しぐれるまま、凍えるまま、君の名を呼べば
哀しみは蒼穹のように
鳥籠の王子様〜後編〜
「脱げよ」
乱雑に投げつけた言葉に、
どれだけの想いが含まれているかなんて、お前は考えもしないだろうな。
身を裂かれるような切なさと寂しさを、お前は味わったことがあるのだろうか。
いや、味わおうが味わうまいが 今となってはどちらでもいい。
ただ、僕が知りたいのは
この凍て付くような寒さと絶望を お前には癒せるかということだけ。
「そ、・・総士・・・でもここ・・生徒会室・・」
「・・・だから?」
「だからって・・・・・総士・・・、無茶だよーーー」
「平気さ。鍵も掛けてあるし、カーテンも閉めてある。
心配ないだろう・・・?」
「・・・・・で、も・・・・」
「−−−でも?」
「今日、・・・生徒会の集まりがあるんだろ?・・蔵前が言ってた」
相変わらず、ビクビクと窺うように僕を見ながら肩を竦める一騎。
堪らないほど可愛くて、狂いそうなほど苛立つ。
眼球が熱くなる。まるでその姿を焼き尽くすようだった。
「あぁ、そうだ。だから、さっさと始めよう。・・定刻時間までに終わらせれば、
何も問題ないはずだ。−−−違うか?」
僕の放った言葉は、拒否など認めないとでもいうような、
限りなくイエスに近い断定的な言葉だった。
一騎は僕の言葉に、一瞬怯んで、深く頷いた。
僕の思ったとおりに動く。
全てが僕の手中にある。
一騎はされるがまま、全てを受け入れて 僕を求める。
そう、まるで僕に恋でもしているかのような錯覚にさえ、陥るんだ。
・・・その場限りの恋に 意味を見い出すなんて、虚しいだけだ。
ただ今は、行為だけ楽しめればそれでいい。
断片的でも繋がれる。それだけが救いだ。
傷への謝罪だろうが、僕への好意だろうが どちらにしても同じ事。
一騎が僕を望む限り、僕はそれに付き合ってやるだけ。
手助けをして、一騎の気の済むままにしてやることが 僕なりの優しさの形でもあるんだ。
たとえそれが二人を貶める形になったとしても、僕は
少なくとも僕だけは・・・・
後悔なんてしないから。
一緒に鳥籠に閉じ込められている君に贈る
僕からの最初で最後の優しさだよ。
+++
神様、
白状します。
彼の羽をもぎ取ったのは、他の誰でもない
この、僕自身です。
ひらり、と服を脱ぎ捨てる様が あまりにも扇情的で
思わず唾を呑み込んでしまった。
白く透き通った珠のような肌。大きく不安そうに揺らめいている栗色の瞳。
華奢な体にくっきりと鮮やかなクビレ。長い脚と滑々の腕。
艶やかな黒髪、色香が漂ううなじ。一騎の全てに欲情していた。
その存在に歓喜していた。
一騎は着ていたシャツを脱ぎ捨てて、上半身を露にさせたが
一向に下半身の一部には手を出さなかった。
ズボンを脱ぎ捨てたのはいいが、さすがにトランクスまで手が伸びなかったのである。
「・・・どうした一騎?それで全部か?」
僕は意地が悪いと思いながらも、そう言わずにはいられなかった。
一騎の羞恥心に苛まれる顔が、何とも慕情的で色っぽかったからである。
躊躇いがちに僕へと向けられるその眼差しは、僕の中心を躍動的にさせるには
充分すぎる要因だった。下半身が途端に熱くなる。
「駄目、だ・・・。おれ・・・これ以上は自分で脱げないよ・・・」
微かに震える手の甲を重ねて萎縮しながら佇む一騎に、僕は救いの手を差し伸べてやるために
手招きしながら 甘く、出来るだけ落ち着いた声色で彼を誘い込んでみた。
「一騎・・・こっちへおいで。僕の傍に」
ふわり、と不意に微笑んでみせれば 一騎は即座に頬を茜色に染め上げて
おずおずと僕の元へ歩み寄ってきた。
「いい子だ。・・そう、そのまま僕の元へ」
生徒会室は机と椅子が五つ、囲うように並んでいる。
中心に一組の机と椅子が置かれ、輪のような形で両側に二組ずつ机と椅子が在る。
他にも、中心に置かれた机の背後にはホワイトボードが佇んでおり、いかにも会議室の雰囲気を
醸し出している。資料が置かれた棚や掃除用具容れは扉付近に置いてあり、きちんと
整理整頓されている。
僕は中央に置かれた机の上に乗り上げており、一騎にとっては
僕に近づくまでには距離が少しあった。
恥ずかしそうに、ぎこちなく、でも確かに僕を求めてくる一騎の
細かい仕草や言動が 僕の中で渦巻く黒い感情に拍車を掛けていっていることは
