「ちび達と仲良くして」




「・・・へ?」




「それがおれへの誕生日プレゼント!」




「ーーーー・・・・はぁ・・」












あぁ、オレはこの人のことが・・・好きだ。


そう想うしか、なかった。








≪present for you≫












10月14日。
それは大好きな貴方の誕生日。


そして、恋人たちにはおそらく
外す事のできない一大イベントであり、
甘い一日を過ごせるであろう貴重な時間。









だというのに。














「ちゅぅ〜〜なぁぁ〜〜〜〜っ!
ランボさんお腹空いたモンね!ケーキよこせぇーーっ」



じたばたじたばた、と。
10代目の部屋で騒ぐアホ牛。



「ランボくん!これ・・私の分のケーキ、どうぞ?」



「がははははっ!いただきま〜すっ、だもんねッッ」




10代目に抱きかかえられて アホ丸出しに
食い物にあり付こうとするアホ牛。



「こら!ランボ!それは駄目だ。京子ちゃんの分じゃないかっ!!
ーーごめん京子ちゃん。・・ランボにはおれの分あげるから気にしないで」



それを制しながらもアホ牛にどこまでもお優しい、
寛大なお心の持ち主である10代目。・・渋いっス!
けど、・・・・アホ牛を絞め殺してぇ・・・。


「でも・・今日はツナ君の誕生日パーティーだし、
ツナ君が主役なんだよ?」



10代目を気遣う笹川。



「そうです!ツナさんは、誕生日ケーキを
食べなくちゃいけないんですっっ!!」


その横でぎゃーぎゃー喚くアホ女。



「あー、・・うん、−−でもさ、ランボ・・言い出したら
聞かないし・・・・・」



困ったように苦笑を漏らす 10代目。
愛らしいっス・・・!


「ツナァ〜〜〜!はやくしろぉーーー!ランボさん腹へった〜〜」


10代目の胸の中で不満を漏らしながら騒ぎ始める
うぜぇアホ牛。羨ましいやら、ぶん殴りたいやら・・
オレは10代目の誕生日プレゼントが”それ”でなかったら
絶対に今ここでアホ牛を果たしていただろう。



でも。今日のオレは、違う。





何故なら、10代目への
誕生日プレゼント、がーーーー”これ”だからだ。






「・・・・・おいアホ牛。オレの分のケーキやるから静かにしろ」




真っ白な生クリームたっぷりのショートケーキがひとつ。
ずい、とアホ牛の前に差し出したオレは 出来るだけ言葉を選んで
怒りを抑えながら 口にした。

オレの意外すぎる行動が 皆の視線を一瞬に掻っ攫ったのは云うまでもない。
アホ女はもちろんのこと、笹川、山本、芝生頭まで目を丸くして
こちらを凝視していた。そして何より オレの大好きな あのお方まで
瞳を瞠って オレを見つめてくる。



そりゃないっスよ、10代目。
オレ・・・そんなに信用ないっスかね?



10代目がお望みになった誕生日プレゼントじゃないっスか。
男獄寺、やると決めた事は 最後までやり抜く覚悟っス!!
見ていて下さい、10代目!!





「あららのら〜〜?アホ寺、ついにランボさんの
子分になる気になったのかぁー?」



「こらっ、ランボ!」



うぜぇ アホ牛。いつもなら病院送りにしているところのオレ。
血管が浮き出そうなくらい怒りは沸々とオレの中で湧き上がっている。
我慢ってのも限界があることをオレは知っている。
だからこそ アホ牛を直視しないように オレは自然と視線をずらす。
少しでも気を紛らわせるために。 ・・10代目にいわれた誕生日プレゼントを、やり遂げるために。




「いいんだもんね〜!アホ寺はおれっちの子分なんだもんね〜。
おい アホ寺!さっさとケーキよこせぃっ」



「ら、ランボっっ?!」



オレが黙って何も云わないことをいいことに
アホ牛は更に調子づいた口調で オレの差し出したケーキを
強引に奪い去った。10代目はその様子をみて、一瞬に青ざめたかと思うと
アホ牛の代わりに オレへと謝ってきたのだった。


「ご・・、ごめん獄寺くん・・・っ!!ほら、ランボ!
ちゃんと獄寺くんにお礼・・・」


そこまで言いかけて 10代目はアホ牛の方に視線を落とす。
アホ牛はというと 10代目と視線が合うや否や 10代目に甘え始めて こう言った。




「ツナぁー〜〜っ、ランボさん上手く食べれない。食べさせろぉ〜〜っ・・・」 





眩暈がするほどの殺意を ・・オレは嘗てこれほどまでに感じた事があるだろうか?




