”ばいばい”








サヨナラを響かせて
〜5〜















「なぁ、一騎。なんでわかるんだ?」


「えっ?」


「どうしてそうも簡単に、僕を見つけられるんだ?」





いつだったかな。
総士に聞かれたことがある。


かくれんぼで一番最初に俺は総士を見つけられた。
それがよっぽど不思議だったのだろう。
総士はとても意外そうに、あどけない顔で俺に聞いてきたんだ。



俺は答えた。答えは簡単だったんだ。



「総士のこと、いつも見てるんだもん・・わかるよ!!」




俺にはごく、普通の事だった。
だって 本当にわかったんだ。
いつも総士を見てたんだ。


総士の好きなモノ、嫌いなモノ、全部知りたかったから。


あの頃から、総士は俺の憧れで 特別なひとだったからーーーー。



「ありがとう・・・」



そしたら総士は、ぎこちなく俺にお礼を言ってきた。
なんでお礼を言われたかわからなかったけど、

俺はなんだか嬉しくなって ずっと笑っていた気がする。


あの頃が、俺たちにとって 一番幸せなときだったのかな?
もう、幸せは戻ってこないのかな?


俺が全部壊したんだから、仕方ない・・・のかな。




なぁ総士、何度後悔しても仕切れないよ。







お前の心が、見えないよ。


今の俺には わからない。
俺たちは、離れてしまったんだからーーーー。







「−−−−っはぁ、はぁ・・」





必至に駆け抜けた、廊下。
途中で階段を上った。

その先には屋上が見えた。
少し重い扉を開けて、俺は屋上の外に出る。



ここまで来れば、総士は追ってこない事を知っていた。
俺が普段居るところなんて、総士にわかるはずもない。


外は、燃えるような夕焼けで 俺の瞳には眩しすぎるほどだった。




「・・・・・綺麗な、色」



見惚れるような深紅に、またほんの少しだけ 
血の色を重ね合わせる。



途端、胸が苦しくなった。


切なさと、寂しさと、言い知れぬ孤独が
俺を襲った。



俺は、目の前の夕日に手をかざし、
空を見上げた。




見上げた赤、透き通る光。
吹き抜ける穏やかな風。


静かに瞳を閉じる。



ここに足りないものなんて、何もない。



そう、思いたかった。




一瞬、突風が下から吹きぬけて、俺の髪を空へと仰ぐ。
髪が空に溶けるようだった。



「ぅわっ・・・」



まるで風が、何かを知らせてくれるように 
肌に触れた。



そのときーーーー。




重々しい屋上のドアが、静かに開く。




ーーーーギィッ・・





運命とか、偶然とか、必然だとかよく聞くけど

俺はどれでもいいんだ。



だって、今なら何でも信じてしまえると思うから。



でも一番今、強く思ったのは




多分、    −−−−−−−奇跡って言葉だと思う。







「見つけた・・・・」






「総・・・・士・・・・」






なぁ、総士は今この瞬間を なんて表すのかな?







「な、んで・・・・・ここが・・・・?」





拙い言葉を風に乗せて、総士に届けた。





総士は、あの頃と変わらない、透き通った銀色の双眸で
俺を真っ直ぐに見つめたかと思うと


瞬間、酷く優しく微笑んだ。
・・不器用なほど、優しく。





「一騎のこと、・・・・・いつも見てるんだ・・わかるさ。」








久しぶりに見た、懐かしい瞳。
優しい声色。

あの頃と変わらない、俺の特別なひと。




何も変わっていなかったんだ。
きっと。



俺はただ、世界を閉ざして 心を深く沈ませて
一体総士の何を見てきたんだろう。


総士はいつだって、総士のままだったのに。


俺が、見ようとしなかった。
気づこうとしなかった。


会えばいつも、瞳を逸らして。
微かな言葉を落とすだけで。


それじゃあ、なにも掴めない。



「総・・、士っ・・・・」



涙がまた、溢れてくる。
何か俺、泣いてばかりだ。

いつからこんなに弱くなったんだろう、おれ。
そんな俺とは裏腹にーー総士は・・




総士は静かに笑っていた。





「一騎・・・・・、うぬぼれてもいいか?」




琥珀色の長い髪がサラサラと、風に揺れた。
銀色の瞳が静かに揺れる。



「僕はさっきのお前を・・・その涙を・・忘れずにいても、いいか・・・?」





空に広がる、赤が、総士を惹き立てる。
低い声が まるで囁くように 俺の耳を掠める。







「・・・・・・・・・・・うん」






俺はか細い声で、
そっと総士に触れるように答えた。



総士は、淡く微笑んで 瞳を細めて、俺に言った。








「・・・・・・・・・・・・・お前が好きだ」











なぁ、総士








やっぱり俺は 夢を見てるのかな・・





夢なら褪めないで欲しいな。






だって、褪めた瞬間




淋しくて耐えられそうにないよ。




今度こそ、消えてしまいそうだよ。





だから
この瞬間を どうか永遠に 閉じ込めて。
この空の彼方に閉じ込めて。
あの、燃えるような夕日と共に。




きっと、星のように輝くはずだからーーーーーー。






「一騎・・・・・・・・もう、離さない」







そう言って、俺の涙をそっと拭った総士は


甘く、優しいキスを




--------------俺の唇に落とした。



































ばいばい、弱虫な俺。









もう、本当の気持ち 隠さなくていいよ。











今目の前に在る奇跡を


ただ真っ直ぐに信じればいいよ。













ばいばい、消えたくて堪らなかった俺。













もう、そんなに 怖がらなくていいよ。








総士が今 俺を抱きしめてくれるから




何も心配いらないよ。





















”ばいばい”









燃えるような紅い夕焼けの下、












俺はそっと


















サヨナラを響かせて














この想いに、口づけた。













NOVELに戻る  〜4〜


こんにちは!!青井聖梨です。
今回は少し長めな話になりました。いちおう最終回ですv
ここまで御付き合い下さいまして、誠にありがとうございました!!

とりあえず和解した総一を書きました。
なんつーか、砂吐きそうな台詞を総士が言ってて恥ずかしい限りです(自業自得)
ま、ここはファフナードラマCD間近記念というわけで、許してやって下さいませ!
それでは、ファフナーのCDがもうすぐ発売でファフ熱が上がる一方の青井でした。
青井聖梨2005.10.22.