そうすればきっと



二人とも幸せになれるだろう?










君と僕の幸福論







「総士、飯食ったか?」


アルヴィスの廊下で、真壁司令に書類を届け終えた総士は 
偶然、道生と弓子に遭遇した。
二人は丁度昼食を食べに食堂へ向かう様子だった。
そのとき、道生は総士に昼食はもう済ませたのかと
いきなり聞いてきた。


「あ・・・、いえーーまだですが・・。」


総士はいきなり質問されたので 反射的に素直に、
まだ済ませていないことを道生に伝えた。
それを聞いた道生は、総士を食事に誘ってきた。


「んじゃ、一緒に食堂で飯食おうぜ!」


「え?ーーーですが・・・」


恋人同士の二人の間に割って入って食事するのは何だか
気が引けると、正直 総士は思っていた。


「やーね!私達に遠慮しないで皆城君。」


しかし当人たちに、遠慮するなと言われてしまうと 
断る理由も無くなる。


「そーだぜ!ひとりで飯食っても美味くねーだろ?
俺たちと一緒に食いに行こうぜ!」


確かに道生が言うように、一人でする食事は
何故か美味しさが半減しているように思えた。


「・・・ーーはい・・・。じゃあ、ご一緒させて・・頂きます。」


遠慮するなと言われても、やはり少し気が引ける。
けれど 総士は”どちらにしろ食事に行かなきゃ行けないわけだし、
丁度良いか・・”と思い、道生たちの食事の誘いを受けるのだった。




+++







「弓子が頼んだそのから揚げ、美味そうだな〜。」

「なによー、ダメよ!これは私が頼んだんだから。
道生には自分の分があるでしょ!」

「・・・・・」


食堂の一番奥の丸いテーブルから、周りも気にせず
そんな声が聴こえてくる。

道生はどうやら弓子が頼んだメニューを羨まし気に
見ている。きっと少し食べたいのだろう。

総士は、そんな二人のやり取りを、ただジッと見つめていた。


「なぁ弓子、ひとつだけ から揚げ分けてくれよ!頼む!」


「んも〜・・しょうがないわねぇ。
ーーじゃあ道生が頼んだエビフライ、私にも分けてよ?」


「分かってるって!ほら。」


道生は、自分が頼んだメニューであるエビフライを 弓子に少し分けると
代わりに弓子から から揚げを少し分けてもらった。


「ん〜、美味い!」


「そうねー、美味しいわね これ!」


そう言って二人は、幸せそうにお互いが分けたおかずを食べていた。
そんな二人を少し眩しそうに眼を細めて、総士は眺めていた。

不意に、さっきからずっと黙って
こちらを見ている総士に道生は声をかけた。

「総士・・どうしたーー?俺たちのことそんなにじっと見て?」


「ーーあ、ごめんね皆城君。私達うるさかったでしょ?」

弓子は自分達の大人気ない姿に気づき、
総士にすかさず侘びをいれた。


「あ〜・・そっか、悪い総士。お前の食事をなんか
邪魔しちゃったみたいでよ。ーそうだ、お前も食うか?エビフライ。」


道生はお詫びにこれを、と言いながら自分のエビフライを総士に
分け与えようとした。
総士は”いいえ、結構です”とすぐに 道生へと断りを入れた。


「違うんです・・・。迷惑だなんて思っていません。
ただ・・・・ーーそういう風に大切な人と互いのものを
分け合って食事することが・・・羨ましいな、と・・。」


総士は 自分が二人を黙って見つめていた理由を
そう説明すると、少し柔らかく微笑んで更に付け加えて言った。


「・・互いの好きなものを そうやって相手に分け与える。
ーーなんだか僕にはその行為が、 互いの幸せを相手に分け与えて
いるように思えて・・少し羨ましいんです。」


「総士・・・」


「・・皆城君はーー大切な人としたことないの?
・・こういうこと。」


「・・・はい、一度も。」


弓子にそう聞かれて、総士は困ったように笑うと、
何処か遠くを見つめるように 目を細めて言葉を紡いだ。


「ーー相手を認める、相手を理解するということは、・・お二人の
しているような・・互いの幸せを認識すること、互いの幸せを感知することから
始まるのだとーー僕は思います・・。」


