君なんて要らない
僕のモノでいてよ。
〜Act3、君も僕も悲しき玩具〜
君は、僕のモノだと、思っていた。
だって勘違いなわけ、ないんだ。
そんなんじゃないんだ。ーーーそうでしょ神様?
神様、
だってこの傷は何のためにあるの。
なんで僕は今、ここにいるの・・
一騎が僕を望んでくれたからでしょ?
この傷が、僕がここに居ていい証なんでしょ?
この傷が、君と僕を繋いでいてくれる証なんでしょ?
君と、いつも一緒だという、確かな目印・・・
そうなんでしょう?ーーーーー間違ってないよね?
なのに、君は
どうして僕と一緒に居れないなんていうの。
ねぇ、一騎・・・・どうしてなんだ?
「お前が・・・・お前が僕に傷をくれたんじゃないか・・」
君を強く抱きしめながら、耳元で、そう呟いた。
君は僕の言葉に ビクッ、と身体を震わせるだけで
何も言わなかった。
暫く、僕らの間に沈黙が訪れた。
僕は一騎から身体を静かに離すと、
視線を交えて低い声で言葉を紡いだ。
一騎の顔は、怯えていた。
「・・・・・お前がこの傷をくれたんだ。−−−なのに、どうしてだ?」
あのとき君は、確かに 僕に”消えないで”
と要ってくれたはずなのに。
「どうして僕の傍にいられない・・・?」
なんで今更そんなことを要うの。
だったら最初から
傷なんてくれなければ良かったじゃないか。
「一騎・・・・・なんで・・、離れていこうとするの・・?」
”僕なんて要らない”って
要ってくれれば良かったんだーーーーーー。
なんで傷なんてくれたんだよ?
僕は愚かな人間だから、
勘違いしちゃうじゃないか。
期待してしまうじゃないか・・・
なんで期待なんてさせるんだよ。
「ごめっ・・・・、総士・・・っ・・ごめ、なさ・・」
俯いて、その大きな瞳から、真珠の涙を零す君。
あまりにも弱々しくて・・・痛々しかった。
そんな言葉、聴きたかったわけじゃないんだ。
「もう、・・・・・いい」
神様・・・・・どうしてかな?
「総、士・・・・?」
人を愛する事が不器用な僕は
愛した人をこんなにも傷つけてしまうんだ。
こんな左目の傷ひとつに僕は
いつまでも
「もう要らない・・・」
縋りついているんだよ。
「お前なんて要らない・・・」
笑えるだろう?
+++
ーーーーーーーザァァァァッ・・・・・・
傘も差さずに校庭へと出た。
雨脚はいつの間にか強くなっていた。
肩や髪に降り注ぐ雨が僕を打ちのめす。
肌を刺すような雨が痛くて・・痛くて・・心の痛みに交ざりこむ。
冷たい雨は、僕の身体を瞬時に冷やすと、体温を即座に奪っていくようだった。
僕は雨に打たれながら先程の出来事も
洗い流せたらと、願わずにはいられない。
僕は、一騎を突き放した。
ーーーー違う。
最初に僕を突き放したのは、一騎の方だ。
僕は結果から云うと、一騎に捨てられたのだろうか?
滑稽な自分の姿が近くにあった水溜りに映る。
そこに映っている僕は、僕であってーーもう僕ではない。
・・・矛盾した存在だった。
生きようと、思っていた。
君が必要としてくれるなら。
君の為に・・僕の為に。
これからもずっとーーー。
使命とか、運命とか、どうだっていいんだ そんなの。
君が望む限り、ここに居ようと思った。
在ろうと、努力した。・・・僕なりに。
けれど、もうダメなんだ。
僕たち・・・間違っていたんだ。
傷に縋っているようじゃ、何にもならない。
傷を持っているからって、君を手に入れたことにはならない。
僕は、最初から何も持っていなかった。
空っぽだったんだ。僕が携えていけるものなんてーー在りはしなかった。
最初から 在りはしなかった・・・。
ーーーーーーーザァァァァァッ・・・・・・・・
”要らない”と口にした あのあと、
僕は居た堪れなくなって、その場を離れた。
君の顔も見ずに、あの場所から離れたんだ。
君は今頃どうしているだろう?
もう、社会科資料室を出て、家に帰っただろうか?
それとも、・・・・僕の帰りをその場所で待っていてくれている?
