神様、おれ
ほんの少しの勇気が欲しいです


























夕影

















「今日は色々とありがとね」




空が茜色に変わり、太陽ももう隠れようとする時刻。
夕映えの空を背に、おれ達は 長い一本道を並んで静かに歩く。


「い、いえ・・・とんでもないっス」



学校の帰り道。おれは獄寺くんと二人、軽い雑談なんかを
交わしながら家路についていた。
今日は一日散々だった。いつも散々だけど、今日はいつにも増して、凄かった。
めんどくさい日直の仕事に、テスト返却で先生に呼び出し。
おまけに補習。それだけならまだいいけど、その上 
女子に無理やり掃除当番の代理押し付けられたり、担任に
プリント集作り手伝わされる羽目になったりで、もうへとへとだ。

けど、なんとかへとへとになっても 全部やり終えることが出来たのは
おれの傍らを並んで歩く 心強い助っ人がいてくれたからなんだと
おれは痛いほど自覚していた。


獄寺くんがいなかったら おれ、きっと全部中途半端にしたまま
逃げ帰ってたと今更ながら思う。
手伝ってもらえて ホントによかった。心から、純粋にそう感じたのだった。




「獄寺くんに手伝ってもらわなかったら、おれ今頃
ぜったい全部放り投げて家に帰ってたよ」


心から感じたことをそのまま言葉にする。
自分ならそうするだろう。大方の予想を立てて 言い放ったおれの言葉に
獄寺くんは一呼吸おいて、通り抜ける風よりも自然に言ってのけたのだった。




「・・・・・・いえ、10代目は そんなことしません」



「へ?」



「ーーーー貴方は、オレが手伝わなくても・・きっと全部終わるまで
一人残って頑張る人です。ーー・・オレの知ってる10代目は、そういうひとです」




「・・・・・・・・・・な、っ・・」




”なにいってんの”

そう言おうと思ったのに、声にならない。
だってあまりにも 獄寺くんが真剣な顔でおれにそういうから
思わず言葉に詰まってしまった。

おれ、ダメツナだし、そんなちゃんとした人間じゃない、のに
自称おれの右腕を名乗る彼がそういうと、不思議と自分が
そんな人間に思えてしまうのがオカシイ。


獄寺くんって変わってる人だけど、おれのこと
そんな風に見てる辺り、相当だと思った。


けど、なんだろ・・・
おれ、今ちょっと・・・いや、かなり嬉しい。






「ーーーーーーあ、ありがと・・」




褒められるのって中々ないから、
自分の頬が熱くなるのがわかった。
これはきっと幸せな恥ずかしさ、なんだろうな。
胸の奥で湧き上がる照れをどうにかやり過ごしながら
おれは 家の前で立ち止まる。

丁度 目的地に到着と相成ったわけなのだ。
よかった、タイミングがいいや。


おれは獄寺くんに今日のお礼と先ほどの言葉のお礼を
丁寧に伝えると 軽く手を振って、家の中へ入ろうとした。



「送ってくれてありがと。今日は色々とごめんね!
本当に助かったよ。・・じゃ、また明日ね」



駆け足で敷地へと足を踏み入れた瞬間。
唐突に、強い腕の力が おれの身体をその場に留まらせた。

何が起きたのか わからない。



気がつけば、引き寄せられる腕の中に 自分の身体が
吸い込まれていく感覚に陥っていたのだった。

あ、と思った刹那ーーーーーー



おれは今の状況を理解したのだった。





おれ、獄寺くんに抱きしめられてる、って。









「ごっ・・・・・、ごくでらく・・・・?!!!」



動揺で、声が裏返ってしまった。
かっこ悪い・・・、おれ。


そんなおれをお構いなしに きつく抱きしめてくる彼の胸元には
銀色のアクセサリーがゆらゆらと、揺れて 獄寺くんの背中を
赤く染め上げている 夕日の光を吸収していた。
銀色の髪が光に溶けて 照り輝く。見事なまでに、美しい 彼。
見上げれば 淡い光沢を浮かべ、瞳を切ない色に滲ませている
普段見慣れない 表情をした獄寺くんが待っていた。

次第に、胸が高鳴っていく。



この高鳴りの正体がわかるまで
そう時間はかからないと感じた。

あ、どうしよ。
視線が外せない。

獄寺くんに 全部見透かされてしまう。
そう思った。




「じゅう・・・・だいめ・・・」



殊勝な声が おれの耳に届く。
信じられないくらい 謙虚に零れた 彼の言の葉は
おれの心を深く揺るがし、燻らせたのだ。



「ご、・・・・・くでらく・・・」


おれは見つめられたまま、抱きしめられたまま
何をするわけでもなく彼の名を零すだけだった。

すると 自然とゆるゆると力が抜けて、おれを胸の中の
拘束から解いてくれる彼が目の前に佇んでいた。



「突然こんなこと・・・・・・して、すいません・・・」



獄寺くんは おれに触れていた腕を解くなり
頭を深々と下げて 謝罪の言葉を口にした。
おれは何がなんだかわからずに そんな彼をぽかんと見つめるだけで、
さして何かを答えようとは思わなかった。




「でもオレ・・・・今日、もし10代目と二人きりで
帰れたら・・・言おうって、・・心に 決めててーーー・・」


切羽詰った口調で 淡々と続く言葉たちは
おれに微かな予感をちらつかせる小さな光に感じられて
胸を途端にざわつかせたのだった。


獄寺くん、・・・君・・・・、もし、・・・かして・・・?





「だから・・・・オレ、・・・今日言わなきゃ・・・
一生言えねェ・・・って、思ったんでーーーー・・・言います」





嘘だよ。だって、おれ・・・・
ダメツナ、・・・だし。君はそんなにも、かっこよくて
・・・思わず 男のおれすら 見とれちゃうほど、で・・・・。
とに、かく・・・そんなこと・・・・・ない、はず。









「オレ、・・・・・・・10代目が好きです」












ないはず、・・なのに。









「ーーーーー・・・ごく、でらく・・・」



















「ーーーーーーーオレと、付き合って頂けませんか?」























今でも忘れられない。
おれん家の玄関先。茜色の空。
長く伸びる、君の夕影。


真摯な瞳で見つめる 君のいつにない強張った表情。
緊張してるんだとわかった。
凛々しく伸びた背筋は 獄寺くんの真剣さをおれに伝えてくれていた。



通り抜ける風の冷たさに 軽く身震いを
起こしたおれだけど 彼が零した熱い言葉に
身体中が温められて 吐く息の白さとか、赤く染まっていく頬の熱さ
なんかに 意識を奪われることはなかった。


