欲張りになってしまったんだ、僕は








確信犯のため息














9月21日は特別な日。
僕の愛する恋人が生まれた日なのだ。
正直言って、自分の誕生日よりも喜ばしい。
なんて素晴らしい存在をこの世に誕生させてくれたのだろう。
神様は基本的に信じていない僕だけれど、この日だけは 信じてもいいかなと
思えてしまう。人間とは不思議な生き物だ。


とにかく。誕生日というものは、大抵の恋人達が一緒に過ごすだろう。
実は僕と一騎も、その恋人達の中の一人だったりする。
僕は三週間と二日前から一騎に頼んで、
誕生日はスケジュールを空けて置くようにと念入りに言っておいた。
が、しかし!!

何故だか分からないが、とても嫌な予感がする。
悪寒ともいえるモノが僕の体中を這い回る。

まさか、一騎の誕生日に何か悲惨な出来事が待ち受けているのではないかと、
正直今は気が気じゃない。抽象的な言い回ししか今は出来ないが、本能が
そう感じているのだ。


一騎の誕生日。僕はこの日のために、様々な努力を惜しまずしてきた。
それこそ、地獄のような日々を乗り越えてきたと云えるだろう。


島の戦闘指揮官である僕は、当然ながら仕事が他者より膨大だ。
データ整理、データ処理から始まり、敵の分析、パイロットの行動パターンの把握、
作戦概要のまとめ、シナジェティックコード形成率の見直し、ファフナーの状態チェック、
武器弾薬の威力確認・・・もはや言い切れないほどあるのだ。

それに付け加えて、学級委員である僕は、学級委員の仕事もこなさなければならない。
父親が校長であった以上、勉学や学校行事、委員などを疎かには出来ない。
ましてや、皆城家は島の代表である。迂闊に気を抜けない立場だ。
威厳と技量と信頼こそが皆城家には必要であり、重要なのだ。

ともあれ、僕は一騎と甘い誕生日を過ごすべく、
これらの困難な課題を短期間に全て終わらせた。
ひとつも残さずに。−−これこそ、愛の成せる技だ!!

僕は全て仕事を終わらせた。
よって僕は、丸二日休暇を司令から貰う事が出来た。
一騎の誕生日とその次の日の二日間だ。

さすがは将来の僕の父親に成るべく人だ。
話がわかる!今度きちんと、挨拶に行かねばならないな。




それはさておき。
先程もいったように、嫌な予感がするのだ。
一騎の誕生日が近づくにつれ、本能が何かを感じ取っている。
僕の苦労を水の泡にし兼ねないことが起きそうで仕方ない。
僕は毎日警戒しながらも、その日を待った。一騎の誕生日という
大切な日を。

そしてついに明日に迫った誕生日。
僕は深夜、明日の予定の最終チェックと準備をしてから
床に入るのだった。


期待していてくれ一騎!!明日は最高の一日にしてみるよ!
そして、何度でも君を僕に惚れさせて見せるよ!!!



+++







「総士ごめん、待たせたか・・・ーーーーって、・・・え?」



僕を見るなり一騎は信じられないといった表情で
身体を強張らせた。


「む?どうした一騎?」


僕は訳がわからない表情をされて、少し戸惑う。


「どうしたって・・・おまえ、何処いくの・・・?」


「?何をいっている。これから僕らは水族館に行く予定だろ。」


僕が訝しげな顔で一騎を見つめると、一騎は少し呆れ気味の
冷たい視線を送ってきて、僕に言った。


「・・・どこの奴がそんなタキシード姿で水族館に入るんだよっ!!
                           〜〜恥ずかしいだろうがっ!!」


憤慨した様子の一騎。
僕はここはビシッと決めなくてはと思った。


「ここにいる!!!」


親指を立てて自分を差し、胸を張って堂々と答えてみた。
すると一騎は、額に手をつき、”はぁ・・”と深いため息を吐いた。


「もういいよ・・・・・・」

そう短く云うと、一騎は先に歩き始めた。


何故だか随分と疲れた声に聴こえた。やはり訓練明けは身体にキツイのだろうか?
よし、ここは僕の軽快な話で身体も心もリフレッシュだ!!