言うまでもないだろう。
漸く僕との距離を縮め、手の届くような距離まで行き着いた一騎だったが、
途端に羞恥心と自責の念にでもかられたのか、床に視線を落とし、俯いてしまった。
僕は一騎のそんな仕草に動じることもなく、無理やり腰を引き寄せて
自分の懐へと一騎を閉じ込めた。
「そ、・・総士・・・」
いきなりの行動に動揺した一騎は、姿勢を崩して、僕の胸に崩れ落ちる形で
腕の中にすっぽりと収まっていた。
トクン・・・トクン、と自分の鼓動の音を確認してみる。
いつの間にか 一騎の鼓動と同調している気がした。
「一騎、脚を開いて僕の膝に乗ってごらん?」
怪しく妖艶なまでに光る綺麗な栗色が一瞬戸惑いをみせた。
その色が堪らなく愛しい。僕は更なる意地悪・・いや、悪戯を仕掛けて見せた。
ズルッ・・・
片手で勢いよく下ろしてやったソレは、
一騎が先ほど自分では脱げないと言ったモノだ。
「ぁっ・・・!」
小声での軽い悲鳴は 内気な彼を物語る。
恥らうように前を隠す一騎の手を制した僕は ”はやく”と途端に促した。
つまり一騎は生身の下半身を大胆に開いて、僕の膝の上に直に座らなくてはならないのだ。
「どうした・・・?できないのか・・?」
少し冷たい声色で、一騎に呟けば、一騎はビクッと肩を揺らして 微かに震えながら
戸惑いがちに僕の膝へと乗りかかってきた。
それが全ての合図だった。
ーーーーーーーーードサッ!!!
一騎が僕の膝に乗りかかったと同時に、僕は一騎を机の上へと押し倒した。
「!!!ーー総士っ・・・?!」
愕然と顔を歪めつつ、一騎は抵抗するように 乗りかかってくる僕を
押しのけようと試みる。
僕は怯むことなく、さらに自らの体重を一騎へとかけていった。
「どうした?全裸になった時点でこうなることくらい
いくらお前でも容易に想像できただろう?」
意地悪く含み笑いを漏らす僕に向かって、一騎は悲哀と懇願の眼差しで
僕へと言葉を投げかけた。
「・・っ、わかってたけど・・・でも・・・、こんな・・いきなり・・・」
「時間がないんだ。仕方ないだろ。−−−ほら、もっと脚を開けよ。
僕のが挿れられない」
「総士・・!やだよ、こんなの・・・っ。するなら、ちゃんと・・・」
両腕を僕の手で抑えられながらも、懸命に訴えてくる一騎の
今にも泣きそうな表情が、僕のどす黒い感情を更に煽った。
「そんな顔をするな。ちゃんと愛してあげるよ・・」
見下したように吐かれた僕の言葉の数々を、一騎は噛み締めるように
呑み込んでいた。
”愛していないくせに”
そう言いたげな瞳だ。
僕は残酷なまでに 凶暴な気持ちを抑えることはできなかった。
一騎を組み敷いて、沢山泣かせて 喘がせて、 自分の愛液で
彼をぐちゃぐちゃに汚したい・・と意識の果てで切に願っている自分がいる。
確かにその気持ちが芽吹いているのだ。
闇の塊である自分が 全ての僕を乗っ取ろうとさえしているのだから。
僕の心の闇が、本心を見透かしたように 僕の脳内に呼びかけてくる。
”酷くしてやれ。一騎もそれを望んでいる”
ーーー理性が、闇に喰われる瞬間の、悪魔の囁きだった。
「・・一騎、お前は僕に身体を差し出せばそれでいい。・・・いいな?」
絶対零度まで下がった自分の声音が
酷く恐ろしいものになってしまった気がした。
意識の果てで、自分自身を傍観してみる。
一騎は ただ顔を歪めて、苦しそうに 声を殺して 僕の言葉に頷くだけだった。
僕の左目の傷に 視線を真っ直ぐ、向けながら ただ、静かにーーーーーーーーーー・・。
+++
神様・・・白状します。
僕は、ちっぽけな人間です。
あなたにとっては 取るに足らない存在だ。
偽善の仮面を身に纏って、易々と愛を語る
ちっぽけな・・・ただの男なんです。
「っ、はぁ、っ・・・・・」
切ない喘ぎ声は、まるで天使の歌声のように 甘美で。
薄桃色の甘い果実を口に含めば、その柔らかさと温もりに
体中が痺れるようだ。
「ぁ、っ・・・んんっ、・・・・は、ぁ、っ・・・」
甘噛みしたり、摘まんでみたり、色々と弄んでやれば
一騎は 水を得た魚のように身体を震わせては快楽に沈んでいった。
「やぁ、っ・・・・だめ、・・そ、しっ・・・!」
クリクリと突起の先端を軽く潰してやると、持て余すように身体を揺らし、