ただ、恥ずかしくて 
嬉しくて・・・



幸せな 甘い胸の締め付けが



おれの中で、その先に続く答えを
優しく導き出してくれたんだ。










「おれも・・・・・・おれ、も・・・・好き」







獄寺くんが、好き。







紡ぎ出された言葉と、目の前で
瞳を瞠る彼の表情。この瞬間に、未来が
目と鼻の先まで広がっていくのがわかった。


獄寺くんは 瞳を大きく揺らすと 碧色の双眸で
おれに優しく 囁いてくれた。








”今オレ、最高に幸せです”って。








+++















本当に大切にしなくちゃいけないものから
おれは多分、逃げていたんだと 思うんだ・・・




















獄寺くんの告白から一日が経った。

その夜、おれは興奮で眠れなくて 散々だった一日から
最高の一日に変わって なんだか訳がわからない感じだった。

よくよく考えてみれば、付き合うって、具体的にどういうことだか
よくわからない。いつも一緒にいるし、恋人同士がするようなことは
友情関係でも賄える気がしてならない。

一緒に登下校したり、お昼食べたり、どっか遊びに行ったり・・
普段友人としてすることと変わりないんじゃないかって、思う。

けど決定的に違うことがあるーー、とすれば・・
それはきっと・・・・・・



昨日みたいな”触れ合い”だと思った。




抱きしめたり、き・・・キスとかしたり・・・
そういうの。



そういうのが、恋人同士がすることなんだ。



おれは、獄寺くんとそういうこと、・・・しちゃっても
いい関係なんだなぁ・・・って、改めて考えた。




そしたら とてつもなく 恥ずかしくなって
・・こんな、ダメツナ相手でいいのかなって、
不安になってきてーーー・・・途端に自信が無くなった。




だって考えても見てよ。
男同士だよ?それだけでも異常だっていうのに


どうして獄寺くんは、おれなんかに”好き”っていったんだろうって
思ってしまう・・・どうしても。


もしかして、ボンゴレ10代目って地位とかが関係してるんだろうか・・?



ぐるぐると延々に終わらない問題を抱えて唸っていたら、
そのうち朝が来てーーー、あの日から一日が経ってしまった。



学校に行く時間が近づいてくる。
きっといつもの時間、獄寺くんはいつもの場所で
おれを待ってるんだろうなぁ、なんてぼーっと思考を廻らせながら

おれはいつもと変わらない朝を迎えて、扉を開いた。





待っていたのは、新しい二人の関係。
そうだったら よかった。




なのにおれは、逃げたんだ。
彼の心を置き去りにして




大切にしなきゃいけないものを 見ないようにした。
・・・やっぱりおれは ダメツナだ。

肝心な所で、逃げる。
君が昨日 褒めてくれた自分はきっと
君の空想の世界の自分なんだって おれは密かに痛感してしまったんだ。




ごめんね・・・・・




こんなおれで。





獄寺くん





きっとおれ、君を傷つけたんだね。






ごめんね・・・・・












ごめん。





















「ひ、秘密にしない・・?」





朝、昨日の告白場所で待っていてくれた彼。
おれん家の玄関先に佇む 銀髪の少年は冬の寒さに負けず、
凛と筋を通して まっさらな空を見上げていた。


声をかけると 照れくさそうに微笑みながら、
おれに駆け寄ってきてくれて ”おはようございます!”と
どこかぎくしゃくした口調で 頭を下げた。
おれは”と、とりあえずいこっか・・”と学校へ向かうよう促し、
家をあとにしたのだ。


登校中、今まで見てきた朝の風景が違って見えた。
なんだかキラキラしてるんだ。
思った以上に おれはこの状況を意識していて、隣を歩く獄寺くんも
どこか落ち着かない様子で おれをチラチラと窺っているようだった。

通り過ぎる人たちから 自分達がどんな風にみえるのか
とか気にならなかったことが気になってくる。
なんだかいてもたってもいられなくて、そのうち触れ合いそうな
手の距離が 縮んで、重なろうとしていた。



でも前方からは女子高生らしき二人組みが歩いてくる。
手は、・・・・つなげない。
だって、恥ずかしすぎる・・。



二人の女の子が視界から見えなくなった途端
おれは 伸びてきた獄寺くんの手を制するかたちで
その言の葉を虚空に撒いた。ーーーーー獄寺くんの手が、ピタリと止まる。




「え・・・・・?」




話が見えないのか 何を言われたのか判らなかったのか
獄寺くんは 驚愕の声を漏らした。
おれは内心 トゲがささった気持ちで 苦しい言葉を発するだけだった。




「お、・・・・おれたち・・男同士・・・・だからさ・・・
普通の恋人同士とは・・・ちょっと違う、と思う」


素直に思ったことを口にした。
獄寺くんは なにも言わない。


無反応、というやつだ。



ちょっと怖いけど、おれは先を促した。




「それに・・・・、さ・・・・。
は・・・・・・恥ずかしい、って・・・・・いうか・・・」





こんなダメツナな自分とカッコいい君が付き合う
なんて、・・・・奇蹟だよ。

かっこ悪い自分が、・・・恥ずかしい。
君と対等じゃないのに、・・・・ダメな人間なのに。
同じ位置にいようとする自分がなんだか ・・恥ずかしいよ。





おれなんかと 君が恋人同士だって皆にばれたら
きっと獄寺くんが 恥をかいちゃう。



恥を・・かかさせてしまう。



君を辱めたくはない。
君がおれといて 恥ずかしい、って いつか思っちゃう日が
来てしまうかもしれないから


そんな日が来たら、すぐにでもやり直せるようにしなきゃ。
最初から秘密にしてれば 何もなかったように
きっと皆に振舞えるし、・・・皆から変な目で見られないで済むし、
一石二鳥じゃないか。




「だから・・・・・獄寺くん・・・、
おれたちが付き合うことは・・・二人だけの、秘密・・に、しよ・・・?」






それって付き合う意味とかあんのかな?
周囲から祝福されない関係って、なんなのかな?


