2月14日。
それは恋人たちにとって、特別な日。
聖なるバレンタイン
「チョコレート?」
「そうだよ!今日はバレンタインだろ〜がっ!!」
「あぁ・・・・そういえば」
「これだよ!もてる男は良いよなぁ〜・・」
非難めいた口調でクラスメートに虐げられた僕は
軽いため息を一つ吐くと、教室を出て行った。
今日はバレンタイン。教室内でも街中でもやたらと男性が
そわそわしている、そんな特別な日なのだ。
もっとも、僕は気にしていないのだが。−−いや、気にしていない
というよりも、気にしていられない状況なのだ。
いつ島を奇襲するか知れないフェストゥムの存在を
片時も無碍に扱うことは許されない。僕は戦闘指揮官なのだから
何が起きてもそれ相応の準備は常備しておかなければならないのだ。
イベントに浮かれることは決して悪いことではないが
自分の立場を弁える事が今は先決だと僕は思っている。
そんな頑なな頭が導き出した答えを、ひっくり返すことなど
誰にも出来ないはずだった。−−はずだったのだ。ただ一人を除いては。
「総士!!」
職員室の廊下をゆっくりと歩いていると、遠くから明るい声が
聴こえてきた。僕は途端に振り返り、彼へと視線を合わせたのだった。
「一騎・・・」
彼の腕には抱えきれないほどのチョコレートが
散漫してはその存在を知らしめていた。
その光景に少しだけ、ムッとする。
こんなとき、僕も大概子供だ。
「・・・随分もてるんだな、お前」
僕が棘のある調子でそういえば、一騎はきょとん、と目を丸くして
乾いた笑いを瞬時に浮かべた。
「あぁ、これか。違う違う。俺が貰ったのは、これと・・これとコレ。
あとは全部お前宛だよ!!」
薄い微笑みを零しながら、一騎は”はい!”と小気味良い声色で
その他の全部のチョコレートを僕に差し出すのだった。
「え・・・?お前、−−これ・・預かってきたのか?」
拍子抜けした声音を宙に浮かべつつ、僕は一騎を見つめた。
すると一騎は明るい調子でこう言った。
「うん。なんか皆、総士はこういうの受け取るの苦手みたい
だからって言って、俺に代わりに渡してほしいって言ってきて・・」
あっけらかんとした顔で、五〜六個の預かってきたチョコレートを
僕に差し出してきた一騎は 至って普通だった。
そんな僕の想い人の様子に、脱力するような、憎たらしいような
不思議な感情を覚えるなんて自分自身思いもしなかった。
「・・お前が預かってくるな」
ついつい低い口調で一騎に嫌味を漏らしてしまう。
だって仕方がない。僕の気持ちもしらないで。
こんなの、あんまりだ。
僕の一言に、一騎は少し瞳を揺らめかせ
不思議そうな顔を作った。零した僕の嫌味を充分理解していないようだ。
僕はこんな天然の一騎に、心からため息を一つ吐くと
”いや、・・なんでもない”と言葉を消すことしか出来なかった。
僕は不本意ながら、一騎から受け取ったチョコレートを腕に抱えると
その場を去ろうと試みた。だって、幾らなんでもみっともない。
想い人から第三者に頼まれたチョコレートをこんなに渡されるなんて。
かっこ悪いにもほどがあるだろ。
そそくさと退散しようとした僕。
しかし、次の瞬間には一騎に呼び止められて、あっさりと
足を止めるのだった。
「総士!待ってくれーーー・・コレっ・・」
慌てふためいた一騎の声に僕は視線を向けると、
そこには丸い形をした入れ物に、赤いリボンと黄色の包装紙で
包まれたチョコレートらしきモノが煌びやかに存在を主張していた。
「これは・・?」
一騎の手に佇んでいる、その存在。
僕はまさか、と胸を高鳴らせた。
一騎は 少し上目遣いに僕を覗いて、
柔らかい声で言葉を零したのだった。
「これ、・・は、俺から・・・・・」
恥ずかしそうに瞳を揺らす一騎。
肩を竦めて困ったように そっと僕へと呟く。
「やっぱり・・おかしいかな?・・俺がチョコレート
あげるなんて・・・」
控えめに零す言の葉が、胸の中で波紋を作った。
僕は高鳴る鼓動もそのままに、抱え込んだチョコレートを
床へと落として 一騎が差し出すチョコレートだけを受け取った。
「ちょっ・・・!?総士、チョコレート落ちてる・・」
一騎が床に落ちたチョコレートを丁寧に拾っている間、
僕は一騎から貰ったチョコレートのことで頭がいっぱいに
なってしまい、何も考えられない状態だった。
「あ・・・・・わ、悪い・・」
一騎以外の子から貰ったチョコレートを拾い終わった一騎は
再び僕にそれらを手渡そうと差し出した。だが僕には最早
それらを受け取る意味すらなくて。
「−−・・いらない。お前にやるよ」
そう、気付けば口にしていた。
一騎は一瞬目を瞠ると、僕に訝しげな顔を向けていった。
「何言ってんだよ!せっかくお前にって女子が作ってくれて・・」
「いい。お前から貰ったチョコレートがあれば、もういらない」
「なっ?!総士・・・」
「一騎、・・これ、手作りか?」
「へ?・・・あ、うん。手作り・・だけど・・」
「ありがとう!−−大切に食べるよ」
自分勝手な展開で話を進めていく総士に、一騎は半ば圧される形で
相槌を打った。一体どうしたというのだろう?
