やっと見つけた。
君が僕の運命の人・・・
君の傍に居るよ〜後編〜
「先・・・・生・・・・」
「大丈夫だ。怖がらなくていい・・・優しくするから」
銀色の瞳が、カーテンの隙間から入ってきた赤い夕焼けに照らされて、
柔らかく光ると 途端に深みを帯びた情欲を奥に宿した。
「あっ・・・・」
シャツがいつの間にか総士の手によって剥ぎ取られていく。
次第に露になる自分の肌を客観視するような瞳で一騎はゆっくりと眺めていた。
覆いかぶさった総士の長い髪が、一騎の透明な肌に優しく触れると、一騎の胸は
またドキン、と高鳴りをみせる。思わず、その ときめきに自然と声をあげてしまうーーー。
「綺麗な・・肌ーーー思ったとおりだ・・」
そう言って、総士は一騎の珠の肌に唇をあてがった。
まもなく、一騎の体中に赤い花がちらほらと咲き誇っていった。
「ンッ・・・やぁ、っ・・・せんせっ・・・くすぐったい・・」
恥じらいながら、少々身動ぎする組み敷かれた可愛らしい生徒を前に、
総士は諭すような声色で上から言葉を落とした。
「すまない。君の肌があまりにも綺麗だったから・・・」
黒く艶やかで、甘い香りがほのかに漂う柔らかな髪を
指先に絡めながら 総士は栗色の双眸を真摯な瞳で覗き見た。
「・・・・・・・ばか」
頬を朱色に染め上げながら、一騎は恥ずかしい言葉を自分に贈る目の前の
先生に向かって悪態をつくのだった。視線が瞬間、絡み合うーーーー。
「・・・やっぱり君は、桜の精かも知れないな?」
「−−・・・えっ・・?」
急にそんな事を口にした総士の言葉に、微かに反応を見せた一騎は
その台詞を以前、聞いたことがあると確信した。
決して忘れた訳ではなかった。ただ、記憶の奥底に、大切にしまい過ぎて
再び取り出すのに時間がかかっただけであって、忘れるはずはなかった。
瞳を瞠り、総士を潤んだ瞳でひたすら見つめる一騎。
総士は、目の前の澄んだ瞳に苦笑を漏らすと、
絡めた指に伝う艶やかな黒髪にそっとキスをして 言った。
「・・・・今にも、消えてしまいそうだ」
そう言いながら総士は
切なそうに瞳を細めて、
今度は一騎の桜色の唇にキスを落とした。
一騎は黙ってキスを受け止めるのだった。
この瞬間、胸のときめきの意味を一騎は密かに
心の奥で知るのだった。
自分が何故、この行為を受け入れたのか。
自分が何故、この人の紡ぐ言葉に鼓動を速めるのか。
答えは全て、たったひとつに繋がっていた。
たった、ひとつにーーーーーーーーー。
+++
「っ・・・あ、ぁっ・・ん!」
クチュクチュ、と卑猥な音が室内に木霊していた。
耳に届く艶かしいその音に、羞恥心が一騎を苛める。
同時に、与えられる刺激に耐え切れず、恥ずかしい声で啼く自分にも
ほとほと愛想が尽きてきた。一騎の精神はもう、限界だったのだ。
「やっ・・、先生ッ・・・ハズカシ・・・、ぃっ、あぁーー!!」
秘部に長い指を二本挿し入れては、まだ開かれていない
未知なる領域を支配しようとする総士。
その表情は、まるで勝利を手にした参謀のようだ。
「あ、ンッ・・・・イタッ・・・・」
最初は控えめに挿し入れしていた指だったが、
時の経過と共に大胆に変わっていく。
与えられる刺激に変な違和感を覚えつつ、一騎は総士の首に
両腕を絡みつけて縋るような体勢を作り上げた。
「どうした?もっと奥まで突いて欲しいか・・?」
厭らしくも赤身を帯び始めた肌は、熱を次第に中へ篭めた。
極上の刺激を求めてヒクつく一騎のソコは、厚い内壁を蠢かせ、
新たな感覚を待ちわびていた。
一騎の欲望の先端は甘い蜜で今にもとろけそうである。
「あっ・・、あぁ、・・・い、やァ、ッ・・」
はちきれそうな自分の中心を、総士の中心に擦り付けた一騎は
無意識のうちに、腰を浮かせて揺さぶっていた。
”欲しい、欲しい”と総士のソコへ懇願するかのように。