色々胸に引っかかることがあるけど
それが今の二人には ベストな方法だって、頭悪いなりに
いっぱい考えた答えだった。



すると、獄寺くんは ビクッと身体を瞬間竦めて
おれの目の前に立つと 少しだけ俯いて 次の瞬間には




・・・困ったような微笑で おれを見つめてきたんだ。




「・・・・・・・・・そう、ですよ、ね」




なんでだろう。
獄寺くんが零した呟きは 深く傷ついた色をして
虚空をいつまでも 彷徨い続けていた。


おれの言葉をどんな風に受け止めたのかは
わからない。けど、そのときのおれには どうすることも
できなくて、ただ 理解力のある彼に全部正しく伝わったのだと
勘違いしていた。


獄寺くんは一瞬地面を見つめて ぐっと掌に力を込めると
何かに耐える形で 表情をいつもの笑い顔に戻し、
おれに元気よく言ったんだ。




「わかりました!・・秘密にしましょう。
・・・・・10代目のご決断は、いつでも正しいっス!」




獄寺くんは 明るく、ニカッと笑うと
おれの瞳から視線を逸らして ”急ぎましょう!”
とずんずん 先を歩いて行った。


おれは いつもどおりの獄寺くんに 内心ほっと
息を撫で下ろすと 先を歩く彼の歩調に

自分の歩調を合わせるように駆け足で追いかけたんだ。











めいっぱい、彼を傷つけたことも
知らずに




おれはのうのうと






新しく始まる二人の関係に
期待を寄せていたんだ。
















バカだね、おれ。








+++















薄い香水の匂い、が鼻を掠める。
ほろ苦い煙草の味がキスから 伝わる。
スラッとしたモデル並みの体格。程よく鍛えられた筋肉。
しなやかな指は魔法のように おれの身体を這い回る。
はめられた指の装飾物が彼の温もりを宿した温度に
変わり、彼色に染まる。

視界には銀色。銀の髪が頭上で靡く。
サラサラの髪は 爽やかなシャンプーの匂いが僅かに香った。
白い肌、鎖骨辺りを華やかに彩るアクセサリーたちは
ジャラジャラと擦れ合いながら 大きく揺れ動いていた。

おれを斜めから見つめる碧色の瞳が 次第に息吹くように
開花していく。激しさを増す、その触れ合いは 明らかに
恋人同士のそれだった。

必要以上に求めてくる獄寺くんの舌が
すべてのおれたちを語る。



普段、恋人だと秘密にしている自分達。
こうして二人きりになると 堰をきったみたいに
互いを求め合うのは溢れ出す恋心からくるものなんだって、こと。







「っ、・・・んぅ、・・・ふ、ぁっ」




ぴちゃ、っと厭らしい音が室内に木霊す。
知らぬ間にキスに夢中で気づかなかったが
服を弄られている。


快感の海に沈んで すべてを曝け出してしまえる
関係になって 一ヶ月。
おれたちは 進むところまで進んでしまっていた。



何かを補うみたいな接触を早急に求める彼。
それは決まって 獄寺くん から、だった。



今だってそう。


最初は家で不純異性交遊してたのに
今じゃ節操なしにしかけてくるようになった。

おれはいつだってされるがままで、獄寺くんの言いなり。
獄寺くんに触られると身体中がビリビリしちゃって 何も考えられなくなる。
気持ちよくて、おれ自身我慢できなくなっちゃって
自分から腰を振っちゃったことだって・・何度もあるんだ。


情けないけど、おれも・・こういうこと、好きなんだ。多分。
獄寺くんのせいにばっか いつもしちゃってるけど
・・おれも心の奥では重なりたいって思ってる。



だけど、なんだか最近のエスカレートさは怖い。
情事をするのが学校っていうのも 本当は問題あるのに
今じゃ決まった時間にしなくなった。


本来なら 人がいなくなったとき、とか
いない場所を選んでするのに。

・・・すぐそこにいるんだ、人。



今、おれ達がこういうことしてる場所は
隠れた場所なんかじゃない、ギリギリの場所。


自分達の、教室で。
しかも体育を二人でサボって。
山本に白々しい嘘吐いて、二人だけで・・・こんな、ことしてる。



どうしよう。どうしよう。
おれ・・・止まんなくなっちゃうよ。
こんなことばっかしてたら、おれたち・・・そのうち誰かに
見つかっちゃうよ。秘密にしてるのに。
ダメなのに・・。




秘密の関係って事実は、いつの間にか
おれ達にとって ”スリル”へと変換されていたんだ。






「あぁ、ンッ、・・・・・!!」



パタッ・・パタパタッ、・・・




教室の床に零れ落ちたのは おれの精液。
絶頂を迎え損ねた先走りの甘い蜜。


おれは身体をうねらせて 正面から抱きついていた
体勢を変え、壁に手をついて自分の身体を支えていた。
獄寺くんは おれとの感覚を詰めて ピタリと後ろ抱きにくっついてくる。
昂ぶるおれの中心を弄びながら 先端をきつく手先で抑え込むと
荒い息を耳元でひとつ、吐いた。



「っ、・・・・じゅう・・・だいめ」



色っぽい声が耳の奥をくすぐる。
自分も、とでも言いたげな声音だった。

彼の熱い中心がおれの腰辺りに当たってきた。
彼もまた 昂ぶったそれを固くしながら
おれに その先を求め、欲していた。



「獄寺く・・・、あたっ、てるよ・・・、ッ」



 

おれが必死に足を竦ませ、踏ん張っているというのに
彼は体重をおれに乗せてくると それを主張するかのように
おれの腰付近に擦り付けてきた。




「すいませ・・・・・、ッ、・・・・オ、レ・・我慢・・できなくてーーー」




自然と彼の腰が揺れ、おれのソレをキュッ、と
柔らかに握り締めてくる。


おれはなんとも言えない快感と衝動で
意識が遠のくのがわかった。




「あ、・・・・まっ、・・・・おねが・・・・い」





さすがにこの格好はきつい、と獄寺くんに
懇願したおれは 体勢を変えようと もう一度身体を
動かした。が、そのとき。

教室の扉の向こうから 聞きなれた足音が
聴こえてくるのが耳についたのだ。



この足音・・・・きいたこと、ある・・・




これって・・・・・!!





