言えやしない
たった一言なのに



”もう闘わなくていいんだ”



その一言すら ずっとーーーーー









すれ違う永遠

〜Act、2〜







「一人で戦いたい・・・だと?」


「・・はい。」


「一騎がそう君に言ったのか?」


「はい。・・もう誰にも傷ついて欲しくないそうです。」


「−−そう、か。・・この件については、皆城乙姫とも相談した上で判断する。
返事は保留にしておいてくれ。」


「・・・わかりました。一騎にそう伝えておきます。
ーー今日の用件はそれだけです。それでは、僕はこれで・・」


足早に、司令室を去ろうとする僕に、真壁司令は
不意に声をかけてきた。


「総士君。」


「−−はい?なんですか。」


「・・君は、一騎が一人で戦うことに同意したのか?」


「−−聞いてどうするんです?・・そんなことを。」


僕は少し目の端を吊り上げて、真壁司令を軽く睨んだ。
すると司令は”軽い参考に”と一言答えた。
僕は静かにため息を吐くと、重い口を開いた。


「・・僕は一騎の意志を出来るだけ尊重したいと考えています。
ですから一騎の意見に・・・・・・同意しています。」


そう言った僕を訝しげな顔で司令は見ていた。
いかにも僕の本心ではない、と決めつけた様な面持ちだ。
僕は少しだけ司令から視線を逸らした。
何故だろう。僕と司令を包む空気が、僕の肌に刺さるように痛かった。
僕は何か後ろめたいのだろうか。だからこんな気分になるのだろうか。
こんな風に、空気が痛いと思うのだろうか。
わからない・・自分が。


「・・・・本当にそれでいいのか、君は?」


そんな事を考えている間に、司令はまた僕に問いかけてきた。
司令は僕の本当の意志を聞きだそうとしている。それは明らかだった。
僕は何かを振り切るように はっきりと答えた。


「はい、構いませんよ。」


そう一言答えて、僕は司令室を後にした。



まるで逃げるように。
司令に、あれ以上何か聞かれたら、
僕は心の奥に眠る僕の本心へと辿り着いてしまいそうで怖かった。
いや、本当はもうとっくに辿り着いているのだろう。
でも認めたくない・・認めてはいけない・・そう思った。
僕は常に戦闘指揮官でなくてはならない。
だから皆城総士としての意見を持ってはいけない。持つべきではない。

本心なんて、知ったところで何になる?
何も出来ないじゃないか。
だったら気づかないふりをするのが一番なんだ。
僕のためにも、島のためにも・・そしてーー


一騎のためにも・・・。


そう思った瞬間。
頭の奥で誰かの声が響いた気がした。


『本当は一騎に傷ついて欲しくないんでしょ?』


そう一言、聴こえた気がした。




「・・・乙姫か。」



その声は、乙姫の声だった。
何処かで僕と司令の話を聞いていたようだ。


僕は、何処からともなく聞こえてきた乙姫の言葉に
感情的な声色で強く、短く答えた。


「どうしようもないんだ・・!」


強く握り締めた右手が、汗ばんだ気がした。


乙姫の声がまた不意に聴こえた気がした。




『本当にそうかな?』





乙姫はそれ以上なにも言っては来なかった。



+++




本当は一騎、お前に言いたい事がある。



戦闘指揮官としてではなく、僕個人として お前に・・。
でもそれは、決して言ってはいけない事だとわかっている。

僕は生まれたときから、存在する意味が定められていた。
だから自分の意志を持つことも、選択することも、最初から
許されてなどいない。

父さんが言ったように、島のため 乙姫のために存在しなければならない。
僕は島の代表として そうあり続けることが責務であり 存在理由でもある。


そう、思っていた。
この傷が出来る前までは・・。



一騎、・・・ずっと気づかないふりをしていた。
お前が誰よりも大切だという事に。

ずっと言えずにいた。
お前を愛しているのだと。



『・・・・本当にそれでいいのか、君は?』


司令の言葉が蘇る。

本当は・・良い筈ない。
良い筈ないんだ。


僕は一騎が大切だ。
失いたくない、傷つけたくない。


『本当は一騎に傷ついて欲しくないんでしょ?』


乙姫の言った通りだ。
僕はもうこれ以上、あいつの傷ついた姿も、苦しむ姿も
見たくはないんだ。
僕はもう、一騎を手離したくないんだ。

だからどんなに僕へと負担がかかっても、構わない。
あいつが危険な目にあわなければそれでいい。
これ以上危険を犯して欲しくない。

本当は一人で戦うなんて無茶にもほどがあると思っている。
そんなことはさせたくない。
一騎は優しいから・・すぐ他人を思いやる行動にでてしまう。
でもそれじゃあ、身を滅ぼすだけだ。
誰が一騎の心配をするんだ?

僕は一騎にもっと自分を大切にして欲しい。
もし僕が今思っていることを口にすれば、一騎を助けられるだろうか?
守ってやれるだろうか?


どうしようもなくなんて、ないのだろうか?