「・・・淫乱だな、お前の身体。もうそんなにも昂っているのか?」
クスッ、と意地悪げな微笑を浮かべた総士は 一騎の中心の先端を
軽く触りながら、扱き始めた。
最初は羽のように優しく、そして次第に激しく。緩急をつけて、そこを追い詰めていった。
先端をクリクリと指先で撫で回したかと思うと、今度は根元をキツク締め上げる。
そんな事を何度も繰り返しされる。
一騎は堪らないという表情をしながら、瞳に涙を浮かべると
狂ったように一言叫んだ。
「はや、くっ・・・、総士ぃっーー!!」
瞬間、動いていた手が止まった。
同時に溢れ出た涙が一騎の頬を伝って、床にポタリと静かに落ちた。
涙で滲んだ視界。その中で縋りついた相手を、身体を少し離して覗き見る。
すると、目の前の銀色の瞳が雨に濡れた葉のように優しく揺らいだ。
その表情は、寂寥を映すわけでもなく、潸然とした色を宿したわけでもなく、
ただ ただ愛惜を押し隠したような表情に歪んだ。
ーー刹那、力強い腕に息も出来ないほど激しく抱きしめられる。
「もう一度・・・・呼んでくれ。」
搾り出したような声が、胸の奥に届いてきた。
一騎は、理由もなく顔をくしゃっ、と歪めると
総士をきつく抱きしめ返して言った。
「好き、・・・・・総士」
切ない声色で あたかも散り行く桜を目前で見届けるように
そっと 想いを言葉に篭めて呟いた。
「−−−・・・・・・一騎、・・っ・・!」
返ってきた返事は
愛欲に満ちた綺麗な色をしていた。
一騎を抱きしめていた腕を総士は優しく解くと、
先程慣らした秘部に目掛けて自分の欲望を押し当てた。
ズプッ・・、と切れる音がして 入れた周囲からは血が微かに滲んだ。
欲望があまりに膨らみすぎて、一騎のソコは初めての行為に耐え切れなかったのだ。
「あぁ、ぁっっ!!!イタッ、ぃよ、ぉっ・・・」
悲鳴に似た叫び声が室内を覆った。
総士はそれでも、今 行為を途中で止める事が出来なかった。
それほどに、彼自身が高まりをみせていたのだ。
「少しっ、・・我慢してくれ一騎。もう少しで全部入るっ・・・!」
総士は、切羽詰った声を響かせながら、一騎の秘部の内壁を押しのけて
自分を根元まで強引に受け入れさせた。一騎のソコは、赤い血と総士の先端から
先走って漏れた愛液とが混ざり合ってヌルッとした感触に変貌していた。
「あッ、そ、うし・・・ンっ、・・・・はっ、ぁ・・・」
痛みに耐えながら、呼吸を整えて一騎は総士の名を拙く呼んだ。
腰が微かに揺れ始める。刺激を求める合図だった。
「一、騎っ・・・動くぞ?」
一騎の腰を高く一瞬浮かせると、その勢いで
根強く一騎を貫いた。愛液と鮮血がほとばしる。
「あぁぁンっ・・・・!!!いた、ぁ、っ・・・」
極度の痛切な痛みに襲われながら、一騎は律動する総士の
動きに合わせて、激しく腰を揺さぶった。刺激を真正面からその細い身体で受け止める。
「一騎っ、・・・すぐ良くなるから・・・・」
耳元でそう囁いた総士は、一騎の太腿に手を這わせて、優しく撫でながら
足を大きく開かせた。衝撃をもっと深くで受け止めてもらおうとしたのだ。
「あ、んっ・・・・や、ッ・・・はやぃっ・・・」
ーーーーーギシギシ・・
ベッドのスプリングに似た音が、大きなソファーから聴こえてきた。
加速する総士の律動に必死でついていこうとする一騎。
愛欲を込めたその総士自身は、一騎の内部で生き物のように激しくうごめき、
膨張の一途を辿っている。
次第に熱くなる総士肉棒に一騎は、自分の中が犯されていく感覚を確かに感じていた。
一騎を組み敷いた総士の表情が切なく歪められ、額に汗を滲ませている。
一騎はそんな総士に、しっかりと背中まで腕を回して抱きつきながら、
ただ与えられる感覚に精神を研ぎ澄ませ、腰を忙しなく揺さぶっていた。