いきなり自分が手渡したチョコレートしか受け取らなくなってしまった
総士の豹変ぶりに、一騎自身頭がついて行かなかった。
満足そうな顔をして、その場を立ち去る総士に、
一騎は慌てて声をかけた。
「総士!!このチョコレートッ・・・」
「お前がいらないなら、他の奴にあげてくれ」
「なっ・・・・!!?お前、さっきから何言って・・」
あまりにも他のチョコレートをゾンザイに扱う総士を
見かねた一騎は、思わず声をあげて言った。
「どうしたんだよイキナリ!!さっき受け取ってたじゃないかっ・・!?」
一騎は眉を吊り上げて、哀しい声を紡いでいた。
すると総士は そんな一騎を真摯に見つめ返して言った。
「状況が変わったんだよ一騎。
ーー・・今の僕は本命のチョコレートしか受け取らないんだ」
「−−−えっ・・・」
そう言われた途端、一騎は絶句した。
次第に、頬が赤く染まっていく。言われた言葉の意味を
脳が理解し始めたからだ。
「そ、総士・・・・・」
溢れるほどの光を帯びた栗色の双眸が 目の前に佇む
銀色の双眸にただ魅入るばかりだった。
揺るぎのない声と言葉に、翻弄される。
一騎は俯くと、言いようのない羞恥心に駆られていた。
どう答えればいいのか、自分のことなのにわからなかったのだ。
総士にチョコレートをあげたのは自分だし、実際
総士にしかチョコレートはあげなかった。
自分のした行いを改めて客観的に見つめ直した一騎は
必然的に 一つの答えに行き当たる。今までちゃんと考えなかった、
自分の気持ち。今まできちんと向き合わなかった自分の行動。
その、答えはーーーーーーー。
「・・・おれ、・・・総士が・・好きなの、かな・・?」
特別な輝きを宿した栗色が総士の銀色を射抜いた。
小さな声音は辺りに充分すぎるほど響き、木霊した。
淡い桃色の頬を上気させ、艶めいた黒髪を隙間風に密かに靡かせた一騎は
儚いくらい優美に映ったのだった。
総士は目の前の幼馴染に一瞬息を呑むと、次の瞬間には
鮮やかな笑顔を向けるのだった。優しい声色と共にーー。
「知らなかったのか?−−・・お前は僕が好きなんだよ」
聖なる日、バレンタイン。
恋人たちが互いの想いを確認し合う、最高のイベント。
チョコレート一つに こんなに一喜一憂するなんて
少しかっこ悪いけれど。
でも、こういう日もたまにはいいかもしれないな。
だってーーーーーーー。
君とこうして、心を通い合わせるきっかけを、くれたのだから。
夕映えに咲く花のように、美しく重なる二つの影。
今日という日に、僕は感謝する。
君にも、ハッピーバレンタイン!
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こんにちは〜。青井です!!バレンタインネタ書きました。
あわわ、間に合ったvv
軽い感じですみません!!それでは〜vv
青井聖梨 2007・2・14・