ぶっ殺すぞ!! とか ざけんじゃねーアホ牛!!とか。
叫んでも叫び足りない 心の悲鳴が 血液に混じって 頭に上って来る。


わなわなと震える オレの指先。
まるで血を吸いたがっているハイエナのように 艶かしく動いていた。


10代目に食べさせて貰える、という行為は
恋人であるオレの特権・・みたいなもので・・・そうであって、欲しかった。



でも。




「・・・・自分で食べろよ〜」



「つーーーーーーーなぁーーーーーっ・・」




「あ〜〜〜・・もう、静かにしろって・・・」




そう言いながら 呆れ顔でケーキをアホ牛の口に運ぶ10代目。
嬉しそうに口を開けるアホ牛。甘えた子供の仕草に、少し微笑む・・・10代目。





・・・・・・・・・・・・・。




あー・・・・・、やべぇっ・・・。







泣きそうだ、オレ。











ぎゅっ、と唇を噛み締める。





「じゅ、じゅうだいめ・・・!オレ、ちょっと下で煙草吸って来ますんで
御用があれば 遠慮せずお呼びください!!」





「へっ・・・?ーーーーあ、・・・うん」



アホ牛にケーキを食べさせながら 不意に10代目が
こちらに視線を向けてきた。オレはいつもどおり にかっ、と微笑んで
一礼すると 10代目がいる この部屋を出て行った。




逃げるように、という表現が正しいのかもしれない。
オレの言動に誰か訝しがっているだろうか?
 
山本あたりが少し目を細めていた気もするが
今のオレには どうすることもできねーし、何より気づかれようが
気づかれまいが どうだってよかった。



ただ、こんなことに 惨めだと感じる自分の小ささが嫌だった。




恋人の特権を奪われた事も、10代目の胸に擦り寄って甘えるアホ牛も
オレの気の持ちようによっては どうでもいいことに変換できる。


なのに 今のオレにそれが出来ないのは 
オレが羨ましいと・・・嫉妬心を心の中で剥き出しにしているからだ。
子供相手だと割り切れず、10代目を独占したい と想っているからだ。






今日という日。
10代目が生まれてきてくれた大切な日を
つまらない自分の嫉妬心や独占欲で穢したくはなかった。


だから自分を自制できるギリギリのところで部屋を出た。
あの人の誕生日を、心から祝うために。



喜んでもらう、ためにーーーー。




















『10代目!!誕生日プレゼント、何がいいっスか?
オレ、なんでも用意します!!・・なんだってしますから
何なりとおっしゃって下さい!!!』






『えぇ?!いいよ、そんな・・・・悪いよ』





『いいえ!全然悪くないっス!!だってオレ達・・・その、
恋人同士じゃないっスか・・・・!!!!』




『・・・!!!』





『恋人同士なら、−−−当然のことっス』







今でも はっきりと覚えてる。
10代目の照れた横顔。




『・・・・・う、・・・・うん。そうだ、ね』




躊躇いがちに頷いた 柔らかな声色。





『ーーー・・・ほんとに、なんでも・・・いい?』




『はいっっ!!!なんなりと・・・!!』




遠慮した、ーーーでも嬉しそうなオレを見つめる瞳。






『じゃあ、ーー・・おれの誕生日パーティーがある日、
だけでいいから・・・』



『は、はいっ?』





『ちび達と仲良くして』




『・・へ?』







『それがおれへの誕生日プレゼント!』










あのとき。
二人だけで 恋人らしい誕生日会がしたい、だとか
甘い時間を一緒に過ごせたら・・・、だとか。

自分のことばかり考えていた自分が恥ずかしくなった。
一瞬になって 気が抜けて・・・・あぁ、これが10代目なんだな、と想って


もっと ずっと・・目の前に佇む 
その人のことが好きになったのを覚えている。







自分のためでなく、・・・いつも誰かのために。
誰かの平和を守るために そう在り続ける10代目。




オレも・・・・、オレもいつか   
そんな自分になれるだろうか・・・?







