自分の生活を 誰かと共有する事
それがどういうことなのか


君は解かっていない



だからそんなことが言えるんだ













慟哭の彼方













「悪いが、それはむりだ。」


総士の声が部屋中に響き渡る。
ここは総士の部屋。今は一騎に次の対戦のために
戦闘データを見てもらっていた。
そんなとき、色々会話をしていくうちに
ぽつりと零した一騎の誘い事を、総士ははっきりと拒んだ。


「なんで・・?確かに最初は居づらいだろうけど、父さんと俺しか
いないんだし・・遠慮なんてしなくてもーー」


「そうじゃないんだ一騎。・・僕は別に遠慮してるわけじゃないさ。」


「ーーどういうことだ?」


きょとん、として僕を見上げる一騎。
本当にわかっていない。
いつも思う。一騎は無垢だ。でもそこが良いところでもある。
・・が、悪いところでもある。

「・・・大体おかしいとは思わないのか?
   他人を自分の家に住まわせるなんて。」


「総士だから・・別に、俺は・・。」

俯く一騎。少し弱気になっているみたいだ。


「・・それは僕が特別ってことか?」


意地悪く笑ってみせる。
すると一騎は顔をあげて、真っ赤になっていた。
可愛い一騎。僕の、大切な・・たった一人のひと。

だからこそ僕は・・・君とは住めないんだーー。


「と・・とにかく!!−−今のお前、見てると心配なんだ。」

慌てて一騎は僕に話しを進めようとする。
一騎の気持ちは嬉しい。・・本当に。

「どうして?」


「だって・・総士、夜遅くまで仕事してる。島のために・・。
食事だってあまりとってないって遠見先生が言ってた。
ーー薬ばっかりに頼ってる、とも言ってた・・先生。」

僕がそのうち倒れるのではないかと不安げな顔をして、
一騎は僕の顔色を伺ってくる。
僕は幸せ者だな、大好きな君に こんなに心配してもらえて。


「確かに僕はビタミン剤を多く摂取するようにはなったが・・。
身体に異常はみられないし、睡眠時間も最低限とっているつもりだ。」


「でも!!」


「・・お前の気持ちは嬉しい。でも一緒には住めない。
ーーーわかってくれ・・。」


「・・・わかん、ないよ・・・。」


しゅん、としぼんだ花のように一騎は肩をおとし、
悲しそうに床に視線を落とした。

一騎と一緒に住むこと。それがどんなに幸せなことか
僕にはわかる。
でもだからこそ一緒に住めない。
無垢な君はきっと気づかない。
ーーいや、気づかなくていいんだ、こんな事実には。


「・・うちに養子に入れとか、そんなんじゃない、から。
一緒に住むだけなのに。ーーそれでも、・・・ダメなのか?」


「・・・・あぁ、ごめん・・・。」


「・・・そっか。・・・ほんとは・・俺、総士と一緒に居たいだけだったんだ・・。
ーー俺のほうこそ我侭言って・・悪かった・・。」

”困らせるつもり、なかったんだ”
そんな風な顔で、僕を見上げてくる一騎。
愛しくて、堪らなかった。


僕は肩をすくめて、元気を失くした一騎を
力いっぱい抱きしめた。

「そ、・・そうし・・!?」


一騎はいきなりのことで驚いたのか、身体が強張っている。
そんな一騎の耳元で、僕は静かに囁く。


「僕もお前と一緒に住めたらいいとは思ってる。・・でも夜仕事
してるとお前、心配して仕事させてくれなさそうだしーー」


「て、手伝うから・・俺っー。ご飯だって栄養とれたメニューにするし・・
それからっーーー。」


「・・一騎、ありがとう。でもやっぱり無理だ・・。」


充分な抱擁を済ませたあと、一騎から離れた僕は データを
持って部屋から出て行こうとした。
するとドア付近で一騎が焦りながら僕にもう一度聞く。

「な・・なんで・・?」


「−−お前と一緒に住んだら、真壁司令が目の前にいても関係なく、
お前を押し倒してしまいそうで怖い。」


そう一騎にひとこと告げ、部屋を後にした。


一騎は頬を朱色に染め上げて、
総士の部屋でいつまでも立ちすくんでいた。




+++






自分の生活を 誰かと共有する事
それがどういうことなのか


君は解かっていない




『総士・・一緒に住まないか・・?』






だからそんなことが言えるんだ





先ほど一騎が取り留めの無い会話中に、
零した一言を思い出していた。
”好きな人と一緒に住む”これがどんなに幸せなことか、
痛いほど解かってるつもりだった。

でも、それは平和な世界だったら、の話だ。

僕らの住む竜宮島は 楽園ではあるが、平和ではない。
いつフェストゥムが襲ってくるかもわからない。
そしてなにより・・いつ死ぬかもわからない。
僕も、一騎も・・・そんな現状の中で毎日を過ごしている。

