僕等の関係は 他者から見たら、どんな風に映るのだろう?














友達以上、恋人未満
















その日、僕らは生徒会主催のイベントに使う材料を買いに
町中の画材屋さんへ足を向けた。







「悪いなスザク・・・つき合わせて」






「いいよ。僕も生徒会のメンバーなんだし、気にしないで」






両手いっぱい 僕等に抱え込まれた大きな紙袋と
ビニール袋には 紙やペン、装飾品、木材などが
綺麗にまとまって入れられていた。

今回決められた生徒会イベントの分担は
材料調達係にルルーシュが何故か選ばれた。
他のメンバーはというと、製作・装飾・会計・広報と
見事に効率よく分担されている。
おそらく、それぞれの適正にあった選出がなされていたのだと僕は思う。
だが、何故ルルーシュが材料調達係なのか?
少しだけ僕は疑問に思うのだった。

それはさておき。肝心の僕は何の分担に当たったのか。
それは言う必要・・いや、当たる必要すらなかったのだ。




ルルーシュが材料調達係に選ばれたとき、
生徒会長さんが言った、あの言葉。それが全てだったんだ。







『材料調達係はルルーシュね。・・・でも一人で持てるかしら?
ルルーシュの体格じゃ、荷物に潰されちゃうかもね。
どう思う?・・スザクくん』




確信犯。
そう思った。
僕の疑問は すぐに消えた。



最も、ルルーシュが材料調達係になった瞬間から
手伝う気ではいたけれど こうあからさまに振られると、
どうにも恥ずかしいというか 僕の考えが筒抜けというか。

ルルーシュは一人で平気だと言ってはいたものの、心配だった僕は
自ら材料調達係に志願する形となった。

・・すべては会長さんの思惑通り、というべきだろう。
だって僕が広言したとき、会長さん笑ってたもんなぁ・・。

ーー会長さんには、どんな風に見えているのだろうか?
僕と・・・ルルーシュの関係・・・。


僕があれこれと そんなことを考えていると、
途端に遠くからルルーシュの声が聴こえた。







「おい、どうしたんだ?置いてくぞ・・?」





はっ、と気付いたときにはもう ルルーシュとかなりの差が
出来ていた僕は 距離を縮めるために 急いで駆け出したのだった。

冬の高い空が広がる、夕暮れの町角。
すぐその先には 街路樹が立ち並ぶ公園が見えた。
僕はルルーシュに追いつくと、傍に見える公園で休もうと提案した。

ルルーシュは強がりだ。
彼を不意に見れば、手が赤くなり、筋肉が嗤っているのが
よくよくわかるというのに 平気な素振りで僕を促したりなんてして。
そんな彼だからこそ、ついつい助けたくもなるし、可愛いと思ってしまう。
・・のは、彼に僕が恋をしているせいでもある。




僕の言葉を聴いて、ルルーシュは ”お前がそういうなら”と
少し安心したように 柔らかな笑顔を見せてくれた。
腕が限界だったのだろう。やけに素直だ。

二人で街路樹を見回しながら、ゆっくりと公園のベンチに
腰をかけて 沢山の荷物を近くに下ろした。
頭上には大きなイチョウの木。公園には誰の姿も見受けられない。

ゆったりとした時間が ふと僕たちの肩に触れる。
何だかそれが、僕にはとてもむず痒かった。

ルルーシュと二人きり。
流れる時間を止めてしまいたい。
どうか、願わくば・・・君を抱きしめていたい。
そんな浅ましい夢見事が胸を突いては 僕を苦しめた。

隣に佇むルルーシュをそっと横目で覗き見る。





するとルルーシュは腕を揉み解しながら、苦い顔をして
こちらに振り返った。
いきなり視線がぶつかって、僕の心臓が飛び跳ねたのは
言うまでもない。







「べ・・・、別に腕が疲れているわけじゃないぞ!
ただーーその・・筋肉痛にならないための予防策だ。
念のため、な」





顔がうっすらと赤く染まったのは夕暮れのせいなのか
それとも彼自身のせいなのか。



それすら分からないほどに、鮮やかな赤が
僕の瞳に飛び込んできた。

焼けるような想いと いつまでも鮮やかな君。
僕はルルーシュの落とした言葉に 小さく笑いながら
”わかってるよ”と呟いた。

そのときだ。







丁度僕らが座るベンチの向こう側に
一組のカップルがどこからともなくやってきて、座った。

僕らはそのカップルに思わず視線を奪われる。

僕等の存在に気付いていないようだ。
公衆の面前で寄り添い始めたのだ。





「なっ・・・!」






ルルーシュは眼を丸くすると、間の抜けた声で
僕に訴えかけてきた。







「なんなんだ、あの二人はっーーー・・!」

こんな所で。






思った以上に動揺を見せるルルーシュ。
僕はカップルよりも ルルーシュの反応の方が気になった。
どうしてそんなに動揺を見せるのだろう?
ルルーシュらしくない。
いつも冷静沈着で、何事にも客観的主観を持つ、君が。
一体何故・・・?

