっと10代目という
存在が彼にとって大切だったからで・・・・・自分を大切に思っていた
わけじゃない。−−−−綱吉は目の前に突きつけられた大きな事実に
愕然としながら、沸々とわいてくる怒りを抑えることができなかった。



莫迦みたいだ・・・おれ。
なに調子のってたんだろう・・・・。
獄寺くんは、ボンゴレが大事なのに・・・・。



気を緩めると涙が零れそうで、怖かった。
これ以上情けない自分をみせたくはなかったのだ。
綱吉は目の前の人を 懸命に見つめようと瞳を見開いて
獄寺を仰ぎ見た。が、次の瞬間ーーー心臓は大きく脈を打って 息を忘れた。









「すみません・・・・・・・・・オレ、・・・すみませんでした・・」







泣いている。








碧色の双眸から、止め処なく、行く筋も 透明な涙が伝っていた。
フローリングにシミを作る。獄寺くんが、泣いている。





そう思うだけで、何故だろう・・胸がきゅっとなる。






「獄寺・・・・くん・・・・・」



目の前で大人びた彼が泣いている。
綱吉はそっと手を伸ばそうとするが、その手を自分より大きな手に掴まれた。
静かに制された綱吉の手は 床にそっと落とされる。



「オレ・・・・・わかってました。10代目ならそう言ってくれるって・・・。
ボンゴレ10代目とか・・・関係なく、オレも10代目が・・・沢田さんが大切だから
・・・・・・・10代目のおっしゃることは・・・よくわかります」





「え・・・・・・・・っ」




思いもよらない言の葉に、心がざわめくのがわかった。
今、彼が示してくれた言葉の中にーー自分がずっと気に病んでいた答えが
隠れていたのだ。ボンゴレとしてでなく、自分が大切だと・・・獄寺は言ったのだ。



刹那、綱吉の顔が一気に火照り始めた。





え・・・・・、うそ・・・・・っ。
本当に・・・・・・・・・・・・?



歓喜と不安が混ざり合い、どうしていいかわからなくなっていると
獄寺が再び言葉を紡ぎ始めた。滑り落ちる涙の雫が、木漏れ日に似た
光を放ち、不謹慎にも綱吉は綺麗だと思った。





「けど・・・・オレには理由が必要だった。貴方の傍にいられる理由が。
じゃないとオレ・・・・自分を保っていられなかったんです・・・」



苦しそうに 涙を零し続ける獄寺の声が脆く耳の奥に届いて
胸が締め付けられる感覚に綱吉は陥った。





「ーーーー・・だからおれの部下だって・・・?」






「ーーー・・・・はい。でも、10代目はオレを部下ではないといいました」





「だって、−−−友達だから・・・・、」




「いいえ。−−−−・・・オレは貴方の友達ではありません」




「えっ・・・・・?」





彼の涙がぴたっ、と止まった瞬間。
彼は酷く大人な顔を作って おれを眩しそうに見つめていった。




「・・・・・オレは、山本のように 10代目に触れることはできない。
・・・山本と一緒にはなれないんです・・・・・」





切なそうに瞳を細め、綱吉を直向に見つめてくる獄寺に
綱吉はなんて返せばいいのか、わからなかった。
ただ、言葉は疑問にしか繋がらなかったのだった。




「どう・・・・・して・・・・・?」




”どうして一緒にはなれないの?”
そう、聞き返した言葉の先にーーー獄寺の真意が待っている気がした。





「・・・・・・それは」





一度、視線を外し、言い澱んだ獄寺から、綱吉は視線を外すことが
できなかった。どくん、どくん・・・と胸の高鳴りがその先をずっと待っているかのように
加速していく。自分が何かに期待しているのが、綱吉自身わかったのである。