そう言うと、総士は食べ終わった食器を素早く片付け、席を立った。
そして、二人へ”失礼します”とひとこと言って、軽くお辞儀をした。
すると総士は片付けた食器を手に、その場を離れようとした。

そんな総士に道生は思わず声をかける。


「総士!−−お前も一騎と・・・食事のときに
自分の好きなモノと一騎の好きなモノ・・
分け与え合ってみたらどうだ?
ーー・・そうすれば、お互いに解かり合えるし、
           二人とも幸せになれるだろ?」

道生はそう言って微笑んだ。


道生の言葉に、足を止めた総士は
静かに瞳を閉じると


「それは無理な話ですね。」
と言って小さく笑った。


「なんでだよ?」


道生が怪訝な顔でそう聞くと、総士は 閉じた瞳を再び開けて
道生に向かってひとこと言った。





「一騎は・・僕と同じモノをいつも頼むからーー。」








+++




静まり返った少し薄暗い僕の部屋。
先ほどまで、あんなにも激しく互いを求め合っていたのが嘘のようだ。

君は僕の横で疲れきったように 力なく横たわっている。
僕はそんな君を片腕で抱き寄せると、君の額に軽くキスを落とした。

僕のキスに、君はくすぐったそうに笑うと、僕の背中に腕を回してきた。
僕は抱きついてくる君を、大切なものを扱うようにそっと抱きしめると
再び額にキスを落とした。

君は瞳を閉じると、今度はその優しい唇で、
僕の行為を受け止めてくれた。





------僕はとても幸せだった。













「一騎、お前に一つ・・聞いてもいいか?」


「なんだ・・?」


薄暗い部屋に光が射しこむ。
おそらく夜が明けたのだろう。

僕と一騎はまだベッドの中で身を寄せ合っていた。
昨晩の情事の余韻がまだ僕らを包み込んでいたせいだ。
互いにまだ、離れたくないという欲求が働いているせいか、
不思議と 離れようという気にはならない。

今日は早朝から作戦会議が行なわれる。
いつまでもこうして居るわけにはいかないのに。
けれど それでもずっとこうして居たい、そんな考えが頭を過ぎる。
随分と身勝手なことを考えているな、僕は。



「どうしていつも、同じなんだ?」


「えっ・・?」


昨日の道生の言葉を思い出した。
食事のときに互いの頼んだメニューを
分け与え合ってみればいいと。
そうすれば解かり合えるし、
二人とも幸せな気持ちになれると。
・・けれどそれは出来ない。

その理由は昨日道生に言ったとおり、
一騎がいつも自分と同じメニューを頼むからだ。

そう考えると、そもそもなんで 一騎は自分と同じモノを
いつも食事のときに頼むのだろう?という疑問が頭に浮かぶ。

気になって仕方がなかった僕は
思い切って一騎に聞いてみることにした。

一騎はいきなりの僕の質問に、”なんの話だ?”と
少し首を傾げて 僕を見上げてきた。


「お前、食事のとき いつも僕と同じメニュー頼むだろ。
                ・・・ーーあれは一体何故なんだ?」 


僕の質問に少し驚いて、一騎は


「ごめんーー迷惑だったか?」


と、慌てて謝ってきた。


「いや・・・そうじゃないんだ一騎。ただ、少し疑問に思っただけだ。
ーーお前と僕の味覚は違うだろ?・・現に僕はコーヒーをよく飲むが、
お前はコーヒーがあっても飲まないだろ?
−−ということは多少味覚に違いがあるということになる。」


