きっと僕は
自分が思っているよりも
君の事が
好きなのかもしれない
もしも願いが叶うなら
〜前編〜
人は、いつか死に逝くもの。
それは何があっても変わらない。
生と死の循環は誰にでも平等に訪れる。
そう、どんなに大切にしている人でも、
どんなに愛している人でも。
一騎・・・
たとえ僕に終わりがきても
サヨナラなんて、僕には必要ないんだ。
だってそうだろう?
僕らはきっと 何度でも巡り逢える。
どんな場所に居ても
その人が、お前なら
僕は人ごみをかき分けてでも、
逢いに行くよーーーーー。
きっと・・・
「皆城君。・・わかっていると思うけど、
これ以上の薬の服用は身体に影響を及ぼすわ。
はっきり言って・・・・とても危険よ。」
まるで、死を宣告しているような顔つきで
遠見先生は僕を見つめていた。
僕はそんな先生を見て、いよいよ自分の身体が
限界に来ていることを知る。
それでも僕は、平静を装って先生に言った。
「構いません。・・・いつもの量で薬を・・お願いします。」
「皆城君!!」
先生の声が医務室に響き渡った。
僕は先生の制止する声を払いのけるように、
椅子から立ち上がると 医務室の扉へと向かった。
先生が強張った顔で、その場を離れようとする僕を
見上げてくる。
「お願い皆城君!薬の服用はもう止めましょう?!
他にフラッシュバックを抑える方法を考えるわ!だからっ・・」
「・・・考えている間にも、フェストゥムは島にやってきます。
ジークフリードシステムが使えないということは、
ファフナーに乗るパイロット達に情報を伝えることが出来ないと
いうこと・・・」
僕は一呼吸おいて、更に言葉を紡ぐ。
「それがどんなに危険で、無謀なことか 遠見先生なら
お解かりのはずですーー。」
「ーーーーーそれはっ・・。でも!!このままでは
皆城君、貴方の身体はーーー」
「ご心配おかけしてすみません・・。
でも僕は大丈夫ですから、いつもの量で・・お願いします。」
「皆城君・・・」
「これから、システムのチェックがあるので
・・薬はチェックが終わり次第、取りに来ます。−−失礼しました。」
そういって僕は扉を開け、 遠見先生に一礼してから
医務室を出て行った。
遠見先生は 何も言わずに、ただ肩を落として僕を見送った。
+++
「遠見先生・・なんだって?」
医務室を出ると、そこには
壁に寄りかかった、一騎が待っていた。
「あぁ・・たいした事じゃない。
ただ、睡眠が足りていないせいで 身体に
疲れが溜まり易くなっていると・・言われた。」
「そっか・・。お前、夜遅くまで仕事してるもんなーー。
俺、なにか手伝おうか・・・?」
「いや、大丈夫だ。データの解析も資料の整理も殆ど
済ませた。・・これからは ちゃんとした睡眠時間が・・とれそうだ。」
不安そうに僕を見上げてくる一騎に、
僕はそう言って 薄く微笑んでみせた。
一騎は”そうか、よかった”と ほっとした顔をみせた。
僕は一騎に、真実を言わなかった。
いや・・・
ーーーー言えなかった。
僕の身体は僕が一番わかっている。
僕の時間は長くない・・。
刻一刻と薬の副作用に身体が蝕まれているのが、
痛いほど・・わかる。
最近フラッシュバックの回数がニ回から三回に増えてきた。
それを抑えるためには 薬の服用しかない。
しかし、薬を飲むということは命を削るも同然だ。
そんなことはわかりきっている。
だが、フラッシュバックを起こしたまま放置しておくこと
の方が更に危険だ。
・・どちらにしろ分が悪い。
ならば より長く生きられる方を選ぶしかないだろう。
ジークフリードシステムは僕にしか扱えない。
代わりは居ないんだ。
ずっともってくれなくていい。
せめて、フェストゥムを壊滅させることが出来るまででいいんだ。
それまで、この身体がもってくれれば・・・
そうすれば
一騎、
お前を守れるのにーーー。
+++
コンコン・・
十時頃、僕の部屋を軽くノックする音が聴こえた。
「はい・・?」
一言そう答えて、
リモコン操作で扉を開ける。
するとそこには 僕の愛しい相手が佇んでいた。
「一騎・・・。どうしたーー?・・何か僕に用か?」
夜更けに訪れた意外な客人に、僕は目を丸くした。
「あ・・・・、その・・・用っていうか・・」
少し言いずらそうに 肩を竦めると、
一騎はひとこと僕に言った。
「総士・・・寝たかと、思って・・・・。」
「えっ・・・?」
「・・仕事終わったっていってたけど、なんか心配でーー。
その・・、ちゃんと寝たか気になって・・・。」
一騎・・・
「総士・・・昔から ひとりで無理するとこ、あるから・・。」
どうして・・・
どうしておまえはそんなにも 真っ直ぐなんだ。
僕は、お前に嘘を吐いているというのに・・。
それなのに・・・お前は・・・・。
あんな些細な嘘を信じて、真実を隠している僕を
心配して・・夜更けに僕の部屋まで確認しに来てーーー
本当に、・・なんでこんな 僕のために・・・。
「随分、・・信用が無いな・・・僕は。」
やっとの想いで搾り出した声は、少し擦れていた。
一騎の優しさが 苦しくて、声が上手く出せなかった。
「ご、ごめん!電話だと もし寝てたとき、お前を起こしちゃうだろ?
