愛してるなんて言葉じゃ

もうこの気持ちには届かなくてーー










最後だから、もう一度
















ひとつになろうとしたあの日。
僕は一騎に拒まれた。

一騎は僕を受け入れてくれなかった。
でもつまりそれは・・



ーー僕がここに居ることを認めてくれたんだ。



そして



僕を僕にしてくれたんだ。






一騎、





感謝しても感謝しきれない。






ありがとう・・・






僕を、僕の存在を認めてくれて


僕を僕にしてくれてありがとうーー








でも一騎は、僕の感謝とは裏腹に
あの日以来 人と距離を置くようになった。

そして、無口になり 以前より笑わなくなった。
何かに怯えているような、思いつめたような顔ばかりするようになった。
一騎は罪の意識に苛まれていたんだ。
僕はその原因がわかっていた。

この左目についた傷・・
これこそが一騎を罪の意識に縛り付けている元凶なのだと・・。


すぐに、”こんなのなんでもない”と ”むしろ感謝している”と
伝えればよかったのかもしれない。


だけど・・僕にはそれが出来なかった。




何故なら






一騎が・・・僕の側にずっと居てくれるからーー。



他の誰でもなく、僕の側に・・。
僕だけを見てくれている。
僕だけを特別に考えてくれる。

罪の意識からくるものだなんて、百も承知だった。
そんなもの、どうでもよかった。
カタチはどうであれ、僕はその事実が嬉しかった。


・・一騎は僕の左目になろうとしていた。

自分でも残酷なことをしていると自覚していた。
一騎をこの傷で縛り付けて、動けなくしたのは僕だ。
自由を許されない可哀相な一騎。

僕はいけないと思いながら、手離せなかった。
失いたくなかった。僕だけの一騎を・・。

それが歪んだ愛情だと軽蔑されても・・
もう 手遅れなんだーーー。


離せないんだ、一騎を。
もう離れられない。


この傷を利用していつからか僕は
一騎を抱くようになった。

一騎はなにも抵抗せず、僕を受け入れた。


僕はそのとき初めて、愛し方を間違ったことに気づいた・・。



こんなんじゃダメだと思いながら、
今も一騎を抱かずにはいられない自分。
恋人でもないのに、一騎を縛り付けている自分。
せめて、
これは自分の一方的で自分勝手な行為なのだということを
カタチに表しておきたくて・・

そう、
一騎は僕が戦闘指揮官だから命令を聞いて抱かれている
僕の左目に傷を負わせたから、罪悪感で抱かれている
決して僕を愛しているから受け入れているんじゃないと

自分に言い聞かせるためにーー


一騎に触れるとき、重なるときは 恋人同士が絶対する証を・・
避けたんだ・・・。

キスをしない 抱きしめない・・・。
このくらいしか、今の自分を戒めることが出来ない。


僕はもう、一騎から離れることなんて出来ない。
諦めたんだ。

だからいつも、抱いてるとき 諦めたように笑ってしまう。

ーーもう、君から離れることなんて できないんだよ、と。




・・本当に可哀相なのは

こんな僕自身なのかもしれないというのにーーーー








+++





「・・・道生さんに何を言ったんだ、一騎。」

「えっー・・」

アルヴィスの廊下で偶然一騎に出くわした。
総士は一騎を呼び止めると、その真意を聞くためにそう切り出した。

「別に・・・なにも・・・・」

「そんなはず無いだろ。現に道生さんが僕に言ってきたーー」

「えっ!?・・な、なんて・・?」

「−−・・・ちゃんとお前を見てやれ、 ・・抱いてやれってな・・。」

「!!!−−あっ・・・」

「あの人が僕らの関係に気づいていたのは薄々知っていたさ。
でも妙に引っかかることを言うんだ。ちゃんと抱いてやれって・・
一体どういう意味だと思う?・・一騎。」

「そ、・・れはーーっ。」

「それにお前が淋しいと言っていたとも言ってたぞ・・?」

「あ・・・・」

「真壁司令もそうだ・・。僕が笑うたびに、お前は・・淋しそうに笑うと・・。」

「・・・・・」


暫く重い沈黙が二人を覆う。
上手く言葉に出来ない一騎。一騎がわからない総士。
二人の心は、完全にすれ違っていた。
そんな中、沈黙を破ったのは総士の一言だった。

「・・・確かめるしかないなーー。」

「えっ?」

「僕がお前をちゃんと見ているか、抱いているか、お前が
確かめるしかないだろうーー?・・来いよ!」


そう言って、勢いよく一騎の右腕を掴み 廊下を早足で歩き始める。
総士の言動について行けず、戸惑った表情を浮かべながら
一騎は引っ張られるままに足を進めた。
すると、やがて総士の部屋に辿り着いた。

