「お誕生日おめでとう!!総士!!」


「あ、ありがとう一騎・・」


照れながら、少しはにかんだ一騎が僕へと
一枚の薄い紙を手渡した。


「ごめん総士・・誕生日プレゼントが・・こんなので・・・」


僕より少し背の低い華奢な身体が上目遣いにこちらを覗いてくる。
僕は渡された紙をまじまじとよく見つめてみる事にした。
すると、そこには僕の似顔絵が描かれていたのだった。
色鉛筆と、クレヨンで見事な色彩を映し出し、鮮やかな笑顔を浮かべている僕の姿。

上手に描かれた その似顔絵に小さな感激を覚える。
一騎から見た僕は いつもこんな笑顔を浮かべているのだろうか?
そう思うと、少し気恥ずかしい。
僕は、その絵の端に色鉛筆で丁寧に <総士へ お誕生日おめでとう!>と書かれた
文字を密かに見つけた。そして、その文字列の真下にそれより小さな字で

”いつも一緒に居たいです”

と可愛らしく書かれた文字を見つけた。


僕はその字を見つめながら、ふっと笑みを思わず零してしまった。
一騎はそんな僕の表情に気づくと、真っ赤になりながら ”なんだよ〜っ・・”と
困ったような表情で 繕う様に照れ隠しをしていた。


「そ、そんなにジッと見ないでよ、総士〜〜。恥ずかしいよぉ・・・」


僕の手元にある似顔絵を 羞恥心からか、一騎は隠すように自分の両手を
乗っけて 僕の視線を似顔絵から すぐさま遮断させた。ーーいうなれば妨害、というヤツである。
僕はそんな一騎の反応に気分を高揚させつつ、含み笑いを浮かべて言い放った。


「大丈夫だよ一騎。僕はモノに執着したりしないタイプだから、モノ持ちが悪いんだ!」


声をあげて自慢できるような事ではないけれど、とりあえず一騎を落ち着かせるために
僕は自分がモノを失くし易い性質だということを 間接的に暗示した。
見るのはきっと 今だけだから、ーーとでもいうかのように。

一騎は 僕の言葉を聴いて、少し複雑な表情を見せた。
それもそうだろう。
大抵プレゼント、として渡されたものを 誰だって安易に失くされたくないはず。
出来ればいつまででも大切に取っておいてもらいたいと思うのが常だ。
それなのに僕は あらかじめ失くす事を前提に話を進めているのだから、タチが悪い。
自分でも分かってはいるのだけれど、直せない性分なのである。
全く本当に、一騎からみれば どうしようもないヤツに、おそらく見えているだろう。

すましたように何気なく、そんな発言を軽々しく口にしてしまう辺り、
プレゼントをあげる甲斐がない。そう思われても仕方が無かった。
けれど一騎は 僕の考えとは裏腹に、複雑な表情をした後、似顔絵を隠すように乗っけていた
自分の両手をぎこちなく退けると、苦笑しながら僕に言った。



「じゃあ、・・・今のうちに沢山見ておいて貰わなきゃダメだね・・・?」





忘れないように。
少しでも、僕の心に焼きつくように。


君の紡ぎ忘れた言葉が、僕の胸に届いて 空へと溶けたーー。








あの頃 僕ら、寄り添い合いながら生きていた。
もう、君が居ないと上手く息も続かない程に。





あの頃 僕ら、ただ ひたむきに ・・互いを愛し続けていた。



何処までも純粋で、真っ直ぐな瞳をして
何を恐れる事もなく



ただ、この瞳に映るもの全てが






僕らの真実だったんだーーーーーーーーー。



















輝く軌跡の中で













ーーーピピッ、ピピッ、ピピッ・・



無機質な機械音が 忙しなく部屋中に響き渡る。



「・・・う〜っ、・・・んんーーー」



モゾモゾっと毛布に包まりながら 今だベッドから
起き上がろうとしない僕。
止め忘れた機械音が空中に何時までも響き渡り、自分の存在を
しつこいくらいに主張している。ーー”起きろ”という合図なのはわかっているが、
どうも毛布から手が出ない。というか、左腕が動かしづらい。

