”本当はこれ以上、戦って欲しくないんだ”
言えばよかった・・ 君に
すれ違う永遠
〜Act、3〜
≪一騎!!手を放せっ――!じゃないと、前後で挟まれるぞ!!?≫
「わかってるっ・・!!でも、俺が今コイツを放したら、
下にいる女の子がっ―――!!」
≪馬鹿!!そんなことを言っている場合ではないだろう?!
このままじゃ、同化されるぞ!!≫
「だからって・・この子を見殺しにしろっていうのか?!」
≪そうではない!!僕が今、CDCに通信しておいた。時期に救援が来る!
彼女は心配いらない!だからお前は自分の心配をしろ!!≫
「時期っていつだよ!?今俺がコイツを放したら、下にいる女の子が下敷き
になる!彼女、足を挫いて動けないんだぞっ!!?」
ジークフリード・システムで繋がっている総士と一騎は今、
最悪の危機に直面していた。
島の上空にいる二体のフェストゥム殲滅に空へと上がったマーク・ザイン。
パイロット・真壁一騎は、一人で戦える所を父親でもあり司令でもある史彦に
見せようと嘗て無いほどに意気込んで戦闘を開始していた。二体いるうちの一体は
至近距離でゲーグナーを撃ち込んだおかげでほぼ、弱りきっている。
あとは急所にロングソードを差し込めば、消滅するという所まできていた。
が、戦闘開始から15分。思わぬ事態が一騎を襲った。
島の上空で一騎が足止めだけしていたフェストゥムの一体が隙をみて第一、
第二ベルシールドを破って竜宮島内に侵入してしまったのだ。
一騎は、”くそっ!!”と大声をあげると、もう一体の弱りきったフェストゥムに止めを
させと指示を出す総士の言葉も振り切り、島に侵入したフェストゥムをものすごい勢いで
追いかけた。フェストゥムは島に上陸しようとしたが、瞬間、一騎がフェストゥムの長い
金色の背中をマークザインの手でしっかりと後ろから距離をとって掴んだ。
フェストゥムが上陸しようとした道には、女の子が足を挫いて蹲っているようだ。
もしこの手を放したら、フェストゥムはまた上陸しようとするはず。そうなれば、
きっと今動けない女の子がフェストゥムの身体の下敷きにされてしまう。
一騎は懸命にフェストゥムを島の地面から遠ざけようと金色の背中を後ろから
ものすごい力でひっぱった。そして、その身体を上昇させる。
しかし総士は、今フェストゥムを掴んでいる手を放せと何度も捲くし立ててくる。
それもそのはず。一騎の背後からは、先程止めを刺さずに来てしまった、
弱ったフェストゥムが急接近しているのだ。
弱ってはいるものの、もし一騎の背後にぴったりと付かれでもしたら
一番懼れていた両面から挟まれる形になってしまい、同化されてしまう。
総士は最悪の事態を免れるために、一騎へと再三 手を放すように要求した。
手さえ放せば、近づいてきている弱ったフェストゥムを瞬時にロングソードで撃破して
前後から挟まれるという局面を回避できるからであった。
≪手を放せ!!一騎っ――!!敵が背後から迫ってるぞっ・・200mをきった!!≫
「駄目だ!それは出来ない!俺は島の皆を守ってみせる――!!」
≪っ・・―――!!≫
一切命令を聞かない一騎に、総士は軽い憎悪と、大きな焦燥を感じていた。
だが、そんな心情を優先している場合ではない。今は戦闘指揮官としての使命を
まっとうするしかないのだ。
冷静になれ。何か策を考えるんだ。
一騎が両面から挟まれずに同化阻止できる方法を。
今、一騎の危機を救えるのは、僕しかいない。
僕だけなんだ―――っ!!
総士は自分を叱咤しながら、冷静な判断をするため、精神統一を行なった。
自分の中で戦略を巡らせる。
そして今の状況を細かに把握し、分析する。
≪一騎!!ソイツを持ち上げる事は出来るか?!≫
急に叫んだ総士に、一騎は驚きながら勢いよく答えた。
「あぁ、何とか!!持ち上げるだけなら――」
≪ならば一騎、僕が合図を出したらそいつを持ち上げろ!
