救いならば、とっくに受けていたさ

君のおかげで、今 僕はここにいる









君の側で、今



僕は生きているんだ









すれ違う永遠

〜Act、4〜












息も出来ないほど総士が好きで、
息も出来ないほど総士を見つめていたくて。


息も出来ないほど総士を想い続けた。


途方も無く暗い未来でも、
途方も無く強い総士と一緒なら未来は明るくて。


途方も無い絶望でも総士と一緒なら、超えて行けると思った。


総士となら、何でも出来る気がしてた。
総士のためなら、何でも出来る気がしてた。


例えばそれが、自分という存在を消す行為だったとしても。
総士が少しでも喜んでくれるなら、俺にとってそれは苦なんかじゃなくて。




総士の胸の片隅に、思い出として少しでも残れるのなら
俺はそれで充分だった。






充分だよ・・総士。






















「っ・・・きーーー、かずきっ・・!」



遠くで誰かが俺を呼んでいる。





「一騎っ・・・・!!目を開けてくれっ・・・」




まるで”俺が必要だ”と言うかのように。




「ーーーーーお願いだ、目をっ・・・開けてくれ・・」



声が震えている。
泣いているのだろうか?





「僕を置いていくなっ・・・・・、側に居てくれーーー」




あっ。
・・・あたたかい。

抱きしめてくれているのだろうか?





「お前を失ったら僕はっ―――・・生きていけない!!」






俺を呼ぶのは誰?





「生きていけないっっーーーーー!!!!」






誰なんだ・・・?








「一騎ーーーーーー!!!」






















『一騎・・・目を開けてあげて?』






君は、誰?





『総士を独りにしないであげて・・?』





君は・・・もしかして、・・・・・・・・・・・・皆城乙姫?





『そうだよ、一騎。・・・総士が呼んでるよ。
早く目を開けてあげて?とても悲しんでいるの、お願い。』



総士が・・・、俺を?




『そう、呼んでるの。さっきから ずっと・・』





どうして――――?






『それはね・・・一騎が必要だからだよ。』




ひつ、よう・・・?






『それじゃ伝わらない・・?じゃあ、こう言ったら分かるかな――』















『総士はね、一騎が大好きなんだよ?』


















す・・・き・・・・?



総士が・・・・おれ、を・・・・?

















混濁する意識の中、何度も何度も
繰り返し俺の名を呼ぶ声が聴こえる。


温かな温もりが俺の全身を包む。
広い胸板に軋むほど強く抱き締められたのが、わかる。

どこか懐かしい匂いが鼻を掠める。
知ってる、・・この独特の甘い匂い。

知ってる、・・この温もりも、胸板も、抱きしめてくる腕の強さも。
知ってるんだ。





これは、そう。
”あいつ”だーーーーー。






















「そ、う・・・・・し・・・・・・」
















「・・・・一、騎・・・・?」













気がつくと俺は、その名を声に出して呼んでいた。
自然と瞳が開く。すると目の前には、見慣れた顔がすぐ飛び込んできた。

長いカーキ色の髪に、きっちりと着こなされた制服。
銀色の細められた双眸。その瞳は心なしか濡れていて。
俺は彼に抱きかかえられていた事に気づく。

目の前に居る彼は、俺が瞳を開けて名を呼んだことに驚きつつも、
一瞬辛辣な表情をしたかと思うと、俺を無造作に掻き抱いた。

彼の身体が微かに震えているのが、俺の無気力な身体へと伝わってくる。
そのとき初めて知ったんだ。


俺は、彼の前から消えなくていいんだって・・・








ここに居て、いいんだって―――・・・。







+++















「そうか・・・、フラッシュバックを起こしている所を見ていたのか・・・・。」



「う、ん・・・・ごめん。」


病室で二人、今まで話せなかった事を話し合うことにした。
総士が、”話したいことを話そう。僕も正直に何でも話すから”と言ったのが
きっかけだった。
俺は素直に従った。

