胸に響かない愛の言葉に






「私、ずっと皆城君のこと・・好きだったの。」










何の意味があるのだろうかーーーー












そして僕は恋をする。










「一騎、好きだ。」



目の前で真剣な瞳をした総士が
開口一番、俺にそう言って来た。


「なっ・・・・なんだよ・・・。」


俺はあまりにも驚いて、まともな返事が出来ない。


「”なんだよ”ではない!・・好きだと言ったんだ。」


はっきり言い切った総士は、少し勝ち誇ったように
胸の前で腕組をして、俺の反応を窺っていた。


「いや・・だから、なんでそんなこと・・いきなりーー」


俺は突拍子もない事を言って来た総士に唖然としながらも、
顔を次第に赤らめていった。


「言いたくなった。」


「は?」


「急遽お前に言いたくなったんだ。好きだと。
一刻も早く伝えたかった!」


自信満々に言い放った言葉を、
半ば呆れながら俺は聞いていた。


だってそうだろ。今何時だと思ってるんだよ。
夜中の1時だぞ?

そんな時間にわざわざ俺の家まで来て、言いに来るか普通?!
父さんがアルヴィスに泊まりがけで勤務する日で良かったと心底思う。


「・・・・お前、それだけのために来たのか?」


俺が冷めたような口調で、そういうと、総士は



「それだけとはなんだ!!」

と言って、今度は憤慨した。




・・訳がわからない。
何なんだ?今日の総士、どこかおかしいーー。



俺は軽い頭痛がするのを感じた。
辺りは真っ暗闇。俺の家の玄関先で立ちすくむ総士。

とりあえず俺は頭痛のする頭を抱え、総士に声をかける。


「とりあえず・・家に入れよ。お茶でも入れるから・・」


さすがに玄関口で立ち話も失礼だろうと思い、
俺は総士を家に招きいれようとした。

しかし総士の言葉は、意外にもそれを拒むものだった。


「いや・・・まだ仕事が残っているんだ。
悪いがもう自室に戻るよ・・。」


「・・・・・あ、そう。」


俺は少しそっけない返事をしてしまった。
俺は思う。・・・・ほんとに何しに来たんだコイツ、と。


「一騎、最後にもう一度言うぞ?
           お前が好きだ・・・・」



「へ?あぁ・・・・」


また言われて、俺は聞き流すように答えた。
すると総士はまた怒りだす。


「”あぁ”とは何だ、”あぁ”とは!!そんな気のない返事、
僕が認めると思っているのか!!」


熱くほとばしる情熱を僕にぶつけて来い、と言わんばかりの
総士の気迫に俺は少し後ず去った。


「わ、・・わかったよ。」


俺が非難めいた声色で言葉を紡ぐと、総士は
大声で返してきた。


「わかっていない!!−−僕はお前に好きだと言ったんだぞ!!」


「あ〜、もう。あんまり大声出すなよっ!近所迷惑だぞっ・・
大体今何時だと思ってるんだよーー」


恥ずかしい言葉を大声で俺に投げかけてくる総士に、
俺は心底困りながら、頬をこれ以上にないほど赤く染め上げた。


「一騎、好きだ!」


しつこく何度も言う総士。


「わかったってば!」


「わかっていない!!」


「わかったって言ってるだろ!」


「全然お前はわかっていない!!!」


半ば痴話喧嘩になりつつあった。
恥ずかしいけど、何故か俺もだんだんとムキになってくる。
わかったと言ってるのに、わかっていないの一点張りで、
本当に総士はこういうとき強情だと思う。


しばらく玄関先で口論になりながら、
俺はハッと我に返って、総士に言った。


「お前・・こんなことしてる場合じゃないだろ?
大切な仕事残ってるんだし、・・もう帰れよ。」


言い争うのに疲れた俺は、何だか虚しくなってきて
この場を治めようとした。
せっかく先ほどまで眠りについていたのに、
総士の扉を頻繁に叩く音で起こされた。
おまけに玄関先で大声を出して口論。・・虚しくもなるはずだ。


