「来年の夏は・・・二人で来ようか?」
「ーーーえっ?」
夏祭りの夜の小高い丘。
打ち上げ花火を見ようと島の住人達も
大勢この丘に登っていた。
俺と総士の周りには、人が沢山居て、
花火が打ちあがるのはまだかと
夜空を皆、熱心に眺めている。
俺と総士から、ほんの少し離れた場所に居る
剣司や遠見達も周囲と同様に、今か今かと
花火が打ちあがる瞬間を待ちわびている。
そんなときに、総士はそんな言葉をふと零した。
俺は何の事だか分からなかったので、
俺の隣で夜空を眺める総士に向かって聞き返した。
「何の事だ?」
俺が総士に向かってそういうと、
総士は”夏祭りの事だ”と一言答えた。
総士は夜空を見上げながら、
俺に向かって言葉を紡いだ。
俺は総士を見上げながら、紡がれた言葉を黙って聞いた。
「今年は大勢で来たが・・来年は二人で来ないか?・・夏祭り。」
「えっ・・・・」
突然の総士の言葉に、少なからず動揺した俺は、
一瞬言葉を失った。
普段の総士なら、そんなこと言わないのに。
そんなことを考えていると、右の手のひらから
微かな温もりを感じた。
”何だ?”と思い、視線を右手に落とす。
するといつの間にか総士の左手が俺の右手と触れ合っていた。
俺は慌てて、総士と接触していた右手を離そうとした。
すると今度は、総士の左手が俺の右手を掴み、強く握り締めた。
驚いた。総士がこんなことをするなんて。
でもそんなことより、恥ずかしくて・・。
俺は頬を赤く染めながら、再び総士を見上げた。
「・・・・・」
総士の頬が微かに赤い。
照れているのだろうか。
総士は夜空に向けていた視線を、
隣に居る俺へと向けてひとこと言った。
「お前と・・二人で来たいんだ・・一騎。」
少し照れたように・・薄っすらと頬を染めながら、
瞳は吸い込まれそうなくらい真剣な面持ちで、総士は俺にそう言った。
思わず俺は俯いた。
今の俺はきっと顔が真っ赤だろう。
俺は総士の言葉に、鼓動を速め、言葉を詰まらせる。
嬉しくて、堪らなかった。
言葉にならなくて・・・だから俺は、俯いていた顔を上げて
そっと頷いて、握り締められた手を握り返した。
すると総士は、眩しそうに俺を見つめて微笑んでくれた。
ーーーその瞬間。
夜空に大輪の花が花開いた。
俺と総士は、人ごみの中、人知れず手を繋いで
打ち上げられた花火に酔いしれていた。
残像少年
〜序章〜
プルルルル・・プルルルル・・
静かな室内に響き渡る音。
自分の存在を耳鳴りがするほど
騒がしく主張してくる。
電話である。
「っ・・・うぅーーー・・」
ベッドからもぞもぞと手を出して、
その騒がしい音へと手を這わせる。
ーーーカチャッ
受話器を取った瞬間、騒がしい
呼び出し音は途端に止まる。
「・・・・もしもし。」
寝起きのせいか、
いつもより少し低い声で総士は電話に応対した。
「あ、俺だけど・・」
「・・・・・・・・・だと思ったよ。」
「な、なんだよその言い方。」
「ここの電話番号はお前とCDCの関係者しか知らないからな。」
「なんで俺だって・・わかったんだ?」
「CDCの関係者なら、アルヴィスの放送か警報で
大抵僕を呼び出すからな・・。私用の電話回線は滅多に使わない。」
「・・そうなのか・・・。」
「−−で?・・用件はなんだ・・・?」
「あ!・・そうだった。朝ごはん作ったんだ。
今から家に食べに来ないか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・は?」
「いや、だから朝ごはんをーー」
「ちょっ・・・ちょっと待て一騎。−−用件は・・
もしかしてそれだけ、なのか?」
「え・・・?あ、うん。そうだけど・・?
ーーあ!総士疲れてるよな。
・・家に来るの大変だから俺が今から持っていっても・・」
「・・一騎。」
「ん?」
「今・・・何時だ?」
「えっ・・・?七時だけど。」
「今日の予定はーー?」
「え・・っと、学校は休みだしーー訓練も休み、だけど?」
「そうか。そうだな。今日は休日で何も無い。そして今は朝の七時だ。
ーー付け加えていうならば、僕は昨日司令から預かったデータ解析を
早朝の五時に終わらせたばかりで、寝始めたのは二時間程前だ。
・・・わかるな?」
「あ、うん わかるよ。−−お疲れ様、総士。」
「あぁ・・。じゃあ、もう切るぞ。」
「うん、じゃあ!朝食持って行くからーー。」
「あぁ。・・・・・・・・・・・・・・・・・えっ?」
「すぐに行くよ!お前はそこに居ていいから・・」
「ちょっーー!!かず・・」
ーーーーブツッ・・・
「なっ・・・!?」
切れた・・・。
「・・・・・・・・・・・・・・・はぁ。」
一騎の奴、完全に解かってないな。
僕は間接的に”寝かせてくれ”といったのに。
一騎はどうやら疲れているから食べにいく
体力がないと意味を解釈したらしい。
確かに回りくどい言い方をした僕にも原因は
あるが、気づかないか?普通・・。
「ーーーーーまぁ、・・何を言っても仕方ないか。」
今は待とう。愛しい君がここに来るのを。
そうして、おはようの代わりに
君からのキスでもねだってみよう。
そうすればきっと、
眠気も 疲れも全部どこかに
いってしまうから。
そんな事を考えながら、僕は
暫く君が来るのを待っていた。
すると・・
ーーコンコン。
ドアを叩く音が聴こえてきた。
僕は自動リモコンでドアを開ける。
するとそこには息をきらした一騎が、
両手に朝食を抱えて立っていた。
「走ってきたのか一騎。どおりで早いと思った・・」
「はぁはぁ・・う、ん。早くしないと冷めちゃうだろ?