下に集まる熱を訴えかけてくる一騎。
「あ・・・・は、ぁっ・・・、そう、・・・・しぃ・・・」
今度は口に含んで舌で転がしてみる。
すると、痺れを切らしたように一騎は 苦しそうな艶かしい瞳で僕を見つめてきた。
どうやら下半身の中心が膨張しすぎて、甘い蜜が零れ始めたようだ。
卑猥な身体に喉を密かに鳴らしながら、僕は一騎に一言いった。
「触って欲しいなら、僕が満足のいくお願いをしてみろ一騎」
あくまで言葉は冷淡に。けれど何処か甘く囁くように。
一騎を扱うのは、これが一番だと思った。
「・・・・・・・・・・そう、し」
迷いを宿した瞳は 月明りよりも優しく、太陽よりも強く輝いていた。
その大きな瞳に、僕の姿がほっそりと映っている。
一騎は一瞬哀しそうな顔をしたが、すぐさま 恭しくも優しい珠の肌を
僕へとすり寄せて、可愛らしく甘えてみせた。
「・・触って・・・・・・総士・・・」
か細い声が、虚空に消えぬうちに君を抱きしめたかった。
けれど 闇に蠢くもう一人の僕が 納得いかないと 頭の中で叫んでいた。
”ダメだ。一騎ならもっと可愛いお願いの仕方を知っているはずだ”
もっと凄いものを。僕の満足を超越してしまうほどの、懇願を。
闇の中に渦巻く感情が 僕の脳内を侵食し始めていた。
普段の僕なら ここですぐに一騎を許してしまうところだが
今日の僕は 拍車の掛かった鬼畜ぶりだった。
擦り寄ってきた一騎を無造作に引き剥がすと、
僕はスッと立ち上がり 生徒会室を出て行こうと扉の付近まで 黙って歩いた。
「総士っっ!!!??」
大きく揺らいだ強張った瞳。
動揺して声が震えていた。
一騎は思わず僕に駆け寄って、問いただす。
「どこへ、・・・・行くんだ・・?」
僕の服の裾をきつく握り締め、一騎が上目遣いに僕を見つめてくる。
行かないで、と瞳で訴えかけてくるようだった。
「・・・・満足できなかっただけの話だ」
刺す様な視線を一騎に瞬間、わざと送って見せた。
一騎は顔を強張らせ、一瞬硬直したかたちで 僕に縋りついてみせた。
「ごめ、っ・・・ごめん。・・おれ、・・ちゃんとやるから!
総士が満足するように・・・頑張るからっ・・・・」
扉付近で引き止められた僕は、大げさなため息を 意地悪く一つ吐いた後、
近くにあった棚に身体を寄りかからせて 裸の一騎を黙って見つめた。
一騎は僕から、もう一度チャンスを与えられたことに気づくと
瞳をきつく刹那の間、閉じたのだった。
僕はこの上ない期待感で密かに胸を焦がしていたが、表情に
ださないよう 注意を払った。
僕が自意識に集中していた その時ーーーーー。
一騎が突然床に立膝をついた。
僕は瞬間、驚いて 一騎の動作を視線で追った。
その先には・・・・。
僕の昂ぶる中心を開放しようとしている一騎がいた。
「か、一騎・・・・?!」
考えもしなかった一騎の行為に、僕は知らぬ間に 声を荒げた様子で
純粋に動揺した。
僕のズボンのジッパーを下ろす音が耳の奥に響いてくる。
一騎の艶かしい舌が 僕の中心に触れようとしていた。
「・・・初めて、だから・・・・下手、かも しれないけど・・」
そう前置きした一騎は 必死に僕の中心が入る大きさまで口を開けて
それを含もうと試みた。あまりにも 必死なその姿に 胸がときめいて仕方がない。
「っん、・・・・んんっ・・・」
くぐもった声で僕の昂ぶりを口に含む一騎。
「ふっ、ぁ・・・んん、・・・ふ、・・・ぁ」
僕の先走りの液が、一騎の口端からポタポタと流れ落ちていく。
その様が何とも淫乱で妖艶な色を一騎に与えていた。
「あっ、ふ・・・・っん、ン・・・・・!」
慣れない舌の先で僕の中心に愛撫を贈る、僕の幼馴染。
こんなに乱れ、こんなに汚れた唇を 未だかつて僕は見たことがない。
欲望が増徴していく。
一騎を見ていると、淫らな気持ちが溢れて止まらなかった。
「っ・・!!?ふぁ、ぁ・・ン」
僕の密度が一騎の中で増してしまった。
急激に形を変えた 僕の中心は 一騎の口には収まらないほどの
愛液を先走って零したのだった。
一騎は全部呑み込むことも出来ず、口から僕のそれを出して
苦しそうに肩で息をしていた。
「っはぁ、・・・はぁ・・・っ、ケホッ・・・」
ピチャ・・ッ、と音を立てて 呑み込めきれずに 行き場を無くした僕の精が