超直感が冴え渡り、おれは 真っ青な顔に変貌していく
自分が見なくても解かった。
獄寺くんも気づいたのか、おれの体を大事そうに抱き寄せると




「じゅうだいめっ・・・!こっちです!!」



と密かな声で耳元辺りに叫んだ。



おれは引き寄せられる状態で 掃除用具のロッカーの中に仕舞われる。
というか、二人で寄り添いあいながら 閉じこもったのだった。




どくん・・・どくん・・・・











心臓が早鐘のように 鳴り止まず、二人の間に
緊張感を漂わせた。


教室のドアを勢いよく開けて入ってきたのは、
白々しく嘘を吐いてしまった その相手だった。
途端に聞きなれた声が教室に響き渡る。




「あっれ〜〜〜〜?・・どこいったんだアイツ等。
忘れ物取りに行ったんじゃねーってことか・・?」




山本の軽快な声は二人の脈動を激しいものへと
変えさせていく。至近距離、互いの中心は勃ち上がったまま
衰えることは無く 昂ぶりを絶頂まで追い詰めていくだけ。

不意に、綱吉の勃ち上がっていた中心が獄寺の指先に触れた。
ピクリッ、と反応をみせたそれと同時にビクンッ、と沸き立つ快感が
綱吉の身体中を駆け巡った。


ぞくぞく、と感じる快感が頭を擡げたのだ。



「おーい、ツナ!獄寺・・!いねぇ〜の?」



山本の声は次第に掃除用具入れの方へと近づいてくる。
至近距離から聞き馴染みのある親友の声が聴こえるスリル感は
何モノにも変えがたい奥深さがあった。

ふつふつと逆巻く熱情と情欲が鬩ぎあって獄寺の思考内をかき乱した。
綱吉はそんなこととは露知らず、触れて離れない獄寺の指先の
もどかしさに甘いため息が零れそうになった。
プルプルと震えている自分の中心は、獄寺の指先に柔らかく刺激され、
甘い液と愛撫を欲するかのごとく 小刻みに主張し続けている。

あまりの羞恥心から叫びたい衝動に駆られる綱吉だったが
自分で秘密にして欲しいといった手前、そんなことは理性が許さなかった。
が、半分死に掛けている理性がもっと甘い刺激を求めて
微かに腰を揺らし始めた。獄寺は綱吉の意図していることを
容易に察知したのか、綱吉の喘ぎをかき消すため、自分の唇を
綱吉の唇に重ね、声を吸収するのであった。




ぐちゅっ、と水音が二人の僅かな間から聴こえてくる。
すぐ其処に山本がいるというのに。
なんて危険な行為をするのだろう。

頭でわかっていても 最早体が追いつかない状態であった。


忙しなく動く指先に反応して、膨張して先が固くなっていく綱吉の中心は
今か今かと 刺激の強い快楽を求め、足掻いていた。





「ん〜・・・、おっかしーな。やっぱここにはいないか・・・」




山本の声が小さくなっていき、教室の扉を閉める音が聴こえると
廊下をそそくさとかける足音が辺りに反響して響き渡っていた。
ようやく勘のいい親友が去ったことを耳で確認した二人は
今までの我慢を解放し、爆発させるかのごとく
激しく行為に没頭していくのであった。




「っ、ん、・・・んんッ、・・・・・ふ、ぁンっ、」



舌を絡み取られ、喉の奥を刺激され、
なめ取られるように歯列を撫でられ。
犯されていく、占領されていく口内に 綱吉は怖いくらいの
心地よさを感じ、自分で自分を抑えられなくなっていく。




「は、ぁッ・・・、ン・・やっ、・・・・ごくでらく・・・・ぁア、ンッ!」



舌を放され、キスが終わったと思いきや 昂ぶり パンパンに腫れ上がっていた
熱いモノをぎゅうっ、と握り締められたのであった。


ビクッと体が揺れ、仰け反る形で目の前の人に縋りつくと
綱吉は喘ぎを漏らし 赦しを乞うしか 楽になる方法が
思いつかなかったのである。




「は、・・・やく・・・獄寺く・・・・お、れ・・・もう・・ッッ、・・!」




ユサユサ、と腰が蠢き それ以上の行為を催促する。
恥ずかしくて、でもどうしようもなくて 焦がれる身体は
純粋に熱を求め 足がつかない感覚に陥っている。


獄寺は掃除用具のロッカーの扉を思い切り開けると、
途端に押し倒す形で 愛しい恋人の上に乗り上げた。
ぴたり、と体が布越しにくっつくと、情事の続きを身体中が勝手に
行い始めたのであった。




「じゅうだいめ・・・・っ!・・・・貴方が、・・・欲しいっ、・・・」



熱に魘される少年は銀髪の髪を宙に煌かせて
下に組み敷いた恋人の体を食い尽くすみたいに
舌で、唇で すべてを愛撫した。



捲りあげたシャツの白さより露になった
綱吉の肌の方が白く美しいと少年は想った。
まだ体操着に着替えていない二人は、制服を着たまま 情欲を発散させていたのだ。
綱吉の胸元に締められている紺色のネクタイを激しく解くと
荒々しく辺りに投げ捨てた獄寺は、まるで雄雄しい狩り人に似ていた。



「ごくでらくん・・・・ごくでらくん・・・っ!」



凛と華麗に、色鮮やかに 自分を組み敷くその人は
男らしい荒っぽさを見せ付けている。
端整な顔立ちから滲み出る色気と独占欲は
綱吉の卑猥な身体をうねらせ、高揚させるばかりだったのだ。


欲し、焦がれる その存在に飛びつき、
綱吉は自ら擦り寄る形でその中心と腰を揺さぶっていた。

あまりに淫らな身体は、何度も彼を受け止めてきた証拠なのだ。
経験と快感が記憶と身体の奥深くに すでに刻まれてしまったことを印象付ける。



「じゅうだいめっ・・・・、オレに下さい・・・・!・・あなた、のすべてを・・・」



低めのハスキーな声は綱吉の耳を掠ったあと、
脳内の芯を刺激していく。
その薄い乾いた唇は薄桃色の果実にしゃぶりつくと
舌でころころと 乳首を弄び、乱していったのだった。



「やぁ、あぁンッ・・・!ぅ、は、・・・ア、ッ・・・」




止め処ない快楽と愛撫に気が狂う少年は
縋りついた身体をさらに密着させ、汗ばんだ手をきつく
相手にまきつけた。


銀色のほどよい爽やかなシャンプーに火薬の匂いが交じる。
アクセサリーをした長い指が綱吉の中心を燻ると、
後ろの窪みに宛がわれる。


火が吹くように その秘部から甘い疼きと熱が生まれ、
愛液で幾度か慣らされた そこはピクピクと 大きな異物を
待ち焦がれるように息を吹き返していく。




「ふぁ、ン・・・っ、・・・あぁ、・・・っ、ひゃっ、・・」




ビクビクっ、と体が震え 獄寺の髪を撫ぜ回す。
綱吉はしがみ付く自分の足が 獄寺の腰に回り、
放すまいとしている事実に羞恥と安堵を同時に覚えたのであった。




「・・・・・可愛い・・・・・じゅうだいめ、・・・好きです」





口から出した 桃色の果実をこねくり回し、
潰したり ひっぱったり、ときには吸い上げたるする
破廉恥な行為を繰り返しながら 目の前の碧色は 眩しいものを
みるかのような色で 瞳を細め、幸せそうに 薄っすら微笑んでいる。