これ以上のすれ違いはもう、したくはなかったから。
ちゃんと分かりたいから・・総士のこと。



話せずにいたことを先に話したのは俺の方だった。
あの日の話を総士にしてみる。

すると総士は深刻な表情で近くにあった椅子へと腰を下ろすと、
ベッドで半身起き上がっている俺へと視線を送った。
途端に柔らかな表情へと変わった。



「・・・・隠していた訳ではないんだ。ただ、パイロットを動揺させたくなかった。
それだけだ。・・だが、僕のせいでお前を追い詰めてしまった。これは事実だ。
                                 ・・・・・すまなかった、一騎。」



総士はそう言って、深々と頭を下げて、俺に謝罪した。
俺はぎょっ、として声をあげる。


「総士!!や、やめてくれーーー!俺が勝手にした事なんだ・・
                            総士は悪くないよ・・・」


辛辣な表情で俺を見上げてくる総士。
目の前の銀色の双眸が悲しい色を宿す。
俺はそんな総士に耐えかねて、無意識に俯いてしまった。
咄嗟に、話を逸らす。



「そ、総士・・・っ、何か言いかけてたコトあっただろ?
あれはなんだったんだーーー?」


俯きながら、焦るように俺は小さい声で問いかけた。
すると、総士の身にまとっていた雰囲気が一瞬にして変わる。
顔を見ていなくてもわかる。肌がそう、感じ取ったのだ。

俺は思わず何事かと顔をあげた。
すると、其処には 酷く真剣な表情をした、真っ直ぐな澄んだ瞳の総士が佇んでいた。
俺は一瞬、ドキン、と鼓動を高鳴らせる。
こんな総士、初めて見たから・・。



「一騎・・・僕はお前に・・」



そう言いながら、不意に総士の指先が俺の唇をなぞる。
俺の頬はきっと朱色に染まっているだろう。

目の前の澄んだ瞳に、何もかも委ねてしまいそうになる。
それほど、総士の瞳はどこまでも綺麗な色をしていた。


「お前に・・・・、−−−−−−−本当はこれ以上戦って欲しくないんだ。」






やっと云えた、かのように嬉しそうな そして、もう少し早く云えればというような
どこか悲しそうな表情で総士は俺を見つめてきた。

総士の言葉に、俺の中で瞬間、電流のようなモノが走った。
驚きもあるが、嬉しさもある。

だって ずっと言って欲しかった。
心のどこかで。


”もう、戦わなくていいよ”


ずっと待っていた、言葉。
胸の中で一気に湧き上がる想い。
これが何なのかは分からなかった。
でも、確かに その想いは形となって今

俺の頬を濡らす。

総士は頬を伝った俺の涙を指先で掬い上げ、
俺に優しく微笑みかけると、

そっと自然と顔を寄せて、言葉も無く


優しいキスを 俺の唇に落とした。









好きだという、言葉の代わりに。









+++














「一騎、身体の方はもういいのか?」


久しぶりに訓練へ出てきた君。
僕は内心少し焦りながら、キミへと問いかける。
本当に身体は万全なのだろうか?
倒れたりはしないだろうか?

考えれば考えるほど、心配になる。

一騎は軽く微笑んで俺に言った。

「もう大丈夫だよ、俺は戦える。」



僕が戦って欲しくないといったあの日から
一騎はみるみるうちに元気になっていった。

そして、また、戦いたいといってきた。
僕には一騎が少し理解できなかった。



あのとき、一騎が涙を流したとき。

僕は瞬時に感じ取った。
一騎は僕の言った言葉をずっと待っていたんだと。


本当は、戦いたくないのだと。
僕のために全て、しようとしていたことを。





今までのキミは僕の身体を考えて、必至で僕を救おうとしてくれていた。

でも、救いならば、とっくに受けていたさ。

君のおかげで、今 僕はここにいる。


こうして



君の側で、今



僕は生きているんだ。




僕にはもう、それだけで充分なんだ。





キミはもう、それ以上のことはしなくていい。
これからは僕が何があっても守ってみせる。


今度こそ。



そう思った。
なのにキミは・・・




何故また戦おうとするのだろうーーー?