右腕を上げてみた所で、意味を成さない。何故なら、時計が置いてあるのは
左腕に近い、ベッドサイドの小さなテーブルの上だからである。
僕は ふと横を向いてみる。左腕には、程好い重みが感じられた。
ーー振り向いた瞬間、あぁ そうだと、全てを思い出すのであった。


僕の横にはスヤスヤと、気持ちよさそうに眠る
黒髪の幼馴染が 僕と同じ、裸で一緒に毛布に包まっていたのだ。
僕の左腕は その少年の腕枕となって すでに立派に役割を果たしていた。

少し長い黒髪が僕の腕に優しく触れている。
その感覚が、何とも云えない快感を僕に与え続けてくれているため、
左腕を動かして 時計を止める気には毛頭なれなかった。

長い睫毛が薄っすらと揺れている。
薄桃色の唇が 俄かに艶めいている。
柔らかい頬が 軽い寝返りの際、微かに腕へと触れる。
そんな些細な一騎の様子を こんなに近くで見られる今という瞬間に
僕は 言葉に出来ない幸福感を 胸の中で充分すぎるほど感じていた。


「っ・・・うぅ・・、んっ・・・」


しかしながら、そうも云ってられない。
この機械音をどうにかしない事には 僕の愛しい恋人が
起きてしまう。僕は仕方がないので、身体を伸ばし、左腕はそのままに
隣に眠る人物を空中で跨ぐような奇怪な姿勢をとって 思い切り右腕を伸ばしてみた。

すると・・




ピピッ・・ピピーーカチャッ!



右手の指先が上手い具合に時計へと届き、
機械音を見事に止めることが出来た。やった!成功だ!

と、思ったのも束の間、僕は安心したせいで 身体の力が抜けてしまい
一瞬身体の体勢を崩したが最後、ーーそのまま一騎のもとへと覆いかぶさるように
倒れ掛かってしまったのだった。


「ぅわっ・・・!!」


勢いに任せて、僕は声をあげた。
すると組み敷かれた一騎が”うっ・・・!!”と鈍い声をあげた。
それもそうだろう。急に僕の体重が一騎へと乗りかかったのだからーー。


今の衝撃で一騎の閉じられていた瞳が、薄っすらと開き、
遠退いていた意識が ゆっくりと呼び覚まされる。
開いた双眸からは、綺麗な栗色が 澄み切った色を宿して
乗りかかっている僕を 正面から捉えた。
同時に艶めいた桜色の唇が静かに言葉を紡ぎ始める。



「・・・・・おはよ、総士・・」


心地よい高さの声音が、僕の下から聴こえて来る。
僕は 何とか体勢をこれ以上崩さないように、右腕で自分の身体を
密かに支えながら、聴こえた声に 柔らかく応えた。


「おはよう一騎。」


そう一言口にした僕は、そっと一騎の唇に 自分の唇を押し当てた。
その間、一騎は黙って僕のキスを瞳を閉じながら 静かに受け入れてくれた。
僕より少し高い その唇に宿る温度。幼い子供のような 滑らかな珠の肌。
一騎のひとつ ひとつに、胸が高鳴り、動悸が激しくなってしまう。


「っ・・・ん、・・・ンッ」


優しいキスに くすぐったさを覚えたのか、一騎は
可愛らしい声を漏らすと、僕の首に自分の腕を絡ませてきた。

そっと互いの唇が 名残惜しげに離れる。
すると瞳を閉じていた一騎が 再び瞳を見開いて 僕を綺麗な栗色で
射抜くように見つめてきた。


「−−・・総士・・昨日あんなにしたのに・・またなのか・・?」


君の少し高い声色は 微かな呆れを響かせて、僕の耳に届いた。
僕は、明らかに勘違いしている一騎に弁明しようと思ったが ・・この体勢だと
何を言っても説得力がない上に、せっかくの一騎の安眠を妨害したという負い目も
ある為、勘違いされたままではあるが 素直に謝る事にした。


