僕は堕ちていく。何処までも。
そして君も道連れにして。
君が笑うと、僕の胸が痛むから。
何のために、僕はここに居るのだろう？
何のために僕は生きているのだろう？
何のために僕は戦い続けるのだろう？
答えのない疑問や計り知れない孤独なら
散々知っている。
その意味も、その深さも、僕は何でも受け入れる。
受け入れてみせるよ。
僕は強く生まれた。弱さなんて知らない。
僕はそれがいい。それでいいんだ。
恐れを知らず、振り返らずにただひたすら進んで、
疲れたら支えを求めることなく、自分の力で休んでまた走り出す。
それがいい。それでいい。他人と関わったりしたら、きっとそれは弱さを生み出す。
僕は何よりもそれを恐れる。
僕は強く在らなければ。父さんが言うように、乙姫や島のために
いつでも独りで全てを背負えるようにならなくては。
救いなんかいらない。支えなんて要らない。
僕が欲しいのはそんなモノじゃない。
強さだ。ただひたすら この襲い来る孤独と戦える強さが欲しい。
何を省みることなく前に進めるしっかりとした強さが欲しい。
沢山の人々が暮らす、この島と妹を守れる強さが欲しい。
それだけがいい。それだけでいいんだ。
なのにどうして。
ふと、君を思い出す。
脳裏には 君の笑顔が焼きついて離れない。
残像が僕の胸をかき乱し、その声が僕の耳を支配する。
何度も、何度も。
父さん、どうして？
『お前はこの島と、この島のコアを守るためだけに居るんだ』
どうして僕は、島のために生きるの？
どうして僕は、島のコアのために居るの？
どうして僕は、未来を選択出来ないの？
ねぇ、父さん・・・
どうして僕はこんな生き方しか出来ないの？
・・どうして僕の胸は、君を想うと痛むの？
この痛みは何処から来るの？
何で胸が痛むの？
君が笑うと、いつも胸が痛むよ。
この気持ちは何なの・・・？
君が笑うと僕の胸は痛むから。
だから・・・？
僕の中で、沢山の矛盾が生まれる。
僕の中で、沢山の疑問が生まれる。
僕にとって、こんな矛盾も疑問も必要なんてなかった。
でも君を見ていると、矛盾と疑問が沸き上がる。
”本当にそれでいいのか？”と今の自分に問いかけてくる自分がいる。
僕は焦った。
こんな自分知らない。・・・こんな自分はいらない。
だから僕は・・・今の自分を守ろうと思う。
君が僕を追い詰める。脅かす。
僕が、今まで感じたことのない痛みを・・君は僕に与えるんだ。
君が笑うと、胸が痛む。
僕はどうすればいいんだ・・？
そうだ―――。
この痛みを抑える為には
君から
笑顔を奪えばいいんだ。
それがいい。
それでいいんだ・・・
＋＋＋
放課後、掃除が終わって 一騎を音楽室に呼び出した。
誰も居ない音楽室。一騎が入って来ると僕は
窓や扉に鍵を掛けて、静かにカーテンを閉めた。
一騎は不思議そうに”なにしてるんだ？”と僕に問いかける。
僕は薄暗闇の中、静かに微笑んで まるでちょっとした悪戯をするかのように
軽快に微笑んで見せた。一騎は黙ってそんな僕を凝視していた。
僕は言った。
「一騎、・・これから僕の前で笑ったら許さないから。」
僕がそう言うと、一騎は目を大きく見開いて、・・・・笑った。
「・・何だよそれ？」
言った側から笑う君。
―――――ズキンッ・・
ほら、痛んだ。
僕の胸が。
今の僕を脅かす君。
そんな君を許さない。・・許しちゃいけないんだ。
強くなるためには 君は邪魔だ。
君は僕にとって有害でしかない。
君は僕の弱さに成り得る存在だ。
だから・・
ナンデ・・？
ソレハナンデナノダロウ？
排除しなければ。
ナンデ カズキハ ヨワサニナルノ？
手遅れになる前に・・
ソンナニカズキノソンザイハ オオキイノ？
早く、君に分らせてやらなくちゃ。
ボクニトッテ カズキトイウソンザイハ ・・オオキイノ？
「一騎・・・許さないと言ったろ？」
「・・そう、し・・？」
ガタッーーーーーーー！！！
「やめろっ・・・！！総士っ―――！！！」
小さな悲鳴が音楽室に響き渡る。
声が震えてる。僕が怖いのか？
一騎は察しがいいからな・・、僕が今何をしようとしているか
解かるのだろうか？
「何するんだよっ・・痛いよ、放せってば――！！」
あれ？解かってないみたいだな。
・・それもそうか、一騎はある意味 純真無垢だからな。
一騎の両手を押さえて僕は、音楽室の一番奥の壁に一騎を追い込んだ。
一騎は僕の威圧と気迫に耐えかねて、小刻みに震える。掴んだ両手が温度を上げて、
汗ばんできている。何故だか分らないけれど、僕はこのとき ゾクゾクしていた。
怯えた瞳をして一騎が 下から僕を睨みつけてくる。身体を竦めて 襲い来る恐怖に耐えている。
可愛い・・
そう、一瞬思った。
・・・どうかしているな、僕は。
「そうだ一騎。・・それでいい。その表情で居ろ。
決して僕の前で笑うなよ・・・？」
僕はそう、そっと一騎の耳元で囁いた。
すると一騎は身体を身震いさせて、顔を刹那、赤らめた。
僕はそれを見逃さなかった。
「一騎・・もしかして今、一瞬感じたのか・・？」
僕は意地悪く微笑んでみせる。
一騎は訳がわからないといった表情で”・・・感じる？”と僕の言葉を復誦した。