思い出したが吉。
僕は一騎の横に並ぶと、爽やかな口調で話し始めた。


「いや〜、今日はあまりにも、今日という日が楽しみすぎて少々早く着いてしまったよ。」


「・・・・どのくらい早く着いたんだ?」


早速会話にのってきた一騎。
僕は自分的に手ごたえを感じていた。
きっと一騎は今日一日で僕の深い想いを感じ取り、感激してくれるに違いない。


「フッ・・・たいした事はないさ。ほんの、三時間と二十一分前さ。」


「さっ・・・------、三時間!!?」



むむ?何か驚かせるような事を僕は云っただろうか??
待ち合わせ時間より早く行くのは常識だと思うのだが。

僕は不思議に思いつつも、一騎の様子を窺っていると
何だか一騎が引いたような顔をして、少し驚く。


「どうした一騎?何か気に障ったか・・?」


僕が思わず聞き返すと、一騎は顔を引きつらせて困惑した風に
僕へと答えた。


「三時間って・・・ーーおまえ、いくらなんでも早すぎだろ・・・」


一騎は困ったような瞳をしながら僕を横目でのぞき見てくる。
僕は、きっと恥らっているのだろうと思い、”気にするな!”といって笑ってやる。
すると一騎は苦笑いのような顔で微笑み返してくれた。
まったく、一騎は恥ずかしがり屋だなv
僕が今日はリードしてやらなければなるまい。

僕は変な責任感を胸に、水族館へと足を速めるのだった。





+++







水族館は、竜宮島に最近出来た娯楽ともいうべき、場所だった。
沢山の魚が泳ぎ、ときどきショーを開催したりしている。
中々近代的な建物で、島の町並みとは少しかけ離れているのが
一種の特徴でもあった。外壁は白と水色で染め上げられ、内壁はベージュと空色
で塗られている。爽やかで落ち着きのある室内の構造が僕は気に入っている。
是非一騎にも見せたかったのだ。一騎は普段あまりこういう施設には行かない。
だから誕生日くらい、こういう新鮮な場所に連れて行ってやりたかったのだ。


「一騎、どうだ・・・?」


僕がそう呼びかけると、一騎は目を輝かせて驚きの声をあげていた。


「すごいな・・ここの造り!何か、海の中に居るみたいだ・・・」


あたり一面 ガラス越しに見える綺麗な魚達が、泳ぎまわっている。
ここのコーナーは、360度ガラス張りになっているのだ。
自由に泳ぎまわる魚達。一騎は嬉しそうに、その魚達を目で追いかけると
屈託の無い柔らかな笑顔を僕に向けて、僕に話しかけてきた。


「見て見て総士!!凄いよ、この魚!!尾ひれが変な形してる!!」


そんな一騎の姿に、僕は鼓動を速めながら、ひとつひとつ丁寧に頷いてやった。
あぁ、一騎。なんて可愛いんだ、お前は。
何だか魚が段々羨ましくなってくる。一騎にそんなに見つめられて、少しずるいぞ!!

僕は浅ましくも、哺乳類の分際で魚類に嫉妬してしまった。
愛とは恐ろしい。自分の類系すら超えてしまうのだから。
僕は湧き上がる魚への嫉妬心を一騎に悟られないようにしながら、作り笑いで相槌を返していた。


と、そのときだーーー!!
僕の最も恐れていたこと・・云わば、嫌な予感が的中したのは。






「一騎くん!!その変態から離れてっっーーーーー!!」



大声でそう叫ぶ、少し甲高い声の持ち主が僕と一騎の背後に
忍び寄っていた。僕たちは思わず振り返る。



「遠見!!!?」


一騎の驚いた声色と同時に、僕の本能が警報を脳内に響かせた。


「な・・・っ!?−−−何故だ遠見!!何故君がここにっ・・・・!!」


僕は明らかに油断していた。
事前に邪魔されぬように、難解な仕事を遠見に押し付けて
今日という日を仕事詰めにしておいたはずなのに、どういうわけか遠見は
僕と一騎の後を追って今この場に姿を現しているではないか。
一体どうなっているんだ??!!



「一騎くん、離れてっ!!そいつは皆城総士という名の変態よっっ!!
                                  惑わされちゃ駄目っ!!」





「えっ・・・?!」




遠見の人を小馬鹿にしたような言葉が一騎の胸を突いた。
一騎は訳が分からないという表情をしながら動揺している。


「−−−−−なっ・・・!!無礼な!!君こそ、遠見真矢とは仮の名で、実態は
一騎の隠し撮りという極めて悪質な盗撮魔ではないかっっーーーー!!!」



いきなり現れたかと思えば、人の恋路を邪魔するなど持っての他だ。
しかも僕を変態呼ばわりとはっ・・・、人権侵害も甚だしい!!
この女、生かしてはおけない!!



