君は、・・・わかっていたんだ


















浅き夢見し。〜真実〜











一騎が、何をそんなに僕へと伝えようとしているのか。
僕はそれに気づけぬまま、一騎を避ける日々が続いていた。


僕は・・・一体なにをしているんだろう。
何をーーー。





「よぉ!!総士。今から飯か??」


いつもの場所で、今日もいつものように昼食を取っていた。
すると陽気な声が頭上から降ってくる。
僕は気のない素振りで顔を上げる。

そこにはガタイのいい、少し強面の中年男性がひとり、
僕の正面に腰を掛けようとしていた。


「随分遅い昼飯じゃね〜か?もう二時だぜ?・・しかもこんな
薄暗い場所で一人きり。淋しい昼飯だね〜。」


その饒舌な男性は、”俺が一緒に食ってやるよ”と僕に言って、
片手に昼食の入ったトレイを持ちながら、既に座る体勢に入っていた。

僕は途端に彼が取ろうとしていた行動を、制した。


「そういう気遣いは結構です。・・・それよりその席に座らないで下さい。
座るならその隣の席にどうぞ。」


少し不機嫌な口調で僕は、溝口さんにそう言った。
こういうとき、子供じみた対応しかできない自分を恥ずかしく思う。


「・・なんだよ、機嫌ワリィな。・・それよりここ、誰か座るのか?」


瞬間、ハッとする。


「−−あ、・・いえ・・そういうわけでは、ないですが・・」


ぎこちない言葉で僕は、瞳を微かに宙へと彷徨わせた。
なんて応えればいいのだろう。・・なんとなく、その席は
誰にも座って欲しくなかった。−−−・・一騎、以外は。


出て行けといって、冷たく彼をあしらってからも、
部屋に帰るとライトがついていて、いつもテーブルの上には
温かな料理とメモが置いてあった。

一騎は僕が何度突き放しても、諦めたりはしなかった。
そんなとき僕は、自分の取っている行動に時どき疑問を持ってしまう。
何のために彼をこんなにも傷つけているのか。
僕自身、・・・わからなくなってきていたんだ。

君のその ひたむきさに、僕の心は
時が経つにつれ、動かされていた・・明らかに。


「ふ〜ん。まぁ、いいや。・・それより総士。おまえの昼飯ってこんなに
遅い時間じゃねぇだろ?たしか十二時くらいだったんじゃね〜か?」


「・・・・よく知ってますね、そんなこと・・。僕が自分でーーずらしたんですよ。」


人の昼食の時間を把握している人間が居るとは、少し驚きだ。
僕は微かな意外性を溝口さんの中に見ながら、素っ気無く答えた。

すると、溝口さんが”そっか、それじゃあ教えてやらねぇとな〜”と訳のわからない
言葉を呟いた。僕は訝しげな表情を一瞬作る。


「・・・何の事です?」


僕がそう訊くと、溝口さんは目を丸くして答えた。


「一騎にだよ。」


「・・・・一騎・・?」


僕は訳がわからない、と思いながらも 彼の名前にドクン、と
心臓を密かに高鳴らせていた。



「どのくらい前だったか・・一騎に聞かれたんだ。
”総士って何時に昼食取ってるんですか?”ってな。」


溝口さんは、あくまで陽気に答える。
僕はその内容に、心の奥で動揺し始めていた。
・・・どういう、ことだ?


「だから俺は”十二時くらいだったと思うぞ?”って答えてやったんだ。
ーーそしたら一騎の奴、それ以来 わざと作業時間延ばして、昼飯の時間ずらしてやんの。」



「−−−・・・・・・え?」




「可愛いじゃねぇか〜?お前と昼飯食うために さっさと終わる作業を何時までも
もたもたとやってるんだもんよ。」





















『・・・何故お前だけ食事の時間がずれるんだ一騎?パイロット達は
同じメニューをこなしているはずだが・・・』

















『何故っていわれてもな・・ただ俺の作業が遅いとしか、言えないよ・・』












あのとき・・・君は、笑ってそう言った。













おかしいと思ったんだ。
いくら作業が遅いといっても、そんなに
かかる様なメニューを午前中に僕は用意していない。

ましてや、一騎はエースパイロット。
パイロットの中でも その才能はずば抜けている。


ーーー君が他の奴に遅れを取るとは、・・思えない。



一騎は・・僕と昼食を取るために・・・わざと、時間をずらしていた、のか。




ーーー何故・・?




