僕の胸を詰まらせた、この感情の名を


僕は知っていた。











サヨナラまで、数cm。





















「この戦いが終わったら・・・どこか静かな場所で、暮らそうか?」






ふと、君が零した言葉を
今もはっきりと覚えている。



君は覚えているかい?



AAで、最後の戦いを迎えようとしていた僕ら。
君は戦火の中 三年前に、そう僕に向かって呟いたね。
僕は 君の瞳に幸せな未来が映し出されていることを
そのとき知った。


近くで眩しそうに瞳を細める君。








そんな君が、一番僕には眩しく見えて・・
僕が静かに目を背けた事を 




君は今でも知らないだろうね。








君の瞳に映った未来は、
束の間ではあったけど 現実のモノとなったね。


人知れず、静かな場所。
小高い丘に佇む 大きな家。
近くには美しすぎる、広く果てない海。


そんな場所で、大切な人たちと過ごす毎日。
穏やかで、安らげる瞬間。


アスラン、僕はちゃんと知ってるよ。




この幸せを僕に与えてくれたのは

君だって。







君がいつだって 


隠れて僕を、守っていてくれたんだって。





アスラン・・・




君は 僕が言った あの日の言葉を・・


今も覚えているんだね・・・





+++













君は何でも叶えてくれた。
いつだって。




だから僕は、君に冗談半分で
あんな事を口にしたんだ。


君は今でも覚えているみたいだね。







「僕を選んで」













「えっ・・・?」















「いつか・・・この幸せなときに終わりが来て、
また世界が戦場に変わったときが来たら――」









「・・・来たら?」















「そのときは、世界よりも
      ・・・僕を選んで、アスラン。」







冗談だった。



ただ、不意に浮かんだ ”戯言”だった。


なのに君は・・


なんだか凄く真剣な顔をして、
僕を真っ直ぐ その翡翠の綺麗な瞳で見つめてきて。



言った。







「・・・・いいよ」







ただ、そう 短く。








僕は  僕の戯言を真面目に受け止めた
君の短い言葉に


何だか泣きそうになって






・・・瞳を逸らした。








「・・・いいわけないでしょ」





僕の声は震えていたかもしれない。






アスランは、きっと知っていたんだ。



僕が、何で泣きそうになっているのか。





この幸せが・・・もうすぐ壊れてしまうことも きっと・・。














アスランの短いその一言に

僕はこの時 嬉しいような悲しいような
不思議な感情が胸に広がった気がして


僕は胸を詰まらせた。





無性に、泣きたくなる。



アスランが目の前で僕を見つめている。
なのに、僕は無意識に顔を歪めていた。



何か言おうと、口を開く。


”冗談だよ、アスラン”



そう言おうと思うのに・・・
言葉が出ない。






僕の胸を詰まらせた、この感情の名を

僕は知っていた。




・・これは










狂おしいほどの愛しさだ。











「アス・・ラン・・・」






やっと搾り出した言葉なのに。
・・それ以上は続かなかった。






君の唇が、僕に優しく応えてくれたから。












”わかってるよ”












そう何度も、・・・優しく。







+++













君がAAに運ばれたとき、
僕は自分が滅びてしまえばいいと思った。




君をこんな風にしてしまったのは、僕だ。






きっと僕が 君を追い詰めた。




僕を守ろうとしたんだろう?
アスラン。





戦うたびに、傷つく僕を 守ろうとしたんだろ?






君が一番傷ついてでも 



僕を、救おうと してくれたんだろう?




















意識の遠くで、アスランの血まみれの姿をみて、
カガリが泣いている。



僕はそんなカガリと、血まみれで横たわる君を
遠い意識の果てで傍観していた。





涙も出ないよ。




そんなボロボロになってまで、
君は世界よりも


”僕”を





選ぼうとしてくれていた・・。

















・・・・涙も出ないよ、アスラン。










だって、


















僕は あのとき先に泣き尽くしてしまったからね。
















アスラン・・・






こんな風にしか愛せない僕を












君は許してくれる?




















君にサヨナラを言う事が
一番良い選択なのはわかってる。






でも、それができないんだ。








出来ないから僕は、



こんなにも苦しい―――。







愛しい・・。







君にサヨナラをいうまで数cm。















僕はこの距離を保ったまま、






君の名を呼ぶ。














「アスラン・・・・」





















愛しそうに























微笑みながら。























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こんにちは、青井聖梨です。
キラの独白チックにしてみました。戦争を一端終えたところから、アスランが
AAに帰還するあたりを抜粋した感じに仕上げてみたのですが・・どうでしょう?
この話は”泣かないで、運命。”と微妙にリンクしてるかな。
それでは、この辺で失礼致します。
2005.8.4.青井聖梨