「すまない・・。お前の寝顔があまりにも可愛くて、ついな・・・」


嘘ではなかった。
本当に可愛かったんだ。・・一騎の寝顔。
そんな事を思い、少し苦笑しながら、言葉にして 僕は一騎の上から退こうと試みた。
が、僕の首に絡まった一騎の腕が そのとき キュッ、と僕の首を強く締めつけた。
僕は瞬間、驚愕して 下に組み敷かれた一騎へと視線を向けた。
そうすると一騎は 心なしか頬を朱色に染め上げて、曇りの無い眼で 
僕の表情を覗き込みながら 少し距離を取っていた僕の身体を自分の方へと引き寄せた。


「一、騎・・・・?」


無造作に放り投げた僕の問いかけに、一騎は
陽だまりのような笑顔を一瞬にして作った。


「・・・いいよ、総士。ーーしたいなら、していいよ・・?
総士の好きにしてくれて 俺は構わないから・・・・・・」



君はそういうと、僕に縋りつくような体勢を取って 身体を僕へとすり寄せた。
甘い香りを漂わせ、僕を気が遠くなるほどに魅惑する その卑猥な身体。
思わず身震いしてしまうくらい心地よい、肌と体温。強烈な色香を放つ 君という存在。
なのに、その表情は 何処かあどけなく、聖女を思わせるような瞳を今だにしている。

君のすべてに・・・・溺れる。



僕はゆっくりと 体重を支えていた右腕の力を抜くと
一騎の胸に顔を埋めて、訊いてみた。


「−−−・・どうしたんだ?今日は随分と僕に優しいな」


クスッ、と不意に笑いを零しながら 僕は一騎の胸の突起へと愛撫を贈った。
一騎は、僕の愛撫にすぐさま応えるかのように 身体をピクッ、と反応させると
甘い声を出して 僕の髪に自分の指先を絡ませた。


「ぁあッ・・!!ンっ・・・・はぁ、・・・ッ」



僕は胸だけでなく、一騎の露になっている下半身の中心へと
手をかけて その中心を急激に扱き始める。


「僕でも、甘やかされると つけ上がるぞ・・・?」


身動ぎしながら一騎は 瞳に涙を浮かべながら
必死に僕の指を意識で追っては 僕の速さについてきた。
腰が俄かに疼き始める。



「ひゃっ、あッ・・・!!んん、・・・・・ぁ、っ・・ン」




身体を快感に浸しながら、一騎は微かに震えつつ
僕を更に求めてきた。僕の髪に絡めた指先が 乱暴に僕の髪をかき上げる。
ーー積極的な 目の前の幼馴染に、僕は もっと意地悪したくなってしまう。

先端から、甘い蜜が溢れ出ているのを知りながら、僕はもどかしい愛撫を
頻繁に一騎へと与えた。指を這わせるだけ、触れるだけ。
先程の激しさを忘れたようなもどかしさ。
すでに一騎の中心は 膨張しているというのに、僕は中途半端な弄び方を楽しんでいたのだ。


「ッ・・・や、ぁっーー・・・そう、しぃっ・・・」


震える声が僕の頭上から いつの間にか聴こえてきた。
愛液をベッドシーツに零しながら 一騎は 足を大きく広げて
僕を待ち望む格好を自ら取った。
髪に絡めていた指先は、自然と解かれ、再び僕の首へと巻き付いて来る。

その扇情的な風貌と、淫乱な姿態に 僕は思わず息を呑んだ。
普段なら 考えられない程の 仕草、艶かしさ、鮮やかさだった。


「本当に、・・どうしたんだーーお前・・?」


鼓動が全身に聴こえるくらい激しく高鳴っている。
鼓膜が破れそうなほど 耳鳴りがする。
血脈がもの凄い音を立てている。
眼球が君で 焼きつくされそうだーーーー。


僕は 淫乱で艶めいた一騎の唇に自分の指を押し当てた。
すると一騎は 僕の指を途端に咥えて、丁寧にしゃぶり始めたのだった。
柔らかくも熱い一騎の舌が 必死に口内で蠢いている。


