怖いと思った。

     総士以外の人に触られる事が、こんなにも。




       俺は そのとき初めて知ったんだ。




       大切な人に、愛してもらえる、嬉しさを。








               
ありのままの君でいて












「どうしようもないな、僕は・・」



躊躇いがちに吐き出された総士の言葉。
自嘲めいたその声に、隣でシステムデータを一緒に確認する
眼鏡をかけた少女が振り向いた。


「どうかした・・皆城くん?」


「いや、なんでもない。気にしないでくれ・・」


遠慮がちに聞いてくる、少女・蔵前果林は
唯一島の秘密を知る子供のひとりだ。
総士とはクラスメイト兼パートナーでもあった。
彼女は何といっても、ファフナーのテストパイロットであり、
皆城家の養女でもある。


「何か・・・心配事?」


優しく微笑み、全てを悟るようなその声色に一瞬
心を見透かされた気がして、総士は瞳を薄っすらと細めた。


「―――・・あぁ。」


「・・真壁くんのこと、でしょう・・?」


「!!」


いきなり出てきた核心の名前に驚いて、思わず反射的に
総士は肩を竦ませた。
果林は”やっぱり”といって軽く微笑んだ。


「・・・皆城くんはいつも、真壁くんを想うとき、
そんな顔 するから・・・」


果林はそういうと、総士の琥珀色の瞳を真っ直ぐに見つめていた。
真摯な彼女の視線に射ぬかれ、総士は黙って見つめ返す。
すると、瞬間。 彼女の瞳が儚く揺れた。
一体どうしたのだろうか・・?


「蔵前・・・?」


不思議に思って、彼女の名前を呼んでみる。
すると総士の声色に、肩を微かに揺らして反応を見せた彼女は、
総士から視線を逸らして データに向き直った。


「皆城くん・・。どんな皆城くんでも、きっと真壁くんは
受け入れると思うなぁ・・私。」


何も話していないのに、自分が求めていた答えをいきなり
出された気がして、総士は目を瞠って動揺した。


「えっ・・・・・」


彼女は心の中が読めるのだろうか?
そんな不可思議なことを考える。


「おーーーーいっ、総士!ジークフリード・システムが暴走して
システムエラーが出てるぜ!なんとかしてくれ。」


急に高らかに名前を呼ばれて振り返ると、溝口が
手を大きく振って、遠くで助けを求めている。

仕方ないとため息をひとつ吐いて、総士は横目で果林を
一瞬見つめると そそくさと奥へと足を向けた。

総士が目の前から居なくなった事を確認すると、
果林は自嘲気味の笑みを零しながら視線を床に落とした。


「わかるよ・・。皆城くんのことなら、なんでも・・・。」


そう、床に零して 静かに彼女は目を閉じる。
彼女はいつも 総士を見つめていた。自分でも、呆れるほどに。
遠くで、ずっと、長い間・・。


果林は総士を想い続けていた。
ずっと総士が好きだったのだ。

当の本人は、一騎しか目に入らない様子であったため、
果林の想いなど知る由もない。
果林は再び瞳を開けると、また、システムデータに視線を向けた。

遠くで総士と溝口の声が隙間風に乗って聞こえた気がして、
果林は小さく笑うのだった。


+++



総士が東京へ行って もうすぐ二週間になろうとしていた。
いつもより帰りが遅いのは、自分のことを避けてだろうと
内心気づいていた一騎は 力なく窓の風景を眺めていた。

外はもうすぐ日が落ちて、夜を呼び寄せようという頃。
一騎はぼーっと、夕暮れ時のグランドをいつまでも眺めていた。
静かな教室は、一騎ひとりしか居ない事を物語っている。
そして、総士がこの島に居ないという事実も 物語っている。
いつもなら、この時間総士は教室の見回りをしているからだ。

総士が居ないだけで、なんだか自分が抜け殻のようになっている。
気が抜ける・・というよりも、心に穴が空いている感覚に襲われる。
そう感じると、急に寂しさと切なさが、湧き上がり どうしようもない
不安と恐怖がまた一騎を追い詰め始めた。

総士・・いつ帰ってくるんだろう。
そんなことを、思う。


と、そこへ不意に勢いよく、教室の扉が開いた。
瞬間、一騎は咄嗟に期待してその名前を呼んでしまうのだった。


「総士っ!?」


するとそこには、何処か怒りを含んだ自称・一騎のライバル、
剣司が今にも爆発しそうなほど肩を震わして近づいてきた。


「あ、・・剣司。まだ、残ってたのか・・?」


少し落胆した表情で、剣司の様子を窺う一騎。
次の瞬間剣司から怒声がとんだ。


「一騎っ!!!おまえ、俺の挑戦状読まなかったのかっ?!
ずっと校舎裏で待ってたんだぞーーー!!!」


怒りをあらわに、剣司は暴走し始めた。
一騎は”しまった”という表情になる。
そういえば、朝下駄箱に剣司から『授業が終わったら校舎裏に来い』と
いう挑戦状が入っていたのだ。
総士のことが頭から離れなかった一騎は、すっかり剣司の存在を
忘れていた自分に気づく。


