「総士、最近疲れてるみたいだけど・・・大丈夫か?」



「あぁ・・・少し寝不足なんだ」



「寝不足?−−仕事、そんなに忙しいのか?」



「いや・・・そうじゃない。不眠症に近いんだ・・」



「不眠症・・・・・?」



「あぁ。どうも不規則な生活をしているせいか、
いざ眠りにつこうとすると身体が寝てくれないんだ・・。
まぁ、仕方ないんだがなーーーーー」



「・・・・・・・・そっか」








全ては、この些細な日常会話が原因ともいうべきか。















恋する魔法使い















12月27日。
それは僕の誕生日。



誕生日という日をどう過ごすかなんて、今まで考えたことなどない。
けれど、一騎と付き合い出して初めて迎える誕生日は
僕にとって特別な魅力を兼ね備えていたのだった。


恋人と過ごす自分の誕生日。
なんて良い響きなのだろう。
考えるだけで胸が高鳴り出す。
一騎は僕に、どんな誕生日プレゼントを用意してくれるのだろう。

もうすでに誕生日は二人で過ごす事になっている。
約束は僕の方から取り付けた。
何だか誕生日を迎える張本人から
催促するのも可笑しいが、どうにも我慢ならなかったのだ。

奥手の一騎。
僕から行動を起こさない限り、鈍感で天然な幼馴染は
実行に移したりなど決してしないことを僕はよく知っている。

少し切ない気持ちを感じながらも、そんな控えめで遠慮がちな恋人を
愛しいと想えてしまう自分は 相当彼に惚れ込んでいるということだろう。

まったく、ほとほと自分の陶酔に呆れる。
でも、この彼に対する自分の率直な気持ちがまた心地良い気もするから
性質が悪いのだ。



惚れた弱みだといわれたって構わない。
一騎と誕生日が過ごせる。


それだけの事実でも僕は
天にも昇る気持ちになれるのだから。



待ちきれない自分の誕生日。
早く来て欲しいと願いつつも、反面では


この楽しみが永遠に持続すればいいと
思えてしまうのは やはり一騎への愛情が
そうさせるのだろうな、と不意に感じたのだった。





+++















「誕生日おめでとう!!総士!」




両手いっぱいの花束を渡された僕は、明るい笑顔で一騎に迎えられた。



ここは僕の部屋。正確にはアルヴィス内にある一室である。
そう、僕はアルヴィスに住んでいるのだ。



今日は12月27日。
待ちに待った僕の誕生日当日なのだ。


この日をどれほど焦がれていたか知れない。
花が綻ぶ様に柔らかく綺麗な笑顔に出迎えられ、
僕は思わずドア付近で赤面してしまった。



「あ、・・・・ありがとう」



色々な花が交ざった美しい花束を受け取り、
僕はそそくさと部屋の奥にあるデスクの上の花瓶に花を生けた。

一騎は嬉しそうに僕の行動を視線で追って、一息つくと
ソファーに腰を下ろして言った。


「総士、疲れてるだろ?先にシャワー浴びてくれば?」




ドクン!



心臓がその一言によって、大きく飛び跳ねたのは言うまでもない。




一騎の紡いだ言葉が、僕の耳元でさざ波のように鳴り響きながら
胸の底で波紋を描いた。




「・・・・あ、あぁ」





一騎の今の一言。
それって・・・・・・そういう、意味・・・だよな?



僕は動揺する気持ちと逸る気持ちを抑えつけながら、
出来るだけ冷静に自分を装った。


シャワー室の扉を開けて、脱衣し始める。
シャワー室の扉を閉める刹那、一瞬一騎の様子を
ちらり、と横目で確認したが ちょこんと座ってデスクに生けられた花を
嬉しそうに眺めている一騎の姿を見たとき 僕は全てを悟ったのだった。