「・・・・・・・・・・・・・・・・・ぜってー無理だ」







階下。縁側。人気が全くない この場所で。
オレは静々と 煙草の煙を空へと吐き出していた。

10代目を祝うために皆上にいる。
お母様は買い物へいっている。今、この場所にはオレ、だけ・・。


やっと心静まる瞬間が、訪れた気がした。



今日一日、どうにかチビ達と仲良くしなくては、と想っていたけれど。
とてもじゃないが、あのアホ牛に優しくなんて出来そうにない。



オレは盛大なため息をひとつ吐くと
煙草を携帯灰皿に捨てて しまった。




上階に行くのが少し、躊躇われる。




覚悟と勇気、我慢が必要な あの部屋に戻る気力が
今の自分に残っているだろうか・・?


変な汗が背中に一筋流れた気がして、
こんな自分に嫌気がさした。




「せっかくの10代目の誕生日だってのに・・・
何やってんだオレは・・・!!」


自分を奮い立たせる意味で 喝を両頬に入れる。



ーーーーーパチンッ!!




入れた瞬間、人の気配がした。


咄嗟にそちらを見つめると、そこには小さな存在が一人。
オレの姿を見上げていた。




「ーーー・・なんだよ、イーピンか・・」



ほっとしたのか 気が抜けたのか
オレは胸を盛大に撫で下ろした。
こんなかっこ悪い姿を10代目に見られたくはなかったからだ。



こんなオレの様子に 困り顔を浮かべながらも
イーピンは中国語で何かを必死に訴えながら オレへと近づいてきた。
・・・多分、この感じだとーーーーオレを・・・励まして、る・・・?




「ーーー・・・・。・・・・・ありがとな、イーピン」



オレはイーピンの頭を軽く撫でてやった。
一生懸命な子供の言葉ってやつが 少し心に伝わってきたから、・・かもしれない。


イーピンは嬉しそうに小さく頷くと軽くオレにお辞儀をして
ズボンの裾をひっぱってきた。



”一緒に戻ろう”




そういう風に言っている気がした。






「・・・行くか」




オレは訳もなく微笑んで イーピンを胸に抱え込んだ。
イーピンは最初驚きながら、でも珍しく優しくしてくるオレに
喜びながら されるがまま オレの胸に寄り添っていた。



階段を上り、10代目の部屋へと再び入ったオレは
イーピンがいる心強さに救われるようだった。



アホ牛は相変わらず騒ぎながら食い物を物色している。
10代目は女子と仲良く話している。山本はリボーンさんとゴーグルした姉貴と
何か険悪になりながらも話し込んでいるようだ。

オレは狭いながらも一人分の空いている場所に座ると イーピンを
膝の上に乗せて 食い物にでもありつくかと、キョロキョロ見回して
適当に見繕った豪華な食事を口に運んだ。



「◎▽■¥+:×〜・・」


するとイーピンがオレの膝の上で何か言っている。
オレは同じモノをイーピンも食べたがっているのかと思い、
イーピンにそれを差し出してみせた。



「チキンだぞ?食べるか?」



そう聞いてみる。するとイーピンは首を横に振ると、自分が持っている食べ物を
オレにへと差し出してきた。肉まん、だった。



「ん・・・?なんだ?オレにくれんのか・・・?」



オレがそう聞くと、こくこくと頷きながら
小さなイーピンの手がオレの手の上に肉まんを置く。
そうして自分と肉まんを交互に人差し指でさしながら
何かを訴えかけてくる。 その動作を見ていたオレは
なんとなくイーピンがいってることを理解した。



「あぁ、・・・イーピン、お前が作ったのか?」



そう言葉にすれば、イーピンは嬉しそうに再び何度も頷いた。



オレは無邪気で健気なその仕草に 穏やかな気持ちが
芽生えるのが解かった。



アホ牛とは仲良く出来そうもねーが、
イーピントなら 仲良く出来そうだぜ・・。




”チビ達”にはもちろんイーピンも含まれる。
ならイーピンと仲良くしてりゃぁ 10代目への立派な誕生日プレゼントになる。
オレは段々と冷静さを取り戻してくる自分に安堵すると
イーピンがくれた肉まんを頬張った。



さすが、というべきだろうか。
中国出身のイーピンが作った肉まんは、ある種 本場の味といえる。
ほかほかの肉や野菜、外側の生地は柔らかく 仄かな甘みが窺える。
味付けも絶妙で コンビにで売っている肉まんよりも断然美味しいと思えるものだった。


