報われないとわかっていても



届かないとわかっていても・・
















虚像(レプリカ)は僕に微笑む

〜出逢い編〜










恋を、していた。
それは とても平凡で、どこにでもあるような恋だった。
ただひとつを除いてはーーーー。


俺は、恋焦がれたその人と、まだ出会っていない。




・・出逢う前からずっと好きで、彼の全てに焦がれていた。
自分でもこんなのはオカシイと思いながら、止められなかった。


好き過ぎて、密かに物陰に隠れて、会いに行ったことだってある。
遠くから、何度も。ため息が出るほどに、何度も。
すりきれた写真をお守りのように持ち歩いて、その人をいつも想った。

想像した。
こんな風に考えて、こんな事を言う人なんじゃないか。
こんな物が好きで、こんな風に思われている人なんじゃないか。

こんな声をしていて・・・こんな風に笑う人なんじゃないか。


想像すれば、きりがなかった。
まるで遥か頭上に咲いている一輪の花に手を伸ばしているかのように、
どんなに想いを馳せても 手の届かない位置に彼は居る。
そんな気がしてならなかった。

近づいてはいけないと思いつつも、どうしても忘れる事が出来なかった。
捨てきれない俺の想いが、もしかしたら 彼との出逢いのきっかけを欲しいが為に

・・・父さんを殺したんじゃないか。

そんな風にときどき考えたりする。




どうして俺は、こんなに彼が好きなんだろう。



わからない。



・・わからないけど、
でも  







この胸にある想いは嘘じゃない。






これだけははっきりとわかるから・・

だから、父さん 俺・・








皆城総士と、出逢ってもいいかな?







声にならない言葉が天に届くといい。
そんなことを心の中で何度も



俺は そのとき 願っていたーーーーーーー。






+++









潮風が、肌を不意に掠めていく。
穏やかな波音が防波堤に残響となって、いつまでも響いている。
見回せば、海が近い山岳地帯の中心部に居るような感覚だった。
平地に佇む、立派なお屋敷が俺の視界に入ってくる。

浜辺を歩きながら、ただただ愕然と目の前の光景に目を奪われるばかりの俺に
皆城総士の父親である皆城公蔵さんがひっそりと話しかけてきた。


「一騎くん。君に先に言っておかなければならない事がある。」


急に立ち止まって俺の方に視線を向けた皆城さんの顔色が
穏やかなものから険しいものへと変わっていくのがわかった。
俺はそんな皆城さんを見て、少しだけ不安になってくる。


「・・・あの、何ですか?」


ぎこちなく視線を皆城さんに送れば、
皆城さんは俺を食入るように見つめながら 深い眼差しで俺に言葉を紡いだ。


「・・・・うちには一人息子が居てね。総士というんだが、君と同い年なんだよ」


知ってる。



「−−−はい。」



「総士は・・・私が言うのも難だが、賢過ぎるというのか、・・少し厄介な息子でね。
人付き合いが不器用な人間なんだよ。
多少付き合いづらい面も出てくるとは思うが、許してやって欲しい。」


皆城さんは俺にそういうと、苦笑しながら俺の肩に手を置いて言った。


「君が来ることは事前にあいつにも知らせてある。分からない事は総士に訊くといい。
・・出来るだけ君に協力するようにと私からじっくり総士に言ってあるからーーーー」


そう言いながら、皆城さんは俺の肩に置いた手を
知らない間に俺の腰に回してきて、 自分の方へと引き寄せてくる。


「もちろん、私自身も出来る限り君に協力しよう・・」



そんなことを口走りながら、俺に顔を近づけてくる皆城さん。
俺は訳が分からないというような顔つきで皆城さんを見つめると、
俺に触れてきた手を出来るだけ自然に払って、


「・・色々とご迷惑お掛けしてすみません」

と素っ気無く答えた。


皆城さんは、”いや、いいんだよ”と短く答えて、また苦笑した。



何なんだ・・・今の?

皆城さんの必要以上のボディータッチに気持ち悪くなった俺は
眼前に広がる景色と すぐ傍に凛々しく立っている皆城家に視線をずらす事で
もやもやした気分を紛らわせた。

赤い尖った屋根に黒い鉄格子の門。
奥には白い階段と大きな扉がその存在を悠然と見せ付けているようだった。
広い敷地には花壇やプール、テラスが顔を覘かせている。
空を仰げば、沢山の窓が見え、四階建ての御屋敷だということがわかった。
よく見れば、屋上のような場所が天辺に見えた。

さすが島の代表の家だ。
規模が違う。


俺がその壮大さに度肝を抜かれていると、
後ろから 足音も立てずに皆城さんが近づいてきて
俺の髪にそっと触れてきた。


ビクッ、と俺は背後の気配と髪を触れられた感触に怯えて
身体を強張らせると 皆城さんが乾いた笑いで俺に言ってきた。


「綺麗な黒髪だな・・・一騎くん」


その笑顔が、あまりにも薄気味悪くて
俺の表情は瞬時に凍りついた。


「−−−−・・・君はよく、紅音くんに似ている・・」



頭からつま先まで嘗め回すように見られた俺は、
その視線の危うさに、身震いを起こした。

なんなんだよ・・・・この人。

声にならない危機感を感じた俺は、即座に形振り構わず門扉を開けて、
皆城家の屋敷内に逃げるように入っていった。


あの人と二人きりになっちゃいけない。
本能がそう叫んでいるようだった。


小走りした俺は、玄関先にある白い階段へと
辿り着いた。失礼だとは思いながらも、階段を駆け上がり、勝手に大きく頑丈な扉を開けようと
扉の取っ手に手を置いた。するとーーーーー。


「総士、帰ってきたのか」




背後から皆城さんの声がした。






・・・・・・・えっ。

そう、し・・・・・・・?