「ごっ・・・ごめん!!俺、なんかボーッとしてて・・」


授業が終わってから既に二時間は経過している。
剣司が怒るのは無理もない。だが、一方的な挑戦状を送る剣司にも
否があることは 言うまでもない。


「そういやお前、さっき総士が帰ってきたと思っただろう?!
ったく、どうせ総士が気になって ボーッとしてたんだろう!!」


図星を差されて、思わず一騎は頬を朱色に染め上げ下を向く。
そんな素振りに”やっぱり”と確信した剣司は 大きなため息を吐いた。


「・・ま、お前らいつも一緒に居るもんな。総士今回帰りが遅いし、
お前の事だ・・心配してたんだろ?気持ちはわかるよ。」


剣司はそう言って、俯いている一騎の肩に軽く手を置いて慰めた。
俺っていい奴、と内心思いながら乾いた笑いを振り撒く剣司。
そんな剣司の様子に、心が少し軽くなった一騎は 顔を上げて感謝
を表したのだった。



「・・ありがとう、剣司・・・」


夕暮れが左斜めに傾いた一騎の顔半分を薄っすらと赤く染め上げ、
開いていた窓から 爽やかな風が教室を通り抜ける。
艶めいた黒髪を優しく揺らしながら、大きな栗色の瞳が剣司より
少し下の目線から 覗いてくる。
その表情は穏やかで、でもどこか儚げで・・剣司の胸を締め上げた。

”抱きしめたら、壊れそうだな”そう思わせる華奢な身体は
剣司よりも白く透き通った肌の色をしていた。
形のいい唇から、少し高い透明な声が 自分に感謝の言葉を紡ぐ。


夕暮れ間近に佇む目の前のあまりにも魅力的な存在に
剣司は瞳も心も奪われて、圧倒されていた。

・・気づけば、その触れた細い肩に力を込めていた。


「っ・・・?」


いきなり置かれていた剣司の手に力が込められて、
痛みが軽く身体に走った。
一騎は驚いて、眼を丸くして正面の人物に視線を向ける。
するとそこには、いつかの総士のような 情欲を瞳に宿した見知らぬ男が
ひとり、佇んでいたのだった。


一騎の身体の温度が、急激に絶対零度へと下がっていく。
ふって沸いて出た不安と恐怖が一騎の中で暴れ始める。


「な・・・に・・剣司・・?」


声が少し震えているのがわかった。見たこともない目の前の友達に
視線が釘付けになる。


「どうしたんだよ一騎?そんな顔して・・・」


見たこともない影を落とした その不気味な笑顔に
一騎の足が凍りつく。


「やっ・・・痛い、放せよ・・・!」


力が更に込められて、自分を放さない剣司の手を、
勢いよく一騎が振りほどいた。
―――が、それが合図となってしまったのだった。




ガタンッ!!



凄い勢いで自分の上に覆いかぶさる剣司。
一騎は小さな悲鳴を零した。


「やめろっ!!!」


机の上に背中を押し付けられて 鈍い痛みが背筋に走る。
一騎は歯を喰いしばりながら、痛みに耐えて 目の前の相手を
きつく睨みあげた。


「なにすんだよっ!!どういうつもり・・・」


言いかけた瞬間、剣司の唇が一騎の頭上から近づいてくるのを感じて、
必至に顔を逸らした。
一騎の唇に触れるはずだったその唇は、行き場を失い、
仕方なく一騎の滑らかな頬へと落とされた。


「なっ・・・やめっ・・・!!」


いつもなら剣司を打ち負かしていた一騎。だが今は、恐怖と嫌悪感で
身体がまともに動かない。
しかも上から組み敷かれて、体重が一騎の抵抗の邪魔をする。
体格差でいったら、やはり剣司の方があるのだった。


「・・・知らなかった。お前、こんなに綺麗なんだな・・」


近くで一騎を凝視して、うっとりするように熱っぽく呟かれる。
一騎の背筋がぞっとした。


「なっ・・・に、言って・・」


信じられないといった形相で 一騎は恐怖心から顔を強張らせていた。
剣司はそんな一騎にさらに追い討ちをかけるかのように
一騎の両手を自分のベルトで一本にくくり始めた。