「ッン・・・はっ、ぁ・・・あん・・・そう、しっ・・・」
妖艶に光る瞳が涙を頬に伝わせながら、妖しく浮き上がると
淫らに開いた一騎の唇が微かに震えては総士の名を繰り返す。
総士は、目の前の卑猥な身体と月明かりのような透明極まりない肌に
再び唇を寄せては脆弱に貪った。
繋がった部分からは総士の愛液が止め処なく一騎の四肢を伝っては
ベッドに流れ落ちて、一騎の甘い香りとその独特な匂いとが交じり合った。
「あッ・・・!んンっ、・・やッ、・・そ、しっ・・・・も、うっ・・・−−−!!」
桜色の乳房を総士が舌で転がしていた最中、
一騎は身震いをしながら、限界を口走った。
一騎の下半身部に視線を落とせば、一騎の中心が先端から
蜜を零し、ぷるぷる、と痙攣を起こしていたのだ。
いく一歩寸前とでも表せば良いのか。
苦悶に満ちたソコは解放のときを今か今かと待ちわびている。
一騎の悩ましい顔が、”耐えられない”とでも言うように情欲に濡れている。
「そろそろ限界なのか・・?一騎ーー」
唇を突起から離した総士は、一騎の中心に指を這わせると、
ぞんざいにソコを弄り始めた。新たな刺激に一騎は悶絶するように
背を仰け反らせ、身動ぎをして刺激に再び耐えようと試みる。
「はぁっ、ぁああンっ・・・や、っ・・・おねがっ・・・ーーー」
透明な涙が床にぱたっ、と零れ落ちると一騎は
総士にきつく抱き縋る。最早一騎の身体を蝕む刺激は、痛みから
”快感”へと様子を変えていたのだった。
一騎は咄嗟に荒々しく肩で呼吸をしながら、
総士の長い琥珀の髪に顔を埋める。
総士は思わぬ一騎の反応に一瞬目を瞠ったが、途端に冷静を
装うと同時に、意地悪い瞳で一騎を抱きしめて言った。
「どうして欲しい一騎・・?」
内壁に揉まれながら、総士自身も限界が近かった。
が、それでも一騎に辱めの言葉を言わせたいという衝動に駆られた総士は
抱きつく一騎の耳元で、闇を声音に響かせながら問う。
すると一騎の身体が即座に反応を見せて、総士から身体を引き離した。
連結した部分からは、ドロリとした愛蜜がソファーにどっと零れ落ちる。
一騎は残光を瞳に宿しながら、萎縮した身体を見せびらかすように
総士の視線を釘付けにした。そしてほんのり紅く染まった頬の近くまで
自分の手を持ってくると、微かに顔を隠すように身じろいだ。
歯できつく唇を咬んで、総士の密かな辱めに一騎は耐えつつ口にした。
「優しくするって、・・・言った、のにっ・・・・」
朽ち果てる事のない透明な雫が、またひとつと瞳の端を流れ落ちる。
柔らかに揺れた瞳は哀切な色を自然に映えさせると、光のように煌いた。
震える声音は少々擦れながら、まだ微かな温かさを含めている。
「総士っ、・・・意地悪、ばっかだ・・・」
恥じらいを忘れたかのように繋がっている秘部からは
辱めを求めるような水音が忙しなく聴こえて来る。
総士は目の前で余りにも可愛く振舞うその少年に心も身体も
ズタズタに引き裂かれたような感覚を、混迷する意識の中で確かに感じた。
「かず、き・・・・・」
総士の貪欲にうごめく欲望は既に一騎の中で頂点に上り詰め、
焦燥と愛惜に身を焦がし始めていた。
そんな闇の住人を他所に、一騎は尚も健気な視線を目の前の人物に贈った。
殊勝な澄んだ声色でーーー。
「意地悪・・・、しないで・・・・」
ーーーーーーーーードクンッ
その一言が、激しく総士の心臓を脈打った。
総士にとって、最後の足掻きだったのかもしれない。
体中に電撃が走り、欲望は血流に混じってその存在を主張する。
総士自身の限界が今、ここに見出される。
「・・・・・・しないよ、もう。だから一緒にイこう?」
そう言葉を零した途端、一騎の返事も聞かぬまま
総士は最奥を貫いた。
グチュッ、と何ともいえない水音が部屋中に響き渡る。
「あぁぁぁぁっ!!!!!!」
いきなりの刺激に、一騎は思わず身震いをして