”同じが嫌なわけではない”ということを はっきりと一騎に伝えると、
僕は更に踏み込んで聞いてみる。


「つまりお前は、故意に僕と同じものを頼んでいる、
ということになる。ーー違うか?」



一騎にそう投げかけると


「いや・・違わない。−−お前の言うとおりだよ、総士。」


そう言って、一騎は少し俯いて 頬を赤く染めた。


何故か恥ずかしそうに俯いた一騎は、寄り添っていた僕に
背を向けて身動ぎをした。


背を向けてくる一騎の気持ちがわからない僕は、
一騎の背に覆いかぶさって 後ろから強く抱きしめた。


「なっ・・総士ーー!」


「お前が悪い。−−いきなり僕に背を向けるから・・。
質問に答えてくれるまで、このまま放さないからな。」


僕はそう言って、尚も強く抱きしめる。
一騎は”わかったよ、答えるから”と言って
僕の腕を振りほどこうとする。

答える気になったのか、一騎は 少し力を緩めた僕の腕を
優しく解いて僕に向き直ると 頬を赤く染めたまま 僕を見つめてくる。

その大きな瞳は 微かに揺れながらも、
僕のすべてを捕らえて放さない。

そんな一騎を見て、僕は無性に抱きたい衝動に駆られる。
理性を保つのに僕も必死だ。随分と惚れ込んだものだな、僕も。

そう考えていたとき、一騎が話し始めた。


「ーー総士・・、お前はいつも俺のこと ジークフリードシステムを通して
解かってるだろ?俺の気持ち、とか・・色々。」


「−−あぁ・・・解かっている。」


「でも・・俺はお前のことーーー何も知らない・・」


さっきまでの一騎の澄んだ瞳が、悲しい瞳の色に変わっていくようで、
胸が少し痛んだ。


「だから・・・俺、まずは総士の好きなモノから
知っていこうって・・思ってーー」


だんだんと小声になっていく一騎。
きっと不安になっているのだろう。
本当にそれで、僕を知ることが出来たのだろうかと。

僕はこんな一騎を愛しいと、心から想う。


「−−だからいつも僕と同じメニューを・・?」


「う、ん・・。食事ってさ・・ 一番その人の性格とか生活習慣とか
表れやすいだろ?だから、そのーー」


「だから僕と同じモノを頼んで、僕の好みや性格、習慣なんかを
知ろうとしてた訳か?」


「−−−うん・・・・ごめ、ん。」


 そんなことをしていた自分を何処か恥ずかしく思ったのか
一騎はまた 俯いてしまった。


「一騎・・顔を上げてくれ。僕は別に謝って欲しいわけじゃないんだ。
むしろ嬉しいよーー。・・お前が僕を解かろうとしてくれていたという事実が。」


「そ、うしーー」


僕は俯いた一騎の頬に手を添えると、
僕と視線が合うように、一騎の顔を上げた。

一騎と僕の視線が絡み合う。


「ありがとう・・一騎。」


そう言って僕は、 一騎の唇に そっと触れるようなキスをした。


一騎はそんな僕に、心の中にいつまでも
灯るような 消えることのない温かい笑顔をくれた。




道生さん



貴方達は違うメニューを
頼むことで 相手に幸せを分け与えることが出来る。




それは僕と一騎には出来ないことだ。
僕たちは幸せを分け与えることは出来ない。


けれど そのかわりに


僕たちは 同じメニューを頼むことで
相手と幸せを共有することが出来る。





『ーー・・そうすれば、お互いに解かり合えるし、
           二人とも幸せになれるだろ?』





道生さん、僕は勘違いしていたみたいです。

互いを解かり合うということは、相手の幸せを認識し、感知すること
が始まりなのではない。


きっと



相手を知ろうとする その気持ちこそが始まりなんだ。




一騎が・・そう僕に教えてくれた。





同じメニューを頼まなくたって、違うメニューを頼まなくたって
きっと僕は幸せになれる。






一緒に食事をしてくれる相手が、一騎・・お前なら。





+++








アルヴィスの廊下。
道生さんと弓子先生が僕の前方から歩いてくる。
この時間だと、きっとまた昼食を食べに
食堂へ向かうのだろうと思った。

僕の横を通り過ぎる二人。

すれ違うかと思った、が。

「総士!」


道生さんに、大声で呼び止められた。
僕は振り返って、「なんですか?」と短く答えた。


「どうせお前また、昼飯まだなんだろ?」


そう聞かれ、僕はまた 素直に「ハイ。」と短く答えた。


「んじゃ一緒に、俺たちとーー」