「なんですって!??貴方と一緒にしないでよっ!!隠し撮りしてるのは貴方でしょ?!
ーー盗撮魔なんて冗談じゃないわっ!!私はちゃんと許可を得て、写真を撮ってるんだから!!」


「ーーフン、どうかな。一騎の深い深い優しさを利用して付け入っているだけだろ!
どうせ隙を狙って、一騎に如何わしい行為をしようって魂胆だろう?!」


「それは貴方よ、ーーー皆城総士っ!!」





僕と遠見の言い争いが、それから かれこれ三十分以上は続いた気がする。
僕の記憶が正しければ、だが。
その間、僕の愛しの一騎はというと、呆れたように僕らの押し問答を見ていたかと思えば、
係員がイルカのショーをやると館内放送で流した情報を聞きつけて、ショーを見に、一人で
いそいそと行ってしまったのだった。
そんな一騎の様子に、僕は何だか急に自分がバカらしくなって、遠見との押し問答を一端中止した。
遠見は少し怪訝な顔で、言い争いを止めた僕に聞いてくる。


「・・・どうかしたの?」


僕は答えた。


「別に・・。ただ、これ以上不毛な争いはしたくないだけだーーー。」


そう僕が言うと、遠見も”そうね”と一言いって、遠くでイルカのショーを嬉しそうに眺めている
一騎に視線を落とした。
一騎を一心に見る遠見。僕はずっと、気になってたことを彼女に聞いてみることにした。



「・・僕が任せた膨大な仕事はどうした・・・・?」



お互い視線は一騎に向いている。が、意識は自分達に向いていた。
僕の言葉に、彼女は 答えた。


「終わらせたに決まってるじゃない・・。」


「なにっーー!?あの仕事の量をか?!」


思わず驚いた。
今日中に終わるか終わらないかの量だというのに。
彼女は終わらせたといった。



「・・・だって、今日は一騎くんの誕生日だもの。お祝いして、あげたくてーーー」



そういって、言葉を詰まらせた彼女。
少し俯きながら、なにか物思いに深けているようだった。
僕は横目でそんな遠見を見やって、少し複雑な想いに駆られていた。




・・・・あの量の仕事を今日までにこなす事は、並大抵の事ではない。
きっと毎晩、今日をあけるために徹夜したに違いない。
彼女の目は心なしか、赤い。自分が仕事を押し付けた分際でこんな事を云うのはなんだが、
よく頑張ったと思う。


おそらく彼女も、僕と同じ想いを抱えていた一人なのかもしれない。
そう思うとなんだか、胸が一瞬痛くなった。



彼女を見ていると、自分と重なる気がして・・・複雑だった。
遠見は一騎を僕から奪う、敵に変わりないというのに。




「・・・・・不思議だな。」



僕は自然とそんな言葉を口から零していた。
遠見は僕の言葉に”なにが?”と小首を傾げて聞いてくる。
僕は純粋な思いで、その続きの言葉を口にしていた。



「本当は君と僕は同じ想いを抱えている仲間、・・なはずなのに
相手を独占したいという想いに負けて、こうして争ってしまう。
何だか僕にはその事実がとても不思議でならない・・・。」



僕が軽く微笑みながら、苦い表情をしていると
遠見は静かに僕へと視線を送って、答えた。



「きっと・・・そういう事なんだよ。誰かを、好きになるってことはーーー。」


先程とは違って、不思議な温かさが声音に混じっていた。
彼女の表情には少しの優しさが見え隠れしている。
僕はそんな彼女の言葉に深く”そうだな・・”といいながら頷いた。




そして、遠見は 一騎に”おめでとう”の言葉と贈り物を手渡すと
帰っていった。
彼女の顔は、晴れやかだった。

意外とあっさり帰ろうとするので、軽く引き止めてみると、
遠見は去り際、僕に訳の分からない事をいった。





「一騎くんが望んでるから、今日はもう帰ってあげる」




彼女の足取りは軽いものだった。
何故か、爽やかな風のように。



+++






「総士。今日はありがとうな!」



時刻は夕暮れ時。
僕らは水族館に行ったあと、浜辺を歩いて 神社で話して
今、この景色の良い高台にいる。


何だかデートと呼べるべきものかは微妙なところだった。
途中軽い邪魔も入ったし・・。
でも一騎が別れ際、笑顔だったことからして、これは成功・・といえるか、
なんて自分で無責任な判断をしてみる。