身体を大きく仰け反らした。
「っ・・・・一騎っ・・!!」
まるで音楽を奏でるように、規則正しい律動が一騎の内部を
侵食し、総士自身を生かし仰いだ。
「っあぁぁああ、んっーーーーーー!!!そ、っ・・アぁ、っ」
ギシギシとしなるソファーに二人身を沈め、互いを求めるように
必然的に絡み合って、その温度を高め合った。
「はっ、ア・・ひゃぁっ、・・・ん!!」
一騎の一番敏感な部分を突き止めた総士は、
その愛くるしい反応に息をあげながら何度もソコを攻め続けた。
甲高い声色が次第に熱を帯び始め、
その色の中に妖しい影を落としていく。
既に理性を失ったかのように腰を頻繁に振り、足を大きく広げる一騎。
その華麗で艶麗な姿は総士の銀色に焼きついて離れない。
もう、全てが一騎によって壊され、奪われたと総士は確信するのであった。
時勢も過ぎ、
そろそろ昂る互いの愛欲を解放しようと思った総士は
一端根元まで自分を一騎の中から引き出した。
物足りなそうにヒクつく一騎の内部。
ソコに目掛けて総士は今度こそ解放の狼煙をあげるため、
最奥まで勢いよく己の欲望を突き入れた。
大きな刺激と快感に、一騎は完全に心酔すると同時に
一騎の中心の先端を総士が思い切り引っ掻いた衝撃で
一騎の膨張したソコは、白濁とした愛液をソファーと
総士の下腹部に吐き出した。
「ぁぁぁ、ああ、っーーん・・・総士ぃぃっーーーー!!!」
吐き出す刹那、総士の名前を高らかに叫んだ一騎は
身悶えるように その快感の海へと身体を無意識に委ねていた。
一方総士は、一騎の内壁がその刺激で急縮したため、
激しい締め付けに合っていた。
その締め付けに総士の暴走していた肉欲は、絞り込まれたように圧迫されると、
一騎と同じように、愛蜜を一騎の内部で勢いよく噴出させた。
「っ・・・・・・一騎!!!!!!」
途端に求め合い、果てた二人。
欲望を自らの内部から外部へと追いやった二人の身体は
極度の疲労と眠気に襲われると、暗澹たる闇に意識の果てで囚われた。
力尽き、静かに崩れ付す総士を、虚ろな視界で抱き支えた一騎は
その頂点を極めた温かい身体を肌で感じながら、静かに瞳を伏せるのだった。
確かに、幸福が 一騎の中で息づいた瞬間であった。
+++
君とまだ出逢っていなかったあの頃、
僕は愛の渇きに飢えていた。
春、新学期。桜が満開のあの一本道をただ独りで歩いていた。
初めての新任先。これから始まる保健医としての人生。
不安と期待を織り交ぜた、奇妙な感覚に胸を躍らせながら、物足りない何かを
常にどこかで探していた僕。
あの頃。
僕の瞳に映る全ては 何もかもが新鮮で、儚く脆かった。
仕事に生きる両親の背を見て育った僕は、愛を求めて
いつも足元がふらついていた。
大人同然に幼少から育てられた僕には、子供の頃というものが全く無く、
優しい思い出などを持ち合わせていない、粗末で平坦な日々しか過ごして来なかった。
ましてや、家族団らんというものとは無縁の世界に生きていたのだ。
本当は家族の、友人の、誰かの愛が無性に欲しかった。
欲しくて欲しくて堪らなかった。
けれど、求めれば求めるほど・・皆僕から去っていった。
ーー母親に言われた一言を、今も鮮明に覚えている。
『総士。・・・・あなたの愛は、重すぎる』
愛の渇きに喉をやられた僕には もう、
この一言を 悲しむ事も出来なかった・・・
愛を、この僕に誰か。
渇きを癒して。
心の叫びが いつも僕をどうしようもなく
追いつめていった。
・・・そしていつの間にか、僕の世界から色は消えた。
皆、僕の大きすぎる愛を避け、離れていく。
押しつぶされて、そこに愛があったかさえも押し隠す。
「離れていくのか・・・お前も。
やっぱり、・・・・離れていくんだなーーー・・」
最後に別れを告げた人は誰だっただろう?