「やっ・・・剣司っ!!!」


言い知れぬ恐怖と目の前のいきなり豹変した情欲の支配者に
制止の声を掛けた。
だが、何も聴こえていないような顔で、一騎の両手を拘束したのだった。


「抵抗する姿も可愛いなんてな・・」


含み笑いと共に、ぬるりと剣司の手が一騎の服に入ってきたかと
思うと、弄り始めるのだった。


「ぅあっ・・・つ!!!剣司っ・・・・・・!!?」


自分の身体を必要以上に触れてきて、敏感な場所を探し始める
その淫乱な行為に 深い憤りと共に嫌悪感が走る。
這っていた手が、いつの間にか 胸の突起に掛けられて、一騎は
ビクッと身体をはねさせた。
その反応に、剣司は笑顔を零すと、服を捲し上げて、その薄桃色の小さな
突起に目を凝らした。


「女でもないのに・・。こんな綺麗な乳首・・見たことねぇよ・・」


一騎は驚愕の恐ろしさで、瞳から涙を流した。
一体自分に何が起こっているのか、理解できないのだ。


「美味そう・・・」


「・・・け、ん・・・じ・・」


何言ってるんだ。と言おうとして、言葉が続かない。
唇が、体中が、震えて 言葉一つ上手く紡げない。


「もっと呼んでくれ、一騎。・・・お前の声、いいよ。
スゲー、そそられる。その涙に濡れた瞳も・・綺麗だ。・・好きだよ。」


そう言って耳元で囁かれた途端。
あのときを思い出す。



『・・・好きだよ、一騎。』




情熱を秘めた琥珀色の双眸が自分を愛しそうに見つめていた。
カーキ色の長い髪が 柔らかく触れて、肩に降って来た。
愛しそうな甘い声で自分に想いをぶつけてくるその存在。
羞恥と動揺で戸惑いながらも、胸の鼓動が早鐘を打って
彼を愛しい存在の対象として自分の中で、知らせ続けた。



「っ・・・ぅし」



「・・・・・・・?」


唐突に呟かれた か細い声に 剣司は食い入るように
見つめていた一騎の突起から視線をずらし、一騎の呟きに
耳をひそめた。



「そ・・・うし・・・」




瞬間、聴こえた名前に心臓をえぐられた
感覚を覚える。



「総・・・士っ・・・・」



段々はっきりしてくる声色。
何故だか胸が苦しくなった。



「助けっ・・・そう、しっ・・・・!!」



助けを求めた唯一の人物は今、島には居ない。
愛しそうに、切なそうに瞳を揺らし、目の前に幻影を見るかのように
一騎は叫んだ。



「怖いっ・・・総士ぃっっ・・!!」




怖いと思った。
総士以外の人に触れられる事が、こんなにも。



気持ち悪いと思った。
だから・・・



俺は そのとき初めて知ったんだ。




大切な人に、愛してもらえる、嬉しさを。












+++




こんなことになるなら、

あのとき 無理やりにでも 抱いてもらえばよかった・・・



総士。












「あらぁ?!皆城くん!帰ってきたの?」


「はい、つい先ほど。随分と遅くなってしまいました。」


「どうしたの?今回は本当に遅かったのね?」


「えぇ・・・色々あって。」


そう言いながら、少し困ったように笑った総士は
千鶴に軽く礼をしたあと、保健室を後にした。


静かな夕暮れの校舎をひとり歩く。
風が颯爽と吹き抜けて、自分の長い髪を微かに揺らした。


気持ちの整理は充分ついた。
これで本来の自分に戻れる。
また、一騎の側に居られる。

総士は、一騎が自分から身体を許すまで手をかけないと
心の中で覚悟を決めると 早く愛しい少年に会いたくなった。


「家に居るかな・・」


総士は少し迷って、昇降口に足を向けようとする。
そのとき、手にしていた荷持つの中に、システムデータがあったことに気づく。
明日父親に渡すはずの大切なデータだ。自宅に持ち帰っても、父親は不在だ。
何故なら父親はまだ、東京にいてデータ処理をしていたからだ。
失くすと嫌だと思った総士は、自分のロッカーにしまって置こうと考える。


「あそこなら鍵もついているし・・」


そう思い、急いで教室に向かった。
早く一騎に会いに行きたくて。
早くその身体を抱きしめたくて。


教室に向かう足は、自然と走っていた。













自分達のクラスは向かって一番端に構えていた。
総士は息を整えて、教室の扉に手を掛ける。

すると、激しい机の擦れる音と同時に 悲鳴に似た
痛切な声色が空虚な廊下にまで響いてきた。



「怖いっ・・・総士ぃっっ・・!!」





その声が愛しい人の悲鳴だと、理解するより先に
身体が反射的に動いた。


自分の名を呼ぶその声が、脳よりも早く
体中に電撃を走らせたからだ。





ガラッ!!