「−−やはりお前はわかっていない。・・・仕事よりこちらの方が
大切だと思ったから・・僕はここまで来たんだぞ。」


そのひとことが、急に俺の胸を締め付けた。
先ほどとは打って変わり、総士は切な気に瞳を揺らし、
目を細めて俺から視線を外した。

「・・・そ、うし・・?」



「・・・・・・」


急に態度を変えた総士に、少しだけ驚いた俺は
静かに優しく聞いてみる。



「なにか・・・あったの、か?」


俺の言葉に、肩を竦めた総士は、
俯いて話し始めた。



「・・・今日、隣のクラスの女子生徒に
       ーーーー好きだと、言われた。」



「えっ・・・・?」







予想もしなかった総士の言葉に、
俺は衝撃を受けていた。



+++





今朝、下駄箱に薄桃色の封筒が入っていた。
名前は書かれておらず、ただ”昼休みに校舎裏で待っています”
と一言 手紙には書かれていた。

大体用件は察しがついた。


昼休み、校舎裏に行ってみる。
すると案の定、女子生徒が立っていた。
背は自分よりも頭ひとつ低く、目は少し釣りあがっている
印象を受ける。鼻筋はとてもすっとした感じで、美人の部類に
入るだろう。学年は同じだろうな。
確か右隣のクラスで何度か見かけたことがある。名前は・・知らないが。

僕が彼女の側に静かに寄って行き、正面に立つと
彼女は顔を赤らめて一言。


「急にこんな所へ呼び出してごめんなさい。」


そう彼女は言った。声は微かに震えていた。
僕は”いや・・いいよ”と一言返す。


すると彼女は意を決したように、僕の瞳をしっかりと見ると
穏やかな・・でも情熱を秘めた声色で言った。



「私、ずっと皆城君のこと・・好きだったの。」



その瞬間 風がザワッと吹き付けた。
彼女の肩より少し長い薄茶色の髪が風になびく。

正直告白をされたのは初めてではない。
けれど、”ずっと好きだった”と言われたのは初めてだった。

今までの僕に告白してきた女子は、”付き合って欲しい”だった。
だから今回初めて”好きだ”という言葉で告白された。
少し新鮮だった。だからといって告白を受けるわけではない。
僕には一騎が居る。
そんな気、少しもなかった。


「ごめん、君の気持ちには応えられない。」



僕ははっきりとそう言った。
すると彼女は意外にも、納得したように頷いて、

「うん・・・わかった。」


と一言いった。


そして彼女はいきなり僕に質問してきた。


「皆城君、好きな人居るでしょ?」


ふられたのに、気さくに話しかけてくる彼女に
驚きながらも短く”あぁ”と答えた。


「だろうなぁ・・響いた顔してないものね。」


「響いた・・?」


「私の好きって言葉、皆城君の胸に響いてなかったでしょ?
そんな感じするもの。・・心に届いてないような顔してた。」


「・・・・すまない。」


「いいのよ、謝らないで!−−皆城君は悪くないもの。」


彼女はそういうと、少し俯いて悲しげな表情をした。
僕は少し居心地が悪くなる。
でもふと、疑問に残ったことがある。


「・・・何故、僕に好きな人が居ると、思ったんだ?」




「ーー好きな人が居ない人はね、大体他人から好きって言葉を聞くと、
驚いたり、少し赤くなったりするものよ。でも貴方はそういう反応はみせなかった。」


そう言って彼女は俯いていた顔をあげる。
彼女の目は、少しだけ潤んでいた。


「それは好きな人が居るから。・・だから他人に好きといわれても反応しない。
だって皆城君にとって、好きな人以外に言われた”好き”は意味を成さない
ものだものーー。だから反応しない、心に届かない・・・響かないのよ。」


そういうと彼女は、くるりと回って僕に背をむけた。


「−−私の気持ち、聞いてくれてありがとう。
皆城君の好きな人に、皆城君の”好き”が届くように、祈ってるね・・」



「・・・・・・・・・・ありがとう。」



僕の感謝の言葉を聞くと、彼女は振り向かずに走っていった。


彼女は”ずっと好きだった”といってくれた。

その”ずっと”という言葉を聞いて、
長い間 僕を見ていてくれたのだという事に気づく。


彼女の後姿がだんだん遠ざかっていくのを見つめながら、
彼女の僕への想いも、記憶も、時間もすべてが遠ざかっていくようで
少し胸がチクリ、と痛んだ。切なくなった。


そのとき・・思った。

僕の言葉は・・・一騎にちゃんと届いているだろうか、と。
不安に・・・なった。


好きだという一言に、
どれだけの想いと勇気と愛しさが含まれているのか
一騎は知っているのだろうか?


僕の愛の言葉は、一騎の心に響いているだろうか・・?



