中学3年、晩春。


















深層

〜5メートル〜






















丁度二年前。
おれは総士に一通の手紙を渡した。
一方的な手紙だったと、思う。

今思えば、総士にとって その手紙は単なる負担にしかならず、
過去の忌まわしい記憶を呼び起こす要因でしかなかったんだ。

でも、伝えたいことが沢山溢れ出して、当時のおれには 
とてもじゃないけれど 止めることが出来なかった。
抑圧した感情に行き場はなく、息絶えるその瞬間すら
想像することは困難で。

おれは望みがないと知っていても、
莫迦みたいに信じることしか出来ないでいた。
当てもない一方的な約束を、溢れ出す感情を、水と光に変えて
今自分の心の中に芽吹く愛という名の種に栄養を注ぎ込んで
花開く瞬間を待ち侘びた。白昼夢をみていたのかもしれない。
桜の木の下で待っている自分がどんなに滑稽に映ったとしても
・・不思議と怖くはなかった。

それほどに、想いは大きく 空をも覆ってしまうほど
いつの間にか成長してしまったのだ。

でも、やっぱり独りは淋しくて・・どこか心細い気がしていた。
もしかしたら、総士はそんなおれを見透かしていたのかもしれない。
嫌われて、もう二度とおれに話しかけてくれないのかもしれない。
様々な感情が、おれの頭を通り過ぎては振り返っていった。

だから、総士から あの手紙を”捨てた”といわれたときは
傷つく一方で、本当は・・・心のどこかで安堵していた気がする。
もう一度、声をかけてもらえたことに・・おれは幸福すら感じていたんだ。

自分で書いておいて 何を言うかといわれれば それまでだけれど
でも、少なくとも 今のおれ達が これ以上壊れることはないし、何より
離れることもない・・・。そのとき、そう、思えたんだ。
このままでいいんだと、ーーーーーそう想った。


想って・・・・いたんだ。








これ以上総士の負担になる自分じゃいけない。
総士を苦しめる存在でいてはいけない。
総士にとって、邪魔な存在になってしまう自分がいるなら
消してしまわなくては ならない。



総士は、中学に入った頃から、大人びた顔をするようになった。
何かに立ち向かっている瞳を宿すようになった。真っ直ぐと、
何かを求め、突き進むその姿勢は・・おれにとっては憧れで、
酷くカッコいい存在にみえた。


そんな総士を影ながら応援できる自分になりたかった。
でも、感情は理性を易々と凌駕してしまったんだ。



単なる憧れだけならよかったのに。
”愛”を知ってしまった おれの深層は 彼にこの想いを伝えたいという
欲求を生んでしまったんだ。


感情だけで生まれ落ちたその欲望は 総士をも巻き込み、
おれを桜の木に縛りつけ続けた。
相手にどんな苦痛を与えてるとも知らずに・・・残酷なまでに
純粋な瞳の色を創って。総士しかもう、見えないみたいに・・。




おれの願いは、一通の手紙に託されたんだ。




結果は、良いモノではなかったけれど。
でも・・総士がその手紙を捨ててくれたことで、おれは前に進めた気がする。
あのまま、あの場所に留まるということは 時の流れから自分が零れ落ちて
ずっと動けずに立ちすくむ事と、何ら変わりはないのだと判ったから。



総士を想う感情は、伝えたかった沢山の言葉たちは
おれに呑み込まれることで溶けて・・消えていってしまったんだと想う。
言いたかった想いは、言えずに 見送るしかなかったんだと想う。

おれに手紙を捨てたと言った総士はとても・・
苦しそう、だったから。

その姿を見て、
悲しいけれど、・・それが一番いい結末だと 感じた。
総士を苦しめたくはない。負担に、邪魔に・・なりたくない。
おれのことを抱え込まないで欲しい。
身勝手な、おれの独りよがりを どうかーーー忘れて欲しい。


総士は優しいから・・・だからおれのために、
そんなに苦しい表情をしてしまう。
本当は、そんな表情を望んでいたわけじゃないのに。



大切にして欲しいんだ。自分の気持ちを。
他の誰の気持ちじゃなくて、自分の中にある・・心を。
何よりも慈しんで欲しい。

やると決めたことを、迷わずやり遂げて欲しい。
おれに手伝えることがあるのなら、なんだってするから。
お前の左目を奪ったおれを・・責めずに大人たちから
守ってくれた総士。苦しかった。お前が心のどこかで憎んでいるのだと
わかっていたから。−−−・・苦しかった。でも・・・・・・・嬉しかった。







