それだけで
充分なんだーーー
最後だから、もう一度
「総士。お前それ癖なのか?」
「・・なにがです?」
「その笑い方。」
「笑い方?」
「そうそう。」
アーサーズルームで戦闘データの資料を真壁司令と
確認していたときの事だ。
司令の隣で資料を盗み見していた溝口さんがふいに僕へと声を掛けてきた。
「どんな笑い方です?」
「なんつーかよぉ・・諦めっぽく笑うっつーのかなぁ・・。
上手くいえないが、そんな感じだよーー。」
「・・・・」
「溝口!」
「なんだよ真壁。別にいいじゃねぇか、本人気づいてねぇみたいだし。
こういうことは教えてやった方が総士のこれからの人間関係に幅が利くって
もんだろーが。」
「しかし・・」
「いいんです真壁司令。・・それで、それはどういう意味なんですか溝口さん。」
僕に気遣ってくれた真壁司令の静止を振り切ると、僕は改めて溝口さんに
そう聞いた。
「あ〜、なんつーかよ・・お前なにをするにもどこか冷めてる感じがする。
もっと年相応に熱くなったっていいんだぜ?なにをするにも大人みたいに
諦めっぽく物事考えることないぜ。お前はまだ子供なんだからよ。
いくら戦闘指揮官だからって、ずっと大人のふりなんてしなくていいんだ。
笑うならもっと気持ちよく笑え!素のときくらい子供を満喫してりゃいいんだよ。」
「・・・・参考にさせてもらいます。」
溝口さんは言いたいことを言うと、満足そうに”そうしてくれ”と一言いって
アーサーズルームを出て行った。
僕は随分と勝手なことを言う人だ、と心底思う。
僕だって出来ることなら・・こんな風になりたくなかった。
真実なんて、知りたくなかった。
大人のふりをして、できるだけ背伸びをして。
戦闘指揮官とパイロットという立場の違いから、
仲間との確執を余儀なくされてーー。
いつも選択しなければならない事は大人の答えだけ。
諦めるように・・自嘲するように笑うのは、こんな自分を自覚している証拠だ。
こんな自分、僕自身 本とは認めたくなんて無いさ。
でも、外の世界を見てしまったときから 僕は選ぶしかなかった。この島を守ること、
・・一騎の居る場所を守ることを。
それしか、ほかに無かったからーーだから僕は今の僕になったんだ。
そんなことを、俯いて考えていたら、
真壁司令が僕に問いかけてきた。
「総士くん・・。君は今、自嘲的な自分に後悔しているかね・・?」
「−−それはどういう意図を含んで言ってるんです?」
「君は一人で背負いすぎている。・・この島を守ることを君は選択してくれた。
だがそれは果たして君の本心なのか?それとも皆城が君にーー」
「父は関係ありませんよ。」
真壁司令の言いたいことは痛いほど解かっていた。
僕のこの重責は父が当初から用意していたものだ。
しかし選んだのは他ならぬ僕自身。そう、僕自身なのだから・・。
真壁司令の言葉を遮るように、僕は自分の意志を伝える。
これ以上、迷わないために。どこか諦めたような・・自嘲的な笑いを
浮かべる自分に負けないためにも。
「これは僕自身が決めたことです。
・・後悔するような選択はしないと いつも心に決めていますから。」
「・・・そうか・・。」
力強くそう言ったあと、資料を片手に部屋から出て行こうと踵を返した僕に、
真壁司令はひとこと付け足していった。
「君が諦めたように・・自嘲的に笑うたび・・一騎が淋しそうに笑うのは
ーー何故なのだろうな・・。」
「・・・・・失礼します。」
誰か教えてくれ、
後悔しない選択をしたはずなのに
何故こんなにも胸が痛むのか・・
+++
「そ・・・っしぃーー・・っ。」
「ダメだよ一騎、もう少し我慢してくれないとー」
「ぁあーーっンーー!!」
アルヴィス内にある総士の部屋。
静まり返った部屋の内部では、ひときは甲高い声が響き渡った。
その声の主こそ、総士が愛してやまない彼、真壁一騎だった。
信じられないほどの身体能力を持ち合わせていながら
その身体は決して厚みを帯びず、華奢で白肌だ。
肩幅から腰のくびれまで、流れるように綺麗なラインを描く
その色っぽい体つきに、総士はいつも息を呑む。
「一騎、だめじゃないか先にイったら。お仕置きが必要かな?」
「そっ・・!!・まってーーおねが・・」
一騎にとって一番刺激の強い場所を探り当てた総士は
休む間も与えず、一気に自分自身をソコへと突き当てた。
「ふっ・・っああああッッンンーーー!!」