そして僕の指示に従え!!いいな!!」
「総士っ?!」
≪いいから従え!!お前も彼女も救ってみせる!!≫
総士の何処までも透き通った声がコックピットに響き渡る。
一騎はその言葉を聞くと同時に、安堵感と心強さが芽生えた。
「―――わかった!!」
気づけば、総士の要求に応えていた。
しばらくして、総士の声が再び響き渡る。
≪――よし!・・・・・・・・敵が50m圏内に入った。
一騎っ・・ソイツを持ち上げろ!!≫
「あぁ!!――っく・・・・!!うぅ、――!!」
≪よし!!今だ!旋回しろ一騎っ―――!!≫
「うぉぉぉぉぉっーーーーーーーー!!!」
総士の合図と共に、一騎は手に掴んでいたフェストゥムを
一気に持ち上げると、ものすごい勢いで機体共々旋回した。
≪今だっ・・・!手を放せ―――――!!≫
悲鳴に似た声色で、総士が鼓膜が震えるほど大きく叫んだ。
一騎は総士の先程の言葉を信じ、ずっと頑なに放さずにいた手を思い切り放す。
すると、自分が持ち上げて放したフェストゥムが、旋回した勢いで
宙に放り投げられている。
そして、丁度そのとき自分の背後に接近していた弱ったフェストゥムが
空から現れ、放り出されたフェストゥムと重なるようにぶつかった。
≪一騎!!ロングソードで奴等の急所を――!!≫
総士の命令にハッとした一騎は、瞬時に所持していたロングソードで
フェストゥム目掛けて長い刃を突き刺した。
「これで終わりだぁぁぁぁっっーーーー!!!」
一騎の声が空中に溶けるよりも早く、
重なり合ったフェストゥム達は急所を狙った一騎の刃に
勢いよく貫かれて、串刺しとなった。
黒光りした、全てを無にする円形の闇がマーク・ザインの目の前で
二つ生じては消えた。
一騎は緊張から解放されて、思わず息を漏らした。
じとりと嫌な汗が背中に一筋流れた。
思わぬ事態に遭遇した今回の戦闘。
こんな事がこれから先、何回もあったら正直身が持たない。
ふと、そんな風に考えてしまう自分がいた。
一人で戦う。
言うほど簡単なことではないと、改めて感じる。
一人にも限界があるということも、改めて教えられる。
そう思うと、
――自分の無力さを思い知った一騎であった。
+++
格納庫からCDCへと戻ってきた一騎。
史彦に、”お前一人にこの島を守らせることはできない”と
はっきり言われた。
当然の答えだと、一騎は思う。
先程の戦闘で分る事といえば、自分の力不足くらいだ。
あの戦闘をみて、島を任せる気になる人なんて、恐らくいないだろう。
居るとするのならば、その人は島のことに興味がないか 島の現状を把握できていない人
のどちらかであろう。
「・・・・俺、今日はもう、帰るよ。」
正面の巨大スクリーンに映し出される戦闘。
総士はまだ他のパイロットと一緒に、島から2000m離れた南方に出現した
フェストゥムと交戦中だった。
戦闘が終わったら話すといっていた総士の言葉。
聞きそびれてしまった。
総士が戦闘を終えるのを待っていたい一騎だったが、
今は心身ともに疲れきっていたため、家に帰ることにした。
「父さん・・総士が戻ってきたら、俺は先に帰ったって伝えて欲しいんだけど・・」
「あぁ・・・わかった。」
「―――ありがとう、父さん。」
「・・・・・・・。」
一騎はひとこと史彦にお礼を言うと、CDCを後にした。
疲れきった一騎背中を見送りながら、史彦は静かに肩を落とすのだった。
家に着くと一騎は、倒れこむように布団へと覆いかぶさる。
意識も虚ろで、世界との通信を拒むかのごとく、急速に睡魔に襲われた。
薄れ行く意識の中で、一騎は自分が総士を救えなかった事を想う。
すると自然と、涙が頬を伝った。
一人で戦えるところを父さんに見せつけるはずが、
一人では戦えないという事実を父さんに見せつけてしまった。
総士はあのままじゃ、薬とフラッシュバックのせいで身体も心もボロボロになる。
総士を助けようとしたのに、俺じゃ総士を救えない。
足手まといもいいところだ。
なんで俺はこんなに弱いんだろう。
なんで俺じゃ総士を救えないんだろう。
大切なのに。
誰よりも。
そんなことを想いながら、いつの間にか意識を手離した。
でも見る夢はいつも決まっている。
フラッシュバックに苦しむ総士。
そして近くに居ながら、足が竦んで何も出来なかった
惨めな俺。
毎日のように見る悪夢。
きっと神様が、役立たずな俺に罰を与えているんだ。
こんな・・・生きる価値もない俺を必要としてくれた総士を
救うことも出来ない俺にきっと、腹を立てたんだ。
・・・・あぁ、もう 消えてなくなりたい。
俺が居ても・・・総士の役に立てないのなら、せめて
俺が消える事で、一人分のジークフリード・システムの負担を
失くせたらいいのに。
そしたら こんな俺でも少しは
ーーーーーーー総士の役に立てるのに。
総士、・・総士
いつだって お前の役に立ちたいと思ってる。
お前のために 俺にでも出来る事、いつでも探してる。
だから総士、教えてくれないか?