「そ、総士っ・・ーー」

不安気に名前を呼ぶ一騎に総士は冷笑し、
扉を開けて 勢いよく一騎をベッドの上に放り投げた。

「うぁっ!!」

ベッドに投げられバランスを失う一騎。
総士はそのまま倒れこむ一騎の上に乗りかかると、
見上げる一騎に「脱げよ」と声をかけた。

こんな総士、見たことない・・・

恐怖が全身を駆け巡る。
いつもの総士じゃない。
怒っているのだろうか?

目の前の総士を”怖い”と初めて思った一騎は
必死に逃げようと身動きをするが、それも総士の
手で阻止されてしまう。一騎の両手は頭の上にひとくくり
されたように、総士の右手で掴まれる。

「・・確かめろよ、その身体でオレを。」

「そ、・・・いやだ・・」

「−−両手が塞がっているな。オレが脱がせてやるよ・・」

空いた左手でゆっくりと一騎の服を脱がしていく。
その瞳の奥は、薄暗い黒の光を宿していた。

震える一騎に”大丈夫、いつもと同じさ”と零す。

白い肌がやがて服越しから姿を現し、胸の突起も
ここに居ることを主張するようにその存在を総士に見せ付ける。

「・・いつみても綺麗な身体だな--・・。誘ってるとしか思えない・・」

露出した胸に顔を埋め、舌を鎖骨から胸の突起にかけて這わせる。

「あっー!!」

少しの刺激にも敏感な一騎の身体。
ますます情欲は深まっていくばかりだった。

「一騎のココ、固くなってるな・・」

突起を舌で舐めあげると、総士は先端を軽く甘噛みした。

「ぁアンっーー!」

思いのほか色っぽい一騎の喘ぎ声に気を良くした総士は
そのまま突起を吸ったり舐めたりと弄んでいた。

そのうち頭の方からすすり泣く声が聞こえた。
頭をあげ、一騎を覗く。


すると一騎は、溢れ出す涙をそのままに
ぎゅっと目を瞑りながら 歯を食いしばっていた。


「・・・な、んで泣くんだーー・・一騎。」

愛撫の手を止め、静かに泣く一騎にそう聞いた。

「っ・・・だ・・よーー」

「・・・・なんだ・・?」

「こんな・・・抱かれ方は・・・いやだよっ・・・」

瞑っていた目を開き、懇願するように総士を正面から見上げる。
涙はいく筋もその上昇した朱色の頬を伝って、ベッドのシーツに
流れ落ちた。

「一騎・・・」

そんな一騎を見て、少し我に還る総士に尚も一騎は言葉を紡ぐ。

「もう・・いやなんだ・・こんなのーーっ・・。
総士がオレを抱いてるときに見せる・・諦めたみたい笑う顔も
・・・っ・・・もう、−−見たくないっ・・・」

「か、ずき・・・」

「やだよ・・こんな・・・っ。こんな風な抱かれ方はーー
もう・・・・いや、だっーー!!」

キスも・・抱きしめてもくれないこんな抱き方なんて・・。

心の叫びを震えた泣き声にのせて総士に叫んだ。
総士の憂いを帯びたその表情が、一瞬に曇ったのを一騎は
見逃さなかった。
鎮痛に歪められた整った顔立ち。今度は総士の叫びが
室内に木霊した。