「ふぁ、ンッ・・・んぅっ、・・は、っぁ・・」



ぴちゃぴちゃ、と艶かしい音を奏でて君は
ぎこちない舌先で僕の中指と人差し指を懸命にしゃぶっている。
口端からは透明に光る唾液が拙く流れ落ち、僕の指を咥えるその表情は
何処か幼い。無心且つ夢中で行為に及んでいるせいかもしれない。
君のあまりに艶麗な姿勢に また目を瞠りながら僕は、胸の動悸を抑えることなど出来なかった。

今すぐ欲しい。
強引にでもーーー。



意地悪しているつもりだったが、いつの間にか自分が
君に焦がれている事に気づく。

僕は、君に托した指先を引き抜くと その濡れた指先のまま、
君の秘部へと 二本あてがった。


「はぁあっ、・・んっ!!!」


一騎の四肢が瞬間、激しく揺れる。
僕に縋りついていた腕が乱暴に僕を締め付け、
腰が生き物のように 震え上がった。


一騎の内部に入った指先は 既に根元から根こそぎ
呑み込まれると、ぎゅっ、とキツク中で指を咥えこむ様に締め付けてきた。



「凄いな・・・お前の中。−−これなら慣らさなくても
入れられそうだ・・・・」


そう口にして、僕は入れたばかりの指二本を勢い良く抜き出した。
途端にその振動で 一騎の内部が名残惜しそうに収縮する。


「っ、ぁン、ひゃ、アっーー!!」


いきなり無くなった僕の体温に 一騎は寂しそうに僕を見上げて
訴えかけてきた。物欲しそうな瞳を涙で濡らしながら、僕をその栗色の双眸で
一心に見つめてくる一騎。

・・堪らなく、愛しい。


「・・・そんな顔をするな。もう焦らしたりなどしない。
               ーーーすぐにあげるから・・・」



低く、穏やかな声で言葉を紡ぎ 君の目蓋にキスを落とせば、
驚くほど綺麗に君は 僕へと笑いかけてくれた。



「う、ん・・・・・」


落ち着いた、優しい声が部屋中に響き渡る。
僕は一騎の返事をしっかりと聴いたあと、
自分の昂る欲望を 先程指を突き入れた秘部へと
強引に根元まで一気に突き挿した。



「ひゃっぁああ、−−−・・アっ、ん!!!」



一際甲高い声が 僕の耳元を掠めて、空気中に広がった。
一騎の艶姿が大きく弓なりに仰け反ると 僕の首に絡まっていた腕が
背中へと途端に回された。
一騎の四肢がピクピクと痙攣を起こし、その衝撃に耐えているようだ。


「っ・・、かず、きーーーー・・・ッ」



まだきつい その内部。
内壁が僕の欲望を即座に受け止めたかと思うと、
喰らいつく様に 急激な接触を試みてくる。
一騎の中は 一騎の口内よりも熱く 狭かった。



「・・・・もっと力を抜け。−−−これじゃあ、動けない・・」



切羽詰った声でそう云えば、一騎はカタカタと震える身体を圧して、
僕の指示に従うように ふっと 硬直した身体を解放した。
強張る顔を必死で緩め、涙を瞳の端から止め処なく流しながら 一騎は


「総、士・・・・少し、はっ・・・−−楽になっ、た・・?」


などと 僕を気遣った言葉を吐く。


これには さすがの僕も眩暈がするほどの感動と慈しみを覚えた。
ーー体中に激情が走る。 止められない、熱い気持ちが 確かに芽吹く。
深層から溢れそうな愛に胸が絞めつけられる。