「うめぇ!料理上手だな、イーピン」


オレはそういうと、空いている手でイーピンの頭を軽く撫でた。
イーピンは照れながら嬉しそうに微笑んでいた。


不意に、肉まんの具が口元についた。
オレはティッシュを探そうと辺りを見回す。
が、すぐに真下からティッシュが姿を現して、オレの口元を小さな手で掴んだティッシュが
拭ってくれたのだった。視線を落とすと イーピンが楽しそうに笑いながら
なにか言っている。 オレはガキなんて大嫌いだと常々思っていたけれど
こういう思いやりをもったガキ・・ではなくて子供も中にはいるのだと考えを改めた。


そうだよな。偏見はよくねーよな・・。
いいもんだな、たまにはこういうのも。




あ、・・・・。
もしかして10代目は こういうことをオレに
教えようとしたのかもしんねーなぁ・・。



ふとそんなことを考えていると
急に熱い視線を遠くで感じたオレは
意識をそちらに向けてみる。


すると10代目がこちらの様子を窺っていた。




オレは無事にチビと仲良くしている自分が少し誇らしく思えて
10代目に微笑みかけた。



が。







「・・・・あ、れ・・・?」




何故だろう。微笑みかけた途端 10代目はオレから目を瞬時に逸らした、のだ。
おまけにどこかぎこちなく、そわそわした様子で こちらを幾度か気にしているようだった。





「・・・・・?なぁイーピン。オレ、・・・・どっか変か?」



膝の上に座るイーピンに思わず話しかけてみる。
が、イーピンも訳がわからないといった様子で左右に首を振るだけだった。




「だよな」



おれは訳がわからず 不可思議な10代目の行動を
目の端に収めるしかなかった。







+++












暫くして、10代目がこちらに近づいてきた。






「獄寺くん・・!これ、ケーキッ」




”余ったんだ”


そう言ってわざわざ持ってきてくれた10代目。
どこか顔が強張っていた。


オレは少しぎこちない10代目に疑問を持ちながら
10代目の優しさに深々と頭を下げるのだった。




「すんません、わざわざ」



「いいんだよ。獄寺くんのケーキ、ランボが食べちゃったんだし・・」



「別にアホ牛にあげてもいいっスよ、これも」



オレははにかみながら 10代目を見つめる。
けれど10代目はどこか複雑な表情を浮かべて 苦笑していた。



「いや、・・ランボはいっぱい食べたから」



「そーっすか・・?んじゃ、ありがたく頂戴しますね」





オレはショートケーキの乗った皿を受け取ると
フォークで軽く一口分を 口に入れて味わった。



「んー、上手いっス!」


にこにこ、微笑を零し 喜ぶオレの姿を一瞬見つめて
10代目は”よかった”と一言漏らし、オレから視線を外した。



ん?さっきから10代目・・・オレの下をなんか
気にしてる・・?



オレは視線を落とすと イーピンが膝にのっていることに気がついた。





あぁ!!そうか。
・・・しまった、ーーーーオレとしたことが。



そういうことっスか、10代目っ!



オレは10代目がイーピンを気にかけている事を知った。
10代目の考えを目線で察したオレは 改めて
10代目がチビ達を大切に想っているということを痛感したのだった。







「イーピン、ケーキ食べるか?」



出来るだけ自然に零した。
10代目が言おうとしていた事を オレは即座に実行する。
任せてください、10代目!!



「+>*‘#&%??」


イーピンは不思議そうな顔をオレに向けてくる。
10代目は驚いた表情でこちらを眺めていた。

10代目、大丈夫っす!オレ、ちゃんと
チビと仲良くしてますよ!




「アホ牛は沢山食べたみてーだけどイーピンは
一個しか食べてねーんだろ?」


オレの問いかけに、イーピンは目を丸くしながらも頷く。
その答えをちゃんと確認してからオレは更に続けた。



「ならオレの分やるよ。不公平だもんな?」


そういって、オレはイーピンにケーキを差し出した。
端っこが一口分かけたケーキだけど。
オレの想いが伝わればいい、と想った。




「▽◎×&*!!」



イーピンはにこっ、と微笑むと律儀に手を合わせて
中国式のお礼を返してきた。深々と頭を下げて
何かを叫んでいる。おそらく、お礼の言葉だろうと感じた。



イーピンにフォークを渡すと 丁寧な素振りで
イーピンはケーキを一口分サイズに取り分けて 口に運ぼうとした、


そのときーーーー。






「だ、だめーーーーーーっ・・!!」




急に目の前で10代目が大声を出して
それを制した。






オレとイーピンは 何が起こったか理解できなかった。





「・・・じゅ、じゅうだいめ・・・っ?」




どうしたんスか??