「ーーーそれは、・・・オレが貴方に不埒な想いを抱いてしまったからです」






どくんッ・・・・・どくんッ・・・・




鼓動が速まる。彼の口から出てきた言葉は、多分自分が期待していた事実に
繋がる第一歩。




−−−知りたい・・・・!君の、抱いたその気持ちを。
言葉に、して欲しいーーーーーーー・・。




胸の中でもう一人の自分が呟く。
何故そんなことを思うのか、わからないのに・・・どうしても
ちゃんとした言葉で 聴きたいと考えている自分がいた。


綱吉は、鼓動を速めながら、更に彼の心へと踏みいく言葉を選んだ。
どうしても、たった一言が聴きたくて。





「不埒な・・・・想いって・・・・なに?」





わかっているのに、流せない。
わかっているのに、云わせたい。聴きたい、彼の口から。
どうしても。ずるいといわれてもいい。それでもいいから・・・。








「・・・・・・・・・・・・10代目」






殊勝な声が、あたりの雰囲気を変える。
獄寺は 綺麗な碧色をゆっくりと揺らしながら 綱吉のことを呼んだ。
すっ、と伸ばした手の先には 滑らかな綱吉の頬が待っていた。










「オレは・・・・・・・・・貴方が好きなんです」









それは当たり前のように紡がれた言葉。
風が通り抜けるみたいに自然と零れ落ちた想い。
柔らかく指先で 肌の感触を確かめる獄寺の揺れる瞳が
愛情で満たされ、光を湛え始めたとき 更なる愛の言葉が 自然と口から零れ落ちた。







「誰にも・・・・・・・渡したくないほどに」








ゆっくりと唇が降りてくる。
丁度指先はある一点で止まった。潤ったうす桃色の唇だ。
綱吉は吸い寄せられるかのように 目の前に佇むその人の唇と
さも必然の如く、重なり合わせた。



まだ、自分の気持ちすら 見えていないというのに。






「っ、・・・・・・・・・ん、・・・ッ」




今日何度目かのキス。
不思議と甘く、優しい獄寺との抱擁。


知らぬ間に、抱きしめられていた。
そして、知らぬ間に 自分は彼の背中に腕を回していた。




それが多分、見えなかった自分の気持ち。
本当の答え。




綱吉は 自分からキスを求めていたことに気づき、
もう認めざるを得なかった。














おれ・・・・・・・・も、
獄寺くんが・・・・好き、なんだ。











すき・・・・・好きーーーーーー、
おれは獄寺くんが好き。










大好きなんだ・・・。














心の中で、何度も繰り返したのに
それは言葉にならなかった。








だって、いつまでも






彼と唇を 重ねていたいからーーーーーーーーーーー。

















+++



























「10代目・・・・それじゃあオレはなんなんスかね・・・?」






いつもの口調に戻った君は、おれを後ろから抱きしめながら
ぽつり、とそう呟いた。




二階のおれの部屋。ベッドに寄りかかりながら、獄寺くんは
おれを後ろ抱きにして、何かを真剣にまだ考えていた。




「・・・・ん?なにが・・・?」



ちょっと甘えた声が出た、と自分で今自覚してしまった。
さっきから なんだろうと思うこの雰囲気。

甘くて、温かくて、居心地がいい雰囲気。
おれはついつい緩んだ心がいつもより甲高い声を生んでしまったんだ
ということに気づく。



おれの微妙な変化に、獄寺くんも気づいたのか
酷く優しい顔をしながら、顔を薄っすらと赤らめていたのだった。



「部下でもない、・・・友達でもない・・・それじゃあオレは
10代目にとってなんなんスかね・・・?オレ、10代目の傍にいられる
理由がもう・・・・・見つからないんです」





困ったように小さく微笑む彼の仕草が なんだかとても愛おしくて
おれは思わず彼の首に手を回し、抱きついてしまった。





「ぉわっっ!!?じゅ、じゅうだいめっ・・・??」




急な行動に驚いたのか、獄寺くんは少しだけ後ろに仰け反った。
といってもちゃんとベッドに寄りかかっていたため、倒れることはなかったけれど。
彼の動揺した表情が なんだか今は可愛く見えて しかたなかった。