俺にでも、お前のために出来る事・・・役に立てることを。
総士がこの身を犠牲にしてくれと言ったなら、
俺は喜んでこの身を差し出すよ。
総士が俺に居なくなってくれって言ったなら、
俺は喜んでここから消えるから。
だから―――総士。
少しでもいいんだ。
俺に思わせてくれないか?
お前のために、俺が居るんだって――――。
+++
「身体が衰弱しきってるわ!!意識レベルが急速に低下!!
いけないーーーーっ、一騎くん頑張って!!このままでは・・・っ」
「体温低下!!母さん―――、もう限界よ!!」
「いやぁぁぁっ・・・!!一騎くん!!一騎くん!!」
メディカルルームで横たわる一騎に、何度も何度も
泣きながら、悲鳴に近い声をあげる真矢は、一騎の側を離れようとはしなかった。
「真矢!!ここに居られては治療が出来ないわ!
貴女は休憩室で休んでなさい!」
「でもっ・・・っ!!!」
「大丈夫!!何とかしてみせるわ!!
絶対に母さんが一騎くんを助けて見せるから――!!」
力強く言う千鶴の台詞に、真矢は涙をいく筋も流しながら、
弱弱しく頷くと、黙って部屋を出て行った。
無事を願う事、泣き叫ぶ事しか出来ない自分。
せめて治療の邪魔にだけはなりたくなくて。
真矢はそんな後ろ髪を引かれる想いを抱えつつ、
メディカルルームを後にしたのだった。
「一騎くん・・?居ないの?」
今日の戦闘で真矢が借り出される事はなかった。
今は剣司と衛が2000m先にいる敵と交戦中だ。
真矢は思わず出来た自分の自由な時間を有効的に使おうと、
一騎を探していた。この間、大切な話を途中でやめてしまった。
感情的になりすぎてしまった自分を今更ながら反省する。
でも、説得しなくてはならないと思った。
一騎ひとりに戦わせたくない。一騎ひとりを傷つけたくない。
真矢は強い決心を秘めながら、途中になった話をつづけようと思った。
そして一騎を探していた途中で、CDCに居る史彦から家に帰ったという
情報を得た真矢は、早速一騎の家まで来たのだった。
扉を何度叩いても返事が返ってこないので、不審に思った真矢は、
空いていた扉に手を掛け、中に入った。
悪いと思いながらも、室内を見渡して中に上がった。
しかし一騎の姿はない。
今度は二階に上がってみる。
一騎の部屋が目に入った。
図々しいだろうか・・と思いながらもそっと、ドアを開けてみる。
ただ一騎の無事な姿を確認したかっただけだった。
眠っているのなら、寝顔を確認して帰るつもりだった。
話なら明日でも出来る。急いでは、いなかった。
けれどドアを開けた真矢の瞳に映ったのは、一騎の安らかな寝顔
などではなかった。
ぴくり、とも動かない青ざめた一騎の姿。
ただそれだけだった。
呼吸は ほぼ、停止に近い状態だった。
まもなく真矢の悲鳴が部屋中に響き渡ったのは
言うまでもないだろう。
≪無事敵を大破。――よし、島にこれより帰還する。≫
総士の号令と同時に、剣司は ほっと息をなでおろした。
「はぁぁ〜っ。怖かった〜。」
情けない声がコックピットに響き渡る。
かと思うと、勇ましい声が今度はマークフュンフに搭乗する
コックピットから響き渡った。
「情けないぞ剣司、これしきの事で!――ゴーバイン!!」
≪・・・・島には自分達で帰れるな?僕は忙しい。もう意識をブランクさせてもらう。
今回の戦闘、二人ともよくやってくれた。じゃあ――≫
ため息混じりにそういうと総士は、二人の意識から消えた。
ジークフリード・システムを降りたのだ。
「ぅう〜っ・・総士、居なくなっちゃった。どーやって帰ればいいのか
わかんねぇ〜よぉ〜!!」
「ついて来い剣司!ゴーバイン!!」
二つの機体が戦闘を終え、やっと島に帰還し始めようとしていた。
一騎が戦闘を終えて、すでに一時間後のことであった。
キールブロックから降りてきた総士。
疲れた身体もそのままに、早速一騎が居るであろうCDCへと向かった。
一騎に、先程 言いかけた言葉を 今度こそ伝えようと思っていた。
CDCのドアが開く。
決心を固め、息を呑むと 総士は緊張した面持ちで
中に居る一騎の姿を探した。
しかし、何処を見渡しても一騎が居ない。
・・・・疲れて、先に帰ったのか?