「やっぱりな・・」
僕は思った。
一騎はまだ、そういう不純なこと・・、つまり”性”に対して敏感ではない。
というか、まだ目覚めていないようだった。
まぁ、まだ小学生なのだから当たり前か。
僕の場合、あらゆる書物を読んで勉強したせいか、色々な知識が頭に入ってる。
これも皆、大人と同等に考えるためのプロセスに過ぎない。
僕にとっては性などの知識は、大人のふりをする――言わば、背伸びをする材料に過ぎないのだ。
一騎の反応が実は今の年相応の反応だったりするのだろう。・・きっと。
そう思うと、やはり自分は他の島の子供と明らかに違うという事が明確にわかる。
少し・・・淋しい気がした。
この淋しいと思う気持ちも、弱さなのだろうか・・。
僕にとっては、感じてはいけない ”罪”なのだろうか―――？
「一騎、僕の前で笑った罰だ。・・・服を脱げ。」
「・・・えっ・・・？」
唐突の僕の言葉に驚愕した一騎は 身体を強張らせて
僕に問いかけてきた。
「教えてやるよ、僕が。・・・”感じる”ということを。」
「そ、総士・・なにいって・・」
「脱げと言ったんだ！！早くしろっ―――！！」
僕は大声で一騎を怒鳴りつけると、
一騎の着ていたシャツを引き裂いた。
「総士っ・・・！！？」
今までで一番怯えた声で、一騎は僕の名を呼んで叫んだ。
「嫌だよ、総士っ・・・・やめっ・・・」
声が震えている。
瞳が暗い色を宿して揺れている。
そんな一騎にゾクゾクする・・・。
僕は一騎の肌けた胸元を滑らかに撫でて、含み笑いを零した。
「・・・・綺麗な肌だな。まるで天使の身体みたいだ。」
「っ・・ぁ・・・・！」
小さな声で、艶かしい声を一瞬零した一騎。
どうやら僕の指先を肌に感じ、声をあげたようだった。
「どうした一騎・・・気持ちよかったのか・・・・？」
僕は瞳を細めて、壁に寄りかかる一騎の身体を上から一瞥した。
その華奢な身体に 何故か僕の心は大きく乱されて、欲望が暴れだした。
・・・何故だ？
僕は肌けた一騎のシャツを取り除くと、自分の顔を一騎の胸に埋めて
薄桃色の可愛い乳房を舌で弄び始める。
「っぁあンッ・・・・・！！」
一騎は感じたことのない、甘い疼きに耐えかねたのか 可愛い声をあげた。
その声を聴いて 僕の中で、何かがはじけた。
今度は 貪るように一騎の身体に襲い掛かる。
「！！？-----やっ・・！！！そうっ・・・」
一騎はそう言い掛けたけれど、それ以上の言葉を僕は許さなかった。
一騎の言葉を、僕は自分の唇で封じた。
僕にとってそれは、初めてのキスだった。
おそらく・・・一騎にとっても。
音楽室のカーテンの間から、光が薄っすらと漏れ出していた。
その光の色は赤く、漏れ出した光は僕達の瞳には少し眩しすぎた。
カーテンの向こうは、おそらく夕焼け色に校舎が染まり、帰宅を急ぐ生徒が正門へと向けて
歩を進めている事が容易に想像できた。
そして、この閉ざされた僕らの楽園に足を踏み入れる者も、気づく者も
誰も居ない事なんて 僕には容易く想像できることだった。
「さぁ、一騎。一緒に音楽を奏でようか？」
目の前で、一騎が恐怖と甘い疼きに翻弄されながら
透き通った涙を栗色の大きな瞳から、行く筋も流している。
一騎の震えた身体を僕は、机の上に押し倒す。
一騎は抵抗が出来ないほど、身体を強張らせて 言葉を失くした様に
声を殺している。
これから僕は、この楽園で音楽を君と奏でるんだ。
君は楽器。僕は演奏者。
一騎、君は何も恐れずに 僕に全てを預ければいい。
そうすれば素晴らしい音楽がきっと二人の間に生まれ出から。
「一騎・・・おまえはどんな音を聴かせてくれるんだ？」
虚白の室内は僕達だけの楽園だった。
この楽園には君と僕、二人だけ。
君は、これから僕に初めてされる事に怯えているようだね。
でも大丈夫。僕も初めてすることなんだ。怖がらなくていいよ。
君さえ笑わなければ、酷くはしないから。
心の中で、そんなことを思う。
「可愛く僕に、啼いてみせて、一騎？」
張り付いたような僕の笑顔に
凍りついたような君の表情。
僕は堕ちていく。何処までも。
そして君も道連れにして。
ーーーーーーー君も道連れに、・・・して。
父さん、これは弱さですか？
独りでは生きられないという、・・・僕の弱さですか？
それとも一騎、
浅はかな僕にお前が教えてくれた、・・・強さだろうか？
君が側に居れば何でも出来るという
僕の強さだろうか・・・
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こんにちは！青井聖梨です。久しぶりに書いた小説が、鬼畜小学生総士と純真小学生一騎の話・・
どうなのだろう、これ（苦笑）なんだか総士が半分ぐれていますね。そんな総士を支えるのは、やはり
一騎しかいませんよね。この話はまだ、総士に傷がない頃の設定です。総士が自暴自棄といいますか・・（爆）
オリジナルなんで、深くは追求しないで下さい（汗）
ただちょっと鬼畜な総士が書きたかっただけなんです（笑）少し歪んだ話ですけど。
読んでくださって、ありがとうございました。
2005.8.29.青井聖梨