急に黙って俯いてしまった僕を
不思議に思ったのか、溝口さんは僕へと問いかけてきた。


「あれ?でもお前ら、一緒に昼飯食ってねぇのか・・?
何でお前、こんな時間に一人で食ってんだよーーー?」


何も、事の成り行きを知らない溝口さんは
僕の答えづらい事を積極的に訊いて来た。


僕は力なく、少し虚ろな声で応えた。



「・・・・・・・・・僕が、一騎を遠ざけたからです。」



肩を微かに竦めながら、握っていた箸を静かにおいた。
食欲が途端に湧かなくなっていた。
食べたところで・・・味はしなかった。
また以前のように、味覚障害にでもなったようだ。



目の前で萎れている僕を見て、溝口さんは軽いため息を吐く。
先程まで陽気だった溝口さんだが、僕の様子から何かを察したようだった。
次の瞬間には、真剣な瞳を僕に向けて、言葉を紡いだ。



「−−総士。お前見てると、自分から独りになってるように見えるぞ。
・・もっと周りを見渡してみろよ。お前を見てくれてる奴が本当にいないのかどうか。」


真摯な瞳が僕の瞳に突き刺さる。
その言葉は、僕の冷め切った心の底に届いていくようだった。






「お前は・・本当に独りなのか総士?ちゃんとその目で見定めてみろ。
ーーーーお前が思ってるほど一騎は・・弱い人間じゃないぜ、多分な・・。」



溝口さんはそう言って、静かに席を立った。


僕は何も、言えなかった。


・・・言える筈もなかった。









その後、食事を再び続ける気にはなれなかった。
だから、まだ半分以上残った昼食が入ったままのトレイを持って
僕は返却口に移動した。


食器の返却口附近には調理人の女性が三人待機していた。
僕は彼女達に、”残してしまって、すみません”と侘びを入れながら、
軽く頭を下げた。
すると、明るい調理の女性達は僕に軽い冗談を飛ばしてきた。