一騎はいつも僕の言葉をはぐらかすけれど。



・・どうか届いていて欲しい。どうか響いていて欲しい。
一騎の胸に。どうか、どうか・・・。





胸に響かない愛の言葉に、何の意味があるのだろうかーーー。


ふとそんな疑問が頭を過ぎる。
けれど答えはすぐに出る。




それはきっと




胸に響く愛の言葉に、気づくためなんだ。






+++





その日の夜、仕事をしていた。
明日の朝、一騎に自分の想いを再び改めて伝えようと
そう、思っていた。確認したかった。
自分の言葉がきちんと届いているか、響いているか、
わかっているのかーー。

でも、どんなに仕事に集中しようとしても、
一騎の顔が頭から離れない。
時間がまるで動いていないかのように、過ぎるのが遅く感じて・・。
明日の朝が待ち遠しい。もどかしい。


何故学校内で一騎に聞かなかったのかと
後悔ばかりが胸を突く。

しばらく仕事をする手を止めて、ベッドへと
乱暴に身体を預けてみる。少し落ち着くために。

でも、一騎に無性に伝えたい衝動が収まらない。
湧き上がる熱情が行き場を失う。

机の上の時計に視線を向けると、
時計の針は深夜12:35を指していて。

こんな夜更けに会いに行ったら、迷惑だと
わかっていたし、電話するのも・・・気が引けた。


けれど・・どうしてもーー。
確かめたくて。
想いは溢れて止まらない。


気がつけば、アルヴィスの自室を、飛び出していた。









そして今に至る。
僕は全てを話した。
自分の考えていた事も、思いも、全て。


一騎は黙って僕の話を聞いていた。
僕を見上げる大きな瞳。
闇の中、薄っすらと赤く浮かび上がる上気した一騎の頬。
一心に僕を見上げる一騎の華奢な身体。
しなやかに風になびく黒髪。
花のような薄い赤みを帯びた形のいい唇。
・・一騎のすべてが愛しい。


僕はもう一度伝えた。
ありったけの想いをこめて、一騎へと
届くように 響くように。




「・・一騎、お前が好きだ。」









一騎、僕の言葉は お前に届いているのだろうか?

少しは君の心に 響いているのだろうか?





静寂の中、僕をまっすぐ見つめる一騎。
僕の言葉を改めて聞いて、彼は何を思うだろう。



すると不意に優しく、一騎が笑った。



「・・ありがとう総士。」



そういうと一騎は、僕の胸にそっと
寄りそってきた。



ふわりとした一騎の優しい髪が、僕の顔をかすめる。
僕は寄り添う一騎を両手で包み、強く抱きしめる。


「ごめん総士・・俺、お前の言う通り 
ちゃんとわかってなかった。」


少し落ち込んだ声色で呟く一騎に、
僕はくすっ、と笑う。


「だから言っただろ・・?」


意地悪くそう言う僕に、一騎は
背中に手を回してきた。
そして、僕の胸の中でもう一度”ごめん”と呟いた。


僕は抱きしめる一騎の顎をを左手で掴み、
上向かせ、僕と視線を合わせるように仕向けた。

一騎は瞳を揺らし、頬を赤らめ、僕を一心に
見つめてくる。


僕は静かに口を開いて、こう言った。


「一騎・・言ってくれ。お前の声で、聴かせてくれ。」


「えっ・・・?」



「お前が僕をどう思っているのか、聴きたいーー」



そういうと 一騎は恥ずかしそうに、僕から視線を外した。
やはりダメか・・と内心諦めかけたその時。


「一度しか・・言わないからな。」


そう口にして、再び視線を僕に合わせてくる。




そして静寂の中、ひとこと一騎が呟いた。




「総士が・・・好きだよ。」






”好き”



という言葉が、胸の中に大きな波紋を作る。
その波紋は、体中に広がって
乾いた心が 満たされていく・・






「・・そう、し?」




身震いするような充実感を味わう中、
一騎に呼ばれて ハッとする。



「・・・俺の言葉、総士にちゃんと 届いた?
胸に響いたーー?」


一騎は少し不安そうな面持ちで僕を見つめてくる。
僕は優しく微笑みかけると、一騎の額に口づけた。



「ーー届いたよ。ちゃんと、響いたよ・・」



僕の短い答えに、一騎は嬉しそうに笑うと


”俺もだよ”といって僕の胸に顔を埋めた。





そう、



届いていたよ いつだって。





いつも胸に響いてた。







君の言葉が








痛いくらい、苦しいくらい
君だけの、言葉が。






君が言った、”好き”という言葉を聴くだけで

僕は何度も恋をする。



いつだって・・君に。
ほら、今だって。













”総士が・・・好きだよ。”














そして僕は恋をする。











  NOVELに戻る 



こんにちは〜、青井です。ここまで読んでくださって
ありがとうございました!!

さて今回の話は、少しギャグの入った、甘い話を目指しました。
いかがでしょう?少し純愛ぶってます(笑)というか喧嘩してる・・?

総士はもてると思います。もちろん一騎も。
でも二人ともお互いしか見えていないバカップルです(←え!?)
というかそうであって欲しい。
この二人はもう想いの通じ合った恋人同士の関係ですので
ご了承下さいVでは!!

青井聖梨 2005.4.22.