皆城さんの零した言葉が耳の辺りで渦を巻くように
ずっと響いていた。



ーーーーーーーーーザァァァッ・・・・・


瞬間、強い風が辺りに吹き付けて、屋敷を覆う木々たちを激しくかき乱した。
おそらく、皆城さんの言葉に何かしら答えたであろう、
皆城総士の声は、木々が揺れる音にかき消されて 俺の耳には届かなかった。

が、その代わりに冷静な足音が俺の方へと近づいてくる。
革靴の音だ。

皆城さんが履いていた靴のヒールとは違う、音。


コツコツッ・・・


思わず意識が、足音に集中してしまう。
扉の取っ手を握る手が、汗ばんで・・震える。

どうしよう


足に・・・・・力が入らない。


高鳴る鼓動の煩さと、綺麗に響く皆城総士の足音が
頭の中で混ざり合って、俺を混乱させながら、緊張の度合いを高めていく。


どうしよう、父さん・・・・



どうしよう、・・・・・・・母さん。


心の中で何度も焦がれた人物が、今まさに
自分の後ろに居る。

そう思うだけで、心臓は激しく高鳴って、呼吸を乱れさせる。
意識が・・朦朧とする。


立っているのがやっとだ。




そう思った瞬間ーーーー足音が階段を上る音に変わった。
意識が・・・擦れていく。



不意に、足音が止まった。
俺の後ろに誰か立っている。気配で、わかるーーーー。

瞬時に目の前が薄暗くなった。
彼の影が、俺の目の前の扉に落ちているせいだった。

緊張が頂点に達した、瞬間だった。





そして、刹那ーーーーーーーー・・・



白く細長い、しっかりとした指先が俺の扉を持つ手に
そっと触れて・・・・・重なった。




「っ・・−−−−!!!?」



声に、ならなかった。




俺より少し低い体温。
俺より少し大きい掌。




全てが・・・・・・・・・夢のよう、だった。



大きな皆城総士の手は、俺と同じように扉の取っ手を掴むと、
途端に力が篭り、大きく頑丈な扉を勢いよく押した。


扉はギィィッッ・・、と重々しい音を奏でながら
次第に開いて行く。



俺はその光景を意識の底で傍観しながら、
無意識に触れた手の主へと顔を向けてみる。







するとそこには、








すり切れた写真と同じ顔が・・・・・





何度も物陰から覘き見たその人物が






目の前に佇む俺の顔を見つめて、



立っていた。





























「遠慮せずに入ればいい」












大人びた低い声色。



深く輝く銀色の双眸。







琥珀の長い髪が微かに風に靡きながら
俺よりも高い すらっとした背をより映えさせている。


真珠色のワイシャツに深紅の長いネクタイ。
中にはグレーのセーターを身に付け、
上には紺色のブレザーを羽織っている。
ズボンもブレザーと同色で、
片手には亜麻色のカバンを手に持っている。

・・制服姿だという事が一目でわかる。

だけど、皆城総士の制服姿は あまりにも優美で、
思わず呼吸を忘れてしまうほど、華麗だった。

まるで物語に出てくる王子様が、今自分の目の前に
立っているような錯覚さえ覚えてしまう。



そして何より その、あまりにも鋭く儚い眼差しに



全てが呑み込まれていくようで 
俺の中の時間が止まっていくようだった。







あぁ・・・・・どうしよう、
知らない間に、想いが涙に変わって
俺の瞳を濡らす。




涙で視界がぼやける。




もっとちゃんと、見たいのに

・・目の前が、大きく歪むーーーーーー。





そう、し


総士・・・・・






どうしよう・・・・・・俺




好きが止まらないよ。








頬を伝う行く筋もの涙が、地面にシミを作った。


俺を覗き見るように手を重ねて扉を半開きにしている 俺の恋しいその人は
突然涙を流した俺から 瞳を逸らすことなく、

驚きながらも、ただただ 銀色の双眸を光に反射させて 
俺を見つめ続けていた。








俺は、取り繕おうとするけれど、
上手い言葉が見つからなくて 気がつけば、




溢れる想いを




口から止め処なく零していたのだった。











「好、きだ・・・・・・」









「・・・・・・・・・・え?」









「お、れっ・・・・総士が・・・・・・・好きだッ・・」








ずっと






「ずっとずっと・・・・・・ッーーー好きだった・・・!」










擦り切れた写真のお前に俺は
恋をしていた。










「好きだったんだっ・・・・・・」











報われないとわかっていても








届かないとわかっていても。











「総士ッ・・・・・・・・」

















                                     もう俺には














                                 お前しか見えないんだ。



















NOVELに戻る



こんにちは!!青井聖梨です。ここまで読んで下さって、
どうもありがとうございますvv

さて。今回は出逢い編ということで、やっとこさ総士と一騎が出逢いました。
一体、皆城総士はどんな人間なのでしょうね?(笑)
出来るだけ、今までの印象とちょっと違う皆城総士を書いてみたいです〜。
それはそうと、皆城公蔵。なにやら、一騎にちょくちょく手を出している模様です。
どういうことでしょうね〜(爆)

それではこの辺で失礼します。
次回でまた、お会いできれば幸いです♪ではでは。
青井聖梨 2006.3.3.