それにお前疲れてるのに待たせるの・・悪いしっーーー」
一騎の言葉を聞いて、僕は苦笑すると、とりあえず一騎を
ソファーに座らせた。
「総士、これ。」
両手に抱えた朝食を、微笑みながら僕に差し出す一騎。
まったく、睡眠時間を奪われた代わりにキスをねだろうと思ったのに
そんな笑顔見せられたら それだけですべて許してしまいそうだ。
一騎には敵わないな、と心の中でつぶやくと
僕は”ありがとう”と軽く微笑んで食事をすることにした。
一騎が作ってくれた食事は、どれも美味しくて、
僕を幸せな気分にさせた。
家庭的で温かい料理だ。
ご飯、お味噌汁、焼き魚、煮物、漬物・・バランスの取れた
食事内容だった。
「お前、よく味噌汁零さなかったな?」
「ん?タッパーに入れて持ってきたからな。」
食事の最中、他愛のない話をした。
普段は敵を倒す作戦内容だとか、訓練や学校の
用事などしか話さない。
だからこういう些細な話を、ここ最近殆どしたことがなかった。
たまにはこういう、落ち着いた時間があってもいいか、と
ふと思った。
「なぁ総士。」
「ーーん?なんだ?」
「お前、もう少し早く電話に出れないか?」
「ーー何故だ?」
「だってさ、出るの遅いと居るのか留守なのか判らないだろ?
居ても出るのが遅かったら、留守だと思って、掛けるの
途中で止めちゃうことだってあるし・・。」
「・・・たしかに。」
「お前が忙しいの解かるけど・・もう少しだけ
早く出てほしいかな。」
「あぁ・・わかった。それじゃあ、五回まで待ってくれ。」
「え?」
「呼び出し音が五回なるまでに必ず出るから。」
「じゃあ六回目は?」
「六回目は待たなくていい。
居ないって事だからーーー。」
「・・そっか。わかった!」
「もし、居るのに五回までに出なかったときは
罰としてーーーーー」
「罰として・・?」
「一騎にキスしに行くよ。」
「なっ・・!?なんだよそれっーーーー!!
罰になってな・・・・っんっーー!?」
そう言って僕は一騎の唇に
自分の唇を重ねた。
僕はただ、キスする口実が欲しかった
だけかもしれない。
「っーー・・んっ・・ぅふっーー。」
キスの合間に一騎の可愛らしい声が漏れる。
その声を聴くたびに、僕はどうしようもないほど
一騎を求めてしまう。
「そぅ、・・んっ・・・−−っ」
僕は舌で一騎の歯列をなぞると、微かに開いた
一騎の口内を舌で侵食していく。
一騎の舌と僕の舌を強引に絡ませて、
一騎のすべてを犯していった。
「はぁっ・・・ふぁっ・・んんーーー!!」
苦しそうに息継ぎをしながら
僕のキスに犯されていく一騎が可愛くて仕方が無かった。
僕は充分に一騎の口内を堪能した後、やっと唇を離した。
一騎は”はぁはぁ・・”と荒く呼吸しながら、頬は朱色に染め上げていた。
「・・一騎、僕が電話したときも同じだ。
家に居るのに一騎が五回の呼び出しまでに出なかった場合は
ーーお前が僕にキスしに来い。・・・いいな?」
僕は一騎にそう言い放って、一騎をベッドに押し倒した。
一騎は強引な僕の言葉に、ひとつ小さなため息を吐くと、
「わかった・・」
と言って恥ずかしそうに、僕から目を逸らした。
僕は恥ずかしがる一騎を見下ろして
ふっと思わず笑顔を零した。
そうして僕は、
「さてと、食事の続きをしようかな。」
ひとこと言って、一騎の身体に
顔を埋めた。
一騎は”食事は終わっただろ!”と批難の声を漏らしたが、
僕はそんな一騎の言葉に耳を貸さなかった。
だってそうだろう?
食事の時間はまだまだ
これからなんだから。
僕はまだデザートを食べていないからね。
一騎というデザートを。
「いただきます。」
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こんにちは、青井です。この話は序章・本編に分かれております。
序章は幸せな思い出を書いています。というか、短編二作って感じですね(笑)
が、本編は痛い話になっていますのでご注意下さい。
でも、痛いといってもバッドエンドではないのでご安心下さい。
一騎が電話したとき、総士に「俺だけど」と言っていたのはドラマCDを参考にしています。
総士もその一言ですぐに”一騎だ”とわかってしまう辺り、愛の深さが解かりますよね!
さて とりあえず、「痛い話だけど最後まで付き合う!」と思ってくださる人のみ
先にお進みください。痛みを知らずに、幸せなままで終わりたい方は
ここでNOVELかトップにお戻り下さい。
それでは〜。
2005.3.22.青井聖梨