「あら〜。それならお詫びに新しいレンジを一台入れてくださいな。
皆城戦闘指揮官殿!!」


はしゃいだように笑う彼女達。
少し自分が、その明るさに救われた気がした。


「レンジですか・・?どうしたんです?壊れたんですかーー?」


僕がその冗談に軽くのると、彼女達は嬉しそうに
ことの次第を簡単に説明してくれた。



「壊れたわけじゃないんだけど、最近レンジを頻繁に使う子が
いてね〜。その子が夜になると一時間置きに料理を温めに来るから
レンジがあまり使えないのよ〜〜。」



「・・・・・・・一時間置きに?」



「そうなの。ーー何でも手作りの夜食を温かいまま
その人に食べさせてあげたいんですって。」



「・・・・・・あたたかい、まま?」




まさか


「えぇ。帰りが遅いみたいなの、その人。何時帰ってくるか
わからないみたいだし。ーーだから彼、あんなにこまめに温めに来るのね、きっと。」




「・・・・・・・・・・・彼?」





まさ、か



「えぇ、”彼”よ。多分 皆城戦闘指揮官も知ってると思うわよ?
彼と同じ歳だものね。」






まさかーーーーーーーー・・・













「真壁司令の息子さんよ」






















か、ず・・・・・きーーーーーーーー。















僕の部屋に置いてあった料理は、
・・いつだって湯気がたっていた。








君は、・・・・・温めてくれていたんだね。




























本当は、わかっていた。





『・・・−−やっぱり、独りで食事するのは、・・・寂しいよ』






君が、同情であんな言葉を言ったわけじゃないって。
僕は・・・・・わかっていたんだ。





だけど。


だけど、・・・どうしても認められなかった。
君を僕の傍に置いておく事が、・・怖かった。




例えばそれは、ずっと待ち続けている
誰かからの手紙を期待するかのように




扉を開けたら、君が温かく迎えてくれるという
淡い期待を持ってしまいそうになる。


そんな弱い自分を認めてしまうことになる。





ポストを開けたとき、やっぱり何も入っていなかったときの
絶望感に似た気持ちを・・僕は知っている。


扉を開けると
部屋はいつも暗くて、・・呼んでも誰も答えない。



そんな、目の前が真っ暗になる瞬間を、僕は何度も経験してきた。




何かに期待する度、裏切られたときに感じてしまう喪失感に
胸を痛めては、・・壊れそうな自分を必死になって守ってきた。



ーー・・・いつも、独りで。





だから 淡い期待を持って、扉を開けたときに裏切られた瞬間の
惨めな自分を思うと、


どうしても一欠片の勇気と あと一歩の距離を
君と縮めることが怖かった。








”君を温かい場所に返す”・・なんていう奇麗事で僕は、
自分の弱さから目を背けていただけだった。



君と心の距離を測って、自分の都合の良い様に
君を利用して・・僕はーーー小さな自分を守っていたんだ。




”一騎のため”だなんて・・よく云えたものだ。


自分を正当化したいだけじゃないか。
とんだ偽善者だーーー僕は・・。















『そんなに独りで・・・・頑張らなくて、いいと思う』







なぜ、僕はわかろうとしなかったんだろう。







一騎は・・いつだって あんなにわかりやすい言葉で
僕に届けてくれたじゃないか。









『総士・・・大丈夫か?』










どんなに自分が傷ついたって
何度も・・伝えようとしてくれていたじゃないか。











『また・・・・・来るよ』











傷つけられることがわかっていて、
近づくということに


どれだけの勇気が要ると思うんだ。












ーーーーーー僕は、なんて愚かだったんだろう。











僕が独りきりになりそうなときは、



ただ、何も言わず 黙って傍に居てくれたじゃないか。





僕を、あんなに優しい瞳で







『総士は・・・いつも独りで頑張りすぎるから、 ーーーー少し・・心配だよ』








見つめてくれていたじゃないか。
















いつも扉の向こうには



一騎が










『おかえり、総士』









待っていてくれたじゃないかーーーーーーー。












「かず、・・・き・・っーーーーー!!」











いつだって、テーブルの上には
君の優しさが溢れていたのに。






『お前は・・本当に独りなのか総士?ちゃんとその目で見定めてみろ。』





僕は今まで、何を見てきたんだろう。





自分の事ばかりで、僕は何も見ようとしていなかった。
・・見ようとしてこなかった。



本当に気づかなければならないのは、僕のほうだったのに。




君は、・・・わかっていたんだ。










僕が、自分から独りになろうとしていた事を。









君は、わかっていた。










だから、・・・君は何度も僕に、



伝えようと、してくれていたんだ・・・















”独りじゃない”と






















ーーーーーーー”自分がいる”と






















何度も。
























全ての真実を知った瞬間、


僕は自然と走り出していたーーーーー。







「皆城戦闘指揮官!?ーーー」







調理場の女性の声が段々と遠ざかっていく。







”君に会いたい・・・”