どう表せばいいか、わからない。
でも、君が・・・・欲しくて、欲しくて。



僕は一騎の内部で昂る自分自身を 制御仕切れぬまま
激しく、深く、一騎の内壁を這い擦る様に 上下の律動を開始させた。



ーーーーギッシ・・ギッシ・・・




「ひゃ、あぁ、っ・・・−−ぁあ、ン・・!!」


その律動に合わせて 僕の幼馴染は 腰を激しく揺らしながら
快感の波へと身を委ねている。


「っ、・・・かずき・・・!!」



熱い内部を感覚で必要以上に感じながら 
額に汗を滲ませつつ、その行為へと夢中になっていった。


「はぁ、ー・・あっ、あっ、・・・や、ぁっ・・・ソ、コ・・・!!」


緩急をつけながら奥へと挿し入れしてやれば、一騎は僕に善がってきた。
僕が与える快感に 身を震わせた一騎は 僕のすべてを呑み込む様に
深く深く 受け入れて、僕の背中に爪を立てた。


「そ・・・、しっ・・・お願っ・・・、ッも、うーーーー・・」


限界が近いのか、一騎は足を僕の頭より高く上げて、
僕を更に深くまで受け入れる姿勢をとった。
気がつくと、一騎の露になった中心は すでに勃ちあがり、更なる刺激を
待ち焦がれていた。先端からは 愛蜜が溢れ出て 一騎の四肢を伝って
ベッドシーツに幾つもシミを作っていた。・・そのうち水溜りでも出来てしまうほどに。 


「いいよ・・・、一緒にイこう・・・一騎」



耳元で甘く囁いてみる。

君は 頬を真っ赤に染めながら 僕の髪に顔を埋めた。
背中に回された腕へと力が篭る。
荒い呼吸を整えながら、君は不意に 僕の髪へとキスを贈ってくれた。

僕は そのキスに 気持ちが高揚し始め、君のうなじに僕も顔を埋めると、
少し長い黒髪を優しく撫でて、同じように君へとキスを贈った。

空いている手で、君の中心を悪戯に昂らせると 君は鼻を抜けるような
可愛い声色で 僕の感情を刺激するように高く啼いた。


「ぁ、ああっ・・は、ぁっ・・・そう、しッ・・・・」



君はうなされる様に 何度も僕の名を耳元で呼ぶ。
身体が震え、汗が体中に滲む。
限界はもう、すぐそこにあった。


僕はそろそろだな、と頃合を見計らって 自らの欲望を完全に引き出すと
再び一番奥へと 強引に勢いよく 突き入れた。



「ひゃぁぁあ、ああっーーー!!」


瞬間、甲高い声が 僕の部屋に反響して 木霊を作った。
大きな振動と急激な刺激に触発された君は
身体を大きく仰け反らせると


「総、士っっーーーー!!!」


僕の名を呼びながら はちきれそうだった中心を
解放し、果てたのだった。



「一騎・・・・・っ!!!」



そんな君の艶かしい声と、内部の締め付けに耐えかねた僕は
一騎の中に 自分の欲望を撒き散らして 同時に果てたのだった。



一騎の白濁とした愛液が、僕の下腹部にこびり付き
独特の匂いを醸し出している。

はぁはぁ、と互いに肩で息をしながら 僕は力尽きた身体を
一騎の肌に乗せて 覆いかぶさるように 抱きついた。

一騎は、そんな僕をキュッ、と抱きしめると
残響が木霊する この部屋で ポツリと静かに囁いた。





「・・・・・お誕生日、・・・・・おめでとう総士」







僕はその言葉を耳元で聴いて、
即座にすべてを理解した。




そうか・・

僕のしたいようにさせてくれた理由は
こういうことだったのか・・・。







ポツリと落とされた その温かな言葉に
僕は小さな感動を覚え、胸を震わせる。



そして静寂の中、優しく 言葉を宙へと零したのだった。





















「ありがとう一騎・・・・・・最高の誕生日だ」


















一騎、あのとき お前に貰った似顔絵

まだちゃんと 失くさずに取っておいてあるんだぞ。








凄いだろう?












それがどういう意味を表しているか
お前にはわかるか?


