闇に紛れて、ずっと息を潜めていた。
闇と一緒に僕が愛したのは、一体誰?
それは、目も眩むような、光ーーーーーー。
そう、”彼”だ。
Dear、ファントム〜序章〜
「昨日も出たらしいぞ!ファントム!!」
「へぇ・・?」
朝の眩い光を浴びて、仲良く登校してくる男子生徒がここに二人。
その端整な顔立ちで周囲の注目を浴びているにも関わらず、
何を気にする訳でもなく平然と日常会話を繰り広げる幼馴染の二人組みは
竜宮学園の名物風景の一つであった。
「劇団長の不正を暴いて、ステージ上で告発するなんて
大胆過ぎる・・・。普通なら考えられない発想、だよなぁ・・」
「・・まぁな。よっぽどの確信犯、だな」
「だよな!−−・・・・でもファントムは何でそんな事
するんだろう・・?先週だって有名な舞台演出家の賄賂を
ステージで暴いただろ?何が目的だと思う、総士?」
「ーーーさぁ・・?正義の味方にしては”劇場”に携わる人物
限定だし・・不正を暴くにしても政治家には手を出していない。
・・まぁ、一種の物好きな奴が引き起こした犯行だろう」
「う〜ん・・・そっか。ファントムって謎ばっかりなんだよなぁ・・。
顔には仮面着けてるし、黒のマントで身体中覆ってるし・・っていうか
全部黒ずくめだ!黒スーツ着てるしーーー・・」
「そりゃそうだろ。ファントムなんだから」
「へぇ〜!そうなんだ?・・ファントムって黒がイメージカラーなのか?」
「どうだろうな。・・僕が観たサイレント映画のファントム(怪人)は
黒ずくめだったぞ?」
「へぇ〜。・・・・ところでサイレント映画ってなに?」
「無声映画のこと」
「へぇ〜」
「・・・お前さっきから”へぇ〜”ばっかりだぞ」
男子・女子生徒が向ける痛いほどの視線を浴びている二人だが、
慣れのせいか、全く気に留めることも無く見事にスルーしながら
学校の門をゆっくりと仲良くくぐる。
二人は学園のエース、否。王子様なのであった。
真壁一騎。竜宮学園中等部3年A組。演劇部所属。通称、白の王子。
彼の天然且つ明るい性格には、学園の女子生徒皆が当然の如く
癒されている。そして人一倍頑張り屋で、優しさと思いやりに溢れている
好少年であるためか、何故か周囲に人が集まってくる。
趣味は家事全般で、とくに料理が得意である。
容姿は見た目どおり、男子生徒にはあるまじき可愛さ
と奥ゆかしさを持っているため、同性からは”麗しの君”と称され、
頻繁に校舎裏で告白される始末。驚異的な可愛さで男を惹き付ける
一騎だが、本人は無自覚なので性質が悪い。
一方、一騎の幼馴染で無二の親友とされている
学園内の王子がもう一人。
皆城総士。竜宮学園中等部3年S組。科学部所属。通称、黒の王子。
彼の趣味は読書とヴァイオリンと映画鑑賞であり、それこそ典型的な
王子様であった。父親は医者、母親はオペラ歌手という異彩を放った
両親を持ち、妹は名門のダンス専門学校へと入学している。誰もが羨む
超エリート家族なのである。そんな彼が竜宮学園に入学を決めたのは
幼馴染が関わっているとかいないとか。
性格は、気まぐれで、冷静。女子生徒から告白される事が多く、
その人気は学園内に留まらない。他校の女子生徒から告白を
受けることもしばしばあるほど王子オーラを振りまいている少年なのである。
しかし何故、彼が黒の王子と称されるのか。
それはーー”来るもの拒まず。去るもの追わず”の彼の精神からきているものであった。
男子生徒からは”学園始まって以来の天才”
(入試満点)と知れ渡っており、さっぱりした態度と試験前に
ボランティアで総士が開いてくれる「皆城塾」の評判の良さから
認められた存在いわく、孤高の存在として崇められているのであった。
容姿はいうまでも無く端麗な王子顔であり、見つめられたが最後。
落ちない女性はいないらしい。(女教師も)
「あ、そうだ総士。今度俺、舞台あるんだ!