息が上がる自分の呼吸を整えつつも、
その人から瞳を逸らす事無く 眼球に映す綱吉は
淡く灯る 彼の愛情と恋心を何よりも慈しんだ。
好きで、好きで、大好きで・・たまらないという恋情を
何よりも愛したのだ。



「おれも、・・・・獄寺くん・・・・・好き、だっ」




ぎゅうっ、と抱きつき 彼の薄い香水を嗅ぐ。
甘く 大人の匂いを漂わせる 少年と自分の違いが
こんなにも近くで感じられる喜びと切なさとが複雑に絡み合っていく。


綱吉は次第に自分に宛がわれた彼の熱を
身体中で受け止めて、快楽と妖艶な色香に圧倒されながら
その先の行為をただ静かに待っていた。




ズズズッ・・・・、と入る大きく、そして昂ぶった中心は
綱吉の秘部へと 面白いくらいゆっくりと挿入されていった。



「んんっ・・・・、ア、ッン・・・・は、ぁ・・ごくでら・・く、・・・ッん」






甘い奇声。扇情的な顔。全てが奪いつくされ、生まれていく。
獄寺の情愛を一心に体で受け、激しく開始される律動に
綱吉は神経を集中させていくのだった。




「あ・・・っ、・・・あぁ・・・・、・・・・ごくでらく・・・ぁあンッ!」



ギシギシ、と床がなる。服が身じろぐ音が聴こえる。
銀髪の少年が締めるネクタイが垂れ下がり、綱吉の肌蹴た服に覆いかぶさった。
白いワイシャツから覗く彼の血色のよい肌には自分が残したキスマークが
幾つかついている。綱吉は目の前に覆いかぶさる この人が自分のもの
に見えて、気分が高揚していくのがわかった。


きっと自分は彼よりもっと無数の赤い花が咲き誇っている
に違いない、と想った。実際そうであるのは確実で
獄寺のキスマークに 深い情愛を感じ、また嬉しくなったのであった。



「ひゃンっ・・・・、は、・・・あぁ・・・獄寺くん・・・、あぁ、ぁッ・・・!」



絡みつく愛液、愛撫、奇声。
どれもしなやかな音に交じって 激しい行為を求めていた。
エスカレートしていく 重なりに 満足でなく危機感を抱かなくてはいけない
とわかっているのに、やめられない 自分達は最早 引き返せないのだと
わかっていた。綱吉はがんじがらめになっている自分達の心に
涙を流しながら 甘い快楽の海へと沈んでいった。




「じゅうだいめ・・・・!そろそろ、っ・・・・・やべ・・・オ、レ中にっ・・・・」




我慢が出来なくなったのか 射精欲を抑えつけようと試みた
獄寺であったが いとも簡単に それを制する 綱吉の内壁の
熱さとキツさに 屈してしまうのであった。




「い、・・・いいから・・・・・ごくでらく・・・・・おれ・・・・も、うっ」



早急に達成感をもらいたいのか綱吉は 獄寺の中心を
ぎゅうぎゅうに内壁で締め上げたのだった。
綱吉のそんな激しい締め付けに、耐え切れず 獄寺は甘いため息をもらすと
ドクンッ、と白濁とした愛蜜を 思い切り少年の華奢な体内へと
吐き出すのであった。




「っ・・、は、っ・・!く・・・・ッーーーー気持ちいい、です・・・じゅうだいめっ・・・!」





獄寺の愛液が綱吉の秘部から溢れ出すと、零れ出した。
ぬるぬる、とした感覚に 体が疼く。



「あ、あぁんっ、・・!ごくでらくん、の・・・いっぱい・・・で、たぁ・・・ッ・・」



ブルッ、と震え上がる綱吉の中心を指先の爪で引っ掻いた獄寺は
綱吉の首筋に顔を埋めて 言った。





「愛してます・・」








「ーーーーーっ・・・!ごくでらく・・・・ひゃ、ぁぁああアンッ・・・・!!」




程なく、綱吉は膨張した自分自身を
彼の愛撫と言の葉で 甘い愛液を愛しい人の腹部へと
吐き出すのであった。












獄寺くん。


おれも こんなに君が好きで




おれもこんなに 君を愛してる。








それなのに・・
愛してるのに・・・なんでかな











なんでおれ、言えないのかな?










こんなに簡単な事を、どうしておれ
大切にできないのかな?





皆の前で 君が好きって、どうしておれ、言えないの?






気持ちに自信がないわけじゃないんだ。
自分に自信がないだけで、・・・おれは














獄寺くんが好きって、皆に言おうとしたことも
ホントはあったけど



どうしても言えなかった。







君への想いが苦しくて、胸につまって





それ以上、言葉が続かなかったんだよ。








ねぇ、獄寺くん
おれ








君が好き。










君を、愛してるんだよ。






気づいてる?













+++













神様、おれにあと少しの勇気を下さい。


獄寺くんが好きなんです。
  


























「これ・・どうぞ」





「え・・・っ」






突然渡された 花束に意味なんてなかったのかもしれない。
ただ、そういう気分だったのかもしれないし、その人なりの
好意の表れだったのかもしれない。

そう想おうとしたけれど、やっぱり彼の想いがつまっているそれたちが
おれへと静かに語りかけてくる。ちゃんと意味はあるんだって。
好意とかそんな簡単なものではなくて、もっと深いところで息づく
心の花なんだって、ことを。






「メリークリスマス!・・・クリスマスプレゼントです」






扉を開けた向こう側には、いつもの彼が佇んでいた。
ただ違っていたことは 彼が赤い薔薇を沢山抱え込んでいたことだった。



綱吉は目を瞠ったあと、頬が赤くなっていくのがわかった。
恥ずかしい・・・でも、・・・・・純粋に嬉しい。そう、感じたのだ。





「今日のクリスマスは・・二人で過ごせませんし、だから・・
ここで特別なプレゼントをお渡ししておこうかと・・・」



少し照れた口調に 掠れた声が交じる。
悲哀と切なさで染められた碧色は 壮絶なまでに綺麗で哀しい輝きをしていた。




12月25日。クリスマス。
昨日のイブは 家族団らん、クリスマスパーティー。
そして25日は補習で学校へ行くという形になっていた。
もう冬休みに突入したというのに、成績が悪かったばかりに
補習を受ける羽目になってしまった綱吉だった。

それに付き合う獄寺は もしかしたら二人きりで
クリスマスを過ごせるのでは と淡い期待を持っていた。
が、綱吉が受ける補習にはいつもきまって仲間が予めついていた。
野球部の山本武、そのひとである。