床に滴り落ちた。 一騎は 瞳に涙を浮かべながら 棚に寄りかかる僕へと視線を合わせてきた。
「ごめっ・・・・総士・・」
失敗したと思ったのだろう。
涙目で訴えかけてくる一騎の凍えるような声に僕は
堪らなくなって すかさず 彼を抱きしめた。
「・・いいよ。お前はよくやってくれた」
そう言いながら、今度はお礼にとでもいうかのように
僕は迅速な愛撫を しゃがんだ態勢で行い始めた。
まずは一騎の中心から。
くちゅ、くちゅ・・
厭らしい水音が生徒会室に響き渡っていた。
「は、っ・・・・ぁ、あ・・・ンッ」
快楽に溺れた一騎の声が 間近から聴こえてくる。
「ンッ・・・・あ、・・・そ、しっ・・・・・」
身震いするような甘い声が 僕の耳に鳴り響いた。
ギュっ、と僕の服を両手で掴んで、離れたくないとでも訴えるように
僕を自分の方へと引き寄せる積極的な一騎。
思わず息を呑む。
「ア、・・ッん、ン・・・・や、ぁっ・・・」
軽い否定が入るにも関わらず、一騎の先端は今にもはち切れそうで
僕は零れ続ける蜜に 視線を流した。
「・・一騎、まだイかせないよ。イクときは僕と一緒だ」
一騎の耳元でそう囁いてやれば、甘いため息と共に 一騎の僕を呼ぶ声が聴こえた。
「そう、し・・・・っ」
瞳がとろける様に、肌が朱色にそまるように
上気する一騎の扇情的な姿は 僕の心を焼き尽くすような錯覚を起こした。
「一騎・・・・」
呟きながら 宙に吐き出した その言の葉を
一騎は真摯に受け止めながら 僕の胸にひっそりと身を寄せて、応えた。
「・・・・・・・・・・・・好、き・・・」
刹那、僕の時間が止まった。
「・・・・・・・・・・・・・・」
嫌だな。
もう、あんな想いは御免だと思ったのに。
身を切り裂かれるような 寂しさは
もう、・・味わいたくなんてないのに。
「嘘で・・・・いいじゃないか」
「・・・・・・・えっ?」
この場限りの恋で 終わらせた方が
僕たちには きっといいはずなのに。
「一騎・・・今の言葉は口にしてはダメだ」
「え・・・・・」
そうだ。
僕らが繋がっていいのは身体であって
・・・・・心じゃ、ない。
「ダメなんだ・・・・・一騎」
僕は俯いて、
一騎から注がれる ひたむきな視線を避けた。
「・・・・・・・どうして・・・?」
一騎の呟く声のか細さに 無性に心細くなった。
住む世界が違う。置かれてる立場が違う。
理屈をいくら吐いたとしても、理由をいくら並べたとしても
感情が・・・追いつかなくて。
大人になり切れない。
割り切れて考えられない。
だから・・揺らぐ言葉を囁かないで。
その優しい声で。
大好きな僕の、その甘い声で。
「おれ、は・・・・・・・」
離せなくなる。
「おれは・・ずっと・・・・・総士のこと・・・・」
鳥籠に閉じ込めて、飼い慣らしてしまいそうになる。
「総士の・・ことッ・・・・・」
君に自由を返してあげられなくなる。
「好きだったーー・・・」
「やめろ!!!!!」
「ーーーーーーーー・・・・・そう、し・・・」
「・・・・・・・・・・・−−−やめてくれ」
神様、
白状します。
彼の羽をもぎ取ったのは、他の誰でもない
この、僕自身です。
僕は、ちっぽけな人間です。
あなたにとっては 取るに足らない存在だ。
偽善の仮面を身に纏って、易々と愛を語る
ちっぽけな・・・ただの男なんです。
本当の愛すら、最後まで信じることが出来ない
臆病者なんです。
「・・・・・・ごめん・・・総士・・・」
犠牲なしでは 成立しないこの島の未来・・
「好きになって・・・・ごめんな・・・」
一騎、僕は自分が犠牲になろうと思ったんだ。
それが僕のあるべき姿だと思った。
・・あるべき命だと思った。
けれど そう物事は上手くいかないものだな。
お前と出会ってから、僕は・・・・
生きたいと思ってしまった。
ずっと鳥籠に閉じ込められていた。
外の世界など、夢見るはずもなくーーー大切に、育ててもらった分だけ
恩を返そうと・・・・いつも必死だった気がするよ。
けれど、お前はいつからか
僕の鳥籠にいつの間にか入っていた。
僕がお前のツバサをもぎ取ったんだ。
お前は何も言わずに、ただ僕の傍にいてくれた。
僕はそれが、嬉しくて・・・・嬉しくて・・・・。
だから手放せなくなる前に お前に自由を返してあげたいと思った。
だけど
何故なんだ?