先ほどよりも激しい一騎の喘ぎ声に満足しつつ、総士は一騎自身にも
愛撫をし始める。
「や・・・ダメッ・・あっン・・おねがーーそ、しぃっ・・!!」
くちゅくちゅ、とイヤラシイ音を部屋中に響き渡らせながら、
一騎自身を追い詰めていく。
「ダメじゃないだろ?・・イイの間違いじゃないのか、一騎?」
意地悪く微笑む総士を見上げながら、瞳に涙を浮かべながら
一騎は頬をさらに紅く染め上げた。
「っう・・も・・ゆるしーーて・・そ・・しーー」
懇願しながらも自分を内部で締め付ける一騎に
愛しさを覚えながら、総士は一騎に問いかける。
「淫乱だね一騎・・。そんなにイきたいの?」
「・・・・ん。イきた、いっ・・」
「しょうがないな。いいよ、イこう・・?」
そういうと総士は急激な勢いで一騎を突き上げた。
「はっ・・・ぁぁああっ!!!」
その律動と共に言い知れぬ快感が一騎を襲う。
先ほどより荒々しいその動きに、総士の限界も近いのだと思い知らされる。
そして一騎の中心は熱く腫上がり、その先端からは先走った蜜がトロトロと
一騎の腿を伝ってシーツに染み渡っていく。
総士は互いの極限値がもうすぐだと肌で感じ、律動をさらに早め、一騎のイイ場所
をピンポイントで攻め始めた。
「あっーーイやぁんっ・・・あぁぁンン・・そ、し・・っーーそうしぃぃぃっ!!」
押し寄せる快感と、自分の中で確かにその存在を主張する総士自身を感じ、
一騎は総士が居ることを何度も確認するように、名前を呼び続けた。
「一騎っ・・・!!」
総士はそんな一騎を追い詰めるべく、ついに一騎自身の先端を指で引っかいた。
「はぁぁぁぁんっ!!」
すると白濁とした液が飛び散り、その大きな反動で一騎の内部が総士を締め上げた。
「っくーーー!!」
と、同時に総士もその刺激と共に、一騎の中へと欲望を吐き出した。
共にぐったりと力を失い、意識を手放していく。
そんなとき、総士は一騎が淋しそうに薄く笑うのを
遠い意識の中で見た様な気がして、
ーー何故かまた、胸が痛んだ。
+++
「一騎、起きれるか?」
「・・総士・・。」
気だるさと、昨晩の余韻をまだ身体に残しているせいか、
身体を動かすと腰に痛みが走る。が、ゆっくりと一騎は
ベッドから身体を起こした。
目の前では、総士が制服に着替え、こちらを気にしている。
「立てるか?シャワーを浴びてくるといい。
僕はこれから作戦会議があるから先に部屋を出るが、
お前は僕に気にせず身支度が出来たら部屋を出ろ。
オートロック式だから、鍵の心配はいらない。」
「わかった・・・。」
「・・訓練は11時開始だ。遅れるなよ。」
「あぁ・・・。」
ーーシュン・・
総士が出て行き、扉が閉まり 静寂が訪れる。
一騎はゆっくりとベッドから立ち上がり、裸のままシャワールームへと
足を運んだ。ベッドのシーツは既に変えられていて、昨日の出来事が嘘のようだ。
しかし、洗面所にある鏡を覗くと、自分の身体の至るところに紅い跡がついていた。
そして歩くたびに身体に痛みが走るため、昨日の出来事が現実なのだと
改めて感じさせられる。
「総士、・・らしいな・・」
至る所についている紅い跡をみるが、すべてシナジェティックスーツを
着た時に隠れる場所についていた。さすがといえばそうなのだが、
あんな時ですらパイロットである自分を意識していた総士に苦笑しながら、
一騎は静かにシャワールームへと姿を消して行った。
「よぉ一騎!!着替えに行くのか?」
「道生さん。」
もうすぐ11時になる。
一騎は総士の部屋を出たあと、一端家に帰り
またアルヴィスへとやってきた。
昨日は父がアルヴィスに泊まると聞いていたので
自分が総士の部屋に泊まったことを父は知らない。
内心自分達の関係がばれていないことをほっとしながらも、
父に自分達がなにをしているのか知られているんじゃないか
という不安も実はあったりする。一騎は複雑な想いを抱いていた。
「はい、もうすぐ訓練があるんで・・」
「そうか、んじゃオレも訓練時間近いし、着替えに行くかな。」
そういって道生は一騎の隣を歩き始めた。
ロッカールームに向かう途中、一騎は道生に尋ねられた。
「一騎、お前昨日の夜、何処にいたんだ?」
「えっ・・・?」
「昨日弓子と真矢ちゃんとオレとでお前んち行ったんだぜ?
花火買って来たんで一緒にやろーと思ってよ。」
「あっ・・・。そう、なんですかーー。」
「夜の9時頃行ったんだが、お前家に居なかっただろ?