暇だったら観に来てくれよ。結構面白いと思う」
昇降口で不意に一騎が言った言葉に
総士はピクリと耳を傾けたのだった。
「ふ〜ん?サイレント映画も知らないお前が舞台とは
興味あるな。さぞかし素晴らしい演技を見せて
くれるんだろうな?ーー名役者さん」
「うっ・・。皮肉にしか聞こえないぞっ」
「おかしいなぁ?褒めてるんだぞ、これでも」
ははっ、と総士は乾いた笑いを振りまきながら
一騎の傍らに並んで、再び歩き始めた。
二人の王子の登校に、周囲は更に騒ぎ始める。
見知らぬ第三者から落ち着きがない学園だと
思われても仕方のない状況かもしれない。
「・・・・・意地悪だ、総士」
「お前は相変わらず可愛いな、一騎」
歩きながら瞳を細め、眩しそうに一騎を見つめて
小さく微笑む総士の、してやったり顔に
一騎は頬を薄っすらと赤く染め上げて 非難の声を
虚空に吐き出すのだった。
「〜〜〜〜ッ、このスケコマシ!!」
「心外だな。僕はプラトニックだ」
「嘘付け!”来るもの拒まず”な、くせにっ!!」
「博愛主義なんだよ。一騎にはまだ難しいかもな?」
「こ、子供扱いするなよっ!お、おれだって・・・」
「・・・おれだって?」
「うっ〜〜ーー・・・・ゴメン。やっぱ、わかんない。
・・俺だったら、やっぱり好きな人の中でも”一番”
とか順番付けちゃう、かも」
しゅん、と肩を落として立ち止まる一騎。
廊下に視線をおとして、ただ俯くばかりだった。
「おれ・・もしかして最低?・・人に順番つけるなんて、
よく考えたら・・酷い、よな・・」
自分の行いを改めて振り返り、塞ぎこんでいく一騎に
総士は苦笑と共に 止め処ない愛しさを覚えるのだった。
「・・違うよ。お前は最低なんかじゃない。
一騎は”正常”なんだ。僕がオカシイんだよ。−−最低なのは僕だ」
そう言いながら一騎の顔を覗き見れば、
一騎は更に哀しい顔をして廊下を静かに睨んでいた。
哀しみに歪んだ幼馴染の綺麗な顔に、驚いた総士は”どうしたんだ?”
と思わず訊いてしまう結果となった。
「そういうこと、・・言うなよ。
総士が最低になるなら おれ、自分が最低のままでいい・・」
「・・・・・・・一騎」
思わぬ一騎の優しさに触れ、総士の胸は高鳴った。
お前は・・・・ほんと、どうして・・。
総士は一騎の言葉を胸の奥で噛み締めながら
一騎の艶やかな黒髪にそっと手を置いて呟いた。
「ありがとう・・」
殊勝な声を宙に零した総士は、柔らかな笑顔と共に
あたたかな温もりを一騎に贈り届けたのだった。
一騎は総士の手のぬくもりを感じながら、総士の瞳に視線を合わせた。
慈愛に満ちた銀色の双眸が一騎の心をそっと波風のように揺るがす。
一騎はまた、少し頬を赤く染めて 総士に笑いかけた。
総士はそんな一騎の無邪気な微笑みに 困ったように微笑むばかりだった。
闇に紛れて、ずっと息を潜めていた。
闇と一緒に僕が愛したのは、一体誰?
それは、目も眩むような、光ーーーーーー。
そう、”彼”だ。
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こんにちは!!青井聖梨です!!
というわけで始まりました。新たなパラレル総一連載です。
どうぞご贔屓に〜(笑)
今回は結構凝った設定・・・だと思います、多分。
未熟な点は多々ありますが、少しでも楽しんで頂ければ幸いです。
それではまた〜☆★
青井聖梨 2007・1・31・