『本当にそうかな?』


乙姫の言葉が頭を過ぎる。
まだ、希望があるというのなら・・僕はーーー



「総士!」




呼び止められた声に、振り返る。



一騎だった。


一騎は僕の傍に駆け寄ると、真壁司令の答えを
聞いてきた。
僕は司令の言ったとおり、一騎に伝える。
そして自分ができるのはここまでだと、謝罪した。
すると一騎は感謝していると僕に礼を言ってきた。

一騎のどこまでも澄んだ瞳を目の当たりにして、
僕は本心を真壁司令に言えなかった自分を悔やんだ。
後ろめたさから、思わず合っていた視線を逸らしてしまう。
僕は”いや、いいんだ”と一言呟いて、俯いた。

一騎はそんな僕を見て、不審に思っているようだった。
でも一騎は僕に何も聞かなかった。
きっと聞いたら僕が困るだろうと思ったんだろう。
・・一騎はどこまでも優しかった。

だけど今は、その優しさが、・・・少し痛い。


「俺、もう行くよ・・。」


一騎は僕を気遣ってか、僕の元を去ろうとした。
僕の真横をするりと抜ける、華奢な身体。
黒髪が空中にふわりと、軽やかになびく。

僕はいつの間にか去ろうとする一騎の
左腕を無意識に掴んでいた。


「えっ・・?」


驚いた一騎が足を止めて、僕を見つめてくる。

「そ・・・うし・・・?」


一騎の大きな瞳が微かに揺れる。
その瞳は何故か、期待と不安が混ざっているような色だった。


僕は自分で何をしているのだろうと思っていた。
けれど自然と口は開いて、一騎にその一言を伝えようとしている。


「一騎・・・僕はお前に―――・・」




”本当はこれ以上、戦って欲しくないんだ”


そう、言おうとした。


けれど・・その想いも虚しく、サイレンにかき消される。


ジリリリリ・・


僕はこのサイレンの音が 
運命を告げる音に聴こえてきて、

何故か胸がざわついた。


+++



「ま、待ってください司令――!!」


CDC内に僕の声が響き渡る。
先ほどまで一騎と司令が話していた会話に
僕はすかさず割り込んだ。


「同時に二体なんて いくら一騎でも無理です!
二体に挟まれた場合、同化される危険が・・・」


僕は明らかに動揺していた。
これ以上一騎が危険な目に合うなんて耐えられなかった。
居ても経ってもいられなかった。
もう黙っているなんて、・・何もしないで見守るだけなんて
嫌だった。今度は僕が一騎を守る番だと、そう思った。

司令が何と言おうと僕は何としてでも阻止しようと思った。


なのに・・


「無理ではないさ。挟まれる状況を作らなければいい。
充分マークザインならば勝てる戦闘だ。それに・・一騎は一人で闘いたい
と言っている。ーー君はそれに同意したんじゃなかったのか・・?」



「――それは!!」


痛いところをつかれた。
確かに、昨日僕ははっきりとそう言ってしまった。
だけどここで食い下がったら一騎は・・・。
僕は必至だった。他の人にエゴだとののしられてもよかった。
本当に僕に一騎を守れる力があるというのなら、僕は
他人にどう誤解されても、構わない。

戦闘指揮官としてではなく、皆城総士として、僕はーー!!


「・・・・・しました。――しかし小楯さんからの報告を
聞いていないんですか?!今、ルガーランスとレールガンは
修理中で武器の供給が殆ど出来ないと僕は先ほど報告を受けたばかりで・・」


僕の言葉に少し反応を見せた真壁司令だが、
司令も引き下がろうとはしなかった。


「―・・ロングソードやゲーグナーが使える。」


司令の発した言葉に僕は驚愕した。

ゲーグナーだって!!!?正気なのか、この人は!!?
僕は予期できなかった単語に驚きつつ、司令に失礼ながらも
不信感を募らせた。

僕は怒りと焦りが混じった声で司令に喰ってかかった。


「正気ですか?!!確かにロングソードは使えなくはないですが、
マークザインには明らかに不向きです!それにゲーグナーが
使えると言いましたが、ゲーグナーの攻撃力はレールガンの
威力とは比べ物にならないほど劣っている!!そんな銃を使うなんて
いくらマークザインが強いからと言っても自殺行為だーー!!
僕は反対です!!充分な供給も出来ないまま一騎に、
二体の迎撃をさせるなんて・・危険すぎる!!」


僕のあまりの剣幕に、横で話を聞いていた一騎が目を丸くしながら
驚いていた。もちろん一騎だけでなく、CDCに居る全ての人が今、
普段の僕から想像できない僕の姿を目の当たりにして驚いているに違いない。


しかし、これだけ僕が血相を変えて反論しても、司令は動じる事なく
僕の意見に異論を唱えた。


「・・・君が反対する気持ちも分かるが、これは試験なのだ。
一騎が本当にひとりで闘う事が出来るのかどうか、見極める
良い機会なのだ。総士くん・・君は戦闘指揮官だ。パイロット
の意思を尊重するのも仕事なはずだが・・?」