出かけてたのかーー?」
「あ・・はい・・。ちょっとーー。」
上手い理由が見つからず、薄く笑って一騎はごまかそうとした。
道生はそんな一騎を見て、ふーんといいながらそれ以上は聞かなかった。
ロッカールームで着替えを済ませた二人は、お互いのファフナーの
メンテナンス作業をするため、別々の持ち場につこうとしたそのとき。
道生が一騎を呼び止めた。
「一騎・・。お前にひとつ聞きたいことがある。」
「はい・・なんですか?」
「お前、最近笑うといつも淋しそうだ。
それって、総士が原因なのか・・?」
「えっーー・・」
「お前、総士に抱かれてるだろ。
−−昨日も総士と一緒だったんだろ?」
「っーー!!」
いきなり確信に迫る道生の発言に動揺した一騎は、俯きながら
次の言葉を探していた。
「お前は隠してたつもりかもしれないが、着替えのとき
ぴんときたぜ。あんな着替え方してたらバレバレだっての。」
「・・あの・・他の人にはこのことーー」
「心配しなくてもいわねーよ!・・それより、お前らちゃんと愛し合ってんのか?」
「えっ・・・」
「お前みてると、なんか想いが通じ合ってるように見えないけどな・・」
「・・・」
「あ、わりぃ!今の、無しな。気にしないでくれー」
バツが悪そうに頭をかいた道生を見上げて一騎は、思いつめた瞳で
言葉を紡いだ。
「あの!・・・聞きたいこと、が・・」
「・・・どうした?」
いつもの一騎ならこんな風に誰かに質問なんてしない。よほど気になること
があるのだろうと道生は思った。
「・・・・キス・・・」
「へ?」
恥ずかしいのだろう。頬を朱色に染めて、小さく心細い声色でポツリポツリ
と一騎は話し始める。
「してくれないんです・・総士。−−抱きしめてもくれない・・」
「・・・それは・・情事のときってことかーー?」
「・・・普段も、です・・。一度も・・されたこと、なくて・・。」
「ーー不安なのか?」
「総士は・・どんなときも距離をおいてますから。戦闘指揮官だし。
・・仕方ないって、思うんですけど・・でもーーそれが淋しくて・・。」
「・・・・・一騎。」
「あいつにとってオレは・・パイロットでしかないのかなって、思って・・」
「それが・・淋しく笑う原因か・・?」
「−−・・自分ではそんな風に笑ってるとは思ってないんですけど・・。
今度から・・気をつけます・・。」
そう、力なく笑う一騎を前に 道生はどこか切なさを覚えるのだった。
+++
「お前、ちゃんと一騎を見てやれよ。」
訓練が終わり、キールブロックから出てきた総士を
待っていたのは、道生のそんな言葉だった。
「・・・なにがですか?」
唐突にそう言われた総士は、少なからず苛立っていた。
「確かにお前は島を守るため、常に上位の立場から物事の判断
をしなくちゃいけないし、冷静で的確な指示だっておれ達に出さなきゃなんねぇ。」
「それが・・?」
「だが、普段のお前は違うだろ。学校行って、授業受けて・・戦闘指揮官の
皆城総士じゃねぇだろ・・?一騎だってそうだ。普段の一騎はパイロットじゃねぇ。」
「・・・・なにが言いたいんですか?」
話がみえないせいか、苛立ちはさらに増徴するばかりだった。
総士は確信を早く引き出すため、先を促す。
「お前、一騎を抱いてるんだろ?」
「・・・・−−−−−だったら・・?」
道生の唐突な質問。しかし総士は動揺しなかった。
なんとなく、道生にはばれていると直感的に普段から解かっていたからだ。
「だったらちゃんと抱いてやれよ!!・・お前の抱き方、
好きな奴を苦しめてるだけだぞーー!」
「−−−−−一騎が・・・苦しいとでも、言ったんですか・・?」
「・・・・苦しいとは言ってないが・・・淋しいとは言ってたぞ。」
さび、・・しい・・・?
道生の言葉に初めてその無表情な顔が歪んだ。
痛いトコをつかれたのだと、道生は確信する。
「・・・本気なら、ちゃんと一騎を抱いてやることだ。
お前が指揮官だとか、一騎がパイロットだとか抜きでよ・・。
お前、少し背負いすぎだよ。もっと、子供でいる時間 大切にしろ・・。」
真壁司令にも、溝口さんにも、同じようなことを言われた。
それって一体どういうことなんだ・・?