「・・・・・君は真面目なんだね。理由がないとおれと一緒に居られないんだ・・?」




「へ、・・・・・?あ、・・・・のっ・・・・・」




間の抜けた声がまた可愛くて おれは思わず無意識に
獄寺くんのほっぺにキスを送った。

乾いた音がちゅっ、といきおいよくして 耳に微かな戯れを届けた。
ちょっぴりおれ自身 恥ずかしくなる。



「じゅ・・・・じゅうだいめっっ?!」



もう深いキスまでしてるというのに、獄寺くんときたら、ほっぺにチューを
するだけで 面白いくらいどぎまぎしていた。
おれはそんな彼の仕草に噴出すと 赤くなる彼の胸へと顔を埋めていった。








「おれも・・・獄寺が好きだよ。云うのが遅れちゃってゴメンね?
ーーね、おれたち・・・・・今、ちゃんと恋人同士になったんだよ?」





やっぱり告白するのはさすがに恥ずかしくて 彼の胸に顔を埋めながら
照れ隠しをする様に 彼へと自分の気持ちを伝えれば
一瞬オレの言葉に彼の身体が竦んだので自然と顔をあげて
どうしたのか確認してみた。





すると、そこには とびきり綺麗で温かく笑う彼の顔が待っていたのだ。





「じゅうだいめっっ!!!」





明るく透き通った声が響く。
途端に、どきん、と高鳴る心は もう止める事ができない。







「オレ、嬉しいっスーーー・・・!貴方の恋人になれて・・・・最高に、
幸せです!!!・・・貴方の傍にいられなくなったら、どうしようって・・・
ずっと・・・考えてました。嫌われたら・・・傷つけたら・・・どうしようって・・・」




そういうと獄寺くんは おれの身体をひょい、と持ち上げて
ベッドの上に沈めたのだった。




「ご・・・・・ごくでらく・・・・」





かぁぁ、っと急激に羞恥心が頭をもたげる。
おれの上に笑顔でのっかってくる獄寺くんは、酷くかっこよくて
・・・・・・−−−とても雄雄しかった。




「オレ・・・・不安だった気がします。10代目のお心がみえなくて。
ーーー・・・想いは一瞬毎、一秒毎に深くなっていくのに・・・・・」









急に、少しだけ寂しそうな顔が浮かぶ。
さっきまであんなに笑顔だった獄寺くんの顔が、突然
寂しそうなものに変わって行くのが見えて、やっぱり胸が苦しくなった。




今自分は組み敷かれていて、もしかしたらこのまま 彼に抱かれてしまうんじゃないか
という状況だというのに。そんなつもり、まだなかったのに・・・何故だろう。
全然感じたことのない気持ちが 心を過ぎった。




獄寺くんに・・・抱かれたい、って。













「獄寺くん・・・・・・」





手を伸ばす。




目の前の銀色の髪に、触れる。





先ほど制された行為。でも今は 遮られることなく 彼に届く。








「ーーーーー・・・沢田さん」











ドクンッ・・・・!







普段聞きなれない呼び方で名前を呼ばれる。
色香の放った彼の低い声。熱い吐息が迫ってくる。
耳に薄っすらとかけられた銀色の髪。
シルバーのアクセサリーがじゃらじゃらと擦れあう。

ワイシャツから覗いた白い肌に胸が飛び跳ねる。
ごつごつした指輪をした大きな手が 彼の頬に届いたオレの手を
握り締めて離さない。おれの手に頬ずりをしながら獄寺くんは碧色の瞳を静かに閉じて
その感覚を確かめているようだった。



ドクンッ・・・ドクンッ・・・


心臓の煩い音が耳奥で鳴り響く。泡立つ肌が上気していく。
恥ずかしさと嬉しさと不安とが交ざって もう何も考えられない。
再び碧色の瞳が開いたとき、鋭い色を宿していることは
心のどこかでわかっていた。

双眸がおれを真摯に見下ろしてくる。開かれた彼の瞳が
大きく一瞬揺らめいて、瞬きを繰り返していた。



どうしたのだろうと思い、おれは覆いかぶさる獄寺くんに訪ねる。






「どうしたの・・・・・?」






モノ欲しそうな顔でもしてたんだろうか?
それとも怯えた顔でもしてた?