だからさ、・・・お願いだ 総士。










幸せでいてくれーーーーーーーー。


















他の誰かの幸せを想うのではなくて、
おまえ自身の幸せをーーーーどうか守って欲しいんだ。








お前に、誰よりも幸せになって欲しいんだ・・・・・













お願いだ、総士。
幸せでいて。














どうか独りで不幸を呑みこんでくれるなよーーーーー・・・。
幸せそうに笑うお前に、もう一度逢いたい。








あの頃のような お前に。














+++


























ひらひら、ひらひら・・・・



桜の花びらが散っていく瞬間は いつもどこか侘しい。
刹那に輝く生の軌跡は 眩しくもあり、寂しくもあった。
桜並木を歩きながら 散り逝く桜の花びらを目で追って
そのとき そのときを心の奥に焼き付けて 薄桃色に広がる地面を
一歩ずつ踏みしめて歩く。


無事三年生に進級し、季節はいつの間にか春から夏へと
移り変わろうと準備をし始めつつあった頃。


おれは、校庭の隅に佇んでいる大きな桜の木を
不意に視界の端に映した。



ちょうど二年前。一人の少年をそこでずっと待ち続けていた自分。
懐かしく いまも胸で輝き続ける 色褪せない思い出。
桜の木を目にしたとき、感慨と共に湧き上がってきた感情の名は
意外にも 予想できなかった名前であった。




「・・・・・・なん、で」




そう。”驚愕”だ。




今も美しく 桜の花弁をつけて凛と咲き誇る その大きな木は
圧倒的な優美さと存在感を 周囲に知らしめていたのだった。



少しも散る事無く、今が最盛といえるほど優雅に
春の空気を漂わせて、その一帯だけ 別の季節に埋もれているようにみえた。




「随分遅い春、・・なんだな」



独り言を口走りながら、おれは一端止まった足を再び動かし、歩き始める。
晩春、とでもいうのだろうか。
あの思い出の桜の木だけは まだいつまでも来ない待ち人を
待つかのように 春を独占し、手放そうとしていない様子だった。
二年前の自分に少し似ている桜の木が、今は少しだけ
自分には眩しい気がして おれは早足で 桜の木から更に遠ざかっていった。


すると、急に背後から声が聞こえた気がして
おれは即座に振り返って見せた。




「真壁くん!!」




蔵前だった。



蔵前は、ふわりと肩まである髪を風に靡かせながら
スカートの先を揺らして おれの方へと近づいてきて言った。



「途中まで一緒に帰りましょ?」



穏やかに微笑む 眼鏡をかけた少女の笑顔に
おれは心のどこかで ほっと息づくように安堵しながら
こくり、と深く頷いて見せた。


彼女はどこか他の女子生徒と違い、母性のようなものを漂わせている。
皆の一歩先をいくように 大人に近い女性にみえてならない おれは
心のどこかで母親の影を彼女の中に探していたのかもしれなかった。




蔵前とは、比較的最近よく話す。
きっかけは 総士のことだったけれど、
おれにとって 話を聞いてくれて、尚且つ話すのを待ってくれる女性
というのは蔵前が初めてだったから とても話しやすくて助かっていた。
気さくに振舞ってくれる彼女は 総士が今何に苦しんでいるのか
知っているようにみえた。だからかもしれない。
おれはなんとなく 彼女と関わることで、総士の本心に少し
近づけたかもしれないと 密かに喜んでいたりしたのだった。

蔵前も、おれが総士に想いを寄せていることは知っているし、
総士の秘密について 何か確信めいたものを掴んでいるようで
おれたちを結び付けようと 仲介役のようなものを自然と引き受けて
くれていた。おれとしては、これ以上何も望んではいないけれど
彼女のその思いやりが嬉しかったし、何より 自分の気持ちに共感
してくれる存在が傍にいてくれることが嬉しかった。


そんな訳で、おれと蔵前はこうしてたまに 時間があえば
一緒に帰ったり、立ち話なんかを些細な時間の中 するようになったり
それなりに仲良く日々を過ごしていたのだった。