決して彼は頭が悪いわけではないのだが
野球一筋な上に天然ボケも手伝って
補習には参加する常連者には違いなかったのであった。



そんなこんなで、二人だけの補習、そのあと二人だけで
クリスマスパーティーという淡い獄寺の期待は
一人の男によって見るも無残に消されたのだ。

山本を省いて二人でパーティーする案は
山本に疑心を募らせ、自分達の関係に気づかれてしまう
危険を臭わせていたからであった。
リスクが高い行動は出きるだけ避けよう。
友情以上の不自然さを仲のいい親友に見せてはもともこもない。


節操なしに行為を学校で行っている二人にしては
謙虚すぎる自制であったが 最近
二人でちょくちょくいなくなる行動に不信感を募らせている山本の
疑惑を解くためには 多少の我慢は必要だと 判断する少年達だったのだ。



獄寺としては、きっとばれても構わない関係
なのだろうが、綱吉としては今まで秘密にしていた分
ハクがついて ますます秘密にしておきたいという気持ちが育っていった。

けれど 本当はこのままで言い訳は無い。
綱吉自身、わかっているのだ。


この関係には限界がある、と。
そして、自分が少しの勇気を出せば 解決することなのだ、と。



だが その勇気がまだどうしても足りないのだ。
踏ん切りがつかない・・宙ぶらりんな想いが胸の中をかき乱し、
荒れ狂う嵐のごとく、胸の中を渦巻いていたのであった。





「ありがとう・・・・獄寺くん」





彼の熱い想いが形となって この薔薇達に宿っていた。
綱吉は 綺麗で、甘い匂いの香る薔薇を受け取ると
玄関の花瓶に即座に飾りつけた。




「大切にするね・・・!たとえ枯れても、ドライフラワーとかにして
ずっとずっと大事にするから・・・」


上目遣いにそういって、目の前の少年を覗き込めば、
朝の輝きに紛れて 碧色の双眸は優しい光を放って佇んでいた。





「ありがとう・・・ございます」




感無量といわんばかりに瞳を細めて
小さく笑う獄寺に 自分が何も用意していなかったことに
今更ながら綱吉は気づいた。


補習のこと、そして二人きりのクリスマスを諦めていた
自分にとって プレゼントは無用なように思えてならなかったのだ。
今更後悔しても、しかたない。

綱吉は せめて今ここで、なにか彼が喜ぶようなことが
出来たならと 想ったが、今日に限って補習仲間のひとりが
家まで迎えに来てくれたので タイミングがつくづく悪いなぁ、と
ついつい思ってしまったのだった。





「よっ!ツナ!!はよー。」



「山本・・・・・お、おはよ!」



「・・・朝からうるせーぞ、野球バカ」




他愛ない言葉の挨拶。
けれどどこかギクシャクした匂いが漂う。


山本は持ち前の勘のよさから”ん?なんか変じゃね?”と
さらりと気づくが 二人の頑なな態度に押されて 半ば強引に
なんでもないと納得をさせられることに相成ったのだった。




三人でクリスマスの日、学校に向かう姿は
仲むつまじい友人三人組に傍から見えたものの、
裏を返せば 少しだけ息の詰まる距離にいる 恋人たちが
交じっていたのだった。





























「ふ〜・・・・、ちょい休憩!!なんか喉渇いたな」


陽気な声が教室内に木霊する。
山本の声は一際馬鹿でかくて 和やかだ。

シャーペンを手放し、机につっぷした山本は 大きな伸びをして
オレの方へと視線を向けてきた。
今、おれ達は自分のクラスで補習者用のプリントを解いている。

オレの左横には山本。
オレの真正面前の席には獄寺くんがおれの方を向いて
後ろ向きで座っている。もともと補習を受けるのはおれと山本だけだから
成績トップの獄寺くんの分のプリントはないのだ。


そんなこんなで二時間ほど 根を詰めて問題を解いていたが、
丁度十二時になったので そろそろ休憩しようと
山本が声をかけてくれたのだ。


そういう山本のさり気無い気遣いは ほんと、胸に沁みる。
ありがとう山本。友達になれて、本当によかったって、おれ想ってるよ。


「じゃ、おれ何か飲み物買ってくるよ。二人は
お弁当でも出して先食べてて!」


おれが勢いよく立ち上がると 獄寺くんがすかさず
オレがいきます、と大声をあげて おれの行動に割って入ってきた。
おれは手伝ってもらってる手前、それだけは申し訳ないというか
してもらったら悪いという罪悪感みたいなものに苛まれて
やっぱり自分がいく、と信念を頑なに曲げなかったのだった。

獄寺くんはおれの強い想いを知ってか、一歩下がって
困ったように頭を掻くと ”10代目がそこまでおっしゃるなら”と
律儀に おれの顔を立ててくれたのだ。ありがとう、獄寺くん。



おれは二人に飲みたいものを聞くと、
大手を振って教室を出た。


が、売店まで行く途中 財布を持ってないことに気づき、
 カバンの中にある財布を取りに教室まで静々と戻っていくのであった。


あぁ、恥ずかしい。
だから自分はダメツナなんだよなぁ・・。

そんなマイナス思考が沸々と顔を出し始めた最中、
教室の中から二人の話し声が聴こえてきた。
扉を開けようと手をかけた瞬間。


おれはその内容に、思わず手を止めてしまっていた。










「・・・・・・おまえら、付き合ってんだろ?」





核心をズバッ、と切り裂く刃は 雨の守護者の特権だった。
刀で切られた感覚に陥れられる。
あまりに自然と浮き上がった言葉に おれはその場で硬直してしまっていた。


山本・・・・気づいてたんだ。
息が 瞬間つまった。
隠してた自分達の甘さを今、知った。



「・・・・・・・・・・・・・・・・・・なんでそう想う・・?」



静かに答えるハスキーな低い声。
かすれ気味の独特な色を放って彼はどこまでも落ち着いた雰囲気を保っていた。


獄寺くんはおれと違って全然動揺していない。
もしかしたら、気づかれてる・・って悟ってたのかな・・・?
確かに山本は最近おれたちの仲をちょっと変に疑ってたけど
事件に巻き込まれた、とかそっちに発想はいかなかったんだな・・・。
おれたちが付き合ってるって・・・なんで想ったんだろう・・。


山本の言葉にぐるぐると頭の中が困惑でいっぱいになって、
思考がパンク寸前のおれに対し、聞かれてる張本人の獄寺くんは
疑問を疑問で返していた。 おれよりやっぱり 一歩前をいっている大人だと
おれはつくづく想った。