簡単なことさ。




















それほど、僕はお前を





















愛してるって、ことだよ。







+++






















「あ!・・・この似顔絵・・・」



不意に総士の部屋で見つけた色褪せたアルバム。
それをゆっくりと開いてみると 中から一枚薄っぺらな紙が
ひらひらと落ちてきた。
どうやらアルバムに挟まっていたようだ。

おれはその紙を拾って、凝視してみる。
すると其処には 見覚えのある絵、見覚えのある字が
紙いっぱいに広がっていた。
擦れた色のクレヨン、古ぼけた色鉛筆の跡。
どれも懐かしくて、何だかくすぐったい。

この似顔絵は、・・・そう あのとき。
まだ俺たちが竜宮島を 楽園だと信じて疑わなかった 
あの幼い日々の真っ只中に俺があげた 総士への誕生日プレゼントだった。


まだ、持っていたなんて・・




「ーーーーー意外だ・・。」




思わず口から零れ落ちた その言葉。
すかさず、その言葉を拾い上げた人物が 急に部屋へと帰ってきた。



「・・・なにが意外なんだ?」



シュンッ・・、と部屋のドアが開いたと同時に零れ落ちた言葉を
小まめに拾い上げる この部屋の主は 俺の背後から姿を現し、
俺へと問いかけてきた。


「ぅわ!・・びっくりした。−−−・・お帰り」


「ーーーただいま。・・・で?何が意外なんだ・・?」


仕事の書類をCDCから持ち帰ってきた総士は
机の上に、資料を置くと 俺へとわざわざ向き直して 
俺の言葉の先を促してきた。
俺は ベッドの上にアルバムを置くと、紙を一枚総士の目の前に突き付けて
ひらひらと振りながら云った。



「モノ持ち・・・悪かったんじゃないのか・・・?」



俺がため息混じりにそういうと、総士はクスッと含み笑いをして
こう答えたのだった。




「好きな人からのプレゼントなら別さ。」



総士はそんなことを すました顔で云いながら、
”むしろ、お前への愛の深さを 僕から感じて欲しいくらいだ”
などと 浮かれた事をいう。

まったく、こんな事をいう総士は始末が悪いから 困る。
でも今日は総士にとって特別な日。生まれた日なのだから、
あまり俺が無理強いさせてしまっても仕方ない。
出来れば、気分良く 一日中過ごして欲しかったりするわけで・・。
俺はそう思うと、軽く嗜めようとした感情を押さえつけ、”充分感じたよ”と
総士の言葉に受け答えたのだった。