直感でそう思った。
すると、後ろから声をかけられる。
「総士くん、ご苦労だった。」
振り向くと、史彦が立っていた。
「いえ・・。それより司令、一騎は・・・?」
「あぁーー、一騎から君に言伝を頼まれていたんだ。
先に家へ帰ると一騎が――――」
そう史彦が言い掛けた瞬間、ものすごい勢いでCDCのドアから
駆け込んできた人物が、史彦の声を遮って大声で叫んだ。
「真壁っ、緊急事態だ!!!」
いいながら、史彦を視界の端で捕らえるや否や
凄い勢いで近づいてきた。 溝口だった。
「どうした溝口・・何があった?」
ものすごい剣幕で近づいてきた溝口に
総士と史彦は圧倒されて目を丸くしていた。
すると、溝口は深呼吸をして 気を一時 落ち着けて話し始めた。
その声色は大人としての冷静を取り戻していた。
「落ち着いて聞けよ?・・今、休憩室で譲ちゃんに会ったんだ。
泣き崩れて床にしゃがんでるから何事かと思って、何があったのか聞いたんだよ。」
「・・・遠見に何かあったんですか?」
訝しげな表情をして、総士は訊ねた。
「いや・・・正確に言えば、譲ちゃんに何かあった訳じゃない。」
険しい顔をして溝口が総士の顔をちらりと見た。
総士は溝口の様子から、深刻な何かを感じ取った。
総士の背中に冷や汗が一筋流れ落ちる。
「・・・・いいか、二人とも落ち着いて聞くんだぞ。」
先程まで大声で叫んでいた溝口だったが
今は自分が落ち着かなければならないと思っていた。
この知らせを聞いたら、目の前の二人はきっと
自分よりも動揺するに違いない。
だから自分が一番しっかりしなければならない。
そう、溝口は思っていたのだった。
「もったいつけるな。・・一体何があった?」
焦がれた史彦が先を促す。
溝口は史彦の言葉を聞いて、意を決したように答えた。
静かな室内に 溝口の言葉が響き渡る。
「・・・・・・・・一騎は今、仮死状態だ。」
『一騎・・僕はお前に――・・』
『え・・・なに・・?』
『・・・・・・・・・いや。この戦闘が終わったら話す。
今は戦闘の事だけを考えろ。』
『――う、ん・・・わかった。』
ダッ―‐‐‐!!
「総士っっーーーーーー?!!」
溝口の叫び声が響き渡る。
ものすごい勢いで走ってCDCを出て行く総士。
そんな総士とは裏腹に、史彦は 言葉もなく、ただ
その場に佇んで 動けずにいた。
「・・・・・・史彦。」
まるで石にでもなったように
少しも動かない史彦。溝口は辛辣な瞳で史彦を見つめていた。
やがて史彦は、力なく 崩れ落ちるかのように 床へと手をついたのだった。
風よりも早く、まるで光のように
アルヴィスの廊下を駆け抜ける総士は
すでに正気を失っているかのようだった。
もう、何も考えたくない。
その姿を目にするまでは、誰の言葉も
今の総士には信じられなかった。
メディカルルームの前で、その足を静かに止める。
重要な治療器具はここにしか置いていない。
居るとしたらここだけだ。
総士は心の中で、何度も何度も嘘であって欲しいと
願い続ける。
心臓が、早鐘を打ち続け、今にも爆発しそうだった。
ドアの前にそっと立ち、開くのを待つ。
まるで死の先刻を受けるかのようだった。
―――シュンッ・・
軽い音を立てて、ドアが開く。
そこには・・・・・
沢山のコードに繋がり、酸素ボンベを口に当てて
青白い顔で瞳を閉じている一騎が、ベッドに横たわっていた。
「みな、しろくん・・・・」
千鶴が潤んだ瞳でドア付近に佇む総士へと振り向き、
その名前を呼んだ。
横では弓子が母に寄り添って、涙を流している。
電子機器の耳障りな音が、総士の耳に入ってくる。
総士は、まるで壊れた玩具のように ぎこちなく、部屋に足を踏み入れた。
一騎の側まで寄ると、躊躇いがちに手を差し伸べて
その白い頬に触れる。
目の前の光景が信じられないかのように。
「―――――冷たい・・・」
いつからお前は、こんなに冷たくなったんだ・・・?
一騎
”本当はこれ以上、戦って欲しくないんだ”
言えばよかった・・
あの時
君に・・・・
NOVELに戻る
こんにちは〜、青井です。
久しぶりに、連載の続きを書きました。
当初はこんな展開予測してなかったのですが、一騎が勝手に動いたと思ったら、
こんなことになってしまいました・・(汗)おっかしーな〜・・。
次回は最終回です。
少し間が空くか分りませんが、どうぞ読んでやってください。
それでは、ここまで読んでくださってありがとうございました!!
青井聖梨 2005.9.6.