もしこの島に本当の平和が戻ってきたとき、一緒に住まないか
と誘われれば すぐにでも住んだに違いない。
むしろ、僕から誘っただろう。
”一緒に暮らそう”と。なんだか安っぽいプロポーズに聴こえてくるが、
それでも言わずにはいられないだろう。


でも今は違う。
僕も一騎も明日はどうなるかわからない。
そんな不確かな明日をかかえて、大切な君と過ごす毎日。
それがどういうことか、きっと君は知らない。

一緒に暮らせば思い出は沢山できる。
共有する時間が長ければ長いほど、相手をより深く大切に想う。
きっと今以上に一騎を必要とし、今以上に絆は固くなる。
少し離れる時間さえ、耐えられなくなる。


そんな関係になって、もし君が本当に居なくなってしまったら・・?




君は戦いの最前線にいる。
そして送り出しているのは、他ならぬ僕自身だ。
もし君が命を落とすようなことがおきても、僕は君を追って死ぬことすら
許されないんだ。・・僕は戦闘指揮官。島を守る重責を担っている。
そして君も同じ。
エースパイロットである君は、僕が先に命をおとしても、島を守らなければ
ならない。・・僕を追って、死んでいいはずも、ない。
だから本当は これ以上馴れ合うことも許されない関係なのだ。


もし君が居なくなったとき、一緒に住んでいたとしたら・・。
僕はきっと 君の居ない空間に、生活に、毎日に耐えられないだろう。
片時も離れなかった頃を思い出し、思い出に沈んでいくだろう・・。

そんなこと、あってはならないーー。
思い出に押しつぶされぬためにも、これ以上の接触はいけない。
今の距離が丁度いいんだ。
・・君が居なくなったとき、痛みが少しでも軽減する方法には これが一番だ。


最初から、一緒に住まなければ 居なくなったとき 
今以上に辛くはならないはずだからーー。

一人で住んでいて 居なくなったときの辛さと、
一緒に住んでいて居なくなったときの辛さは きっと違う。


僕にはわかる、君の居なくなった生活がどんなに絶望的で悲惨なものか。


それはきっと



ーーー慟哭の彼方を見ているようで・・・。












怖いんだ。












一騎、お前もそうだろう?






+++






「断ったそうだね、・・うちに住む話を。」


会議室でミーティングをしていたとき、ふいに
そう、真壁司令に声を掛けられた。
司令はとても落ち着いた様子で、僕の正面に立った。
僕は司令を見上げて言った。


「・・一騎は知らないんですよ。大切な人と生活することが
どういうことかーーーだからあんなことを言うんです・・。」


「・・・いや、一騎は知っている。」


「え・・・?」


司令の発言に思わず僕は反応する。
一騎は知っている・・?どういう意味だ・・?


「大方君は、思い出が増えるほど居なくなったとき辛くなる
というような理由で断ったんだろう?本人にはそうは言ってないにしろ・・
それがおそらく君が断った本当の理由だろう・・。」


「・・・・」


図星をさされて、僕は少し戸惑った。
まさか司令に見透かされていたなんて思わなかったからだ。


「でも一騎は、思い出が多い分大切な相手が居なくなったとき
辛さが増すことは百も承知だ。」


「なっ・・・!!そんなことはーー」


司令が言ったことを認めたくなくて、すかさず僕は答えるが、
それも司令の言葉に遮られてしまった。


「知っててあいつは君を誘った。−−何故だかわかるか?」


いきなり そう問われて、僕は半信半疑答えた。


「・・・・・・・・いえ・・。」






「信じているのさ。」





「・・・・・えっ?」






「この島にやがてくる、平和をーー。」






平和を・・・信じる・・?




なにを言ってるんだ、この人は。





「思い出を沢山作ることは、確かに今の現状を考えれば
辛いことだ。・・が、決してそれだけではない。」


「・・・それはーーどういう意味ですか・・?」


「思い出が沢山有ればあるほど、戦闘に出たとき 
必ず帰ってこようという意志が強くなると、君は思わないか?」


「・・・・・・・」


「一騎は確認したかったんだ。・・自分が居るべき場所、帰るべき場所を。」


「・・・かく、にん・・・」


「思い出があれば、自分の居場所を確認できる。そしてそれは、
その場所に必ず帰るという強い想いを生み出し、その想いは力となる。」


力強く、はっきりと言う司令の言葉が
何故か心に響いていた。
僕は、何故か言葉が浮かばなくて 黙って司令の話をきく。


「君を家に住まわせたいと一騎がわたしに相談したとき、私は君のように
居なくなったときのことを考えさせた。だが、あいつは言った。」


司令は、
静かに瞳を閉じ、落ち着いた声色で言葉を紡ぐ。



「”居なくなったときのことよりも、
お互いが居る今を信じて生きたい”、とね。」








か、ずき・・






明らかに動揺し、ただ肩をすくめていた僕に、司令は言った。



「・・総士くん。先を考えることは可能性を広げることでもあり、
同時に自分の弱さでもある。」


淡々と話す司令の言葉は、どこか確信をついているようだった。


「不安定な未来がどうなるか心配しても、そこからは何も生まれない。
そんな心配をするよりも 君はもっと今を信じるべきだ。」


「・・・・今・・?」


「そう、今だ。−−一騎は君と居る今を信じて過ごしている。
不安定な未来に怯えたとしても、君と過ごしている今を信じて戦っている。
そして、いつかその未来が、今と変わらない日常になると信じているんだ。」