「なんか・・今日の総士、何処かの王子みたいだったな。」


そういうと、一騎は軽くクスッ、と笑った。
僕の胸はドキン、と高鳴る。
夕焼け色に染まった一騎の顔が酷く綺麗で、僕の心を揺さぶったのだ。


「な、なにを云っている!僕はいつでもお前の王子だ。」


一騎に動揺した自分を知られたくなくて、虚勢を張りながら
殺し文句のひとつでも吐いてみる。

すると一騎は、その純粋さ故に、夕焼け色に染まった顔を更に
赤く染め上げて、”なにいってんだよ・・”と言いながら、恥ずかしがっていた。


そんな一騎を見ていたら、急に愛しさと別れの名残惜しさが込上げてきて
堪らなくなる。



「一騎・・・」



僕が少し熱っぽく、一騎の名を呼べば、
一騎も少し熱っぽい栗色の大きな瞳を揺らしながら
僕の言葉に応えてくれた。



自然と身体が重なり合う。




互いに離れる時間がもどかしい。
ギュッ、と力を込めながら抱きあった。



そして、僕は形の良い さくらんぼのような赤い唇を
指先でなぞると、一騎の顎を持ち上げて 少し強引にキスをした。




「っ・・んぅ、・・ンッ・・・」



一騎の色っぽい声が鼻に抜けて
聴こえてくる。



「ふ・・、ぁッ・・んんーーー」



歯列をなぞり、舌を貪るように絡め取った。
一騎の口端からは、銀色の愛液が零れ落ちる。



「ぁっ・・ぅ、んっ・・・ふ・・、ァ・・」


苦しそうに身体を捩りながら、
キスの合間に呼吸をしようとする一騎。
可愛くて仕方なかった。
目に入れても痛くないと思えるほど。



「ンッ・・・、ふぁ、・・・・っ」




長い長い、深いキスのあと
息も絶え絶えに 僕へと身体を預ける一騎の耳もとで、僕は
まだ云えずにいた一言を君に囁いた。






「ハッピーバースデー・・・一騎。」





僕の言葉に、君は一瞬驚いたあと、



今日一番の微笑を 僕に贈ってくれた。









君のその微笑に、僕は思わずため息を漏らす。











あぁ・・・、今日という日がこんなにも愛しく思えるのも
君という存在を感じれることがこんなにも嬉しいのも




きっと、すべてこの想いが引き起こしているものなんだ。




この、”好き”という気持ちに全部、繋がっているのだ。













きっと 欲張りになってしまったんだ、僕は。












以前は何でも一人で出来たのに
今じゃ お前が居ないと何も出来なくなっている
自分がいる。


そんな自分も悪くないと思い始めている自分に、気づく。




あぁ、ため息が出てしまうよ。



君への想いが溢れすぎて 手に負えないんだ。





どうかせめて、 この想いを受け止めてはもらえないか。





いくらでも、君に愛をあげるから。






僕の拙い言葉と、この想いをあげるから。









どうかこの、 吐き出された ため息の数だけ
僕を愛してくれないか。






















                                     ため息の数だけ、










                                    僕を好きだと呟いて。
























                                僕の大好きな君の、その声で。






























                                  その、微笑で。























NOVELに戻る


こんにちは!青井聖梨です。一騎誕生日記念小説です☆★

ギャグありのほのぼの系を目指しました。・・なんか混ざりすぎて、どっち付かずの中途半端
作品になってしまったので反省(汗)

終始、総士はタキシードでした。ちょっとマヌケ(笑)
それから、遠見の言葉で一騎君が望んでるから・・というのは、つまりは”総士と一緒に居ることを”
という意味です。(一騎なりに総士と二人で過ごしたかったってことかなv)
あ、そういえば総士なにもプレゼントあげてないや(爆)プレゼント内容は、皆さんの妄想でカバーして
頂ければ幸いですvv(←オイ!)

さてさて。とにかく、一騎 お誕生日おめでとう!!!
それではこの辺で。2005.9.21.青井聖梨