僕の想いは、それだけだった。









それ以外の想いなんて、最初から 要らなかったんだ。







今頃、そんなことに気づいたーーーーーー。




+++

















「今日の料理・・総士の口に合うかな・・?」


もう、何度目だろう。
一方通行だってわかっているのに・・こんなことしか出来ない。
そんな自分がーーはがゆい。








一騎はそんな事を想いながら、いつものように
総士の部屋へと向かっていた。
ほぼ日課となっていた夜食作り。一騎にとっては、・・小さな幸せだったのだ。



アルヴィスの長い廊下に音を響かせながら、静かに歩く。
いつもの時間。いつもの道。そして、いつもの扉。



ピッピピッ・・・・


細く白い指先で、噛み締めるように
以前教えてもらった番号を押す。




ピーーッ・・



いつも聴く、ロックが解除される音。




ーーーーシュンッ・・



扉が、開く。





入ると、其処には何処までも広がるような深い闇。
扉附近にある電気スイッチを手探りで探す。



「あった・・」


ボタンを押して、天井のライトをつけた。



すると、先程とは一変して、周囲が光に包まれて
目の前が急に明るくなった。

一騎はその眩しさに目が眩んで、一瞬料理を持っていない方の手で
目の前に広がる光を遮った。


と、その瞬間。
かざした手の先に黒い影が微かに揺れたーーー。



「・・・えっ・・?」



一騎は、目の前に居る人物に目を瞠った。
息を呑む。−−体が、一瞬強張った。





「−−−−・・・そう、・・し・・・・」





総士が立っていた。
長い琥珀の髪が微かに揺れる。
銀色の瞳がライトに反射して優しく光る。

その表情は、何処か苦しそうだったーーー。




「・・・・・一騎」




いつもと同じ時間。いつもと同じ場所なのに。
総士の声は、・・いつもと違うものだった。


切なそうに、瞳が細められる。




「−−あっ・・おかえり総士・・」


一騎は動揺しながらも、自分が後から入ってきた事も忘れて、
そんな言葉を総士に投げかけた。

言った後に、後悔した。


”しまった・・!この場合違うじゃないか・・”


一騎は苦い顔を一瞬作ったーーー、そのとき。



「・・・・・ただいま」



声が、  した。




怒られると思っていた一騎には、
意外すぎる総士の言葉と・・・態度だった。



「総、士・・?」



一騎は拍子抜け、というより緊張の糸が切れたように
肩に入った力を抜くと、総士の表情を正面から窺った。
だが、総士は下へと俯いてしまった。表情を読み取る事ができない。

一騎は、黙って佇んでいる総士の様子を窺いながら、
手に持っていた料理の詰め合わせ一式を丸いテーブルへと置いた。
視線をテーブルに向けた刹那。

背後から、声がかかった。


「・・・・・一時間置きに、温めていたんだな」



そう、聴こえた。




一騎は、テーブルに向けた視線をそのままにして、
振り返らずに、総士を背後に置いて話を進めた。


「・・・たいしたことじゃ、ないよ・・・」


そう、答えた。



すると、また 声がした。


「・・・・・僕が帰ってきたとき、メモ書きがいつも置いてあった。
そして料理は・・いつも温かかった。」


遠慮がちに、あくまで控えめに話してくる総士に、
少し苦笑しながら、一騎はそっと答えた。


「メモ書きは、料理をテーブルに置いた時にいつも書くんだ・・。いつ帰ってきても
お前が読めるように。そのあと・・一時間ごとにこの部屋に来て、冷め具合を確認してた。
もし部屋に人の気配がしたら、お前が帰ってきてるってことだから、
俺・・・見つからないように注意しながら帰ってた。」