ルルーシュは顔を逸らし、彼らから視線を外すと
休憩は終わりだと紡ぎながら 
そそくさと荷物を整理して抱え込んだ。

が、ルルーシュの体力回復には充分な休息時間ではなかったようで
立ち上がった瞬間、ルルーシュの身体が後ろに大きくよろめいた。






「あっ・・・」





「ルルーシュ!!」






即座に手を伸ばした僕を 遠くに見る人のように
どこか客観視して よろめくルルーシュの表情が夕日より
眩しく 僕の胸に焼きついた。


グッ、と彼を支える腕に力が自然と入る。
ルルーシュの持っていた荷物は 辺りに散らばり
大げさな音を立てていた。

その音に気付いたのか、寄り添いあっていたカップルが
こちらへと同時に視線を向けたようだった。
カップルは 何か驚くような顔をこちらに向けつつ、
次の瞬間には 密かに笑い合っていた。

何がそんなに可笑しいのだろう?

僕は彼らから送られる視線を遮断し、
自分に今起こっている状況を客観的に判断した。




すると、それは とてつもない状況・・いや、
僕が願い望んだ状況 そのものだったのだ。






「ス、スザク・・・」




地面に散らばる画材とその数々。
頭上には大きなイチョウの木。
雨のように降り注ぐ、色づいたイチョウ。
僕の腕にすっぽりと収まる華奢な身体。
胸に触れる、温かなぬくもり。
息が掛かるほど近くにある、端整で綺麗な顔。

紫紺の瞳が悩ましげに 僕をその中へと映し出す。


そう。僕はルルーシュを抱きとめている。
否、抱きしめている。






戸惑い彷徨う彼の瞳が僕の翡翠と重なると、
少し上擦った声で言葉を落とした。





「もう、大丈夫だ。・・放してくれ」


必死で離れようとするルルーシュの黒髪が
僕の頬を微かに掠め、甘い香りをほのかに漂わせた。
抱きしめたい、と願っていた自分の願望が こんな形で
叶うなんて 皮肉ととるべきなのか、好機ととるべきなのか。
僕は 自問自答しながらも ルルーシュを放そうとはしなかった。

今放したら、きっとそこで終わってしまうと思ったからだ。






「ルルーシュ・・」

低く、その名前を耳元で響かせてみる。
もうこれ以上 ごまかせはしないと思った。
自分の気持ちに対しても、ルルーシュに対しても。






「スザ・・ク?」




僕の声を聴いて、瞬時にルルーシュの身体は硬直した。
僕を取り巻く雰囲気が変わったことを敏感に察したのだろう。






「・・・・・・僕等、他者から見たら どんな風に映るのかな?」




「・・・・え・・・?」





胸を焦がすこの感情が、僕に仕向ける 切なくも淡い恋心。
儚げに揺れる黒髪をいつまでも肌に感じていたくて、
ぐっと力強く引き付けた。

過去も未来も現在も、君と繋がり合える日を
幾度願って生きてきたかしれない。

抱きしめる力の加減を忘れるほど、ルルーシュを
軋むほど掻き抱いた。






「僕が・・君にとって、友達以上の存在になりたいって
言ったら・・・・どうする?」









届けばいい。少しでも。
この焦燥の矛先は 君であってほしい。
君にしか消せないものなんだ。

僕の言葉が空に振動してルルーシュの耳に届いたとき、
どんな色へと変化するのだろう。
出来るものなら、優しいものであることを、願う。







「っ・・・・!!−−−−・・・スザ、ク・・」





かぁ、っと赤く染まる君の頬。これは夕日のせいじゃない。
僕が与えた熱情の熱さだ。
ルルーシュは 僕の名を零すと、我に返ったように
いきなり僕を引き剥がして言った。







「ばっ・・・!!!バカか、お前は!!!」


叫ぶように 響く、その甘い声は 僕の耳に
どこか春風を思わせるような温かさを含んでいた。






「ルルーシュ・・?」




困惑した僕は 彼の意図が知りたくて
その愛しい名前を呼んだ。
するとルルーシュは ピクリ、と僕の声に反応をみせた。







「と、とっくの昔にお前は・・・友達以上だ、バカ!」








「!!」










僕等の関係は 他者から見れば、どんな風に映るだろう?



友達、  親友、  幼馴染。


クラスメート、 生徒会仲間、  知り合い。



どれもピンとこなくて、どれも当てはまる
そんな関係。

だけど。
僕等の関係を表す言葉があるとしたら、
今はこの言葉が一番しっくり来るかもしれないね。




友達以上、恋人未満。







でもそのうち
”未満”を取り除いてみせるよ、絶対。




だって僕等











相思相愛なんだから。









そうだよね、ルルーシュ?












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