すると総士は、


「モノ持ちが悪いのは本当だぞ・・?」


と俺に向かって俄かに苦笑していた。
俺は そんな総士の様子から 照れ隠しをしているんだな、と
すぐさま見抜いたのだった。


何だか総士が急に可愛く見えた。
今度は俺がクスッと笑う番だった。

総士は俺の笑いにぎょっ、として”な、なんだ・・・?!”と
軽く動揺し始めた。

俺は、”なんでもない”と口元を手で押さえて、
似顔絵を総士に渡した。

上目遣いに総士を正面から見やる。
総士の頬が微かに色づいていく気がした。
やっぱり照れて居たんだと確信した。



そんな自分に気づかれたくないのか、
総士は似顔絵で自分の顔を隠すと、幼い俺の字を
声にあげて 読み上げた。まるで気を紛らわせているみたいにーー。



「総士へ お誕生日おめでとう!・・・いつも一緒に居たいです、か・・」


総士は 俺が書いた字を言葉にしてすぐ 少し切ない顔を作りながら、
俺の方へと視線を落とした。俺はそんな総士に少し驚くと、
”どうしたんだ?”と呟いた。



「・・・・・・・・一騎」




「うん?」






「・・・・・・・・・・・僕は、お前の傍に 居るか・・・?」



「−−−−−−え?」





返ってきた言葉に 更に驚く。







「ちゃんと、・・・・・僕は お前の傍に いつも居るか・・・?」 





どこか悲しげな表情をして、どこか切ない声色で 
長い琥珀の髪を隙間風に揺らしながら 総士は
銀色の双眸をただ 静かに揺らしていた。


先程とは一変して、総士の見に纏う雰囲気が一気に
儚げなものへと変わっていた。
何だか・・・・このまま空気に溶けて 消えてしまいそうな気さえした。

俺は 少し不安になって、密かに歩み寄ると 総士の腕をぎゅっ、としっかりと握り締めながら
はっきりと総士の言葉に答えたのだった。



「・・・・居るよ。総士は、ここに居る。−−俺の今、目の前に・・」



困ったように微笑みながら、俺が総士の銀色を一心に
見上げると 総士は 綻んだ花のように淡く微笑み返してくれた。
そして 俺をすっぽりと 覆い隠すように 強引な動作で抱きしめながら 言った。





「よかった・・・・。お前を独りにしていたのかと思った・・・」








胸が、・・苦しくなった。






総士の言葉に。








総士の、優しさに。







俺は、総士の腕に抱かれながら
今という幸せを噛み締めていた。



そうして、隠し持っていたプレゼントを
総士に優しく渡すのだった。



「・・・総士、これ・・・・」


抱き合っていた総士の胸から 僅かな距離を作った俺は
総士の目の前に 丁寧に包装紙で包まれた誕生日プレゼントを渡す。
真っ白い包装紙にスカイブルーのリボン。形は細長く、比較的軽い重さで
小柄な箱に収められていた。

総士はビックリして、言葉を失いながらも 素直にそれを受け取った。
”空けてもいいか・・?”少し上擦った声が空中に響く。
俺は黙って、こくり、と頷いた。・・・なんだか少し恥ずかしい。


カサカサ、と音を立てて空けられた俺からの誕生日プレゼント。
総士は喜んでくれるだろうか?


不安と期待で胸が押し潰されそうだった。



カタッーー・・・


箱の軽快な音がした。
総士の顔が 瞬間、見開かれる。




「これは・・・・・・」



中に入っていたモノを総士は取り上げた。
手に持っていた箱や包装紙、似顔絵等は机の上にそっと置いて、
俺があげた誕生日プレゼントをまじまじと いつかの誕生日プレゼントの
受け渡しと同じように じっとただ ひたすら見つめていたのだった。




「どう、・・かな?−−気に入ってもらえた・・?」




「あぁーー・・!!凄く・・・」



総士の瞳が眩しそうに刹那ーー細まった気がした。
顔の表情が途端に穏やかになる。よかった・・・嬉しそうだ。




「付けてみていいか・・?この時計。」





そう。俺があげたのは 腕時計だった。


総士は俺があげた腕時計を 自分の左手首に宛がった。
カチッ、と気持ちいい音が辺りへと響く。
銀色のフレームに秒針が忙しなく音を立てて動いている。
シンプルなデザインの その腕時計は 俺が一目惚れしたモノだ。
総士がしたら、きっと似合うだろうな・・目にした瞬間そう思った。