もう、遠い昔の出来事のように
記憶からは消去されていた。
僕の愛に耐えかねた誰かの心を、
僕が握りつぶしたことだけは確かだった。
でも、それだけだった。
世界は色で溢れているのに
僕の瞳にはもう、色は映らない。
僕から溢れるのは
満たされない感情と
愛を嘆いた涙だけ。
そんなとき、出逢った。
・・・・・君に。
途中まで乗ってきたタクシーが渋滞にはまり、
予定よりも大幅に遅れて正門前に到着した。
正門はもう閉まっている。
どうしたものかと迷っていたとき、タクシーの運転手が
侘びとばかりに裏門がある事を教えてくれた。
始業式に間に合うだろうか?
新任で新米の僕。初日そうそう遅刻しては立つ瀬がない。
少し焦った僕は、教えてもらった裏門のある桜並木の一本道を
急いで走っていた。が、次第に足取りは重くなる。
頭上から降る桜の花びら。
おそらく、綺麗な色・・なのだろう。
しかし、僕の瞳には今 色が映らない。
モノクロ写真のように周囲が見える。
僕はそっと瞳を閉じた。
その色を思い浮かべながらーーーー。
淡い薄桃色。
鮮やかに映える、洗練された色。
心で思い描いて、瞳を開く。
けれど。
やっぱり色は映らない。
裏門の近く、独り佇んだ僕。
ただただ、ゆっくりと歩いては 足を止めた。
散り行く桜の運命を静かに瞳に焼き付けながら、
せめて色が見えない代わりに
その姿だけは 最期まで見届けようと
式も呆けて、見つめていた。
空を仰ぎながら、頭上から舞い落ちる桜の花びらを
食入るように見つめ続けた。その色を空想で思い描きながら、
薄っすらと微笑を浮かべて 明るく楽しい気分を装う。
出来るだけ、この散り行く桜を 温かに見送ってやりたかったのだ。
すると。−−−不意に強い風が吹いて、風が桜を辺りに撒き散らした。
瞬間、近くに人の気配を感じた。
気配のする方へと視線を僕は向けてみる。
そのとき、相手も僕を見つめてきた。ーー視線が互いに重なる。
僕のすぐ近くで感じたその人は
華奢な身体をした 僕より背の低い、同い年くらいの少年だった。
甘く綺麗な整った顔立ち。
女性のような華奢で細身を帯びた身体。
柔らかで澄んだ大きな栗色の双眸。
温かで清浄な雰囲気をまとい、艶やかな髪を風に
靡かせては僕を真摯に見つめてくる。
その儚くも淡い姿に、一瞬僕の鼓動が速まった気がした。
僕は桜の降りしきる中、どこかまだ幼い表情をした
この少年に出逢った。
彼の声が聴いてみたくて、思わず話をかけてみる。
「雨が・・・降ってきたね」
僕がそういうと、君はとても不思議そうに
純粋な眼差しで 僕を一心に見つめていた。
「・・雨・・・?」
その声は、僕が想像していたとおりの声だった。
物静かで、どこか悲哀に満ちていて
静寂を尊ぶような、少し高い声色。
僕は疑問符を浮かべたような顔をする彼に
応える様に、人差し指を空に向けて、”桜雨”と静かに呟いてみせた。
瞬間。
彼は、はっとした様子で頭上を見上げると
桜の花びらが止め処なく 僕らの肩や髪に降り注いでいることに気づいた様だった。
先程吹いた風のせいで、桜の散るスピードが速まっている。
その事実を惜しむかのように彼は、何故か淋しげに、切なげに顔を密かに
歪めながら、空を仰ぐように視線を頭上に移した。
そして、独りゴトのように僕へと呟いた。
「・・・・・傘、忘れてきちゃった」
ひらひら、ひらひら と。
彼の肩や髪に降り注ぐ花びら。
その響くような少し甲高い声色のせいなのか、
それとも君の その美しい姿に心が満たされたせいなのか。
空を仰ぐ君を見つめていた僕の瞳に、その瞬間
色が宿った。
ーーーーーー世界は僕に色を返して、優しく彩り始めたのだ。
僕は、何が僕を変えたのか分からなかった。
唐突の出来事で、一瞬目を大きく瞠り、食入る眼で君を見つめた。
君はそんな僕に”どうかしたのか?”と訊いてくる。
僕はそのとき、気付いてしまったんだ。
ーーーーーーーー君だけが、こんなにも鮮明だってことに。
色が君に集まり、君が放った光で周囲に色が反射して映っている。
そう、僕の瞳には見えた。
そうか。君が僕に色を与えてくれたんだ。
この、桜が降りしきる桜並木で。
君が小さな奇蹟を、僕に見せてくれたんだね?