そうこうしているうちに、蔵前はおれの横に並ぶと
明るく透き通った声で おれに話し始めた。



「ね、真壁くん。今日このあとちょっとだけ時間ある?」



「え・・・?なん、で・・・・?」



「一緒に高台に寄ってみない?」



「高台・・・?」



「うん、そう!」



晴れやかな声を虚空に振りまきながら 彼女は鮮やかな身のこなしで
おれの歩調に合わせて 先を進んでいった。
大きな瞳がきらきらと、夕日に瞬いて 眼鏡の奥で光っていた。
どこか子供のような無邪気さが一瞬垣間見られたみたいで 女の子らしい
可愛さが見え隠れしていたのだった。



「今の時期、高台から見る景色は最高なのよ!
桜ももうすぐ終わるし、・・ね?見に行こうよ!」


半ば強引にーーー、でもどこか清々しいほど積極的な彼女の言動に
引き摺られつつ、おれは 小さく微笑みを零して、再び大きく頷くのだった。

桜はほぼ散ってしまったけれど、まだ春の匂いが残っているかもしれない。
高台からなら、見えない春の足跡が覗けるかもしれない。

おれはいつの間にか 期待感に胸を馳せ、微かに その景色を
楽しみにしていた。口には出さないけれど、おれは少しだけ子供のように
無邪気にはしゃいでみたくなってきた。



ずんずん、と先を急ぐ蔵前の後を緩やかに追い続けながら
おれは 心地よい焦燥に胸を熱くさせた。
それは楽しみだった遠足を前日に控えた小さい子供だった自分に
似ていたり、最後に食べようと心待ちにしていた好きなおかずに手をつける瞬間だったり
不思議な感覚に胸を昂ぶらせながら おれはひたすら彼女の背中を見つめているのだった。




そんな想いに浸っている間に、足はすでに高台に到着していた。



ふと、周囲を見渡せば 思いの他 雄大に広がる夕日の赤が空に浮かびあがり、
そのすぐ真下には 人びとが営む町並み、居住地が所狭しと寄り添いあっていた。
島の人の生活がこの景色には広がっている。そう想うと この島がとても
愛おしい存在に思えてならない。かけがえのない人たちが暮らす この場所、
この空が大切に光り出して 胸に届くのはそう難しいことではなかったのだった。

不意に、潮風が高台に吹きつける。
春の匂いである 桜の花弁が鼻につき、辺りを優しい香りへと変えていく。



おれはゆっくりと、瞳を閉じると 耳の奥でいつの間にか響く声と出会っていた。
遠く・・・・いつだったか おぼろげな記憶の彼方に封印されていた その声。
閉じた瞳の奥に 残る残像ーーーーーー、形が浮かぶ その人。





『・・・ずき』





意識が薄れ、その記憶にすべてが呑みこまれていく
感覚に陥っていく。








『かずき・・・』






そう、・・・・・・・・・・あれは







あれは何時だっただろう?誰だっただろう?
徐々に思い出す前に 想い出が怒涛のように
頭の中を駆け巡っていった。






『一騎・・ーー』





あぁ、思い出した。






あれは大好きな あの人の声。
何度もおれを呼んでくれる、あの人の声、だ。


おれは再び瞳を開き、目の前に映る景色を
静かに見つめてみる。
















忘れもしない、あのとき。
丁度 春が終わりかけた 幼い日の二人。

















あの頃、世界は 二人だけのために
輝いているように見えたんだ。








+++


































「一騎、こっちだよ!早く・・!!」




「待ってよ総士〜・・」





いつになく張り切って前をいく琥珀の髪がキラキラと
光に反射して とても眩しかったのを覚えてる。

まだお互い小さかったせいか、好奇心だけで無鉄砲に
前へと進みたがった頃だった。大人の真似をして、背伸びをして、
時々怒られながら 毎日を自分達なりに楽しく過ごしていた気がする。


水色のシャツに白いパーカーを軽く羽織った総士は
肩に付くかつかないかわからない 琥珀の髪を風に揺らして
おれを急かして、時折手をひいて走った。

長い坂を上りきり、やっと着いたと思った高台から見える景色は
春の終わりを予感させるもの悲しいものに映った。






「総士・・・桜、散っちゃってるね・・」



おれがしゅん、と肩を落とせば 総士はにこっと微笑んで
おれの肩にぽん、と軽く手を置いて言った。





「うん。でもおれがみて欲しかったのは そっちの景色じゃないよ!」




総士は息を少しだけ弾ませて 空いている手で
本当に見せたいものを指差した。
おれは彼の指した世界を 真正面から見据えてみる。




するとそこには。










「ぅわ〜〜〜〜〜ぁぁ・・・・・っ、・・・・!」





思わずあげてしまった感嘆の声。
おれの瞳に映ったのは 燃えるような夕日の大きさと




水面に映って ゆらゆらと揺れながら
星のように瞬く夕日の姿と夕焼けの海の姿。そして その光を一心に受けて
シルエットを鮮明に浮き彫りにする島の町並み。
光と影のコントラストが絶妙で 瞳の中に焼きついた その風景。