ーーーなんて、夢見事、もう口にする気力も無いよ。
パシャッ・・・
不意に、背後から人の気配がした。
水音が、雨に混ざる。
誰か、いる。
僕はゆっくりと後ろを向いてみた。
目の前がモノクロ写真のように色を失っていた。
視界が雫のせいでぼやけて、はっきりと見えない。
歪んだ瞳で 僕から少し離れた場所に佇むその人物の姿を映した。
「皆城君・・・・」
遠見だった。
「−−−・・一騎君に・・・なにをしたの・・・?」
その声は、怒りで震えていた。
はっきりと表情が読み取れないが、多分冷淡な表情を
しているのだと思う。彼女を包み込んでいる空気でわかる。
雨の中、赤い傘を彼女は差していた。
その赤を見て、一騎の秘部から流れ落ちた血の色を思い出す。
胸が、・・痛んだ気がした。
「さっき・・廊下で一騎君と会ったの・・・・。一騎君フラフラで、
服が、ボロボロで・・・目が赤かったーーーー」
洞察力のいい遠見。
彼女は云わば、僕の天敵だった。
一騎に好意を持っていて、何かにつけては一騎の傍に付いていた。
僕にとっては都合の悪い存在だった。
クラス替えで一騎と離れてショックだった あのとき、
彼女の名前を一騎のクラスの中に見つけた。
悔しかった。・・・彼女に、負けた気がしたんだ。
一騎を誰かに奪われる。
あのとき そんな予感が胸を過ぎって
さらに僕は頑なになっていった気がする。
「皆城君なんでしょ・・?あんなことしたのーー。
この時間、他の生徒は見当たらないし、それに貴方しか考えられない・・・!!」
きつく刺すような眼差しが僕の全身に向けられた。
けれど、不思議と痛くはなかった。
もう心の感覚が麻痺しているようだ。
「・・・・どうして?」
僕は擦れた低い声を出して、彼女に視線を落としながら、問いかけた。
すると遠見は、一瞬悲しそうな表情を浮かべて、拳を握り締めていた。
「だって・・一騎君・・・私が触ろうとしたとき・・皆城君の名前、口にしたから・・」
『一騎くん!!??どうしたのーー、その格好!!?
大丈夫っーーーー?!!・・・・私に、つかまっ・・』
『いいっ・・・、さわ、る、なっーーーー・・・』
『・・・・一騎、君ーー?』
『総士じゃなきゃ・・・・やだっ、・・・』
『えっ・・・・・・・・・?』
『総士、以外の人にっ、・・・・・・・・触られたくない』
『かず、きく・・−−−−』
『・・・・・・・・ごめん遠見』
”ごめん”
「−−−−−−−っ・・・」
何かを回想しているかのように、
彼女は力なく、身体を竦めた。
今にも赤い傘が地面に落ちてしまいそうだ。
その唇は、微かに震え、瞳が大きく揺れている。
遠見に何があったかは知らないけれど、明らかに彼女は
何かに耐えているかのような表情を作っていた。
僕は、いきなり言葉を呑み込んで、黙りこくった遠見に
先程された質問の答えを送り届けた。
「−−−−・・・僕のモノに、・・・しようとした」
ザァァァァァッ・・・・・・・・
雨音が僕の声を掻き消すように、周囲に強く響いていた。
遠見は、僕の零した言葉にすぐさま反応を見せた。
言葉はないけれど、”どういうこと?”と視線で訴えてくる。
僕はその視線に、まっすぐと答えた。
「ーーーー僕のモノだと、・・・ずっと思っていたんだ」
そういうと、彼女は何かに気づいたように
冷たい視線で僕を睨んで、言葉を紡いだ。
「誰かを自分のモノにしようなんて、・・・・・そんなのおかしいよ!ーー・・間違ってる!!!
だって・・・いつだって一騎君は、一騎君自身のモノだものっーー!!」
どこか必死に、僕の存在を嘆くように語り掛けてくる遠見の姿が
僕の瞳には、悲しく映った。
赤い傘がゆらりと揺れている。
色褪せた、蝋人形の様に 僕は今、この場に立ち尽くしている。
「・・・そうだな。僕も今、そう思ったところだ・・・・」
ザァァァァッ・・・・・・・・・
まるでテレビノイズのように、雨は鳴り響く。
髪から落ちる水滴で、目の前はほぼ、滲んでいた。
僕は空を仰いで、雨を顔から受けた。
遠見は、そんな僕を見つめながら ただ瞳を細めて、
僕に問いかけた。
「一騎君に・・・酷い事したのに
ーーーーーーどうして貴方は、 ・・泣きそうな顔をしているの?」
その声は、悲しみに満ちた色をしていた。
「・・・・・・・・・好きだからだよ」
一騎が、こんなにも
好きだからだよ。
ねぇ、一騎
嘘でもいいから
僕のモノでいてよ。
裏NOVELに戻る 〜4〜
こんにちは〜、青井聖梨です!!
内容が暗いので、極めて私自身は明るくいこうと思います!(笑)
さて、夢の中の大きな山場はここだと思いました。
まさか総士が”お前なんて要らない”などと口にしてしまうなんて!!−−−と、
裏ファフナーをテレビの前で観ていた夢の中の私は、呟いて下りました(爆)
内容は自分で作ったんじゃん!!と突っ込みを入れたいところですが、無意識世界で作られた
お話ですので、自分でも対処に困ります・・。とりあえず、もう少し続きそう。
早く書き終えたいな〜・・内容が消えそうだ(汗)夢なので忘れそうです。何かに書き留めて置こうかな・・。
ではでは〜。
青井聖梨 2005.11.20.