そういうと、一騎はゆっくりと振り向いて、
少し離れた所に佇んでいる総士へと視線をずらした。


「−−でも、一度見つかっちゃったけど・・。」


言いながら、また一騎は少し苦笑いをするのだった。


総士は、そんな一騎の姿にもう、限界だーーと自分の心の中で叫んでいた。
真実を知った今ーーーもう、自分のしてきたこと全てが、罪にしか思えなかった。

心の中は、後悔ばかりが胸を突く。
自分が残した一騎への抑えきれない想いが、一騎を前に今・・溢れ出す。






「一騎っ・・・・・!!」






気がつけばもう、抱きしめていた。





「っ・・・−−!!?総士・・・?」


瞳を大きく見開き、不意を突かれた一騎は されるがままになっていた。
総士はそんな一騎を、ーーーーー軋むほど強く、抱きしめた。



「−−−−−−すまない・・・、僕はお前に・・・酷い事を・・
                     ずっと・・・・・・・・・・・ずっとーーーーー」




言葉を途切らせながら、擦れる様な声色で、一騎の耳元へと
総士は何度も呟いた。




”すまない・・すまない”、と。
何度も。





「総士・・・・」




一騎の儚げな声が、総士の耳に響く。





「すまない・・・・・・・・・・一騎・・・・」







何度謝ったって、何度繰り返したって、
時間が戻ってくるわけじゃ、ない。


僕がしてきたことは、・・・一騎をどうしようもなく傷つけた。
それだけが真実。ーーーそれだけが、すべて。





僕なんかの為に、君が傷つく必要なんてなかった。
僕なんかの為に、君を傷つける道理もなかった。

悔やんでも、悔やみきれない。
自分が・・・憎い。




一騎を強く抱きしめていたはずなのに、
途端に身体の力が抜ける。

僕はズルズルと、床に崩れるようにしゃがみ込んだ。
君の腰辺りに腕を絡ませ、しがみつく様に下から君を一心に見上げた。


「・・・・なぜ、なんだ?−−−何故お前は・・僕に
近づこうとしてくれるんだ・・・?こんなどうしようもない僕にーーー」


僕がそう口にすると、君は悲しそうな表情をして
僕と同じように床へとしゃがみ込んできた。

目線が同じになり、正面から君の視線と僕の視線が重なり合う。
その瞬間 君は、ふっ、と表情を緩ませて微笑んだ。


「どうしようもないのは・・・おれの方だよ、総士」


君はそう言って、僕の胸に縋り付いて来た。
春風のように優しい風が、冷たい部屋の中を
通り抜けた気がして 僕はその心地よさに一瞬心を奪われた。

君の甘い香りが、僕の鼻を掠める。
柔らかな黒髪が頬に優しく触れて、僕を酷く ときめかせていた。


「おれは・・お前になにもしてやれなかった、どうしようもない奴なんだ。
ーーだから、総士が謝る事なんてなにもないよ・・」



この目の前に居る可愛らしくも儚い、幼馴染は
僕の背中に手を回すと、大切なモノを抱え込むように
僕へと抱きついてきた。静かな声が、僕の耳に響いてくる。


「−−いつだったか・・お前の部屋に戦闘データを取りに行った事、あっただろ?」


ゆっくりと話し始めた一騎。僕は黙って頷いた。


「そのとき・・・。−−お前の部屋に、入った・・そのとき・・・おれ思ったんだ・・」


刹那、僕の背中に回された一騎の腕に力が篭った。





「”あぁ、・・総士はいつも こんなにも暗い場所へ
 ーー−−疲れて独りで帰って来るんだなぁ・・”って」





























『・・もっと周りを見渡してみろよ。お前を見てくれてる奴が本当にいないのかどうか。』
























「”この部屋で・・独りで静かに、食事するんだろうなぁ・・”って」


























『お前は・・本当に独りなのか総士?』















”独りなのか?”







「そう思ったらさ・・・何だか寂しくなって・・・おれ、
ーーーなんで今まで気付いてやれなかったんだろうって・・凄く、後悔したーー」























『・・・−−やっぱり、独りで食事するのは、・・・寂しいよ』






















一騎












「だから、・・・もう、後悔したくなくてーー。
おれが出来る事は少ないかもしれないけど・・でもせめて、お前が疲れたときに
安心して寄りかかっていられる存在にーー、・・・・辛いとき、思い出して貰える存在に
なろうって・・・決めたんだ。−−どんな事があっても。」