言葉を失っているおれの傍らで あの日の総士は
確かにおれへと 紡いでくれた 言の葉を
おれはいつまでも 胸の奥にしまい込んでいる。


宝物のように。






「凄い!すっごく綺麗だね、総士!!夕日が海に映ってきらきらしてるよ!!」




「うん、そうだね」




「桜散っちゃってさ・・ちょっと寂しい景色だなって、さっきまで想ってたけど・・総士が
教えてくれた景色はすっごく綺麗だね!!感動しちゃったぁ・・・」




ほぉ、と深いため息を零す おれに。
胸いっぱいになっていたおれに。総士は言ってくれた。







「桜はいつか散ってしまうし、季節はいつだって移り変わるし、
・・多分 この町並みも いつかは変わっていってしまうかもしれないね」







「・・・・・・・・・・そう、なんだ」




静かに、小さく零された その言葉が
とても胸に突き刺さって 当時のおれには酷く悲しい現実に思えた。
だから 目の前が微かに滲んでしまいそうになったのを
必死で我慢していると 傍らに立っていた総士が 優しくおれの髪を
ゆっくりと撫でてくれて ーーーー呟いたんだ。










「だから一騎。僕達は・・変わらないで居よう」








「え・・・・?」









「たとえこの先 どんな事が僕達に待ち構えていようと
僕達は・・・僕達だけは 変わらないで居よう」







「総士・・・・」









「たとえ離れ離れになっても・・・一緒にいられない日が来ても、
僕ら繋がっていられる。−−−今日のこの景色を思い出してくれれば
僕ら いつまででも一緒に繋がっていられるんだ」







「ーーーーーーーー・・・ほんとう、に?」







「うん。ほんとだよ!だって、この夕日が覚えててくれる」







「ーーーーーー・・何を?」








「僕らがこうして一緒にいた瞬間をさ!」






「お日様が・・・?」





「そうだよ」






「ーーーそれ、本当に、ほんとう?」







「あぁ!本当。−−・・知らないのか、一騎?」






「え・・・・?」
























「あの夕日は、僕達のために
いつだって輝いてるんだ」






















そう。






いつだって・・・・・・・・・・・




























































「ーーーーーーーーー、・・・真壁、くん」









「ーーーーーーーーーえ?」








潮風にのって、隣に佇む聡明な声が 耳元まで届いた。
おれは呼ばれた声に振り返って
夕日に向けていた視線を その人へと移した。


蔵前は おれの顔を見るなり
瞳を細めて 柔らかい眼差しを小刻みに揺らしながら
ふっと小さく困ったような微笑を浮かべて 優しい声で
おれに尋ねてきた。






「前に・・・・私が言った言葉・・・覚えてる?」





「ーーーーーーえ・・?」






「真壁くんにもきっといつか・・わかるときが来るからって、言った言葉」






「ーーーーーーーー、」








「今なら・・・・・、今の真壁くんなら・・わかるはずだから
ーーーー・・・もう一度、言うね?」







「くら・・・まえ・・・・」






静かに、心に沁みいるように 深く落ちていく彼女の声。
潮風が 肌を掠めて 春の匂いを僅かに運んでくる この瞬間。



夕日のきらめきが、一層 煌びやかに増した この時間。
彼女はあの冬の海岸で口にした 言葉を
もう一度おれに 伝えてくれた。




「たとえば・・・・・・・・・夕日を見たとき、 それがいつもより綺麗に見えたら・・・」








今がそのときだと
教えてくれるように。











「たとえば、・・・・・・その人からもらった言葉が、ずっと胸に響いていたら・・・」








「ーーーーーーーーーー・・・」










「きっと、・・・云ってね?−−−−あなたの想いを」









「ーーーーーーー蔵前・・・・、なん・・で」











「大切に、してあげて・・・・・・・・・」













どうして、今 そんな言葉をおれに言うんだ?