僕はその小さな奇蹟を目の当たりにした途端、
思わず瞳を細めて 自然と表情を綻ばせた。
目の前の君が柔らかな髪を風に揺らしながら
瞳の熱を僕に贈ってくる。
・・とても、不思議そうに僕を覗いて来る。
桜が舞い散る中、愛らしい表情を浮かべて君は
其処に佇んでいた。
なんだか君が、桜の精に見えた。
自然と言葉が宙に零れる。
「−−−−今、桜の精を見つけたところだ・・」
君は、そのとき 静かに笑った。
・・彼なら、僕の渇きを潤してくれるかもしれない。
僕にたった今、色を与えてくれた 彼なら。
・・・・・・・僕の愛を、受け止めて
僕を 愛してくれるかもしれない。
やっと見つけた。
君が僕の運命の人・・・
+++
「ッ・・・あん、っ・・・・あっ、ぁ・・!」
四つん這いになった格好で四肢を震わせる一騎を、ひたすら後ろから
貫くことに専念する銀色の双眸は、最早無心に近かった。
「ひゃ、っぁあ!!・・・そ、しっ・・・ダメッ・・」
前のめりに俯いた一騎は、ベッドシーツをキツク握り締めると
今にも発狂しそうだと言わんばかりに喘ぎ始める。
「あっ、アン、・・・・そ、こっ・・・、はっ、あぁ・・・!!」
まるで”もっと、もっと”と強請るように秘部をさらに突き出すように
下半身を無防備に総士の前に曝け出した。
気をよくした総士は、腰を掴み、一騎の尻の位置を更に高くあげると
引き上げて 激しく最奥まで貫いた。
「ひゃぁああっーー!!!あ、あぁっ、・・・!!」
連結したソコからは、ズプッ、と艶かしい音が聴こえてきた。
太腿を伝って、愛液がベッドシーツに零れ落ちる。
バックを攻められて、一騎は身体を震えさせながら より良い快感を求めあぐねた。
「ンっ・・、あ、っ・・・そう、しっ・・・・」
瞳に涙を滲ませながら 頬を林檎のように赤く染め上げ、
一騎は四つん這いの格好で 背後に居る総士へと頭だけ振り向かせた。
余りに虚ろで扇情的なその艶姿に 総士はゴクリ、と
喉を鳴らせて一騎を見下ろした。
「・・もっ、と・・・・欲しい・・・・・」
「一騎・・・・・・・・・」
意外にも、ーーいや、もう完全に自分の術中に落ちたその情欲剥き出しの
一騎の性に対して完全なる勝利を感じた総士は
酷く優しい声色で、微笑を浮かべながら囁いた。
「いいよ・・・・もっとあげよう。お前が望むままにーー」
そういいながら、一騎を後ろから抱きすくめた。
そして。
「僕の愛を全てあげるから・・・だから」
汗ばんだ一騎の背筋に羽のようなキスを落として。
「僕の傍に居てくれ」
柔らかな黒髪に頬をあてて。
「僕も・・・・お前の傍に居るから」
永遠の愛を囁いた。
「う、ん・・・・おれ・・総士の傍に、・・・・居る」
少年は、本物の愛を手に入れた。
その瞬間、
渇きは既に 消えていたーーーーー。
+++
ーーーバサッ・・・
純白の白衣が、一騎の目の前で小気味よく靡いた。