「・・・・・期待してるのは僕だけか」



一度生まれた焦燥と欲望が 小さく萎み、胸に新たな感情を呼び寄せた。





はぁ・・・・、人を好きになるって
思った以上に切ないものだな。








ため息は心の中だけに留めて置きたい。




これ以上、幸せが逃げてしまったら 何だか寂しい誕生日に
なってしまう気がしたから、だった。






+++















シャワー室から出てきた僕は 少し喉が渇いたため、
丸いテーブルの上に予め用意していた ペットボトルの水を口に軽く含んで
一騎がいる方へと視線を傾けた。


しかし先ほどまでいたはずの一騎が、ソファーの上にいない。
一体どういうことだと 周囲を見回せば ベッドの上にちょこん、と
乗っかった一騎の姿が瞳の中に飛び込んできた。



「ぶッッッ・・・!!!」



思わず含んでいた水を辺りに撒き散らしてしまった。
カッコ悪いな、今日の僕は。




「わ!?ど、どうしたんだ・・総士」



その光景を目にし、一騎は慌てて近くにあったタオルを僕へと差し出した。
僕はタオルを素直に受け取ると、即座に口元を拭ってこう言った。



「どッ、・・どうしたってお前・・・・、お前こそどうしたんだ!?」



よくよく見れば、パジャマに着替えた一騎が枕を抱えて
可愛らしくこちらを窺っているではないか。
座り方も女性のようだから困る。佇み方が控えめで本当に困る。


悩殺・・いや、反則だ。




「あ、うん。・・・総士 今日誕生日だろ?
だから、これは俺からの誕生日プレゼント!」



「えっ!!!!?・・・・・そ、それって・・・・まさか」




今度こそ、・・・そういう意味なのか?




僕は再び顔を出した自分の欲望を否定することが出来なかった。
この天然一騎の前で 変な期待はご法度だとしりながら、
尚も期待し続ける浅はかな自分を 止めることが出来ないのは
まだ僕が未熟な証拠だと思った。


けど、恋人と過ごす初めての誕生日。
奇跡が起こっても可笑しくない状況だろう?
いいじゃないか、少しくらい夢見たって。





「総士不眠症なんだろ?だから俺が今日一晩一緒に
寝てあげるよ。総士の安眠が俺からの本当の誕生日プレゼント!」







嬉しそうに、いや・・楽しそうに笑う一騎。




”お前こそが安眠妨害の最終兵器だよ。”
・・・とはさすがに言えない。




だってそうだろ?

一騎はただ、僕の横で寝るだけなんだぞ。
何かさせてくれるわけではないし、その可愛らしい顔が
僕の近くにあるということは 明らかに僕の理性をふっとばせる要因になり得る。


安眠どころの騒ぎではない。



だけど現実とはかなり残酷なものだ。





「総士、早く来いよ・・?」



僕のベッドに潜った一騎が自分の傍らを軽く叩き、
僕の潜入を催促し始めた。

事態はかなり過酷な状況と化している。



生唾をごくり、とヒト呑みした僕は 意を決して 生き地獄の領域へと
足を踏み入れた。それはもう、なけなしの勇気で。


パサッ、と毛布を身体に掛け、互いに向かい合って横たわる。
目線はもちろん正面からぶつかっている。
一騎とひとつの枕を もちろん共有している。


息がかかるほど間近にある、一騎の大きな栗色。
黒い髪が僕の琥珀と絡みあって、妙に扇情的だ。
薄っすらと微笑む一騎が 優しい声で僕にそっと

”温かいな?”