僕らは繋がったはずなのに。
やっと、ひとつに。







「一騎・・・何故だ?」




僕は自然と口から想いを零していた。
一騎が僕の言葉に反応をみせる。




「何故、また戦おうとする・・・?」




瞳を微かに細めて、君に問う。
僕では頼りないだろうか?
僕では、キミの悲しみも、不安も、取り除く事はできないのか。


黙ってキミの言葉を待つ。


キミは一瞬、何か迷ったような素振りをしながらも、
次の瞬間には とても真っ直ぐな瞳で僕を見つめてきた。



「・・・総士が、戦うから。」




「えっ・・・・・?」




「今度はお前のためにじゃないよ。
俺のために、今度は戦う。だから、総士は気にしなくていいんだ。」



「だが・・・・・」




「俺は総士が戦う限り、一緒に戦いたい。心から、そう思ったんだ。
だから総士。・・お前も、自分のために戦ってくれーーー」



急に一騎が淋しそうな顔色で僕を見上げた。
少し胸が痛み出す。



「・・・・・俺のこと、もう背負わなくていいからーーー。」




そういった一騎の表情が、瞳の中に焼きついた。
とても慈愛に満ちていて、そして、透明な瞳の色を宿していた。
僕は刹那、答えを詰まらせたが、心を落ち着けて 何かを吹っ切ったように答える。
自然と口が動いていた。





「ならば、僕も自分のために戦おう。・・・だが、僕はお前のことを背負って戦う。
それが僕の意志であり、僕の信念だ。」



「総士・・・・」




「これは僕が選んだ事だ。ーーーお前は気にしなくていい。」




一騎と同様、自分が選択した道だと肯定して、僕は一騎に
言い放った。・・・もう、迷いはなかった。
何故だろう。心が清々しい想いで満ち足りている気がする。




「・・・・・・・・・わかったよ。総士が決めたんなら・・俺はなにも言わない。」



一騎は僕の本気を本能で察知したのか
諦めたようにひとつため息をつく。
そして、困ったように笑うと、眩しそうな瞳で僕を優しく包んでくれた。




「−−−行こう、一騎!訓練が始まる。」




僕は一騎にそう呼びかけて、一騎の手にそっと触れた。
一騎は一瞬驚きながらも、顔をほんのり夕焼け色に染めると
薄っすらと微笑んでくれた。



僕らはどちらともなく、手を繋いだ。




同時に心の中も、繋がったような気がして
僕は思わず微笑を零した。







僕らは、誰かを愛すれば 愛するほど
相手に繋がりを求める。



その人が大切ならば 大切なほど
自分という存在を投げ出す。



君が僕を大切に想う。
僕が君を大切に想う。


その想いがある限り、僕らの願いは叶えられない。



君を大切に思えば想うほど、僕は自分を投げ出してしまうのだから。
君が大切に想ってくれている、僕という存在を。




これはきっと、永遠に起こる すれ違いだ。






永遠に 僕らはすれ違う。








       でも。






















このすれ違う永遠の中に






















確かに愛は、存在するのだ。






















君という存在に






















姿を変えて。































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こんにちは!青井聖梨です。
すれ違う永遠、完結です。ふぅ・・やっとですよ(汗)
何だかグダグダな話になってしまって申し訳ありません・・。反省しております。

お互いを大切に想う限り、きっとふたりの本当の願いはすれ違う・・
そんな話を目指していた気がします。

今となっては微妙ですが(爆)
とりあえず、連載はしばらく、しないかな。苦労が身に沁みてわかったので。はは。
それではこの辺で失礼致します!!

青井聖梨2005.9.21.