「だったらーーーー!!」

荒い口調で一騎に叫んだ。
一騎はその叫びに瞳を見開く。


「・・・だったらっ・・・どんな風ならよかったんだっーー」


最後の方は消え入りそうな声色になった。
力なく瞳を閉じる。
悲鳴にも似た叫びだった。




愛し方を間違えたことが、こんなにも
君を苦しめるなんて思いもしなかった。




教えてくれ一騎


君を手に入れたはずなのに、
なんでこんなに苦しいのか・・

なんでこんなに 


胸が痛むのかーーーーーー



わからないんだ。


なにも もう


わからない・・・・。





+++




いつも夢にみていた。
あの頃の夢。

君と二人で海岸沿いで他愛のない話をした。

神社の境内で大人には内緒で、捨て猫を飼った。

風を感じたくて、神社の近くにある大きな木に二人登った。

学校の怪談を君は信じて、夜中に僕と確かめに行った。

風邪をひいて学校を休んだとき、君は学校を休んでまで
僕の看病をしてくれた。

みんなで、かくれんぼをしたとき 
誰よりも早く君を見つけることが出来た。


君はもう、そのときから僕にとっては特別だったから・・。

ーー戻りたい、あの頃。


でも、もう過ぎ去ってしまった夢でしかない。

戻れない・・もう・・・。


ーーー戻れないというのなら、いっそ壊してしまえばいい・・


そう思わずにはいられなかった。


いっそすべてを忘れられたら・・楽になれるのだろうか・・


沢山の思い出と、この気持ちごと
封印できたなら・・

この痛みは消えるのだろうか・・。



今度こそ君を、

自由にしてあげられるのだろうかーーー?










「僕は・・変わりすぎてしまったんだな・・。あまりにも・・・。」

静寂の中、ポツリと総士は言葉を零した。
会議室でマークザインの戦闘形態の最終チェックをスクリーンで
見直して居たときの事だ。
会議室内にいた史彦と溝口は、椅子に座りマークザインの戦闘が
映し出されているのをジッと見つめる総士が、いつもと違う雰囲気だという事は
わかっていた。そんな彼がポツリポツリと独り言のように、誰かに投げかける
言葉を、ただ黙って二人は聞いていた。

「本当は・・こんなはずじゃなかった・・。
こんな自分を、望んでいたわけではなかったのにーー」

滅多に本心を言わない総士。
しかし今は、画面のどこか遠くを見つめて、話しかけている。
まるで 話をしたい誰かが、そこに居るかのように。
今の総士には、きっと史彦や溝口さえ見えていないのだろう。
ただ、画面に映るマークザインへと・・そのパイロットである一騎へと
・・話しかけているようだった。

「外の世界を見たとき・・今までの自分じゃダメだと思った・・。
島を守るためにはーーお前を守るためには・・もっと大人にならないと・・、
無理にでも大人のふりをしないとーー戦闘指揮官としての使命を
まっとう出来ないと、思ったんだ・・・。」

一呼吸おいて尚も画面に語りかける。
その顔は、ただただ悲痛な想いに歪められていた。

「そんなことをしていたら・・いつからか、本来の・・・子供である自分の
姿を見失ってーー戻れなくなってしまった・・。
笑ってくれ一騎・・。僕は守りたいと思ったお前すら、見えなくなっていた。」

総士が誰に話しているのか何となく勘付いていた史彦達だが、改めてそれが
一騎に対してだと、彼の言葉から確信を拾い上げた。

「僕は戦闘指揮官だ。この立場でいる以上、僕は大人で在り続けなければ
ならない。・・こんな僕の側にもうこれ以上居られないとお前が言うのなら、
僕はそれで構わない・・。ただ、これだけは知って欲しいんだ・・。」

今にも消えそうな声で。悲痛な声で。
総士は紡ぐ。ココには居ない、幻影の一騎へと。

「僕が諦めたように笑うとお前は言った。そんな僕が見たくないと・・。
でも僕が諦めた事はたったひとつ。・・お前から離れない事だよ、一騎。」

そしてまた、諦めたように笑う。
そんな総士を見ていられなかったのだろう、史彦も溝口も
目を伏せ、俯いた。

「お前が離れていっても、きっと僕はお前の側にまた戻っていってしまう。
そんなことをきっと、繰り返してしまう・・。
 ーー・・たまに小さい頃の夢を見る。・・何も知らないあの頃に戻れたらと、
何度も思ったさーー。変わってしまう前の自分を取り戻せたのならと・・。」

そういうと、椅子から静かに立ち上がった総士は、大きなスクリーンに
映るマークザインから出てきた一騎を指の先でなぞった。

「・・願いばかり口にする今の僕は・・なんて滑稽なんだろうな、一騎・・。」

悲しそうに、苦しそうに。
いつまでも、画面に向かって総士はーー小さく笑っていた。



そんな総士の側に史彦は駆け寄り、肩に手を置いて呟いた。

「・・変わる事がいいことかどうかは私達にもわからない。
だが、変わったあとでも、一騎は君の側に居る事を選んでいた。
あいつはどんな君でも受け入れたんだ。・・それがすべての答えなのでは?」