「なんで・・・・・そんなこと」












今更、なのに・・・。













おれは 彼女を見つめた。
苦しいくらいに。胸が潰れそうなくらいに。





言葉が、それ以上 つづかない。













「ーーーーー・・・・だって、真壁くん・・・泣いてるよ?」







「ーーーーーーーーえ、・・」







「さっきからずっと・・・・・夕日をただ見つめて・・・泣いてる」









不意に、自分の頬に触れてみる。
すると大きな雫が止め処なく指先を伝わって
地面に零れ落ちる様が 手に取るようにわかった。




いま、気づいた。
おれ・・・・・泣いてる。−−−−泣いてるんだ・・・・。








「ーーーーーーーー、っ・・・・な、んで」







訳もわからず 指先を濡らす涙の重みを
肌で感じながら、おれは呆然と 蔵前に視線を向けた。



蔵前は 慈しむように微笑を浮かべて おれに
直向な眼差しを送ってきて、言い零した。







「きっと・・・・真壁くんの中で、皆城くんとの想い出が
今も生き続けているからなんだと思うわ」









そういって蔵前は おれにそっと近づいて
おれの両手を握り締めて言った。










「真壁くん・・・・私、幸せになってほしい。
皆城くんだけじゃなくて・・・真壁くんにも」










彼女は言の葉を零しながら、ギュッ、とおれの両手を
強く強く握り締めた。そうしてーーーーー。










「皆城くんね・・・・・今、独りで戦ってるの。見えない敵と、戦ってるの。
寂しいって背中がいってるのに・・・・声には出さないの。どうしてだか、わかる?」




おれは優しく穏やかに問いかけてくる彼女の声に
首を振った。涙が、何故か止まらなかった。
おれは多分、その先をーーーーーー知っていた。




やっと、知ったんだ。

















「ーーーー真壁くん。・・・・・貴方を待ってるからよ」
























貴方が、声をかけてくれる そのときを
待っているからよ。




彼は多分 自分では身動きが取れない。
だからせめて 真壁くんには・・・自由をあげようと
自分を犠牲にしたのね。


彼を、島を守ろうと自ら命を削ってくれていたのね。





口に出すことはできないけれど。




少しでも彼が、真壁君が・・幸せになればいいと
私は願う。














蔵前は 握り締めたおれの両手をゆるり、と解くと
静かに微笑んで おれに再び尋ねた。










「・・・・・・真壁くんは、・・・・どうしたい?
その想いはーーーーそのままにしていていいの?」



真っ直ぐな言葉で言い放たれたおれは 首をまた大きく振って
その言葉をはっきりと否定した。







流れ落ちる涙を、服の袖で拭いながら
おれは やっと自分の本当に求めていた答えに行き着く。



長い、長い遠回りを随分した気がするけれど
・・・やっとおれは 前に踏み出せる 確かな一歩を手に入れたんだ。









「言わなくちゃ・・・おれ、・・・・っ、−−−
総士に・・言わなくちゃ・・・・。
ーーまだ、大切な事・・・伝えて、ないっ・・・・」





嗚咽まじりに紡いだ言葉は とても不恰好に
虚空を彷徨っては消えたけれど。

目の前に佇む蔵前は 酷く嬉しそうに微笑んでくれたから

おれは不器用でもかっこ悪くても、それでいいんだと思った。






真っ赤な夕日を背に、おれは
あの日の総士に再び手を伸ばす覚悟を決めて


いつまでも嬉しそうに微笑む蔵前の顔を
見つめ続けていた。






























なぁ、総士。










突然涙が溢れ出したのは きっと


















呑み込んできた沢山の言葉たちが



















どれひとつとして消えようとはしなかったせいだよ・・・




















NOVELに戻る



こんにちは!!青井聖梨です!!
ここまで読んで下さって、本当にありがとうございました!!

今回の主人公は一騎、となりました。てことは
このシリーズの最終章を飾るのは・・・?まぁ、おわかりの事かと
思いますが次回は最後なので、どうぞお楽しみに。

長い話になりましたが、やっと次で完結です。
少しでも楽しんで頂けるよう、頑張りたいと思います。
すれ違っていた二人を結ぶラストにご期待下さいvv

それでは〜。


青井聖梨 2008・8・2・