何故、胸に残る。
何故、痛みが走る。
恋愛ごっこのはずだった。
嘘であれば、 その場限りの関係であれば
後腐れがなくて済むと思った。
身体を繋げるだけでいい
それだけでいいと、思っていたのに。
「・・・・・・・・・・・・行けよ」
「え・・・・・?」
「ここから、出て行ってくれ」
「そう・・」
「僕のためを思うなら・・・・・・そうしてくれ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「−−−−−−−−鍵は、・・・・開けておくから」
自由を、・・・君に。
どうか
どうか外の世界を自由に
君らしく飛び回って見せて。
+++
「・・・・・エルビス」
疲れ果てて自室に帰ってきたら、鳥籠の扉が開いていた。
鳥籠の中に、エルビスの姿はなかった。
話を聞けば、僕の部屋を掃除していた家政婦が 間違って鳥籠の扉を開けてしまったらしい。
丁度いいタイミングで 部屋の窓が開いていたため、エルビスは空へと飛び立っていったそうだ。
「なんだ。・・・よかった」
外に出られたんだな。
・・ちゃんと第三者の手で、お前は自由を掴んだんだな。
エルビス・・
ギリシャ語の意味は
”希望”
その自由はお前だけのものだ。
「はぁ・・・。しかし、僕も大概だな。
大切にしていた二羽の鳥を手放すなんて・・・な」
乾いた笑いが室内に響く。
「まぁ、一羽は人間だけど・・」
自重めいた笑いを含んで部屋の壁に寄りかかりながら
崩れ落ちた。
ポタッ・・、ポタッ・・
次々と瞳から涙が溢れてくる。
胸が熱くて、苦しくて・・・痛くて。
大人になりきれない子供の足掻きが、そこには在った。
『好きになって・・・・ごめんな・・・』
一騎
「ごめん一騎・・・・・ごめん・・・・」
本当は
「本当はオレ・・・・・お前のことを・・・っ」
謝らせてしまった
「お前のこと・・・・・をッ・・・・・・・・・!」
言えなかった・・・
しぐれるまま、凍えるまま、君の名を呼べば
「一騎・・・」
哀しみは蒼穹のように
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葵様、キリ番15000hitおめでとうございます〜〜!!!!
そして、リクエストありがとうございましたvvv
こんにちは!!青井聖梨です。
さて。いかがでしたでしょうか?今回は葵さまのリクエストにお応えいたしまして、
鬼畜+切ない系の裏で書かせて頂きました。
ちゃんと裏っぽくなってますかね・・?(汗)
自分の世界と大切な人がいる世界が一緒だとは限りません。
それをどう乗り越えていくか。それは壁にぶち当たってみないことにはわかりませんね。
このお話では 総士なりの答えを書いたつもりです。(あくまでつもり・爆)
悲恋に終わってしまったと思われるかもしれません。が、しかし!
それはアナタさま次第なのです!!−−・・え?どういう意味かって?つまりここで終わってしまった方は
壁にぶつかったままですが・・・越せる方法がひとつあるのです。 どうぞ探して見てください。その方法を!!
最後に。”しぐれる”という言葉について。これは”涙を流す”という意味なんですよ。
是非機会があったら使って見て下さいねvvそれでは〜。
青井聖梨 2006・9・21・