史彦の言葉に、意識が遠くにあった総士が僅かに反応をみせた。


「僕はまだ・・・やり直せるでしょうか・・・?」

虚ろな瞳で自分の近くに居る史彦へと意識を向きなおした総士は、
聞き取れるかどうかわからないほどの声色で、そう史彦に問いかけた。

史彦は、薄っすらと微笑みながら

「総士くん・・、君が諦めなければーーきっと・・」

そう一言答えた。



ーー総士は短く、”はい”と答えた。




+++





戦闘形態の見直しである訓練を終え、
一騎はシュミレーションルームを足早に出た。

すると、廊下の壁に背を預け、こちらに視線を向ける影がひとつ。
ーー総士だった。

「少し、・・・話せるか?」

短くそう聞いてきた総士に一騎は驚いた。
今まで総士から話そうと言ってきたのは初めてだったからである。

「あ、・・あぁーー。」

戸惑いながらも、少し歓喜を含ませた一騎の応えに
ほんの一瞬だけ、総士が笑ったような気がして
一騎は鼓動が早くなるのを感じた。





長い階段を二人は上っていた。
後ろを振り返れば、どこまでも蒼く澄んだ海と小さな町並みが
ソコには広がっている。
景色のいい、高台に造られた鈴村神社。
二人は小さな頃からこの鈴村神社を訪れ、自分達の遊び場にしていた。
それは同時に、思い出深く、親しみある場所だという意味でもあった。

そんな場所に一騎を連れ出し、総士は境内に座り込んだ。
一騎に自分の隣に座るように促すと、総士はゆっくりと口を開いた。

「よく・・ここで遊んだことーー覚えてるか?」

「・・あぁ・・、覚えてるー。よくお前と甲洋、それから衛や剣司も一緒になって
遊んだよな・・。かくれんぼとか、してーー」

「そうだな・・、したなーー。」

「そういえば、総士意外の奴が鬼になったときは、
みんなオレのこと最後まで見つけられなかったのに・・
総士が鬼になったら、・・一番にオレのこと 見つけたよな・・。」

「・・そうだったな。」

「なんで、わかったんだ・・?オレの居る場所ーー」

「さぁ・・、なんでだろうな・・。なんとなく、お前が居る気がした
場所を探しに行くと いつもお前がそこに居ただけだよーー。」

「なんと、なく・・?すごいな・・お前。」

「そうでもないさ・・。いつも一騎をみてたんだ、そのくらいわかって当然
なのかもしれないな・・。」

「えっ・・・?」

ふいに総士がそんな言葉を零した。
一騎は胸が高鳴り、頬が熱くなるのを感じて、
そんな自分を隠そうと思わず下を向いた。

「どうした一騎?・・訓練で少し疲れたかーー?」

いきなり下を向いた一騎に不信感を募らせた総士は、
一騎の気持ちとは裏腹にそんなことを聞いてくる。

「な・・なんでもないんだっ・・!それより総士ーー話って・・?」

先ほどの些細な言葉に反応している自分を知られたくなくて、
一騎は慌てて話題を逸らした。
総士はそんな一騎を気にしつつも、本題に入った。


「話・・というのは、少し間違いなのかもしれないなーー」

目を瞑り、総士は薄く笑った。

「・・どういうことだ?」

話がみえない一騎は、思わず問いかける。

「話ではなく・・頼みにきたんだ、一騎。」

「頼む・・?オレに・・・?」

「あぁ・・」

意外な総士の答えに、一騎は少し拍子抜けした。

この間の出来事で、自分と総士は明らかにギクシャクしていた。
だからきっと今回総士が話そうといってきたとき、
この間の出来事についてだと、そう思って疑わなかった。
なのでいきなり頼みがあると言われ、気を張っていた一騎は
急に身体の力が抜けていく気がしたのだ。

「ーー頼みって・・なんなんだ・・総士?」


少し緊張のほぐれた一騎は 早速その頼みごとを聞いてみる。
総士がわざわざ頼み込むことなど、殆ど無かったので、
一騎の中で 小さな興味が沸いてくる。

「・・・・最後にするから・・・」

「えっーー?」


総士の声のトーンが明らかに低い。
一体どうしたというのか。様子がおかしい。
俯いていて顔がよく見えない。
そんなに頼みづらいことなのだろうか?
一騎はそんなことを考えていた。