「すみません、遠慮しておきます。」


僕は道生さんの言葉を遮って、
誘われる前にはっきりと断りを入れた。


「・・もしかして この前の食事で私達やっぱり
皆城くんに迷惑かけちゃった?」


弓子先生が申し訳なさそうに そう、僕に聞いてきた。


「いえ、違うんです。」


「だったらーー」


道生さんがまた僕を誘おうと、口を挟みかけたそのとき。



「総士?」



不意に僕を呼ぶ声がして 皆でそちらを振り返る。
するとそこには一騎が立っていた。


「一騎。」


「総士、早くしないと食堂混んじゃうぞ?」


「あぁ、わかっている。この書類を部屋に置いたら
すぐ行くから。お前は先に行って 席を取っておいてくれ。」


「わかった。・・あ、道生さん、弓子先生ーーこんにちは。」


「よ・・・・よぉーーー。」


「一騎くん・・こんにちは。」


思わぬ一騎の登場に、二人とも唖然として立っている。
僕は道生さんに


「先約がありますから。」

と言って、少し意地悪く微笑んで見せた。


道生さんは

「やるじゃねーか。」

と言って、僕の肩を一回小突いて、
弓子先生と食堂へ向かっていった。


一騎は「どうかしたのか?」と言いながら
僕に近づいてくると、不思議そうに聞いてきた。


僕は”なんでもないよ”と小声で答えると、
一騎の肩を抱いて


「やっぱり僕に着いて来てくれ。」

とひとこと言って 一騎と二人、歩き始めた。


一騎は訳がわからないという顔をしながら
僕に肩を抱かれながら素直についてきた。


そうすると急に何かを思い出したような顔になって
歩を止める。


「一騎?」


いきなりピタリと止まった一騎に僕は少し驚いて、
一騎の顔を覗いてみる。


「そうだ、思い出した!−−俺 総士に昼食を一緒に食べようって
言われたから 朝作って置いたんだった!」


「えっ?」


「ごめん総士、俺そういえば昼ごはん家で作って置いたんだった。
すっかり忘れてたよ。・・・・あのさ、もしよかったら 食堂じゃなくて
家で食べないかーー?・・昼ごはん。」


思わぬ一騎の言葉に僕は驚いていた。
一騎は不安そうに”やっぱりダメか?”と聞いてくる。

僕は慌てて、

「いや・・・!−−そんなことはない。」

と否定した。


「そうか、よかった。」


一騎は安心したように
僕へと笑いかけてきた。


「・・・・・・・」


「総士?」


黙っている僕を不思議に思って
今度は一騎が僕の顔を覗いてくる。


「どうしたんだーー?」


「・・まいったな。」


「え?」


「いや・・・・なんでもないよ。」


そう言うと僕は、一騎の手を取って歩き始めた。
一騎は、”なんなんだよ?”とまた訳がわからない
といったような顔をして、僕に手を引かれながら歩き始めた。







一騎、

どうしてお前は僕が嬉しいと思うことばかり
してくれるんだ?

本当に・・ お前には、まいるよ。






一騎、


これ以上幸せだと


きっと僕に罰が当たるよ。








だから罰が当たらないように
今度は


僕にさせてくれないか?




お前が嬉しいと思うことを。






そうすればきっと











ーーー二人とも、幸せになれるだろう?










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こんにちは〜、青井です。
ここまで読んでくださった方、どうもありがとうございます!
さて、今回の話ですが・・いつもシリアスばかり書いているので
たまには甘い話をと思って書いてみましたが・・。果たしてこれが
甘い話と呼べるものかどうかすら怪しいです(汗)
”ほんのり甘い話”ってことで許して頂きたいですね(爆)

基本的に甘い話って思いつかないんです私。だからこの話を書くときに
自分が”恋人同士でこういうことするのっていいなぁ”と思うようなことを
総士にも羨ましいと思わせることで話を作っていきました。自分が良いなと
思うものを相手にも見せてあげたり、分けてあげるというのは素敵なことですよね。
それはきっと相手にもこの幸せを分けたい、伝えたいという気持ちが働いている
からなのでしょう。 そんな相手に巡り逢えたらきっと もっと幸せなんだろうな。

それではこの辺で。ありがとうございました。


2005.2.22.青井聖梨