おれは目の前の銀髪の少年が驚愕している事実に
正面から直面していたのだった。




「獄寺くん・・・・・?」



もう一度、名前を呼ぶ。




すると獄寺くんは困ったように 小さく笑って
おれの手をそっと放し、その場から離れようとした。






「まっ・・・・・・、−−どこいくの?!」








おれは心地よい重みと甘い存在が目の前から消えるのが怖くて
必死に獄寺くんへと抱きついた。すると獄寺くんは また驚いた顔をして
再びおれを組み敷く形で ベッドから退くのをやめて、おれの上へと覆いかぶさった。






「じゅ、10代目・・・・落ち着いて下さい。・・・とゆーか・・・この手を」



”離してください”




気がひけるのか、云い辛そうにしている獄寺くんに構う事無く
おれははっきりと自分の言葉を口にした。




「なんでいなくなろうとするんだよぉっ!びっくりするだろ!?」




「え・・・あ、すんません・・・・・」




獄寺くんは困ったように呟いて、やんわりとおれの腕を解き、
再び先ほどと同じ目線、体勢に戻した。










「だって10代目・・・・・・泣いていらしたから」





「へっ・・・?」







そういわれて、初めて気づく。


目蓋が熱い。瞳がどことなく、濡れている。






「・・・・・だから、無理強いは・・ーーーーーオレ」





獄寺くんはそう紡いで、しゅん、と肩を竦めた。
誤解されていると思ったおれは すかさず彼に言い聞かせたのだった。





「ち、ちがうよ!!この涙は・・そんなんじゃなくてっ・・・」




そこまでいうと、獄寺くんは ふっ、と笑って おれの額に口づけを落とした。






「ーーー10代目、オレ・・急いでません。貴方と一緒にいられるだけで
充分ですからーーーーー・・・」





「まっ、・・・・違うよ・・・ごく・・・」





「ーーーーーーー傷つけたくない。大切にしたいんです」









こつん、と額をあわせ合い 獄寺くんはそういった。

違うのに!おれ・・・違うんだ獄寺くん。



嫌だとか、怖いとか・・そういう涙じゃないんだ。
たしかに・・そういうことすることに不安は抱いてるけど、でもーーーー。










「この涙はっ・・・・・君のことが好き、って涙だよ!」





おれはきっぱりと 相手に伝わるように言い切った。
獄寺くんは きょとん、と目を丸くして じっとこちらを眺めている。






「嬉しくて・・・・幸せで・・・・・ちょっとだけ苦しい涙、だよっ!」




なにいってんだろ、おれ。
自分で言ってて訳わからなくなる。でも、ちゃんとおれの本当の気持ちだから
知っていて欲しいって思うんだ。





「意味・・・・・わかる?」




恥ずかしいから少しだけ、照れ隠しをしてみた。
すると遅れて数十秒して おれの言葉に獄寺くんはーーーーーー。








「ーーーーー・・・・・はい、・・・・わかります」







そういって、眩しそうに瞳を揺らした。










「・・・・・・・・獄寺くん」






「はい」







「ーーーー・・・おれの事、好きなら・・・今抱いて・・・?」






「ーーーーーー・・」







「・・・・・・・・・・・お願い」








ぎゅっ、と彼の制服の裾を掴んだ。
自分は今、彼を試しているのだろうか?