その眩しさに 一騎は瞳を眩しそうに細めると総士をじっと見つめていた。
「・・・どうした一騎?」
総士は不思議そうに一騎の視線を覗き見る。
すると、ベッドに横たわっていた一騎が、まだ気だるい身体を
ゆっくりと起こすと、総士へと軽い口調で投げかけた。
「・・・その白衣、着てみたい」
「へっ・・・?」
一騎のあまりにも意外な発言に、思わず目を丸くした総士は
少し気の抜けた返事をして 驚愕の表情をするのだった。
「なんか、・・・あったかそう・・」
まだ素肌のままの状態の一騎。
今もし総士の白衣を着用した場合、”裸に白衣”という
悩殺必死の可愛くも淫らな格好になる。
総士は迷った。
果たして理性が持つかどうか。
先程情事を済ませたばかりの自分達。
これ以上一騎に負担はかけられない。
「総士・・・・・・ダメ、か?」
上目遣いに覗いてくる栗色が淡く揺らめく。
ビー玉のように丸い瞳。色っぽい鎖骨が
包まっていたシーツから顔を出し、薄桃色の唇が総士に甘く語りかけてくる。
総士は、顔を少し赤らめつつ、
まだ色気を残したその姿から視線を外すと
ぶっきらぼうに答えた。
「・・・・・・・・・・わかった。ほら!」
バサッ、と音を立てて白衣を強引に脱いだ総士は
おずおずと裸の一騎に純白色のそれを差し出した。
一騎はふっ、と顔を綻ばせて喜ぶと
”ありがとう”といいながら、ふわりとその白衣を身体に羽織った。
少しブカブカな長めの白衣。総士のぬくもりが残っていてまだ、温かい。
丁寧に前のボタンをひとつずつ締めて、ゆっくりとベッドの上に立ち上がってみる。
ほのかに消毒液の匂いと、総士の髪の匂いが鼻を掠めた。
「・・・・やっぱり大きいな」
一騎はそう口にすると、ほんの少しだけ不機嫌な顔をした。
微妙な一騎の表情の変化を見逃さなかった総士は、すかさず聞いてみる。
「どうした一騎?」
不機嫌そうな一騎に、訝しげな顔を向けながら総士は
白衣を着た一騎の正面に立って言った。
すると一騎から意外な返答が返ってきた。
「なんか・・・・悔しくて」
「・・・なにが?」
更に間を空けずに聞いてみる。
「−−−−−−笑わない?」
「・・・・・・・・・・・・・内容による」
「じゃあ、言わない」
「ーーーーーー・・・・・・・・・わかった。笑わないから、何だ?」
いい噤む一騎の気持ちを汲んで、総士は
そう答えた。
一騎は、言い辛そうな顔つきをしながら、今度は
恥じらいを見せた。
総士は黙って先を促すような瞳で一騎をただ見つめている。
一騎は、そんな総士の視線に気づき、渋々重い口を開けるのだった。
「おれ、総士より背、低いし・・・体格もなんか、あんまり よくないから
・・・・・総士が少し、羨ましくて・・・」
”白衣着たら、総士に近づけるかなって・・・”
そういい零しながら、一騎は恥ずかしそうに俯いた。
そして尚も続ける。
「なんか・・おれ、お前に負けてる感じ・・・だよな?
