「ルルーシュは、赤い糸って信じる?」



「・・・・は?」





唐突に切り出された質問に、オレは頭を抱えるしかなかった。

















赤い糸


















事の始めはナナリーにスザクが日本の迷信を教え聞かせている所から
始まった。真剣に話すスザクと興味を深く示すナナリーの姿には
オレも和まされたものだ。が、話の方向性が少しずつずれて行ったのは
運命は信じるか?といった類の話題からだった気がする。


「運命といえば、赤い糸、だよね!」

スザクが威勢よくそんなことを漏らした。
そうしてナナリーが「なんですか、赤い糸って・・?」と聞いたのがきっかけに近い。


「運命の相手と赤い糸で結ばれているっていう迷信が日本にはあるんだよ!」

甘い整った顔立ちでそんな恥ずかしいことを平気でいえる
男子生徒は数少ない。その中でも、心から何の疑問も持たずにいえてしまうのは
スザク、お前くらいだろう。オレは心の中でそんな突込みをいれながら、話半分に
二人の会話を遠巻きに聞いていた。のだが、いつの間にかその渦中に放り投げられる自分が
いることに気づいたのだった。

「わぁ〜!素敵ですね!!私、そういうお話好きです」


「僕も好きだよ。何かロマンチックだよね」


「はい!!−−・・お兄様は、どうですか?」


いきなり振られた話題に、オレは少しだけ動揺してしまった。


「あ、あぁ・・・そうだね。いいんじゃないか・・・?夢があって」

上擦ってしまった声を誤魔化すために、視線を逸らす。
少なからずかっこ悪い自分を隠せたらと思い立ってのことだった。


「赤い糸、ナナリーは信じる?」


スザクは乙女チックなことを時々口走る。
男の癖に、まったくこいつの天然さには脱帽だ。


「はい、信じます!スザクさんは・・?」


「僕も信じるよ。素敵なことは信じるべきだよ!・・・ルルーシュは?」



「ーーーーえ・・?」


またまた突然振られた質問。
こいつは確信的にオレへ質問を投げかけているんだろうか?



「ルルーシュは、赤い糸って信じる?」




「・・・・は?」


こうして、冒頭に戻るわけなのだが。
正直幾らなんでも 非現実的なことを信じていると云うには
自分はそういう性格ではなかったし、何より ありえないと心から想っているせいで
見え透いた嘘はつけない。だがナナリーの悲しむ顔もみたくない、・・よって導き出される
応えは、ひとつ。オレらしさを失わない、堅実な答え。それはーーーーーーーー。



「そうだな・・・実際赤い糸が本当に見えたら、間違いなく信じるだろうな」





+++







朝起きて、何が起こったかわからなかった。
これは夢、なんだろうか・・?
しかしこの目に映っているのは 昨日話題にのぼった それ、に他ならない。
これはもう、信じるべきなんだろうか・・・?



「ーーー・・だが、色々ありえない・・」


不信感が募る。
朝起きて、自分の右の小指に巻きついていた赤い糸。
これは現実世界に起こり得る事実なのか、検証してみたくなる。
けれどすれ違う人 皆、この小指に絡まっている赤い糸に気づいていないという辺り
現実味を帯びてくる。要するに当人しかみえない、というわけか。
・・この赤い糸、絡まってるだけでなく、どこかしらの相手に繋がっているようだった。

糸は途切れる事無く続いている。
そしてその糸を辿っていくと不思議と生徒会室に辿り着いたから面白い。
つまり、自分の運命の相手は、ごく身近にいるということになる。
オレはごくり、と喉を鳴らして 扉の隙間から繋がった糸が抜け出ていることを
確認して 生徒会室の扉を開けた。向こうに、自分の運命の人がいるかもしれない。

迷信だというのに、実際こうして目にしてみれば 不思議と胸は踊り、気分は高揚した。
一体、誰なのだろう・・・?相手によっては、この赤い糸、信じることができないかもしれない。
いや、自らこの赤い糸を断ってやる、と想った。・・ん?そもそも、この糸切れるんだろうか・・?