目を丸くしたオレは どこか様子のおかしい10代目に
再び疑問を持った。違和感、が頭を過ぎる。




オレの膝にいたイーピンは少し肩を強張らせたあと、
はっとした表情で頬張ろうとしたケーキがささっているフォークを
10代目へと向けた。・・どうやら10代目もケーキが食べたかったのだと
思ったようだった。




なるほど!イーピン、頭いいぜ!
オレはイーピンの考えに賛同するように 言葉を添えた。



「あ、10代目も一緒にどうぞ!
もともと10代目の為のケーキですし・・」


なんかちょっと苦しい言い方だな、と
想ったけれど いわないよりかはいいか、と考えて
口にしてみた。


けれど、10代目は オレの言葉とイーピンの行動を見て
見る見るうちに顔を真っ赤に染めあげていったのだった。






「・・・・・・10代目・・・?」




いよいよ原因がわからなくなった。
急激に火照る顔を抑えながら、10代目が俯く。




「ち、違うんだ・・・・・。おれ、ケーキが欲しかった
訳じゃなく・・・て・・・・」



ぎこちなく、殊勝な声を漏らし、10代目は肩を竦めた。
そうして。




「・・・・・・・獄寺くん。−−−・・ちょっと、二人で話したいんだけど・・いい?」






いつになく頼りない声が耳の奥まで響いてきて
オレは”はい”と口にするしかなかったのだった。






+++



















「・・・・どうしたんスか?10代目」





人気のない階下。
リビングまでオレ達はやってきた。
今度は10代目と、オレの二人きり だ。



先ほどから様子が・・というか雰囲気が変わった10代目を前に
オレは自分が何か失態を犯してしまったんじゃないかと不安が胸をついた。
背中越しのまま、か細い声が 虚空に散漫する。
何か、呟いている。




「・・・めん」





「へっ?」






突然、10代目がこちらに振り向いたかと思えば
その顔は林檎のように真っ赤で 瞳を緩やかに揺らしていた。





「ごめんっっ・・・!!」




短くそう叫んで、10代目は オレの胸へと急に飛び込んできた。




「え、・・・えぇっ・・・?!」 



オレはあまりにも・・あまりな展開で素っ頓狂な声を出すばかりだった。



オレ、10代目になんか謝られるような事・・されたっけ、か?

訳がわからず軽い錯乱を起こしているオレに 尚もしっかりと
抱きついてくる10代目。


オレはとりあえず、10代目の細い背中に腕を回して、
順序を一つずつ正していった。

まずは・・・




「何が”ごめん”・・・なんスか・・?」






冷静な声を繕って 口にすれば オレの胸に顔を埋めた
10代目が ビクッと 肩を竦めて 答えた。




「おれ・・・・わかっちゃったんだ、獄寺くんのキモチ・・」



「?・・・・・・オレの、きもち・・・??」




訳がわからない。
でも10代目とこうして触れ合えるのは嬉しくて。
少し胸を弾ませたのだった。




「おれ、・・・ランボのこと抱きかかえたり、甘やかしたり、ケーキ食べさしたり
色んなこと・・・・君の前でしちゃったよね・・・?」




「・・・・・・・・・え?あ〜・・・、ハイ。」



それが一体・・・?
今のこの状況とどう結びつくのだろう・・・・?





「・・・・獄寺くん、さ・・・今日 おれの誕生日プレゼント
必死で頑張ってくれてた・・・よね?」




きゅっ、と瞬間服を掴まれて 思わずドキッと、する。
こんな10代目・・・滅多にみれないから、だ。




「あ!オレの事は気にしないで下さい・・!全然平気・・・っつか、
平気じゃない部分もあったんスけどーー10代目がアホ牛に優しくする理由も・・なんとなくですが
わかってきたってゆーか・・・オレもイーピンと少しは仲良く・・」




「うん・・・。そう、それ!」




「ーーーえ?」





「・・・さっき、獄寺くん・・・イーピンと仲良くしてたよね・・・?」




「は、はい・・!」



「お・・おれの誕生日プレゼント、だから・・・?」




「え・・・・・・、あ・・・!最初は・・・最初はそうでしたけど・・・でも
なんかこういうのもいいなって思えるようにーーー・・」




そこまで言いかけて、
オレはその先を言う事が出来なかった。







何故なら、

10代目に唇を塞がれてしまったからだ。










「っ、・・・・」




「ん、・・・ふ、っ・・・はぁ」




色めいた声が鼻から漏れる。
10代目の声は 甘く擦れて 空気すら変えてしまう。


唇を離したとき 林檎色の頬がとても鮮やかに瞳へと映った。
オレは突然の抱擁と既成事実に動揺どころか歓喜に胸が震えたのだった。





「じゅ・・・だいめ・・・・・・」




10代目は恥ずかしそうに、俯いた後 意を決したように
瞳をこちらへと向けてきた。
琥珀色の双眸が オレを瞳の奥まで閉じ込める。
綺麗な透き通った色合いに鼓動は速くなるばかりだ。




