運命は、残酷な音を立てて、僕らを引き裂いた――――。
















ほんの少しだけ




















ひらひら、ひらひらと舞い落ちる淡い薄桃色の花びら。
君と別れた あの日に見た、最後の桜雨。



今でも脳裏に焼きついている、大きな紫玉の双眸。
いつまでも色褪せる事の無い、桜と君の姿。




またすぐ会える。
そう信じて疑わなかったあの頃。


途方も無い別れが待っていたなんて、考えもしなかった。






身を焼き尽くすほどの寂しさが自分を襲うなんて、思いもしなかった。






キラ。








・・・・キラ。









どうして俺たち、離れてしまったんだろう。
どうして。







心の中で、何度も呟いた名前。

何度も後悔した、事実。










「アスラン・・・?」






不意に、隣を歩く君に呼びかけられて ハッとした。








「あ・・・・どうしたキラ?」







俺はなんでもない不利をしながら キラの方へと視線を向ける。
するとキラは不思議そうに”大丈夫?”と俺に聞いてきた。



俺は少し苦笑いを浮かべると、”大丈夫だ”とキラの心配を振り切った。
キラは俺の様子にまだ納得がいかないとでもいうような顔で 訝しげな顔を瞬間、作ったのだった。




俺はキラの素直な反応に、軽いため息を漏らすと
頭上から降り注ぐ桜の花びらを仰ぎ見て、言った。










「・・・桜を見てると、お前と別れたあの日を思い出して・・。
             ――――なんだか感傷的な気分になってしまったんだ。」






ほんの少しだけ顔を歪めながら、キラを正面から見つめる。
するとキラも、ほんの少しだけ 哀しげに顔を歪めた。




キラには・・いつも笑っていて欲しかった。







だから俺は、そんなキラを見ていられなくて
不器用な左手で、キラの髪にそっと触れながら呟いた。









「でも今は・・こうしてお前と桜並木を歩いていられるから
               ―――――もう、・・それでいいんだ。」








そう。
それでいい。


それ以上、なにもいらない。





今ここにお互いを感じられる。
それだけでもう、幸せなんだ。






キラに、俺の伝えたい事がどれほど伝わったかは解からない。
だけどキラは 俺のその言葉を聴いて 瞳を一瞬見開くと 次の瞬間、








ほんの少しだけ

先程よりも優しく笑った。










桜雨が、君の肩に途切れることなく降り注ぐ。
別れたあの日に似た、君の姿。
けれど あの日と決定的に違う事――それは・・






君の笑顔が あの日よりも柔らかい事。


あの日よりも、あの瞬間よりも









ほんの少しだけ
ほんの少しだけ。












俺たちが離れる事はもう、二度とないだろう。















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