どうしようもないことに、気を散らしていても前に進まない。
扉を開けて、窓際に立つ、一人のひとを瞳の端に捕らえた。
スラリ、と佇むその少年。赤茶のふわり、とした髪を軽く揺らし、何か資料を確認している深緑の瞳が
開音に反応して こちらへと向けられる。
それはーーーーー紛れもなく、自分と一番の仲良しである、少年。



「あれ?ルルーシュ!おはよう。早いね・・?」


暢気に挨拶を交わす、彼の左小指には赤い糸。しっかりと絡み付いている。
・・・そして、自分の赤い糸と繋がっていることに、気づく。


「ーーー・・す、ざく・・」


驚きと、嬉しさと、切なさと、苦しさがない交ぜになって
ルルーシュの胸をかき乱した。
親友で、幼馴染で、敵。微妙な彼との溝。忘れることのない、傷。
どう言い表していいか、わからない。けれどーーーー。


「早起きしたから、生徒会の仕事、確認しておこうと思ったんだ。ルルーシュは?」


爽やかな声で近づいてくる少年に、惹き付けられるかのごとく、ルルーシュは
身動き出来ずにその場に佇んでいた。

「あ・・・・え、と」

口篭る、歯切れの悪い自分。赤い糸の後を追って、ここまできました、とは
到底いえるはずもない。いつもと違う雰囲気を察したのか、スザクはルルーシュに
むかって大きな瞳を覗かせて云った。

「どうしたの?なにか心配ごと・・?」

きょとん、と見つめられた素直な瞳。ルルーシュは思わず、観念したように
言葉を漏らしたのだった。


「あ、・・・・・赤い糸が・・・見えるんだっ・・!!」

叫ぶ。半ば、やけくそだった。


「へ・・?」

目を丸くするスザクを顧みずに、続けた。


「朝起きたら、赤い糸が小指に撒きついてて・・・その糸を辿ってきたら、ここについて・・
赤い糸はーーーー・・・お前に繋がってたんだっ〜〜〜・・」


バカみたいなことを口走っていた。でも実際見えるんだから仕方ない。
どうすればいいかわからないが、こんなこと隠しても何にもならないから
云ってしまえと思った。笑い飛ばしてくれるもよし。とにかく何かしら相手からのアクションが
欲しかったのだ。

暫くして、二人の間に沈黙が訪れるのがわかった。
この沈黙の意味が理解できたのは、数十秒後、の相手のアクションによって、なのだった。


「やっ・・・・・たぁぁぁーーーーーーーーー!!!」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーガバッ!!!!!!!!!!!


「うわっ?!!!」


いきなり抱きついてきたスザクに、ルルーシュは思わず一歩身を引く。
だがしっかりと抱きしめられた身体は離れることのない強さがあった。
腰に手を回され、逃げることを許されないルルーシュは 顔を真っ赤に染めるしかなかった。


「なっ・・・スザク?!」


「やった!!!!すごいよルルーシュ!本当に赤い糸が見えちゃうなんてっ!
しかも君の運命の相手が僕なんてーーーー、更に凄いよ!奇蹟だ!!!!」


満面の笑みで抱きついてくる幼馴染に、ルルーシュは一種の愛しさを感じてしまうのだった。
その無邪気さは天然。そして何よりも凶器になる、ということだった。


「・・・そ、そんなに喜ぶことか・・?おまえ、単純な・・奴」


悪い気はしない。純粋に自分の言葉を信じて、ここまで喜んでくれた彼に
ルルーシュは密かな好意が沸々とわきあがっていくのがわかった。


「いいじゃないか!・・・いっただろ?素敵なことは、信じるべきだっ、て!」



陽気に話す、目の前の幼馴染に、ルルーシュはちょっぴり照れた瞳を向けて
微笑みかけたのだった。



「そうだな・・・。お前が運命の相手なら・・・・信じるべき、かもな」




次の日。赤い糸はすでに見えなくなっていた。
けれど、目に見えなくても、繋がったものがひとつ、確かに在る。







それは二人の心だと、
口にするにはまだ躊躇いが残る、少年二人、であった。












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