「・・・・・・・一騎。」



「だから君も一騎と一緒に前に進んで欲しい。
  今を信じることを、忘れないで欲しいーー。」






司令が言った言葉が、
強烈に胸の中に残った。
胸が熱くなる。



慟哭の彼方ばかりを見つめていた僕に

君はなんていうだろう?



きっと 君は



”大丈夫だよ”



と、ひとこと言って、静かに笑ってくれるだろう。



+++





ガタッ・・ガタガタ・・



「そ、総士?!なにやってんだ?」


「一騎か、手伝え。」


「手伝えって・・・なにしてんだ?大掃除か??」


「違う、そうじゃない。引越しだ!」


「引越し?!・・何処に?」


「お前のうちに決まってるだろう。」


「えぇっ!!?」


あっけにとられて僕の部屋の前に立っている一騎。
僕は一騎に大きなダンボールをひとつ渡すと、
部屋を空にして鍵をかけた。


「さてと、荷物はダンボール二つで間に合ったな。
まぁ、もともとそんなに部屋に私物はなかったしな。」


呑気にそんなことを言った僕に、一騎は丸くしていた目を
見開いて聞いてくる。


「どういうことなんだ?!お前、一緒に住めないって
                   言ってたじゃないか?!」


「そうだったな・・。じゃあ改めて僕から言おう。」


「えっ?」


一騎の持っていたダンボール箱と自分の持っていたダンボール箱を
床に置き、僕は一騎の頬に触れて言った。


「一緒に・・・お前と暮らしたい・・・。」


「ーーー総士!」


瞳を大きく揺らし、驚く一騎。
可愛くて、大切で そっと抱き寄せた。


「ど・・・どうしたんだ、いきなり・・。」


紅く頬を染めながらも、僕の背中に腕を回してくる。
少し僕より高いその体温。
華奢で、今にも壊れそうな体。
大きな瞳に紅い唇。
サラサラな髪に透き通るような肌。
すべてが愛しかった。


「・・許しがでたんだ、司令から。」


「えっ?」


「お前を目の前で押し倒しても良いそうだ。」


「えぇっーー?!」


「フッ・・冗談だよーー。」


「そ、総士っ!」


「からかって悪かった。--・・・信じることにしたんだ。」


「えっ・・?」


今抱きしめている このぬくもりを。君の鼓動を。 
君と居る今を、僕は信じるーーー。


「一騎・・・これからも僕たちは、ずっと一緒だ。
          −−−−−・・ 離れないで居よう。」



僕はそう言って、一騎を更にきつく抱きしめた。
一騎は こくん、とゆっくり僕の胸の中で頷いてから
ひとこと言った。


「ずっと、一緒に居るから・・。」



一騎は、それ以上何も言わなかった。



僕は一騎を自分の胸の中から少し離すと、
”離れないでいる”という約束を
一騎の唇へと誓った。



ーーこのときの僕らは、
   離れないで居るという誓いだけで充分だった。



















やがて来る




別れなど、













慟哭の彼方に








ーーーーーー覆い隠して。










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こんにちは、青井です。
いかがでしたでしょうか?
この話では総士と一騎が一緒に住む設定になっちゃいました(笑)
これも愛故なんで見逃してください。
今回の話は総士が一騎の前から居なくなってしまうのを前提に
書いています。でもきっと総士は戻ってきますよ!一騎が待ってる限り!!
さて、ここで慟哭(どうこく)の彼方(かなた)という意味についてですが・・。
かなた、の意味は 向こうとか遠くとか そんな感じの意味なのは皆さんご存知
でしょうが、どうこく、の意味をご存知な方がけっこう少ないので補足を。
意味は嘆き悲しむとか 悲しみのために、声をあげて激しく泣くことに用いられて
います。どんな状態か簡単にいうと半狂乱・・・・みたいな?
あれ、ちょっと違うかな・・?ニュアンスはあってると思うのですが。
とにかく悲しくてどうしようもない状態なのは確かです。
私の中の総士と一騎は居なくなったら普通の悲しみじゃ収まらないので。
はは・・妄想の力って素晴らしい(爆)
それでは、読んでいただいてありがとうございました!
2005.1.23.青井聖梨