「う〜ん、・・なんとなく。お前等 前にも増して仲いい感じ
するし・・・二人でどっかいなくなるし・・・なんかに
巻き込まれて二人で片付けてるって感じしなかったし・・・」


ほぼ本能というべきか。感覚で悟る山本の鋭さは
尋常じゃない、と感じた。 おれは息を呑んで
ドアの前で立ちすくんでいるばかりだった。

この向こうに踏み出す勇気が・・・まだない、んだ。




山本の答えに、浅いため息を漏らした獄寺くんは
窓の外へと視線を逸らして 遠い何かを見据えようと
瞳を細めているのが見えた。


その姿が・・どこか寂しそうなのは、なぜなんだろう。




「カマかけんな。・・・オレと10代目はそんなんじゃねぇよ」




とくに抑揚も無く、なんの感情も無く
彼にしては 酷く冷めた言葉が空中にぶら下がる。


おれは 心臓が どくん、と脈づくのがわかった。



まるで獄寺くんに拒絶されたように 聴こえた。
自分で秘密にしよう、といったくせに
いざ そういう場面に出くわしたとき

彼からそんな言葉を聴きたくなかったと想うのは
おれの傲慢さと欲深さが故だった。



おれはずるい。
汚い。醜い・・・・逃げてばっかで、
肝心なところがなってない。
大切な人に嘘まで吐かせて それでも
勇気が出せない、世界一の臆病者だと想った。
実際、そうだった。






「・・・・・・獄寺、おまえ雰囲気変わったの、自分で気づいてるか?
ツナを見るときの目・・・・前と全然違うぜ?・・ツナもだ。
なんかツナ・・・お前見るとき 熱っぽい目で見てる・・・」


山本は変な核心を持って 話を先へと進めていく。
恥ずかしいけど、細かな表情に そういう相手への
気持ちが滲み出てしまっているみたいだった。
無理もないのかもしれない。・・・だっておれは獄寺くんが好きなんだ。





「ーー・・勘違いすんな。お前の思い違いだ、んなモン。
・・・・たしかに、正直言えば、・・・・・オレは10代目が好きだ」



迷い無く、さらり、とおれへの気持ちを山本へと
暴露した獄寺くん。その潔さに 瞬間、眩暈と愛しさを覚えてしまった。


獄寺くんが放った言葉に 山本は驚くわけでもなく
どこか納得した形で ”あぁ”と相槌をうって 獄寺くんの
言葉を慎重に待っていた。山本って・・そういう肝心なところは
聞き逃さないなぁ、と感じる。





「けど、10代目は違う。・・・・考えても見ろよ。あんなに渋くて
カッコいいお方がオレなんかを好きになるかよ・・」



自分を卑下した言い方に、胸が熱くなる。
獄寺くん・・・そんな風に、言わないで。おれーーーー君が好きなんだ。






「・・・・オレなんかとじゃ、10代目に恥かかしちまうだけだ。
オレが至らないばっかりに・・・あの人を傷つけちまう」








「獄寺・・・」









その瞬間・・・・







ハッ、とした。





獄寺くん、・・君・・・・もしか、して・・・・



















『それに・・・・、さ・・・・。
は・・・・・・恥ずかしい、って・・・・・いうか・・・』













もしかして














『・・・・・・・・・そう、ですよ、ね』










あのときの言葉、自分のことだと想って・・・・?













獄寺くん勘違い、してる・・・!!





違うんだ獄寺くん。
あの言葉は、自分に言った言葉なんだ。



自分があまりに獄寺くんと釣合わなさ過ぎる
ダメツナだから、おれ・・・自分が自分で恥ずかしいって思った。
決して君と恋人同士になることが恥ずかしいってわけじゃないんだよ・・・・!







色んな誤解と正しい言葉が喉から出てきそうで
パンク寸前だった。


だけどやっぱりおれは臆病者で
足が竦んで 一歩 この扉の向こうに進むことが出来ない、ダメツナだった。






「ごく・・・でらく・・・・・」




沢山の想いが言葉が、涙になって 流れ落ちた。
でも、足は竦み、手は震え、前に進むことが出来ない自分。




どうすれば・・・どうすればいい?
誤解をとかなきゃ。



君が好きだって、今いわなきゃ・・・絶対後悔するのに・・・!






さめざめと泣く、ドア越しのおれに 背後から忍び寄る影がひとつ、
姿を目の前に現した。








「リ・・・ボーン・・」




小さな背に黒い帽子を目深に被り レオンを肩に乗せて
黒スーツを着こなして 廊下の窓枠に腰を下ろしていた。
くりっとした黒の目がこちらをじっと見つめている。


おれはビクッ、として 黄色いおしゃぶりの赤ん坊に圧倒されていたのだった。






「ったく・・・だからおめーは いつまで経ってもダメツナなんだよ」



赤ん坊の声は心の蔵を通って脳天まで響いてきた。
何か大切な事を忘れているおれへと 説教をたれる 彼こそ、家庭教師の鏡だと思った。







「ツナ、おまえ獄寺に薔薇の花束貰ってたな。おまえ、
ずっと大事にするだのほざいてたが・・・本当に
おめーが大事にしなきゃなんねーのは、もっと別のもんだろーが」





すべてをお見通し、といわんばかりの赤ん坊は
自分と獄寺が付き合ってたこと、今朝クリスマスプレゼントを
密かに貰っていたことまでも知っていたのであった。



隠しごとは この家庭教師に通用しない。
今、身に沁みてわかる。






「べつ・・・の、もの・・・・」






反復して、受け取った言葉をなぞってみる。
ぼんやりとだけど わかるような気がした。
でも曖昧で不確かな 言葉たちは形にはならない、まだ。





「・・・・獄寺はおまえにもっと別の大切なモンをくれたんじゃねーのか?
おめーみたいなダメツナに、愛の言葉なんざ囁く奴は、・・・獄寺くらいだ」











「・・・・・・・・・!」






そうだよ。
獄寺くんは こんなダメツナでも好きだって、いってくれたんだ。
こんなおれに、付き合おうって・・いってくれたひとなのに。
おれ、なにしてたんだろ・・・・?