「お前が嫌がっていることは知っている。・・でもーー、
もう一度だけ・・・これで最後にするから もう一度だけーー」

そういって勢いよく顔を上げ、一騎を見つめた総士は
隣にいる一騎の右腕を掴むと 激しい口調で懇願した。


「ーー最後だから、もう一度だけ・・
       お前を抱きたい、一騎・・・・・。」

 



「そ、・・うし・・・」




「今更何をと、お前は言うかもしれない・・・。でもーー、
 今度こそ・・・お前をちゃんと抱きたいんだ・・・。」


どうか、許されるのなら 


「総士・・」


君をちゃんと愛したい・・・


「一騎・・・・・」




ーー今度こそ、
     間違えたくないんだ・・・。









「・・・・・・・・・わかった。」








司令、僕は決して
    諦めたりなんてしません。





+++





ーー本当は ずっと、抱きしめたかった・・。










ギシッ・・


境内の床が軋む音がした。
木漏れ日が目の前でゆらゆらと揺れている。
木々の影が、一騎と僕を包みこみ、覆い隠している。
夏の香りが、風に乗って僕らの鼻を霞めた。

僕は境内の床にのり、静かに一騎を押し倒していく。
一騎は抵抗することなく、されるがままになっている。

瞳を薄っすらと開き、憂いを帯びた目で僕を見上げる一騎。

やっと本当に愛せる、そう思うと 至福の瞬間がとても尊く感じる。
僕は随分と回り道をしてしまったのかもしれない。


「一騎・・・」

そう名を呼んで、頬に触れる。


「総・・士・・」


頬を赤らめて、僕が触れた手に自分の手を添えてくる。
気持ちいいのか、瞳を静かに閉じた。


「一騎、目を閉じるなーー僕を、見ていてくれ・・」


そういうと、一騎の大きな瞳は開かれ、再び僕を映す。


「あぁ・・わかった・・」


少しはにかんだように一騎は笑う。こんな笑顔を見るのは
久しぶりかもしれない。



やがてゆっくりと自分の体重を一騎に預け、
僕は覆いかぶさるように一騎を抱きしめた。

最初はそっと触れるようにーー。


すると一騎の身体がビクン、と大きく反応をみせた。


そんな一騎に驚いて、思わず聞いてしまう。

「一騎、どうした・・・?」

そっと抱きしめていた一騎の身体から、自分の身体を一端離し、
一騎を覗き込む。



一騎は・・泣きそうな顔をしていた。


「どう、してっーー」


「一騎?」


悲痛に歪められた一騎の顔。
どうしたというのか。



「こんなの・・おかしいよ・・総士っーー。」


「なにがだ・・?」





「だってオレたち・・・
  恋人同士じゃないじゃないかっーーー。」



思いがけない一騎の言葉。
今、一騎は間違いなく苦しんでいるようだった。


「なのにっ・・・これじゃあまるで
         恋人同士みたいだ・・・。」



そう、ずっと避けていた。
抱きしめることを。 キスすることを。
でも今は・・・。ーー今なら・・・。



「そうだな・・・、僕たちは恋人同士じゃないーー。
でも、・・ちゃんと抱きたいと 僕は言ったはずだ。」


「・・そう、し?」




「本当は・・・ずっとお前を抱きしめたかった。」





そう口にした僕に、まばたきすら忘れてしまうほど、
一騎は驚いていた様子だった。



「総士・・・今・・なん、て・・?」


聞き間違いだと思ったのか、一騎はもう一度聞いてくる。
僕が先ほど口にした、本心を。


「本当は、お前を抱きしめたくて 堪らなかった・・。
ーーキスを沢山して ・・想いを確かめたかった。」


更に見開かれた大きな瞳。
その澄んだ瞳からは、いつの間にか大粒の涙が溢れ出していた。


「う、そだ・・・」


震える声でそう、一騎は呟く。


「嘘じゃないさーー」


「だって・・今までそんなこと・・・」


「あぁ、・・しなかった 一度も。ーー出来なかった・・。」


「ど・・・してーー」


「勘違い・・しないためにーー。」


「えっ・・?」


「お前も僕を好きで居てくれていると
勘違いしないために・・その証として キスと抱きしめることだけは
避けていたんだ・・・。」


「なんだよっ・・・それーー」


「・・・お前は、僕への罪悪感と パイロットという立場から