乱暴に開けられた扉。
その先には、見たことのない、信じがたい光景が
総士の瞳に焼きついた。


一番奥の机の上に組み敷きられた、愛しい少年。
その腕はベルトで拘束され、服は 淫らに捲し上げられていた。
その上に覆いかぶる彼を支配しようとする その愚者は、見慣れたクラスメート。
全てが夢ならいいのにと 思わずには居られなかった。


「お・・・まえっ・・・」


見る見るうちに青ざめていく生徒会長の彼は、
入ってきた総士の存在に気づき、声を震わせて驚愕していた。


「そ・・・っ・・・総士っ!!!」


歓喜と希望に満ちた双眸が、愚者の下から覗いてくる。
その瞳からは止め処ない涙と 儚く今にも壊れそうなほど
震え上がった身体を必至に起こして、自分を迎え入れた。


目の前に居る惨状を愛しい人の声で、すべて把握しきった総士は
胸に湧き上がった憤りと、激情を 言葉と行動でクラスメートに示すのだった。



「お前ぇぇぇぇっっ!!!!!!!」


一騎すら見たことのない怒り狂った総士の双眸に驚いた一騎。
凄い勢いで目の前で起こる奇跡を呆然と眺めていた。


ガンッ!!

勢いよく拳で殴られて、剣司の身体は黒板側に吹っ飛んだ。



「っつーーーー!!!!!」


背中を教卓に激しく打ち付けて、体中に走った痛みから
剣司は声の出ない悲鳴をあげた。
あまりにも凄まじい総士の殺気に剣司は半ば、唖然とする。


目の前に立ち塞がった総士の瞳が、怒りで激しい色へと
変化している。冷たい双眸に見下ろされて、剣司は軽い呼吸困難に陥った。
そして、いつの間にか周囲の温度が、氷点下まで下がったような錯覚がおきる。

総士は、剣司に向けて 激情を滲ませた表情をすると、
身にまとった殺意と威圧感で剣司を圧迫して震え上がらせた。
その脅威的な存在に、剣司は意識を失いそうになる。


「剣司・・・お前、死にたいらしいな・・?」


地を這うような低い声で脅迫めいた言葉を紡ぐ総士。
まるで地獄の審判を下しているかのようだ。
その双眸は妖艶に光り、獲物を切り裂く鋭さを持っていた。
無表情で、総士の思考は読み取れないが、剣司の本能が心の内で叫んだ。


”殺される”と。




しかしここで、思わぬ救世主が 
この緊迫した状況を打破したのだった。



「総士・・」



黙っていた一騎が総士の言葉を聞いて、思わず口を開いた。
あまりにも本気に聴こえた脅威の台詞に 一騎も口を出さずにはいられない。
殺意を身にまとった総士の瞳が 今度は後ろに振り返る。
机の上から起き上がり、手首をくくられた総士の愛しい少年が、
こちらを悲痛な面持ちで眺めている。
まだ、微かに身体を震わせながらも、必至に言葉を紡ぐ様は
今にも壊れそうなほど頼りないモノだった。


「いいから・・っ、もう――充分だからっ・・・!」


”何もされてないよ”と目で訴えてくる一騎に、
総士はどうしようもない悲しみと儚さを感じた。



「・・・バカだな、お前は。お人好しにも程がある・・・。」


加害者を庇う被害者なんて、聞いた事ないぞ。
そう言おうとして、総士は止めたのだった。
一騎が今だ震えている理由が、自分にはわかってしまったからだ。

”これ以上、誰かが傷つく姿は見たくない”
一騎の震える体がそう訴えてくる気が、した。



総士はゆっくりと剣司の前から退くと、机の上に今だ居る
一騎へと近づいた。
拘束された手首を優しく解いてやる。すると、手首には赤く擦れた跡が
くっきりと残っていた。

その光景を目にして、やはり総士の中で激情が暴れだす。
でも、一騎がもういいと言った以上、自分がこれ以上剣司に何かしても
悪戯に一騎を刺激して傷つけるだけだと総士は判断した。