ちょっと、悔しい・・・・・」
今度はしゅん、と萎れたような表情を浮かべながら
視線を床に落として一騎は言った。
「・・・・ふふっ」
途端に総士の笑い声が、一騎の頭上から降ってくる。
一騎はぎょっ、としつつも いじけたように総士に反抗するのだった。
「わ、笑わないって言ったじゃないかっ・・・!!」
動揺した声色を必死にあげた一騎は、頬を夕焼け色に染め上げると
総士の腕を掴んで、軽く揺さぶった。
総士は”ゴメンゴメン”と言いながら、口元を手で押さえて笑いを堪えるのだった。
「ふっ・・・、お前が余りにも可愛い事を言うからつい、な?」
瞳を和らげながら、総士は眩しそうな瞳で一騎を見つめると
自分の胸へと一騎を抱き寄せた。
「ぅわっ・・!」
いきなりの行動に、身体が前のめりになった一騎は
すっぽりと総士の胸に抱きかかえられてしまった。
一騎の心臓が、一気に高鳴りをみせる。
「そ、総士っ・・・・・・」
程好い身体の細さと、高い背丈を持つ少年に
しっかりと抱きしめられた一騎は 身体を強張らせながら
総士のぬくもりに、軽い身震いを起こすのだった。
「お前の身体はとても魅力的だよ。・・細くてスッキリした腰に
珠のような肌。それに柔らかい胸と唇・・・・」
口にしながら総士は、指先で一騎の身体を
順々に辿っていく。
総士の巧みな指使いに、一騎の身体は愛らしい反応を一瞬みせた。
「ぁ、んっ・・・・」
くすぐったい、とでも言うかのような可愛らしい声色。
しかし情事の後のせいもあって、どうしても艶めいた色が
交ざってしまっていた。総士は、そんな一騎の様子に
苦笑しながら 一騎の反応を素直に喜んだ。
「ふふっ・・・可愛いな、一騎は。
ーーお前の背が僕より低くて良かったよ。」
「・・・・なんで?」
総士の言葉に、少し拗ねたように眉をひそめた一騎は
下から総士を眺め見た。
総士は銀色の瞳を優しく揺らしながら、視線を下に落として
一騎の身体を両腕で包む様に抱きなおすと、額に口付けを落とした。
「っ・・・・!!」
驚きつつも、顔をより赤らめる一騎。
総士は嬉しそうに一騎を見つめて言った。
「こうして僕からいつでもキスが贈れるから。」
目の前で幸せそうに微笑む総士がとても少年らしい表情をしている、と
刹那、一騎は思った。
「・・・・・・ば、か・・・」
一騎は恥ずかしそうに瞳を揺らしながら、
温かで広い総士の胸に身体を寄り添わせた。
総士の鼓動が、聴こえて来る。
トクン、トクンと刻まれた音は どこか速まっていた。
すると。そんな一騎へと 途端に、総士の言葉が降りてきた。
「一騎・・・・僕の傍に居てくれ。これからもずっとーーー」
低く擦れがちに響いた殊勝な声音は
一騎の胸の奥まで届いてきた。
一騎は物静かで、うっとりするような その声に
こくり、とゆっくり頷くと 葉についた雨の雫が地面に落ちるように優しく
総士へと言葉を紡いだ。
「ずっと総士の傍に居るよ・・・約束する」
ひらひら、ひらひら と夢のよう。
あの日、君と出逢えた事が運命ならば
恋に落ちるのも また運命。
この運命を、あの桜の花びら達が
あのとき 祝福してくれたのかもしれない。
花嵐のような、あの風に聴いてみる。
あの瞬間、君が吹いたのは、わざとかい?
僕らを巡り逢わせてくれるために、吹いてくれたのかい?
答える声はないけれど、優しい風が頬を撫でた気がした。
今度こそ、離さない。
僕の大切なひと。
この腕に、閉じ込めて ずっと僕の傍に置く。
大切に 大切に、離れないように。
一騎、僕はいつだって
君の傍に居るよ。
だから、
いつまでも、忘れないでいてくれ。
あの日の桜も。
あの日の僕も。
永遠に君と一緒に、輝かせて。
あの瞬間を 傍に置いて。
決して、僕ら 色褪せる事のないように・・。
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こんにちは、青井聖梨です。
ここまで読んで下さってありがとうございました。初のパラレル、いかがでしたか?
9100hitを踏んで下さった綾クン、どうでしたか・・?(汗)少しでも喜んでいただけたら幸いです。
総士生誕アンケートで萌え設定として”背丈を気にする一騎”というのがありまして
今回 ここで入れさせて戴きました(笑)
そういう些細な事を気に止める一騎って、可愛いなぁ〜なんて思います。だから少し織り交ぜてみたり。
でも実際そういう一騎を書いてみて、可愛いかどうかは自分ではわかりませんね。
自分が書いているんで、判断しかねます(ははは・・)
とりあえず無事に書き終えてホッと一息、な青井でした。
それでは綾クン、そして読んで下さった皆様 ありがとうございました!!
結構裏要素、頑張って書いたので この辺で許してやって下さいね(苦笑)ではでは☆★
青井聖梨 2005.12.9.