僕の求めた行為を拒めなかったんだろ・・?だから僕を受け入れてーー」


「ちがうっ!!!」


急に僕の言葉を遮って、一騎は叫んだ。
瞳からは 止め処なく、涙は零れるばかりでーー。


「ちがうっ・・・違うんだ。オレは、そんなつもりで
お前に抱かれてたわけじゃ、ないっ・・・」


「一騎・・・?」


「オレは・・・総士だから・・・抱かれたんだーー。」


「ぼく、だから・・?」


「確かに・・・その傷のこと・・オレずっと気にしてる・・。
お前の左目になりたいって、思ってる・・。でもーー!!
自分の身体をその傷のために、全て差し出したりはしないっ・・。
ましてや立場でなんて・・・出来るわけないっーー!!」


叫ぶように、僕へと必死に訴える。
一騎の言葉は全部真実だと、思った。
疑う余地なんてなかった。
こんな一騎を見たのは・・初めてだったから。


あぁ、僕は 大きな勘違いをしていたのだ。

・・立場や、この傷を気にして抱いていたのは 他ならぬ
僕自身だったに違いない。
一騎はきっとそんな僕に気づいていたんだ。

だから そんな風に抱かれることを”淋しい”と思ったんだ。


やっと解かった・・・君がいつも淋しそうに笑っていた理由が・・。

そしてその理由の先にある真実は、なんて尊きモノか・・。

「一騎・・僕は自惚れてもいいのか?
  ・・お前が、僕を好きでいてくれているとーー」





「・・・・うん・・・。」






『・・変わる事がいいことかどうかは私達にもわからない。
だが、変わったあとでも、一騎は君の側に居る事を選んでいた。』




司令・・
本当ですねーー。



『 あいつはどんな君でも受け入れたんだ。・・それがすべての答えなのでは?』





これが、全ての答えだったんですね・・・。






+++






「総士、聞きたいことあるんだけど・・」

「なんだ?」


僕の部屋で数学の問題を解いていた時のこと。
ふいに話しかけてきた一騎に僕は短く答えた。

「総士は・・・なんであんな、諦めたように笑ってたんだ?」

そんなことを付き合い始めて今更聞いてくる一騎。
可愛いと思った。


「あれは、お前から離れることを諦めたってことだ。」


「?どういうことだ・・?」


「・・つまり、お前の側にいたい。
ーー好きで居続けたいってことさ。」


「!!」


そういうと、途端に一騎は赤くなる。
本当に可愛い。


「は・・初めてだーー。」


「なにがだ?」


「総士がオレのこと・・好きって言ったの・・」


「ーーあぁ・・。・・・・ほんとは好き、じゃないが。」


「えっ!?」


僕の言葉に傷ついた顔をする。
意地が悪いな、僕は。


「好きなんかじゃない・・愛してるーーかな?」


「!!!!」


先ほどの表情とは違って、今度は真っ赤に頬を染めながら
恥ずかしがってる一騎。
あぁ・・可愛いな。

そんなことを思う僕は相当重症だ。


「・・・・・・・いや・・。愛してるでも、違うか・・。」


「・・・・・・総士、オレのこと からかってる・・?」


また言い直した僕に さすがに冷たい視線を送る一騎。
僕は苦笑しながらこういった。

「違うんだ。なんていうか・・言葉じゃ上手くこの気持ちは表せないって
ことだよ・・・。」


そう言って、優しいキスを一騎に贈った。
一騎の唇は まるで羽のように心地いい。

「そ、・・総士っ!」

驚いたのか、一騎はすごい勢いで僕から離れていく。



「言葉より、行動で示した方が伝わるだろ?」



僕はそういいながら、意地悪く笑ってみせた。



そんな僕に一騎は
小さなため息を零した後、



眩しいくらい、綺麗な笑顔で笑ってくれた。










そうさ




この気持ちを表す言葉なんて
在りはしない






愛してるなんて言葉じゃ

もう



この気持ちには













届かなくてーーー。













     NOVELに戻る    〜前編〜






お疲れさまです〜!!長いのにここまで読んで頂き、
ありがとうございました。
総一を書いてると楽しいのですが、なかなか上手くいかないもの
ですね・・(汗)今度書くときはもう少し頑張りたいです。
それでは〜。
2005.1.7.青井聖梨