「トリックオアトリート!」










              魔法使いと僕









ドアの向こうから、小気味良い声が聴こえてきた。
僕は不思議に思ってドアの外に出てみると、島の子供たちが
仮装しながら小さなカゴを手に持って、アルヴィス内を
うろついているではないか。

その光景を見たとき、”あぁ・・今年もそんな季節か”と
しみじみ感じてしまう自分がいた。

すると 不意に、子供たちの最後尾が僕の目の端に止まった。
一際背の高い”子供”が困った表情で皆と同じように仮装しながら
呪文を唱えて歩き回っているではないか。
正直一瞬あっけにとられてしまった。・・というか、見惚れてしまった。



「なにしてるんだ、お前?」



唐突だとは思ったが 彼へと自然に声をかけてみる。
その瞬間、子供たちの最後尾である彼が 僕の声にはっとして、
恥ずかしそうな面持ちでこちらを向いて 
しどろもどろに答えたのだった。



「あ・・、その、子供たちの保護者として付いてて欲しいって・・
父さんに言われて・・・・その、・・っ」



顔を赤く染めながら、必死に説明しようと慌てる一騎の仕草に
どこか子供のような愛らしさと恥じらいが見え隠れして、
僕にはどこまでも愛しく思えた。



「ふふ・・今日のお前、可愛いな」



「−−っ!!!ば、・・・何言って・・ッ」



普段見ることのない、仮装姿。いや、コスプレ、でも良いのか?
ま、それはいいとして。
魔法使いの格好をした一騎というのも味が合って初々しい。
漆黒のマントがその華奢な姿を隠し、僕を誘っているように思える。



「ほら一騎、あの呪文・・もう一度言ってみろ」



「へ?−−あぁ、・・うん。トリックオアトリート!!」



一騎は僕の催促に、素直に答えた。一瞬忘れていたようだったが
そこは大目にみてやろうと思う。
声を張り上げて、僕にそう言う一騎。いつまで経ってもお菓子を
渡そうとしない僕に 一騎は訝しげな顔を向けて言った。



「・・?なんだよ総士。自分で言えって言ったのに
お菓子ーー持ってないのか?」



不思議そうに僕を見上げる一騎が大きな瞳を揺らしながら 
そう言ってきた。ーーまんまと僕の罠にはまった一騎。どうやら
気づいてないようだ。僕の目的はお菓子をあげる事ではない。
むしろーーーー・・。



「あぁ、お菓子は持っていない。
・・だからイタズラしてくれ」



「え?」



「お菓子をくれないと、イタズラ・・しちゃうんだろう?」



クスリ、と含み笑いを思わず漏らしてしまった僕に やっと
僕の意図を察した一騎が真っ赤になって 声を荒げた。



「なっ・・!!ダメに決まってるだろ?!そんなの!!!」



「なぜ?」



「イタズラ目的で近寄ってくるなんて どうかしてるッ!!」



「そうか・・?たまにはいいだろう、そういうのも」



「よくないッ!!」



困ったように怒る一騎の声が、微かに震えて 空中で溶けた。
・・緊張しているのだと思った。本当に僕にイタズラしなければ
いけないのだろうか、と真剣に頭では悩み始めている。
そんな気がする。・・一騎のことだから。

僕は一騎からのイタズラを諦める代わりに 一騎が被っている魔法使い
の帽子をスッ、と手に取ると 微笑みながらこう言った。



「お前が出来ないなら、僕がしよう。
ほら!これが僕のイタズラーー」



帽子をヒラヒラと一騎の顔の前にちらつかせて、
一騎を挑発するかのようにしてみせた。
一騎はほっとしたように ”あ、うん・・”とため息交じりの
明るい一言をそっと洩らしたのだった。

僕は何だか 少しだけ物足りなくなって、一騎へと顔を
近づけて、とんがり帽子で隠すように 掠めるようなキスをした。



「!!!!!!?」



「これは、おまけ♪」



軽い調子で声を弾ませ、にやりとほくそ笑んだ僕。
突然唇を奪われて、口元を押さえる魔法使い。

たまにはお菓子をあげない”大人”と出会った”子供”が
いてもいいかな、・・なんて思ってみたりした。

今日はハローウィン。




「トリックオアトリート!!!」




”お菓子をくれないと、イタズラしちゃうぞ?”
君なら誰に、イタズラされたい?








たまにはイタズラするのも、悪くない・・かな。











SSNOVELに戻る