一騎・・・










「ーーーおれ・・なれたかな?・・総士に寄りかかって貰える様な・・
頼って貰える様な存在に、−−少しでも、・・・なれたかな・・?」









僕は









「総士に”おかえりなさい”って いえるような存在に・・・なれ、た・・?」






















独りじゃーーーーーなかったんだな。






















「・・・・・・・・とっくに、なってたよ。お前は」
















お前が傍に、居てくれたんだな。




今度こそ




















「いつも僕の夢だった・・・」

























信じていいんだな・・・・・























この温かい場所が、僕の居場所だーーーーーーー。








+++














「本当は、嬉しかったんだ。・・お前に”おかえり”と迎えられたこと。
ーー帰ってきた部屋に、誰かが待っていてくれたこと。・・温かい料理が
テーブルに並んでいた事が・・」




そう言いながら、僕らは 丸いテーブルの上に並んでいる、
温かな料理を一緒に食べながら 会話をしていた。




「うん・・・」




一騎は、少し照れくさそうに、嬉しそうに僕の話に耳を傾けていた。




「”おかえり”と言ってもらえる人が居るという事が
こんなにも幸せなことだったなんて・・思いもしなかった。」




僕がそう言って、薄く微笑むと、君は 優しい声色で僕に答えてきた。



「総士・・”おかえり”って言える人が居ることも、幸せな事だよ?」



栗色の瞳が優しく そう、呟いた。


僕は、目の前で小さく微笑む この幼馴染が今、酷く愛しかった。



だから。






「キス・・・・、してもいいか?」





「・・・・・えっ?」






君の答えも聴かずに僕は、食事する手を止めて、
テーブルに手をつくと


君の顔を引き寄せた。








「−−−−−−−してもいいか?」




唇が触れ合うまで、あと数センチの距離。
互いの吐息がかかるほど近い。

僕は囁くように、君へと言葉を贈った。




「っ・・・・・・−−−−−−う、ん」





一騎は困った顔をしながらも、頬を桜色に染めると
静かに大きな瞳を閉じた。





それを合図に、僕は  





羽が肌に触れるような優しいキスを、君に落とした。























浅い・・・浅い・・・夢を見ていた気がする。





本当は、君がすぐ傍に居たのに。
・・なのにずっと独りで居たかのように、錯覚してしまう夢。


 
簡単なことだったんだ。



この暗闇から抜け出す方法なんて。





ただ、瞳を見開いて、目の前を見れば良かった。
夢から、醒めれば良かった。それだけのことだった。


そうすれば、−−いつでも僕の傍らには君が・・・笑っていてくれていたのに。






やっと、・・やっと僕は この浅い夢から醒める事が出来た。
それは、君がずっと







僕が夢から醒める そのときまで、
ーー隣で待っていてくれたからなんだ。









今度はもう、見失わない。








もう、僕は浅い夢になど、惑わされないよ。








だから どうか、今度は





君が僕に見せてくれないかーーーー?























君だけの、甘い夢を。













僕は、君が見せてくれる夢になら









永遠に































囚われたって構わない。



















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こんにちは〜、青井聖梨です。
この長い話を最後まで読んでいただき、誠にありがとうございました!!
やっと完結でございます。

一騎と総士の心の距離は埋まりました。ええ、埋まりましたとも(笑)
なんていいますか、正直最後の終わり方に随分悩まされました。
ですが、やはり総一はいつでもハッピーエンドが相応しいと思いまして。
周囲が見えておらず、ずっと自分は独りだと思っていた総士ですが、
実はすぐ隣には一騎がいつでも居てくれた。そんな簡単なことに今更気づく。
総士はいつでも客観的に広い範囲を見渡している気がします。だから近くの狭い範囲を
見落としがちになってしまう。灯台下暗しですね!!

皆さんも、大切なモノを、見落としていませんか?
是非、自分にとって大切なモノを確認してみて下さいね!
案外、幸せはそういう所にあるかもしれませんよvvでは、この辺で失礼します!!

青井聖梨 2005.11.11.