獄寺くんがほんとにくれたものは
プレゼントとか、そんなんじゃなくて・・・・



おれへの真心じゃないかーーーー・・・。









「貰った花、大事にする前に・・・ツナ、おめーは くれた相手を大事にしなきゃなんねぇ。
周りの目ぇ気にするより、自分のダメさ自覚するより、
おめーを好きだとまっすぐに言ってくれる奴信じて、大切にしなきゃならねーんじゃ
ねーのか・・・?ホントに守んなきゃなんねェ、大事なモン無碍にして泣いてんじゃねーぞ」






「っ〜〜〜〜・・・・う・・」






ゴメン、獄寺くん。
おれ、ホントダメツナだ。





ダメツナだけど・・・・・







許してくれる?












おれ、今なら・・・・


きっと今ならーーーーーーーーーーーーー






前に、進めそうな気がする。










ありがと、リボーン。
背中押してくれて。勇気、出たよ。






今、はっきり 大切なモノ、見えたよ。
おれが大事にしなきゃなんないものも、守らなきゃなんないものも、
全部ちゃんと わかったよ。










今日はクリスマス。
目に見えるプレゼントはないけれど、
ひとつだけ 君に渡せるプレゼントがあるよ。





獄寺くん・・・・





















ーーーーーーーーーーーーーーガラッ!!


















「あ、・・・・ツナ?」






「・・・・10代目?」









勢いよく扉を開けて、教室に飛び込んでいく。
二人は突然の音に体を反応させて おれが入ってくる様を
見つめて 声をかけてきてくれた。


けれどそんなこと、お構いなしに おれは二人の近くまで寄っていく。
何も言わず、ただ急いで 間に入るみたいに。



すると獄寺くんと山本は 更に驚いて 二人とも席を立って
こちらに視線を合わせてきた。


一体どうしたんだと、いわんばかりの表情だった。
そしておれは漸く 二人の間で 口を開いた。


山本に向かって、おれは叫ぶ。











「山本っ・・・・・、おれ、獄寺くんが好きなんだ!!」







「・・・・え」






「大好きなんだ!愛してる!!おれたち、
付き合ってるんだーーーー・・隠してて、ごめん!」






あと一歩の勇気。






それをくれたのはリボーンだった。






おれの師匠が教えてくれた、大切な事。
大好きな人を 大切にすること。




それだけだ。






「つ・・・ツナ・・・・?」




唐突すぎる言葉に、山本は絶句な表情だった。
おれに呼びかけながら 様子を窺っているみたいだ。


そうして、今度は 体を背後にくるりと向けて、
おれは肝心の大切な人へと向き直る。





獄寺くんは ぼーっと立っているだけだった。
まるで白昼夢をみているみたいに 無心だった気がする。



けど、おれはそんな彼にお構いなしな行動に出る。







ぐっと獄寺くんの首に腕を回し、引き寄せる。




「ぅわっ・・・!?」


小さな悲鳴が聞こえたのとほぼ同時に、おれは
背伸びをして 彼の唇を 強引に奪い取った。













「っ・・・・、んぅ・・・・?!!!」







瞳を思い切り見開いて、碧色の双眸は
目の前に今起こっていることをしっかりと 見つめていた。




重なり合う唇。
初めて自分から仕掛けたキス。
それも深い、口づけ・・・だった。







「・・・・・・・・・・・・・・・おいおい、マジかよ」





背後から 山本のすっとんきょうな声が聴こえたけれど
おれはもう、おかまいなしだ。



キスに夢中だった。
半分は、一生懸命、ってやつだった。



数十秒かして ようやく唇を解放した先には
銀髪の少年が呆然と 顔を赤らめて立っていた。







「じゅ・・・・・・じゅうだい、め・・・・・」






壊顔した彼は 唇を夢見心地でなぞっている。
今起きたことが現実かどうか 確かめているようだ。
おれは獄寺くんに、今日一番の微笑を投げかけた。







「好きだよ獄寺くん・・!おれ、君が大好きだ!
今まで付き合ってること隠して欲しいって言ってごめんね・・・。
おれ、ダメな自分が恥ずかしくて・・。君がおれと付き合ってるって
周りに知られたら、きっと獄寺くん 恥かくと思ったんだ。おれ・・・こんなだし、
君とおれじゃ・・・雲泥の差で・・・つりあわない・・だろうから」





今までの誤解がとければいい。
そう心から思った。


少しでも自分の気持ちを知って欲しくて。




だから、少しの勇気を今、振り絞る。






「そんなことーーーーーっ・・・!なにいってんスか!!
・・・オレは10代目と付き合えてスゲェ幸せで、
ほんと・・・・オレの方こそ、つりあわないって、いうか・・・あなたとオレじゃ
住む次元すら違うってのに・・・・オ、レは・・・」







「獄寺くん・・・・、もう、いいんだ・・・・。ごめんね・・・・!
おれ、わかったよ。大好きなら、それでもういいんだって。
釣合うとか、釣合わないとか・・・ほんとに大事なのはそんなことじゃ
ないって・・・わかった」






「・・・・じゅうだいめ・・・・!」






「ーーーーメリークリスマス、獄寺くん!君にクリスマスプレゼント。
目に見えないけど・・・・もらってくれる?」





「ーーーーえっ・・?」







「君が大好きって気持ちを込めて・・・おれからもう一度、やり直すね」











おれが獄寺くんにあげる、目に見えないプレゼント。
それはーーーーーーーーーーーー。






































「獄寺くんが好きだよ・・・・・おれと、付き合って下さい」





































君が、想い描いていた 恋人同士になること。































「ーーーーーーーーーーっ、・・はい!もちろんです。
・・・・ありがとうございます、10代目」



































獄寺くんは そういうと、




とびきり綺麗な笑顔でおれをぎゅっ、と抱きしめてくれたんだ。


































「おいおい・・・おまえら、見せつけてくれるのな・・?」




「まったくバカップルはこれだから困るぜ」

















意識の遠くで、山本とリボーンの声がしたけど、
獄寺くんの心音が近くでよく聴こえたから
二人の声は 聴こえなかったことにしておくよ。

















獄寺くん。










あの茜空と夕映えに写る君の夕影を思い出すと
今でも胸が熱くなるよ。
あのとき くれた君の情熱と想いの籠った愛の言葉が
本当はずっと ずっと胸の中で響いてたんだ。



忘れないよ、おれ・・ずっと。











だから








君も忘れないでね。



















おれの言葉も、おれの体温も。

















あの壮絶なまでに美しく凛と そこに在った
おれの夕影の色褪せない思い出と共に。












君の中に、残ればいいと







心から、ーーーーーーーーー祈る。






















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青井聖梨です、こんにちは!!
裏要素も今回頑張っていれてみました。
あまりエロスは感じられませんが 楽しんで頂ければ
幸いです。獄ツナがラブラブでありますように〜vvv

青井聖梨 2007・12・25・