値段は少々張るが思い切って買ってみた一点ものだった。
喜んでくれるか、ずっと渡すまでドキドキしていた。
まるで恋に落ちる感覚に似ていた。


総士の左手首にしっくりと来る その銀色の時計。
俺は何だか 自分の恋心を見に付けられているみたいで
妙に気恥ずかしくなってしまい、途端に俯いてしまった。


俯いた俺に気づいたのか、総士は時計に向けていた視線を
俺へと向けると ”一騎・・!”と急に俺の名前を呼んだ。


「えっ・・?」


顔をあげた瞬間、目の前に紺色の皮で腕周りを止める
四角張った腕時計が顔面すれすれまで突きつけられていた。


「わっ・・・」


驚いて、顔を思わず引っ込める。
すると総士は 乾いた笑いと共に、俺へと言葉を紡ぎ上げた。


「今までしていた僕の腕時計・・お前にやる。」


「・・・・・・えっ・・?」


「僕の使いかけで悪いけどな・・・」


「あ、いや・・・それは別にいいけど・・・。
          ーーーーい、いいのか・・・?」


急な申し出に 思わず戸惑っていると、総士は
ふっ、と柔らかく微笑んで俺の右手首に その紺色の時計をはめてくれた。
まだ、総士のぬくもりが 残っている・・。




「いいんだ。お前に貰って欲しいんだ。
ーーー・・・時計は二つも要らないだろう?」




そう言って、総士は 酷く優しい瞳を微かに揺らしながら
俺の髪をそっと撫でてくれた。
その瞬間、俺の顔が赤くなったのは 言うまでも無い。




「ありがとう一騎・・。大切にする。絶対だーー」



モノ持ちが悪いと 言っていた総士。
大切にすると約束してくれた総士。


どっちもきっと 本当の総士なんだと思う。







「総士・・・・。ーーーーあの、・・・さ」






「ん・・・?」







「改めて、・・・誕生日おめでとうーーー。」





「一騎・・・・。ーーーーーあぁ、・・・・ありがとう。嬉しいよ・・」






「・・・・・・俺も、嬉しい」




「えっ・・・?」





「総士が生まれてきてくれて・・・嬉しい」










「・・・・・かず、き・・」











「総士の傍に居れて、・・・本当に嬉しい」






遠い昔、目の前に広がる風景を真実だと
俺たちは勘違いしていた。






「だから、ーーーーありがとう総士・・・」







本当は何を信じていいのか、一時期わからなくなった事もあった。
色々と 抱えなければならない問題が 俺たちには在り過ぎたから。



けど。








「出逢えてよかった・・・・・」








昔も、今も変わらずに
総士は俺の傍に居てくれる。



それだけは真実だと、思うから・・
思えるからーーーーーー








「本当に よかった・・・・・」












俺は 総士の言葉を信じて進めばいい。
今という時を 大切に生きればそれでいい。





















世界は・・・



俺たちが思うよりもきっと広い。
だから、そんな世界の中に 埋もれないように
自分を見失うことなく 過ごしていけば、いつかきっと 辿り着ける。




あの頃、思い描いていた 夢の行き先に。
あの頃、信じて疑わなかった 俺たちが住んでいた楽園に。





今度は”偽り”ではなく・・








”真実”にカタチをかえて  きっと。







きっと・・・






+++


























今の僕ら、寄り添い合いながら生きてきた。
もう、君が居ないと上手く笑顔も作れない程に。





今の 僕ら、ただ 切ないくらいに ・・互いを愛し続けていた。



何処までも儚く、悲しい瞳をして
見えない何かに怯えるように



ただ、この瞳に映るもの全てが






信じられなくなって、真実を知る事に
臆病になってしまったーーーーーーーー。





あの頃の無邪気さは
もう、戻っては来ない。



全てを理解してしまった 僕たちだから。







だけど・・







刻んでいく時は 同じものだと わかったから





刻んでいった瞬間は 消えたりなど しないから









どんなに遠く離れていても
どんなに近くに居たとしても





二人の時を、これからは 大切に刻んでいこう。
この時計と共に。






今度こそ二人、間違うことなく・・見失う事なく
進んでいこう。 この時計に誓うよ。














そして、二人だけの時を刻んで僕ら、



この空の下に残していくんだ・・・




























二人だけの軌跡を。




















 NOVELに戻る   裏NOVELに戻る



こんにちは〜〜!!青井聖梨ですvv総士生誕企画にご協力頂きまして
心からお礼申し上げます!!今回、総士の誕生日という事で アンケートを参考に
裏要素と甘々をくっつけた話と相成りました。いかがでしたでしょうか?

クリスマス小説の挽回を祈りつつUPさせて頂きましたよ〜。
とにかく、お誕生日おめでとう総士。
君は輝ける一騎の旦那様だ!!!(笑)心を込めて、管理人よりvv

それでは、ありがとうございましたーー☆★ファフナー放送まであと二日!!
ドキドキですよ〜〜。では、この辺で失礼します。

青井聖梨 2005.12.27.