だから・・その、総士の部屋までいって確認した方がいいと思って・・」
静かに、僕は一騎に歩み寄っていく。
一騎は少し慌てて、必死に僕へと謝っていた。
「あの・・、ドアをノックして応答がなかったら帰るつもりだったんだ!
寝てるってことだし・・でもお前・・起きてたからーー、そのっ・・」
僕が怒るとでも思っているのか、一騎は申し訳なさそうな目で
僕を見つめてくる。
僕はそんな一騎を、思いきり抱きしめた。
「っーー!!」
一騎は突然の抱擁に驚いて、身体を一瞬強張らせた。
「そんな顔するな・・。謝るのは僕の方だろう?
まだ寝てなくて、悪かった。
・・心配してくれてありがとう・・・一騎。」
抱きしめる腕に、力をこめた。
離したくなくて。
・・離れられなくて。
「総士・・・。」
一騎の腕が 自然と僕の背に回され、
抱きしめ返してくる。
とても、・・温かかった。
「いいんだ・・。総士はいつも島のために睡眠時間を削って
夜遅くまで仕事してくれてるのに、俺・・何にもしてやれなくて。」
離れたくない
「こんな、心配くらいしか出来なくて・・・ごめんな、総士ーー。」
ずっと
「いや、・・・ありがとう一騎・・・もう、充分だ。」
お前のそばに居たいのに
「・・・一騎」
人は、いつか死に逝くもの。
それは何があっても変わらない。
生と死の循環は誰にでも平等に訪れる。
誰にでも・・・。
「・・・ん?」
一騎、
僕の時間はもう そう残されてはいないんだ。
だからこそ お前に言うよ
「お前が好きだよーー。」
+++
君が僕の名を呼ぶ、
その声が好きで
君が僕を包んでくれる、
その体温が好きで
君が僕を映す、
その瞳が好きで
あぁ・・
僕はもう、君なしでは
息も出来ない。
「ーーー・・・っ・・・ん?」
「総士!!気がついたのか?!」
「一騎・・・・。ここはーー?
僕は一体・・・」
「覚えてないのか?倒れたんだよお前。
父さんと遠見先生とお前がマークザインの
最終チェックしてたときに・・」
「あぁーー、そうか・・・。急に目眩がしたと思ったら、
意識が飛んで・・・僕はそのまま倒れたのかーー。」
「遠見先生が医務室に運んだ方がいいって言って・・・。」
辺りを見渡せば、確かに医務室だった。
隣にはいくつかのベッドが並んでいる。
一騎は椅子に座って、横たわる僕を
心配そうに見つめていた。
「・・・・総士。」
「なんだーー?」
膝に置いていた両手をぎゅっと握り締めると、
一騎はまっすぐな瞳で僕を見つめ、意を決したように
言葉を紡いだ。
「ほんとは・・・どこか悪いんじゃないのかーー?」
握り締めた両手が、微かに震えている。
きっと一騎は怯えている。
真実を知ることに。
それでも、聞こうとしてくれている。
僕を、解かろうとしてくれている。
一騎、好きだよ
何回言っても
足りないくらいだーーー。
「一騎・・僕は大丈夫だ。
お前は自分のことだけ心配してればいい・・」
君を想わない日なんて
・・一日だってなかった。
「いいな・・?」
そういって僕は、微かに震える一騎の両手を
自分の両手で包み込んだ。
途端に一騎は僕の手を、強く握り返してきた。
僕は少し驚いて、手に向けていた視線を
一騎の顔へと向けた。
・・一騎は、今にも泣き出しそうな顔をしていた。
好きだから言わない。
好きだから言えない。
知らなかった。
愛しい人を残して逝くという真実が
こんなにも辛く感じるものだったなんてーーーー。
・・・あぁ、そうか・・
きっと僕は
自分が思っているよりも
君の事が
好きなのかもしれないーーーーーー。
NOVELに戻る 〜後編〜
こんにちは〜!青井聖梨です。
ここまで読んで頂いて、ありがとうございました。(長文なのに)
設定無視も甚だしいですが、今回は”総士の残りの時間”をテーマに話を
進めてみました。一騎の方は同化現象が進んでいる描写がアニメで所々
見られましたね。でも総士は薬を服用して(←薬を飲んでという意味)苦しんでいる
シーンが思いのほか少なかった気がします。なのであえて今回は総士の身体が
蝕まれているという設定で書いてみました!というか、きっと一騎が同化現象に
蝕まれている間、総士もまた フラッシュバックで苦しんでいたんだろうなと思います。
だって総士の部屋の洗面所に置いてあった薬の数、半端じゃなかったもの!
あんなに飲んでたら普通・・・ね。というわけ(?)で後編もどうぞ宜しくお願いします。
2005.2.5.青井聖梨