またもや司令の鋭い意見に、身を裂かれるような痛みが
全身に走った。
これだけ言っても、何の効果もない。
僕は司令に勝てる気がしない。


「っ!!ーーわかっています!!しかし命を測りにかける試験を
許す事はできません!!僕はパイロットの命を預かっている立場として
それだけはーー・・」


「・・・本当にそれだけかね?」


「えっ―――?」


「いや・・なんでもない。 安心してくれ総士くん。
一騎が危険な状況に陥りそうになったら、すぐにでも救援が
来れるように他のパイロットは待機させておく。
それから南方からくるフェストゥムは一騎ではなく他のパイロットに
迎撃を頼むつもりだ。全部倒せとは言っていないさ。」


どうすればいいんだ。守ろうと思ったのに・・一騎を守ろうとーー。
やはりもうダメなのか?僕じゃ一騎を守れないというのか?
どんなに願っても、僕には一騎を守れる力がない。そうなのか?


「・・・・です、が・・」


・・やはりもう、間に合わないのかーー・・?


「昨日・・君に質問しただろう?本当にそれでいいのか、と。
君は構わないと言ったはずだが・・?」



惨めだ。



お前は、なんて惨めなんだ 皆城総士。
どうして昨日、本心を言わずにあんな事を言ったんだ。
こうなることがわかっていたはずだろう?
なのに・・なぜ、あんな事を言った。
取り返しなんてもう、つかないじゃないか。
軽率な自分の発言に責任が持てない事ほど惨めなものはない。
どうしようもないと決めつけていた昨日の自分が滑稽に思える。

でも今となっては、後悔しながらも何も出来ないでいる自分の方が
滑稽に思える。


「――――・・・わかりました。」



”自分の無力さを思い知ったよ、乙姫。”


僕は胸の中でそっと呟いた。



+++






「一騎・・・・」


僕はブルクへ向かう一騎を不意に呼び止める。
先ほど言いかけた言葉を伝えようと。


「一騎・・僕はお前に――・・」


「え・・・なに・・?」


けれど言いかけて、止めた。


今言うのは卑怯だと思えた。
一騎が一人で戦おうとしている今。
自分が言おうとしている一言で一騎の心を変にかき乱してしまったら・・。
そう思うと、言うのが躊躇われた。
・・一騎を一人で戦わせることを止められずにいた自分が今更
何をしようというのだろう。何を言おうとしているのだろう。
悪戯に一騎の心を刺激するのは、戦闘によくない。
僕は自分なりに考えて、言おうとした言葉を留めた。


「・・・・・・・・・いや。この戦闘が終わったら話す。
今は戦闘の事だけを考えろ。」


「――う、ん。・・・わかった。」


一騎は少し戸惑った表情をしながらも
ゆっくりと僕の言葉に頷いて、ブルクへと向かっていった。




・・・言えやしない。






たった一言なのに



”もう闘わなくていいんだ”



その一言すら ずっとーーーーー







僕じゃ 君を守れない。





・・伝える事すら、許されない。
守れやしない。たった一人ですら。



大切だと心から想ったひとなのに。
大切な一人も守れない僕が、どうしてこの島にいる沢山の人々を
守れるって言うんだ。

僕の大切な人を犠牲にして成り立つこの島は、一体何なんだ?

母さんも、父さんも、乙姫も・・・

この島のためにと、その命を犠牲にしてーー

そのうえ 一騎まで・・・。


僕は一騎も失わなければいけないのか・・・?



優しい一騎。誰も傷つけたくないと言いながら、
本当は誰よりも傷ついている、優しい一騎・・。


お前を守ろうとしているはずなのに。
守ろうと思ったはずなのに。

今の僕には、お前を守る力すらなくて・・・。
今の僕に出来る事といえば、


・・お前を傷つけることだけ。




大切だと言いながら、僕がお前を一番傷つけている。
危険な選択をするように僕がお前を追い詰めている。





そんな、気がする・・・。








  NOVELに戻る  〜Act1〜


こんにちは〜。青井です!ここまで読んでくださってありがとうございます。
連載モノですのでまだ終わっていませんが、いかがでしたか?
ちゃんと二人はすれ違ってますか?(笑)一騎視点の話はAct1で書いたとおりです。
このAct2は総士視点ですよ。一騎は総士を守るため・総士は一騎を守るため、互いに
方法は違っても想いは一緒なわけです。そして総士はなんとなく一騎が一人で戦うと
いった理由が自分にあるのではないか・・と気づき始めています。また、一騎も一騎で
総士が、本当は一人で戦うことに反対で、止めてくれるつもりだったのでは・・と思い始めて
います。ということで、微妙にすれ違いつつ、互いの真相に近づいていく二人が書けたら
と思っています。あと二話くらいを目安に終わらせたいです。
それでは失礼致しました!!

2005.6.3.青井聖梨