「おれ・・・・自分で獄寺くんにチビ達と仲良くしてって
言ったくせに・・ヤキモチ・・・焼いたんだ」





「・・・・・・え?」





「イーピンを膝の上に乗せたり、口元拭いてもらったり、撫でたり、
ケーキあげたりする獄寺くんを・・・独占、したくて・・・お、れ・・・」




「!!・・・じゅう、」





「イーピンにずっとヤキモチ・・焼いてた」






嘘、だろ・・・
10代目が・・・・さっき感じていたオレのキモチを
感じてくれてた・・・・なんて。







夢みたいだ






「さっきおれが”駄目”って言ったのは
・・・獄寺くんが口つけたフォークでイーピンが
ケーキ食べようとしてたからで・・・その・・・・、イーピン
女の子だし・・・・あ、のっ・・・」







やばい・・・・スゲー嬉しい・・・・




10代目が・・・・ヤキモチ・・・?
オレの事・・独占したいって・・・・・・?





眩暈、する・・・・・。





「じゅーだいめっ・・!!」




オレは勢いよく10代目を抱きしめた。




「うわっ!?」



10代目はオレのいきなりの抱擁にびっくりして
後ずさっていたけれど オレは構わず力いっぱい
目の前の愛しい人を抱きしめたのだった。




暫くして、10代目の細い腕がオレの背中に回される。
甘く柔らかい髪の感触に、鼓動は不規則に高鳴るばかりで
鼓膜の奥でじんじんと響きが止まらなかった。






「・・・獄寺くん」




「ーーーーはい・・・」




10代目が静寂の中、甘く響く声を散らしながら
オレの名を呼ぶ。




「もう一つ、・・・謝りたい事あるんだ」




「ーー・・・なんスか・・・・・?」





おずおずと顔を上げ、こちらを覗いてくる10代目。
上目遣いの琥珀が イタズラに柔らかく揺れる。
身体が、火照る感覚を・・覚える。




あぁ、あなたはどこまで可愛らしい人なんですか
10代目。







「・・・・・誕生日プレゼント、・・・・・変更しても、いい?」








意外な言葉に一瞬気を取られながら
オレはこくり、と大きく頷いて見せた。


10代目は眩しそうに微笑みながら ほっと安堵した声音で
一息ついた。そしてーーーーー・・







「今日一日・・・・おれだけに特別な獄寺くんが欲しい」





10代目はそういって 再びオレの胸に顔を埋めて
幸せそうに微笑んだのだった。








オレは10代目の可愛らしいお願いに
立ちくらみを覚えたが 何とか意識を保っていることができた。






10代目は気づいているだろうか?
貴方が口にした願いは、毎日貴方の傍にいるオレと
何ら変わりがないことを。








「ーーー・・・一日、だけでいいんですか?」






少し意地悪に、そう言い返せば
10代目は大きな瞳を目一杯見開いて
オレを仰ぎ見た。




そうして、ふっと瞳を細めると優しい琥珀を輝かせて
オレへと呟いた。









「ずっと・・・・特別な獄寺くんが欲しい」














10月14日。
大好きな貴方の誕生日に、捧げる 約束。





















お誕生日おめでとうございます、10代目。













願わくば、ずっと










特別なオレを望んでくれる貴方の隣で






















また今日という日を迎えたい。



























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どうも青井聖梨です、こんにちは!!!
少し遅れましたがツナの誕生日記念小説です。
少しでも楽しんでいただけると嬉しいです。

ツナとランボが仲良くしてる?とか、ランボにヤキモチやく
獄寺って話的に多いと想うので 今回はその逆、獄寺とイーピンが仲良し話を
織り交ぜてみました。瓜とかでもいけると想ったんですが、瓜は懐いてないんで
無理あるかなぁ、と思った次第です。


そんなこんなで、とにかく誕生日おめでとう、ツナ!!!
獄ツナ大好きvvv

それではこの辺で失礼します。


青井聖梨 2008・10・18・