もう少しだけ、もう少しだけ・・
片恋
「キラ!おまえ、まだ課題終わってなかったのか?!」
アスランの怒声とお世話焼きは毎度毎度のことだった。
だから僕はニコッ、と軽く笑って誤魔化してみるけれど、
アスランにとっては 今の僕の微笑みは”感に障る”部類だった。
カミナリは即座に落雷するーーー。
「笑ってる場合か!!!提出明後日だぞ!!?」
がみがみと言うアスラン。
僕の為だってことは充分わかってる。
でも、そんなに怒る事もないーーとか思ってみたり。
「なんだよぉ〜、そんなに怒ることないじゃないかっ」
僕が口を尖らせて、少し非難めいた言葉を口にすれば、
すかさずアスランが僕に呆れた声を出して言った。
「お前なぁ〜〜〜っ・・!!はぁ・・・。
いつまでも そんなんじゃ、一人でやってけないぞ?」
深いため息と同時に、頭を抱えながら僕に訴えるアスラン。
僕は少しだけ胸に引っ掛った言葉を復誦するようにアスランへと投げかけた。
「・・・”一人で”って、どういうこと?」
「・・え?だってお前、いつまでも一緒って訳にはいかないだろ?」
不意に軽く零したアスランの一言。
それがこんなにも僕の心に突き刺さるなんて、思ってもみなかった。
そうか。・・・そう、だよね。
いつまでもこんな状態でいられるはず、ない。
いつかは一人立ち・・・・しなくちゃいけないんだ。
急に襲ってきた現実的な構想に、頭が警報をならすようだった。
なんだか意識が虚ろになってくる。
アスランといつか、離れる日が・・・分かれる日が来る。
そう思うだけで、胸は痛んだ。
あぁ、そうか。
僕・・・・アスランのことーーーーーー。
こんなときに自分の見えない気持ちに気付くなんて、
全く僕は ほとほと救いようがないヤツだ。
「キラ・・?」
無意識に黙り込んでしまった僕を気遣うように
アスランは、突然元気を失くした僕を覗き見ながら近くまで寄ってきた。
僕は慌てて、取り繕った。
「なんでもないよ!!ちょっと目を開けながら眠ってただけ・・」
はははっ、と乾いた笑いを宙に零せば、アスランは訝しげな顔をして
僕を一刀両断した。
「嘘付け。オレの知ってるキラはそんな器用なヤツじゃないぞ。
・・・・・・どうしたんだ?」
最初は結構大雑把に僕を切ったくせに、最後は優しい声で優しい事を言ってくる。
アスランは無意識でこういうことをするからタチが悪い。
僕、どうすればいいか 解からないじゃないか・・。
僕はグッと唇を咬んで 言葉を呑み込んだ。
今言葉にしてしまえば、泣いてしまいそうな自分が居たからだ。
そんな僕の気持ちを知ってか知らずか、アスランは急に黙り込むと
僕の隣にゆっくりと腰を下ろして 僕の肩を優しく抱いた。
「あ、アスラン・・・?」
肩に触れたアスランの優しい手に
僕は驚愕しつつも緊張して、身体を少し縮めてしまった。
するとアスランが 普段より落ち着きのある声で僕に言った。
「ごめんな。・・オレがきっと、キラを不安にさせるような事言ったからだな・・」
やめて。
「大丈夫。・・キラは何も心配しなくていいんだ。」
やめてよ、アスラン。
「オレが居るからーーーーーーーー」
優しくしないで。
泣きそうだった。
アスランの温かい言葉に。
アスランの柔らかい声に。
どうすればいいか、わからなかった。
「・・・いつまでも、僕と一緒には居られないんでしょ・・?」
やっと紡いだ言葉は、あまりにも突き放した言葉で。
アスランを傷つけたかも、しれないと思った。
けど、アスランは 僕の予想に反して、
綺麗に笑った。
「あぁ、そうだな。・・いつオレの寿命が尽きるか わからないからな。
もしかしたら一緒には居られなくなるかも知れない・・」
僕の考えていた”別れ”とは違う方向で話を進めるアスランに、
僕は一瞬動揺しながら 隣で笑うアスランに視線を送った。
「え・・?アスラ・・」
「ーーでもオレは、生きてる限り、 キラの傍にいるよ。」
翡翠の双眸が力強く、そう僕に語りかけてきた。
どこまでも透き通った声で、はっきりと。
僕に優しく、微笑みながら。
僕は、アスランの言葉に 瞳を微かに滲ませて
「僕もだよ・・・アスラン」
そう応えた。
いつ誰が居なくなってしまうか わからない、この世界で
君に出逢えた奇跡を感じながら 僕は。
僕は、・・君に片想いをしている。
傍に居てほしいーーー。
たとえ曖昧な運命に翻弄されても。
声を聴かせてほしい。
どんな結末を迎えても。
だからどうか、もう少しだけ
もう少しだけ・・この瞬間を僕に刻み込ませて。
この先に待つ運命に僕が負けないように。
どうかどうか
もう少しだけーーーーーーーー。
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