わからない、僕には。
わからない・・。
道生に言われた言葉は、いつまでも いつまでも
総士の心の中で響き続けていた。
+++
いつからだろう。
君を特別だと思い始めたのは。
そう、あれは僕が五歳くらいのときだった。
初めて父に連れられて、岩戸にいる乙姫に会いにいった。
実の妹が沢山のコードに繋がれ、赤い液体の中に浮かんでいた
ときのあの衝撃は、今でも忘れられない。
その光景を僕に見せながら言った、父の言葉も忘れたことなんてなかった。
「お前は島と島のコアを守るために居るんだ。
総士・・、決してお前は自分のためや誰かのために生きてはいけない。・・いいな?」
幼いながらに感じた。それは嘘偽りの無い言葉だと。
そしてその言葉の残酷さを理解するのに、そう時間はかからなかった。
自分は自分のためにも誰かのためにも存在しない。
この目の前の、島のコアである妹と島のために存在する。
今までの自分は全て必要ない。皆城総士はもう、どこにも居ない。
必要ないんだ、感情も、思い出もすべてーー・・。
そう理解したとき、目の前が何か黒く歪んだ恐ろしいものに覆われて
いく気がして、僕は無意識に還る場所を・・・光の射す場所を探していた。
それからというもの、僕は毎日乙姫に会いに岩戸へと足を運んだ。
確かに”ソコ”には僕の存在する意味が合ったからだ。
もしそれすらもなければ僕は、とっくの昔に消えていただろう。
そうやって毎日幼稚園が終わるとすぐに、自分が居ることを確信しに行った。
そうしたらある日、友達のひとりが僕に聞いてきた。
なんでいつも早く帰ってしまうのだと。
一騎だった。
僕は”別に理由なんて無いよ”と乙姫のことを言わずごまかした。
父に秘密にしているように言われたのもそうだが、こんな自分
知られたくはなかったのが本当の理由だ。
一騎はそれ以上なにも聞かないでいてくれる代わりに、
”一緒に遊ぼう”と言ってきた。
僕の手をとって、光の射す場所へと連れて行ってくれた。
温かかった。
その温かい手を、忘れることなんて出来なかった。
それからというもの、僕は乙姫の居る場所ではなく、
一騎の居る場所へと行くようになった。
一騎といると楽しくて、嬉しくて、自分はちゃんと存在してると
思わせてくれた。
でも、そんな僕に気づいたのか、父はクギをさすように僕へと
残酷な言葉を吐く。
「あまり・・仲良くしない方がいい。お前と彼は違うんだから・・。」
そう言われたとき、現実に引き戻された。
そうだ、僕はココに居ちゃいけない人間なんだ、と。
それからというもの、どんなに一騎と一緒にいても
どんなにその温かな手と触れ合っていても
一騎がどこか遠い存在のような気がした。
違うんだ。僕は一騎とは違うんだ。一緒に居たって
意味なんて・・・
そう思っていた、ずっと。
やがて僕は学校に入学して、年を重ねることで少しずつ自分の立場を
理解し始めた。
そして父さんは僕にミールの因子の構造や、島の外の現状を見せた。
島を守らなければーー
そんなことばかり考えていた。
でも同時に何処からか生まれた感情が僕にそっと囁いた。
”一騎がいる島を守らなければ”
驚いた。いつからか僕は、誰かのために存在し始めていた。
いけないことだとわかっていた。
一緒に居る意味さえ、一緒に過ごす日々さえ無意味だと、
わかっていたはずなのに。
いつの間にか僕は、一騎を特別だと思い始めていたんだ・・。
告げることも無く、伝わることも無く、いつも苦しくて
友達という関係が自分と一騎を繋げてくれる唯一のもので。
何よりもそんな関係が自分にとって、宝物だった。
だけど、そんな関係にしがみついている自分が、切なかった・・。
やがて僕は、ある一つの結論に達した。
父が言っていたミールの因子を利用すれば、僕はずっと探していた
還る場所へ・・光の射す場所へとたどり着けるんじゃないかと。
一騎と・・ひとつになれるんじゃないかと。
大好きな一騎。
お前とひとつになれることが、どんなに幸せなことだろう
諦められなかったんだ、どうしても。
諦めたはずなのに。
諦めたはずだったのに。
君だけは
君の側に居ること
君と過ごした思い出を否定することだけは
したくなかったんだ。
諦められなかったんだ。
・・諦めたくなかった。
父さん、ごめんなさい。
それが僕の、皆城総士としての 最後の願いなんだ。
一騎とひとつになりたい。
それだけで、
僕が生きた証は・・充分なんだ。
「ひとつになろう?一騎・・」
NOVELに戻る 〜後編〜
こんにちはー、こんな長い話を読んで頂いてありがとうございます!
シリアスな話ですが楽しんで頂けたら光栄です。
総士と一騎。この二人の微妙な関係と心情にもっと深く書いていけたら
と思っています。あ、そうそう。一部激しい着色と設定になっています。
ご了承下さい。それではつづきは後ほど〜。
2005.1.4.青井聖梨