と問いかけてきた。



僕は無言でコクリ、と深く頷くと パジャマから ちらりと見える
一騎の鎖骨に 思わず視線を落としてしまった。



ダメだ。


・・・・とてつもなく色っぽい。




僕は自分の理性に敗北しかけていた。
恋人として、幼馴染として 彼の天然さにこれほどのダメージを
受けたことは今までないだろう。



ドキドキが止まらない。
今、目の前の一騎に僕は今



欲情している。・・確実に。




視線を意識的に逸らしたり、寝返りを打てばいいものを
僕はそうしなかった。

いや、正確にはできなかったのだ。



極度の緊張と激しい動悸で 身体が硬直状態に
陥ってしまったからである。




最悪だ。





「・・・総士?どうしたんだ?顔、赤い・・・」





珠の肌が僕に密かに近づいて 綺麗な指が
僕の額にピタリ、と 瞬間 接触した。



「っーーーーーー・・・〜〜!!!」



僕は声にならない身震いを覚え、瞬時に一騎の指を払いのけた。
一騎が僕の取った行動に、訝しげな顔を見せるのは、当たり前だろう。



「・・・そう、し?」



次の瞬間、少し傷ついた顔を見せる一騎。


僕は こういう時どうしたらいいのだろう?
素直に謝るのが一番なのはわかっている。


けれど今の僕は 目の前の彼に情欲を掻き立てられているわけで。
謝るという選択肢すら まともに口から出てこない。
口元が震えて、我慢と理性が限界に来ていた。


一騎の僕より高い温もりを、たった今 知ってしまったから
もう ・・・後戻りすら できない。



触れたい。
今すぐに。



愛したい、一騎を。






「・・・・・・・・・キス」



「え?」




「キスがしたい」




「・・・・・・・え?」





”ごめん”と言おうとしたはずだった。
でも 口から零れ落ちた言葉は ぬくもりを感じたいという合図で。




どうしても止められなかった。




「そう・・・・、ッ、・・・・んんっ・・!!」






答えを待たずに 唇を奪った。








「んっ、・・・・ぅ、ン・・・・ふ、ぅッ」





角度を変えて、何度も何度も繰り返し
アプローチを試みる。




「ふ、ッぁ、・・・・んん、っ」




息も続かないほど深く貪って、犯していく。





「ん、・・、っ、ーー・・・ふ、ぅ、っ」




近づいたために 思わず触れ合った体温と
唇の温度。だんだん熱くなるのがわかった。





「ぁ、っ・・・・は、ッ・・・・ふ、っ」




漸く離れた唇からは 銀色の細い糸が密かに滴り落ちていた。
愛撫の深さを物語る。






一騎は急に仕掛けたキスのせいで 呼吸を乱し、
顔をほてらせて 妖艶な色香を放っていた。
とろん、とした栗色の双眸は 生理的な涙のせいで濡れ、
僕の理性を惑わせる。


微かに震えた第一声は 僕の耳に甘い吐息を吹きかけるより
強力なものだった。





「・・・・・・総士、・・・・したい、の?」







甘えたような 少し謙虚な口調で呟いた その一言が
どれほど僕の心を揺さぶったか 一騎は知る由もないだろう。





「っ・・・・、・・・一騎・・・・!!」




僕は我慢を通り越して、目の前で横たわる 華奢な身体を
強引に抱きしめた。





安眠できるわけ、ない。
というより・・・・安眠どころでは、ない。




一騎の耳元で 僕は溜まった想いを吐き出すように
そっと 静かに言葉を紡いで 彼を更にきつく抱きしめた。





「このままお前を・・眠らせたくない」







僕の言葉に 一騎の声が返ってくる。
背中にゆっくりと回る 細い腕と共に。






「・・・・仕方ないな。誕生日、だもんな・・?」





クスッと 照れた笑いを浮かべながら、一騎は僕の頬に 軽くキスを
落とすと 静かに瞳を閉じて 僕の腕に身を任せた。




僕はゆるゆると抜けていく彼の身体を感じて、
それが答えなのだと認識したのだった。






長く、そして甘い夜が始まる。






僕の愛した その人は ほのかに甘く、柔らかく、そして

温かいひとだった。






身体中に僕の愛撫を受けながら、一騎はそっと僕に呟く。















『総士・・・誕生日、・・・おめでとう』





何度も、何度も まるで魔法の呪文みたいに。






















きっと一騎は僕に幸せを運んでくれる
一夜限りの魔法使いなのだと







その日、彼をこの腕で抱きながら
ふと思ったのだった。
















一騎、素敵な誕生日をありがとう。




















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青井です、こんにちは!!!
甘い系の誕生日小説書きました。総一らしさ、出てました?

出てるといいなぁ〜〜〜(笑)




それではこの辺で!ハッピーバースデー総士!!!!


2006・12・27 青井聖梨