午前零時、君に逢いたいーーーーー。









逢いたいんだ









プルルルルッ・・・

無機質な電話の音が、室内に木霊する。
僕は億劫になりながらも、受話器を手元に寄せて掴んだ。

「はい・・・もしもし?」

根元に置いてあったデジタル時計に目をやれば、
時計は午前零時を表示していた。

こんな時間に誰だろう?

不審な面持ちで僕は受話器の向こうに佇むその人へと
メッセージを送った。
すると、予想外というか、予想通りというか・・

耳の奥に残っている澄んだ彼の声が
僕の心に一滴の雫を落としてキラキラと輝いた。


『・・・・逢えないか、キラ』


鼓膜が破れるかと思った。



「アス、ラン・・?」


その一言に、全てが奪われて、生まれ変わった感覚。
覚醒した、意識ーーー。



『・・・逢いたいんだ』



心臓が、煩いくらい高鳴った。
息が、うまくできない・・・。



「ど、・・・どうしたの?いきなりーー」

明らかに動揺している自分がいた。
比較的なんでもはっきりと口にする彼。
そんなのは昔から知っていたはずなのに。

聴きなれた声、口調。それなのに。


『・・・・おまえに逢いたい。今すぐ』


アスランの焦がれるような声の調子に
僕の顔は電話越しでも気づかれそうなくらい真っ赤に染まって、
受話器を持つ手が、微かに震えた。


「アスラン・・・・ど、して・・そんなこと」

うまく言葉にならなかった。そんな自分が少し情けない。
アスランは僕の言葉に少し妙な間を残して、再び紡いだ。


『眠れそうにないんだ。・・お前のことが頭から離れない』


「!!!」


アスランの甘い囁きに、眩暈がした。
いつもより少し掠れた 低い声。いつもの声とは違う、深い情熱を秘めた、調子。
僕は電話越しにいつもより綺麗に響くその声に、胸をときめかせてしまった。


思わず、応えてしまった。


「・・・うん。僕も・・・アスランに逢いたい・・」


唇が勝手にそう紡いでいた。


『じゃあ、今から逢おう。−−そこに居てくれキラ、迎えに行くから』


「うん・・・待ってるね」


アスランの掠れた声が、そこで途絶えた。 
信じられない、できごとが今起ころうとしていた。


あのアスランがあんなことを言うなんて。
もしかしてこれは夢?僕の願望?そんなことを思い、夢うつつに
瞳をそっと閉じてみる。でも、聴こえてくるんだ。

君の足音が。

きっとこれは・・・・これはーーーーーーーー・・



ーーーーーーーーーコンコンッ!






「夢じゃ・・・ないんだね」




扉をゆっくりと開けてみる。
すると目の前には、息をきらして自分を真っ直ぐと見つめる、
翡翠の双眸が待ち構えていた。



「キラ・・・逢いたかった」



そう言って微笑んだアスランは、僕を抱きしめて
そのままベッドまで抱き上げていった。

純白のシーツの波に埋もれながら、僕たちは
誓いに似た、キスをした。


逢いたかったという、互いの気持ちを口付けに込めて。





           時刻は午前零時、



君に逢いたい・・・



               そんな夜。












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