一騎の優しさを無駄にしてはいけない、・・そう思った。
総士はゆっくりと一騎を机から下ろすと 優しく包み込むように抱きしめた。


一騎は驚いて、目を瞠る。



「・・・間に合って良かった・・・」


総士は心底安堵したかのように、愛しい少年を抱きしめる。
擦れ気味の声色が、微かに震えた気がして 一騎は自分を抱きしめる
その優しい存在を抱きしめ返した。


「・・・おかえり、総士。」


言った途端、泣きそうになる。
すでに恐怖で濡れていた自分の瞳。
だが、今度は 嬉しさと 切なさと 愛しさが涙を引き起こす気がした。
一騎は そんな自分が総士に悟られないようにと、
深く顔を胸に埋めるのだった。


そんなとき。
剣司は教卓に背を預けながら、二人の抱き合う姿を目にした。
総士に殴られた頬がジンと、腫上がっているのがわかる。
でも 本当に痛いのは、頬ではなかった。
胸に渦巻くこの言い知れぬ羞恥と絶望。
剣司は何故自分があんなことをしたのか、漠然と答えを導き出していた。
答えはとても簡単だった。


そっか・・。俺、一騎が好きだったのか・・。


愚かな事をしたと思った。酷い事をされて尚、
庇ってくれた一騎の優しさが、痛かった。
自分ではダメなのに。何処かで、期待していた。
総士が居ない間なら、もしかしたら自分にもチャンスがあるんじゃないか。
・・そんなことを、心の隅で期待していた。

咲良が好きなのは嘘じゃない。
だけど、本当はどこかで咲良への想いが本当のモノかどうか
自分自身疑っていた気がした。
何故必要以上に一騎に執着したのか。
一騎が咲良の想い人ならば話はわかる。なのに実際一騎は咲良と無関係だ。
・・だけど俺は挑戦状という名目で、一騎に戦いを挑んでいた。
――今なら、俺が一騎に送り続けたその挑戦状の本当の名前がわかる。



あれは、一騎に宛てた”恋文”だったと。



+++











暫く抱き合っていた二人が、急に剣司を瞳の端に捕えた。
剣司は自分がどうなるのだろうと思いながらも、
素直に与えられる罰を静かに待っていた。
すると、鋭い審判の声が 空虚な教室に響き渡る。


「剣司。・・お前に選ばせてやる。一度しか言わないから よく聴けよ。」


厳粛な空気を醸し出し、再び鋭い琥珀の双眸が、剣司の心臓を射抜いた。
剣司の背筋からは冷や汗が一筋流れる。


「俺にその両腕を折られるか、一騎の側に近づかない・触れない・二度とこんな
馬鹿げた事をしないと約束するかの・・・どちらがいいか、さっさと決めろ。」


総士の怒りを含んだ声に乗せて、二つの選択肢が教室内に響いた。
一人称が”俺”に変化している総士。あからさまに、強者的な色を含んでいる。
総士は怒っているが、一騎のために感情を明らかに制御していた。
剣司にとってその様子は とても有りがたくもあり、申し訳なくもあった。
二つの選択肢のひとつは恐ろしいものだが、もう一つは優しさが含まれている。
剣司は声を少し上擦らせながら 選択肢を口にした。


「・・・約束の方で、頼むよ・・・」


すると、すぐに総士は返答する。


「ならば剣司。もしその約束を破ったら、命の保証はないと
肝に銘じておくんだな。」


凄みを利かした総士の本気は、言葉の端々から如実に伝わってきた。
空気がピリピリとするのがわかる。
剣司は”わかった”と弱弱しく答えると、総士の後ろに隠れるように立つ
一騎へ一瞬視線を落とす。
剣司は深々と頭を下げると、

「ごめん・・」


力なくそう言い放った。


一騎は、そんな剣司を見つめると ”うん”と、ひとこと零して
穏やかに笑った。

一騎の表情をしっかり確認した剣司は 瞳に涙を滲ませながら、
教室をあとにしたのだった。


総士も一騎も、剣司が出て行った扉を
いつまでも眺めて、動こうとはしなかった。



二人の胸を掠めたのは、




言い知れぬ切なさだけだった。







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サイト一周年記念小説です☆★

こんにちは〜!青井です。想像以上の長さになってしまいました、この話。
剣司が一騎を密かに想ってるという設定で書きました。というか、最初は無自覚で
後半自覚する・・という形にしました。いかかでしょうか?(汗)それと果林も少し書きました。
剣一が少し入ってますが、実際剣司は少し身体を弄って、軽く頬に口付けした程度なんで
このくらいなら、総一好きでも読めるかな〜と思いました。どうですか・・?(滝汗)

ほんとはココで、総一R指定書くつもりだったのですが、長いので分けます。
R指定は後編2に書きますので、そちらも是非ごらん下さい。
それではこの辺で、失礼しました!!

2005.6.28.青井聖梨