本当に好きなら、今すぐに抱いて欲しいと思う自分を
受け入れてくれるんじゃないかって、どこかで期待している。



恋人同士の時を過ごして、自然にそうなっていくのも
いいかもしれない。


でもきっとそのときの獄寺くんは、優しい抱き方をするはずだ。
おれを気遣って、労わってくれる抱き方。


おれが本当に欲しいのは、むき出しの彼。
ありのままの欲望に忠実な獄寺くんなんだ。
だからおれのために我慢する彼はみたくない。



今なら、過ごすときが浅い今なら 獄寺くんは
ありのままの荒々しい嵐みたいな自分を解放して
おれを抱いてくれる気がする。


本当の獄寺くんを知ることができる気がするんだ。









おれは懇願した。どうしても彼のありのままを
見つけたくて。




視線を下に落として しばらく、獄寺くんは何かを考え始めた。
そして再びおれに視線を合わせたそのとき。



彼の瞳はギラギラと真っ赤に燃えるように焔っていたのだ。









「優しくなんて、・・・できませんよ?」







そう短く 獄寺くんは云った。






「ん・・・いいよ?」





おれは、自分でも嫌になるほど 甘い声で
彼を誘い込んだ気がした。










獄寺くんは、おれの言葉を待った後
ばさっ、と制服に手をかけて、素早く上半身を脱ぎ始めた。


すらっとした綺麗な体躯。鍛えられた程よい筋肉に
男らしい骨付き。鎖骨付近でシルバーアクセサリーが揺れる。
白い肌は珠の様だと思う。


銀色の髪が微かに乱れて、とんでもない色香が
辺りに放たれて、顔から火が出そうだった。



指輪をさり気無く、一個ずつ外し、ベッドサイドに投げ捨てる
大人な仕草にどきどきしていると、おれに目線を合わせてきた。



「嵐のリングは外しませんから」





ふっ、と口の端をあげて 笑う彼は 普段の笑い方とは違い、
どこかイタズラ好きの少年のようにみえて 可愛かった。






「うん・・・・・」





ぽーっと、見とれていると 獄寺くんがいよいよおれの身体に触ってきたのだった。




「あ!おれも・・・服・・・・」



脱がなきゃーーーーー、と手をシャツのボタンにかけるけれど
獄寺くんはそれを止めて、おれに微笑みかけながら囁いた。







「オレが脱がすんで・・・・どうかそのままで」







耳元で囁かれた声は、低く擦れたハスキーボイス。
くらくらして、頭の中が真っ白になった。







心臓が早鐘のようにうるさい。








君とこんな風になる前は、心臓は静かで緩やかなものだったのに
・・・君をだんだん好きになっていくたびに 心臓は早鐘のように変化していった。





段々、早くなる心臓。
不意に、君がいつだったか弾いてくれた曲を思い出す。











『10代目が、オレの初めての曲の命名者になって下さい』













そう、嬉しそうに呟いた君。




あのとき、おれは君と約束をした。













『ハイ!!名前、決まったら・・・一番に教えてくださいね?』








小さな小さな、二人だけの約束。












あの曲のメロディーが今の自分の心情に似ている気がして、
タイトルがつけられそうな感じがした。






だんだん、速くなる鼓動。






似てる、気がする。
あの曲もそんな感じがするーーーーー。







おれはぼんやりと そんなことを考えながら、獄寺くんのことを想った。




















ねぇ、獄寺くん。





おれね、君にこうして触れられて・・今、わかったことがあるよ。

















おれ、ずっと君に触れて欲しかったんだよ、きっと。















こんな風に、触れて欲しかったんだーーーーーーーーーーーー・・。


















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青井聖梨です、こんにちは!!!
久しぶりの獄ツナUPにどきどきです。
当初、この回で二人はかなりすれ違って離れちゃうんだぜー、な
展開だったはずなのに、蓋をあけたら あら不思議。


・・・なんスかこのラブい二人!!(恥)自分どうかしてるって
思いました。でも獄ツナが幸せじゃなくちゃ、人類は幸せになれないと思うのです(爆)
なのであえて、恥ずかしい展開、−−裏一歩手前で終わらせてもらいました(笑)
そんなわけで、とにかくめでたく二人は両想い。
また次回のお話も読んでくださると嬉しいですvvあ、京子ちゃんはツナの中で憧れなので
ご了承下さいませ。ではでは〜。

長文お付き合い、ありがとうございました!!


青井聖梨 2008・5・13・