始まり、そして。



















朝早く、玄関口で物音がした。



おれは何の音だろうと不審に思い、起き抜けの格好で
玄関戸をそっと開けた。


早朝5時過ぎ。
やっと日の光が昇り始める時刻。



扉を開けたその先には
すらっとした体躯で ふわふわの髪を風に靡かせた少年が
階段に腰を下ろして俯いていた。




おれは朝の静寂を壊さないようにと 慎重な面持ちで
少年に向って、微かな声音を小さく零した。






「・・・・スザク、か?」






緩やかな葉ずれの音が声音と同時に
空気中を振動させた。





うな垂れるように階段に座っていたスザクは
おれの声にビクッと反応すると、勢いよく立ち上がり
こちらに 姿勢を向けてきた。



心底驚いた色を瞳の奥に覗かせながら、スザクは玄関口に
佇むおれを見つめてきた。



深緑の双眸が風に揺らめき、亜麻色の短い髪が空へと舞い上がる。




言葉を失っていたスザクに疑問を持ったおれは
恐る恐る もう一度、目の前にいる幼馴染の名前を呼んでみることにした。








「ス、ザクーーーー・・・・・・?」








瞬間。






息を吐く間もなく、身体中に衝撃が走っていた。











気付けばおれは







・・・抱き竦められていたのだ。









ギュッ、と引き締まる互いの身体。
触れ合う互いの熱に 泡立つ想いを胸の奥に感じた。





どうして抱きしめられているとか、
何でここにいたとか


聴きたいことは沢山あるのに。





スザクの熱に中てられて 言葉も声も動きも
全てが停止して・・・感触だけが頭に残った。






するとーーーーー。

スザクの背後から 赤く彩る新光が
周囲の木々を染め上げて おれの瞳に飛び込んできた。







あ、日の出・・・・・。
心の中でそう呟いた。








朝焼けの中、身体から伝わる温かな熱と
抱きしめられる腕の力に身を任せて、おれは・・・














未来の鼓動を聴いた気がした。


























不意に、沈黙を破るかのように スザクが 頑なな口を開いた。















「ルルーシュ・・・誕生日、おめでとう」












背後から 紅の閃光がおれ達を導くように包み射し、
一日の始まりをおれ達に告げる。


スザクは眩しい光の中 おれに柔らかな微笑を向けると
瞳を鋭く細めて 静かに瞳を閉じた。
その様子を おれはスローモーションのように見つめながら、
目の前に近づいてくる温もりに 心を震わせて、まるで当たり前のように
自らの瞳もゆっくりと閉じた。




刹那、互いの温もりが再び接触し合う。




温かく、そして甘く優しい その感触。
そこは恋人同士が触れ合う特別な場所。





「・・・・っ、ん・・ッ」





くぐもった鼻にかかる自分の声が艶かしくて、
少しだけ興奮する。




「ーーっ、は、ぁ・・・」




息継ぎをしながら 次第にその行為に没頭していくと
より深く 密接に触れ合い、濃厚なものへと 変換されていった。





「ーーー・・・・す、ざくっ、・・・」




キスの合間、熱にうなされるみたいに彼の名を呼べば、
目の前の幼馴染は それに答えるように 耳元でおれの名前を
熱っぽく何度も呼んでくれた。



「ルルーシュ・・・・、ッ・・・−−ルル、ーシュ・・・」





そうして暫く 玄関口でキスを堪能したあと、
スザクはおれを再び 胸の中に押し込めて 力強く抱きしめた。










「君にどうしても早く、会って伝えたかったんだ。
”誕生日おめでとう”って・・・。ずっと君が出てくるの、登校時間まで
待ってるつもりだった・・・なのに」








「ーーー・・なのに?」










「ーーーーー夢みたいだ。扉が開いて、・・・君が現れた」






スザクは信じられないとでも言うように おれの髪を指に絡ませ、
何度も丁寧に撫ぜまわした。おれはされるがままになりながら
スザクの言葉を静かに聴いていた。

その声色も、声の調子も どこか心地が良い。
子守唄よりも優しく、胸を締め付けられるような響きが 
とても愛しかったのだ。










「・・・・・そうか。ーーーーありがとう、・・スザク」





胸が詰まって、鼓動が煩くて、
おれはそれしか言う事ができなかったけれど。



スザクはおれの言葉に 眩しそうな微笑を浮かべて
髪に絡ませていた指を解いた。







「ルルーシュ、・・・・誕生日プレゼント・・受け取ってくれる?」





「プレゼント・・・・・?」





突然言われた言葉。瞳を大きく見開くおれに
スザクはゆっくりとおれの右手を取って 
自分の胸元に おれの手を宛がった。


トクトク、・・・と脈打つ心臓。
温かな彼の中心。


おれは目の前に立つ 彼の瞳を覗きこむ。
強さと、優しさと、慈愛に溢れた深緑が キラキラと光に反射して輝いていた。












「僕の命を・・・君にあげるよ」









スザクが放った その言葉に 
おれは一瞬 言葉を失った。
けれど、彼の真剣さが ひしひしと
空気を通して伝わってくる。






「・・・・もっと色気のあるプレゼントはないのか・・・?」





思わず 苦笑を漏らしながら彼の気持ちに応えてみせる。




「色気、か・・・・。たとえばーー?」




「そうだな・・・・”愛”とか」




冗談半分で口にしたおれの言の葉に
今度はスザクの方が苦笑を浮かべて切り返してきた。








「ーーーーそんなの・・・とっくの昔に君のモノだよ」












次第に周囲が赤い光に包まれて 小鳥達のさえずりが
どこからか聞こえて来た。可愛らしく鳴く その声。
でも今は スザクの声しか耳に残らなかった。






「バカ、・・だなーーーお前。おれに命を差し出したら
ただじゃ済まないぞ・・・?」





それでもいいのか?





おれはスザクの頬を両手で包んで自分の鼻先まで引き寄せてみせる。
スザクは吐息もかかるその距離で優しく、ひっそりと呟くのだった。









「構わない。君となら・・・
たとえ世界の終焉を迎えたとしても悔いはない」




真摯な瞳の中に おれの姿が映る。



スザクの本気とおれの本気がぶつかり合って
新しい心を、感情を 熱く言の葉に孕ませた。





おれは目の前の愛しい人を見つめながら
ゆっくりと距離をつめて、自分から彼に口づけを贈った。









「ーーーー・・ありがとうスザク。
・・・・・最高のプレゼントだ」























たとえば この世界が終わる瞬間が
訪れたとしても











お前が傍にいてくれるなら

















こんな幸せはないと
本気で想ったよ



















ーーーーースザク。













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お誕生日おめでとうルルーシュ!一日遅れだけど、心から愛を込めて!!

08・12・6・ 青井聖梨